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野生動物は、みんなピンピンコロリ/生物学者・小林武彦氏「なぜヒトだけが老いるのか」(毎日新聞 特集ワイド)

2023年07月28日 | 日々是雑感
毎日新聞夕刊(2023.7.24付)「特集ワイド」欄の見出しは〈なぜヒトは老化? 小林武彦・東大教授(生物学)が語る「老いと死」 人間だけにあるシニアの価値〉、これは驚くべき話だった。何しろ「野生の動物は老いない」のだそうだから(ペットや動物園の動物を除く)。小林氏には『なぜヒトだけが老いるのか』(講談社現代新書)という著書もある。

私は以前、「おばあさん仮説」という話を聞いたことがあった。Wikipediaにも載っているので、ご存じの方も多いことだろう。チンパンジーなど哺乳類のメスは閉経後、すぐに死んでしまうのに、人間の女性だけは長生きする。それはなぜか、ということを説明する仮説である。冒頭部分を抜粋すると、

おばあさん仮説とは、哺乳類の中ではまれな現象であるヒトの女性の閉経と、生殖年齢を過ぎたあとも非常に長い期間生きることが、どのような利点を持っていたために進化したのかを説明する理論である。ダーウィン主義的な視点からは、自然選択は有害な対立遺伝子の発現を遅らせるよう働くはずであり、閉経が繁殖率を低下させるのならば、なぜそのような現象が広く見られるのかは興味深い現象である。

小林氏の話も、とても説得力のある話なので、ぜひ記事全文を読んでいただきたい。シニアの皆さんには、元気づけられる話だ。

美容業界は、若さが第一。アンチエイジングがたけなわだ。老いなんて、忌み嫌われてしまう時代だが、そもそも野生動物は老いないって話、知ってました? 老化は人間だけが得た特権なんです、と言うのは、生物学が専門の小林武彦・東京大教授(59)だ。小林流「シン・老いの常識」論が、幕を開けた。

野生の動物は老いないなんて、にわかには信じがたい。率直な感想を漏らすと、何だかうれしそうに、小林さんは首を振った。「いやいや、ヒト以外の動物って、みんなピンピンコロリで死んでしまうんですよ」。生きている間はずっと元気で、死ぬのは突然に、というアレだ。

例えばね、と挙げたのがサケ。「あの魚って、海から遡上(そじょう)してオスは放精してメスは産卵して、すぐに死ぬでしょ。要は生殖を済ませるまでは現役バリバリ。ところが、その直後に脳が萎縮して、ホルモンが出なくなる。サケにとって、老化は死を意味しているんです」

次の例は、ゾウ。「この動物はがんにならない。動物の細胞自体の大きさは、だいたい同じなので、大きければ細胞の数も増える。体がヒトより100倍大きかったら、100倍がんになりやすいはずなんです。だけどゾウはがんにならないで60年以上生きます。死ぬ時は心筋梗塞(こうそく)とか循環器系の不具合が多くて、基本的には老化せずにコロリ。野生には、老いたゾウというのは存在しないんです」

動物でも、特に哺乳類は、基本的にヒトと作りが同じだという。チンパンジーなんて、遺伝情報(ゲノム)の99%がヒトと同じなんて言われるのに、老いる前に死ぬらしい。

「確かに飼われたペットや動物園の動物は老いますが、あれは例外。本来は野生動物って老いないんです。老いてもあまりいいことがない。死ぬ前に感染症にでもなったらどうします? 集団全体に広がるでしょ。さっさと死んだ方がいいんです」。じゃあ、なぜヒトは老いるのだろう。というか、そもそも老いって何なのか。小林さんの解説、まずは死の問題だ。

「残念ながら、生物が必ず死ぬのは、多様性のためです」。学者の口から出たのは、最近はやりのキーワード。本来は前向きな言葉なのに、何だかネガティブに聞こえるんだけど……。

「生物が激しく変わる環境で生き延びるには、それに合わせた変化と選択が迫られます。古い世代が死に、新しい世代が生まれることで、生物は環境に適応するように進化していく。つまり、死と引き換えに私たちの生がある。死は生物の生命を連続させる原動力なのです」

死は個体にとっては生の終わり。でも、その種全体から見ると、進化に必須のプロセス、ということらしい。種としては、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返すことで、多様性を確保しているというわけだ。

「私たちは、過去の無数の生物の死があるおかげで、今を生きています。生物は親より子の方が多様性が大きいという意味で優秀なので、子孫を残したら、親はとっとと死んだ方がいい、というのが生物の世界の常識なのです」。親から子へと受け継ぐバトン。命のリレーが成立するのは、そこに死があるからこそ、ということになる。

小林さんによると、2500年以上前の縄文時代では、日本人の平均寿命は、何と15歳程度だった。その後も平均でならすと、長いとはいえない。平安時代でも30歳、明治時代でさえ43、44歳ぐらいだったという。それが今や衣食住の安定に加えて医療も発達し、女性は87歳、男性は81歳の長寿時代だ。

「環境さえ整えばヒトは老いることができるので、今の平均寿命は、戦前の2倍程度にまで延びています。それに私が生まれた頃(1963年)は100歳以上の日本人なんて150人ほどでしたが、今や9万人超の時代ですからね」

それでも、いくら寿命が延びても、やはり死は怖い。生物の中で、ヒトだけが老いると言っても、死はあらゆる生物に平等にやってくる。この怖い、という感覚はどうにかならないのか。すると、小林さんは、また首を振った。

「死の感覚は、ヒトにとても顕著なものです。でも、その感覚って、あって悪いわけじゃないんです。ヒトの場合、死の恐怖は自分に限らず、身内や親しい人の死も強烈なストレスになりますよね。それはなぜなのか。ヒトには共感力があるからです。この共感力があるからこそ、ヒトは『人間』として、強い絆で結ばれた社会的な共同体をつくることができるのです」

なるほど。こちらがうなずくと、それにね、と小林さんは続けた。「死のことを考えるより、老後の生のあり方を考えた方がいいんです。今やヒトの人生なんて長い老後なんですから」。そもそも老いとは何か。毛が抜けるとか、シワが寄るとか、老化現象はいろいろあるけれど、老いとは「DNAが壊れること」。加齢と共に徐々にDNAが壊れて、細胞の機能が低下していくのだという。老化は生殖能力の終わりと不可分らしい。

例えば、チンパンジーなどヒトと同じ哺乳類のメスは、閉経後、すぐに死んでしまう、と小林さんは指摘した。「生物学的に言えば、野生動物は閉経後に老化して死にます。ヒトの場合、女性の閉経が50歳前後ですから、それ以後は生物学的には『老後』になります」。そう考えると、日本の平均寿命からすれば、残りの40%超は老後、ということになる。

老後なんて言われると何だか悲しい気分にもなるが、小林さんは「それは大きな間違い」ときっぱり。そして問いかけた。「そもそも、なぜヒトだけに長い老後があると思います?」そう、この話の核心だ。なぜヒトには老いがあるのだろう。

「その方が生物として都合が良かったからです。進化の過程で、より長生きし、老いることができる遺伝子を持つタイプのヒトが生き残り、子孫を増やしているのです」。つまりね、と小林さんの話は続く。

「おばあちゃん、おじいちゃんとも若い親の代わりに子守をしたり、経験知から若者を指導したりする。そういった共同体は統率が取れて効率的だったのです。シニアがいる共同体の方が生産性が上がるので、ヒトの進化には好ましかったのです」。なるほど!と納得しかけて、疑問が浮かんだ。でもその話って、農業や狩猟がメインの時代じゃない今にも通じるの?

小林さんは、それはちょっと違う、と否定した。「ヒトは若い時には私利私欲のために動くことが多いです。その点は野生動物と一緒。でもヒトは年を取るとだんだん利他的になってくる。野心がある若者を、公共性の高いシニアが支える二層構造ができれば、実は社会の効率は上がる。やはりヒトには老後を生きるシニアが重要なのです」

政治も経済も低迷し、今や自慢できるものが少ない日本で、辛うじて誇れるのは世界一の長寿国であること、と小林さん。「まだ働けるのに定年にして、低賃金で再雇用なんてやる気を失わせるシステムを続けてはダメですよね。それより公共意識の高いシニアに意欲を失わせずに生涯現役で活躍してもらう。その方が、日本全体の生産性は高まります」。確かに。アンチエイジングより、そっちの方が大事かも。【川名壮志】


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