道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

長寿とお酒

2020年05月19日 | 健康管理
酒豪に長寿者(90才以上)はあまり聞かない。若い頃から酒の害を間断なく受け続け、内臓器官を傷めた結果だろうか?女性の平均寿命が男性よりも長いことは、女性に常習飲酒者や大量飲酒者がほとんどいないことと関連があるからに違いない。

酒豪という日本語は、ある意味敬意を含んでいる。白人に較べアルコールに弱い日本人ならではの言葉である。英語には該当する語が無いようだ。大酒呑みを意味する語しかなく、皆が酒に強い彼らの社会では、酒量は敬意の対象にならないのだろう。

「呑んで乱れず」とは、まさに酒呑みの達人を評する表現である。日本人の酒呑みは、過大評価されている。本人もその評価に安住している。勘違いしがちだが、酒に強いことは、身体が強健を意味するものではない。単にアルコールの分解能が体質的に高いだけのことだ。

生体に対する酒の害は、アルコール(エタノール)の直接の害と副次的にできる代謝物アセトアルデヒドの害が重なる。酒のアルコール肝臓で酸化されると、アセトアルデヒドという有害物質が産生される。これも肝臓で分解され、最終的には水と炭酸ガスになって排出されるらしいが、それぞれアルコールとアセトアルデヒドの状態で体内にある間は、体に有害な物質である。 飲酒をすれば、それらの作用を複合的に受け続けることになる。その結果、体の諸器官は軽微ながら損傷を被ることになる。蓄積した損傷は、免疫機能が衰える年齢、概ね還暦を迎える頃から、顕らかになって来る。

強い酒を長い時間飲み続けたり、休肝日もなく酒を連日飲む生活習慣は、明らかに健康を損なうようだ。田中角栄元首相は、ロッキード事件の刑事被告人になって俄かにウイスキーの酒量が増え、わずか数年で病を発して亡くなった。体にダメージの大きい、高い度数の酒の常習摂取が、寿命を縮めたのかもしれない。

ウイスキーやブランデーなど、高い度数の酒を多く飲めば、肝臓でアルコールが分解されてできるアセトアルデヒドの量も多くなる。この高濃度のアルコールとアセトアルデヒドは、経由する臓器(咽頭・喉頭・食道・胃・肝臓など)の細胞を損傷する。

酒に強い人は、アルコールを分解するアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素の活性が高く、長時間酒を飲み続けることができるが、それはその人の臓器の細胞がアルコールやアセトアルデヒドに耐性があることではない。アルコールの代謝能力が高くても、器官の受ける損傷は飲んだ量に比例するから、酒に弱い人よりも大きくなる。酒豪だからと安心してはいけない。

酒に強い人は、度数の低い酒では酔わない。したがって弱い酒を嗜好しない。酒に強い体質の白人が嗜好する酒は、醸造酒を蒸留してつくる35度以上のスピリッツ類か、それらをベースにしたカクテル類である。強い酒でないと、酒を飲んだ気がしないのだろう。ビールやワインは喉の渇きや食事のための水替わりで、酔うための酒でないことは、彼らの国々の、ウイスキーやジン・ウォッカ・ラムなど様々な種類の蒸留酒(スピリッツ類)の消費量を見ればばわかる。

アルコール脱水素酵素やアルデヒド脱水素酵素の活性が低い私たち日本人の多くは、15度以下の酒を、ゆっくり、時にはお茶や水を飲みながら、肝臓の分解能力に合わせ飲むべきだ。アセトアルデヒドの量を急に上げないで酒を飲むことができ、臓器の損傷を和らげる。

蒸留酒を水や果汁で薄めても、酒に強い人は酩酊感を得るまで速いピッチで飲み、結局大量にアルコールを摂取してしまう。これでは、アルコールの摂取量はストレートで数ショット飲むのと変わらない。

酒に強い人はたしかに酔いにくい。したがって強い酒を好む。しかもアルコール分解能が高いから、長時間飲んでいられる。結果として、アルコールと共にアセトアルデヒドにも生体組織が長時間曝露される。飲酒中は、高濃度のアルコールが咽頭・喉頭・食道・胃を通過し、肝臓は産生した毒物アセトアルデヒドに晒されていることを、酒に強い人は認識しておかなければならない。

日本画家の横山大観(享年87才)が大酒(日本酒)を飲めた理由は、元々強い酒が飲めない、酒に弱い体質であったからだと言われている。それが、日本酒をご飯がわりに飲むというような偏った嗜癖を続けながらも、長生きできた理由だろう。医学的、栄養学的に見れば、推奨されない食生活であることは確実だが・・・

お酒に強いからといって、常習飲酒と大量飲酒を続けていては、健康は保てない。飲んだ翌日には決して酒を飲まないという強い意志さえあれば、飲酒量はたやすく半減する。それを守れないのは、既に依存症に陥っている証拠である。陽のあるうちに酒を飲みたくなる人も、アルコール依存が疑われる。

始めるのに遅いということはない。自ら健康を損なう嗜癖をコントロールしなければ、老後の健康に重いハンディを負うことになる。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 桑の実2 | トップ | 女性の怕さ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿