道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

準砂漠気象

2019年08月06日 | 自然観察
今日(8月6日)は全国的に真夏日のピークらしい。そんな最中の真昼間、用事があって仕方なく、浜松駅近くの街衢を歩いた。白昼のオフィス街に人影は無い。



眩暈のするような白熱の太陽の直射と、灼けたビル壁やアスファルト道路からの熱線の輻射に、はじめはたじろいだ。だがしばらく歩くうち、高温の乾燥した空気に馴れたのか、膚にあたるビル風が心地よく感じられるようになった。ドライヤーの風に当たるような感覚。汗が出ている筈なのだが、出る傍から水分は蒸発し、膚は乾いてサラサラしていた。

屋外での高気温は不快の決定的要因でないことに気づいた。乾燥してさえいれば、夏の屋外でも快適性は保たれる?風が吹いていれば尚更好適だ。

都市のアスファルト砂漠は、実際の熱帯・亜熱帯砂漠のように湿度が低い。車の排気ガスと騒音が充満していなければ、晴れた真夏日の市街は、存外過ごし易い場所ではないか?

海をはじめ、森林や田園、河川や湖沼、我々が夏に好んで出向く先は、地表からの水分の蒸発量が多く多湿である。我々稲作農民の末裔は、多湿の場に涼を求める習性があるのだろうか?夏の気圧配置で気流によって運び込まれる水分量は膨大だ。通常日本列島の夏は、全国一律に高温で多湿と相場が決まっている。ところが、鉄とコンクリートとアスファルトで固められた都市空間には、砂漠に近い局地気象が発生しているのだった。



40度Cを超える高気温で、舗装により地上からの水蒸気の供給が断たれた夏の都市街衢にあっては、高温で増大した飽和水蒸気量に対する水蒸気量は相対的に減小し、湿度は低下する。
日本の夏の苦痛の原因が湿度の高さにあることは常識であるが、都市の市街地では意外にも準砂漠に違い乾燥気象が局地的に発生しているとみてよいだろう。

夏に蔓延する熱中症は、多湿な環境にあって身体の放熱機能がうまく働かなくなった時に発症する。自律神経の働きが衰えた老人に多発する。体温を自律的に下げる機能が低下しているからだ。

高気温でも湿度さえ低ければ、皮膚から汗の水分の蒸散が活発に保たれ、体温の上昇を抑えることができる。水分補給を怠らなければ熱中症には陥らない。
熱帯・亜熱帯であっても、乾燥気候の地域では、水分の補給さえ十分なら、室内や木陰などで快適に過ごせるという。

テレビはむやみやたらと「小まめに水を」と繰り返し、冷房利用を呼びかけるが、室内の湿度を下げる問題には触れない。室内の気温を下げると、飽和水蒸気量が減り、煮炊きなどしている場合は湿度がハネ上がることがある。いくら水を飲んでいても、皮膚から水分の蒸散がなければ体熱は下がらない。汗が乾かなければそれが皮膚の気孔を塞いで水分の蒸散をますます妨げる。テレビは、湿度の高さが熱中症の元凶であることを、もっと啓発しなければならない。

夏の市街地で路面に打ち水をしたり、人の集まる鉄道駅などでミストを発生させているが、あれは科学的に有効な方法なのだろうか?来夏のオリンピックでも、観覧席にミストを計画していると聞いたことがある。湿度を高める弊害はどう解決するのか?団扇同様、気やすめに過ぎないのではないか?気やすめは、わが民族に共通する気質だから、それで熱中症は減ると大真面目に考えている連中がいるかもしれない。
 
1週間で1万数千人の救急搬送者が出たと騒いで、原因を計測装置の中の気温だけに絞っているのはメディアの分析が足りない。計測装置の中の気温が35度Cの時は、その外の気温は40度C近くなるだろう。湿度が50%以下なら汗の蒸散は保たれ、日陰に居れば体温は上がらない。風は風速1m/秒につき1度体感温度を下げる。風の体感温度の低下効果は、熱中症にはもっと重視されてよいと思うのだが。

酷暑の市街地は、緑豊かな郊外地よりも湿度が低い。日傘・帽子で直射日光を浴びないようにすれば、局地砂漠の乾燥を活かした生活の工夫ができるのではないか?徒らに連日の高気温ばかりを騒ぎ立て、冷房空間に在ることしか教えないメディアは、電力消費量の増大を助長しているとしか思えない。人間の生物的生活への配慮を失っている。
 
半世紀以上前は、夏に日射病が多発して、夏休み中は親も子もこれを怖れた。今から思うと、高湿度による熱中症だったに違いない。家庭にエアコンの無い時代だった。

湿度のコントロールは温度のそれよりも難しい。明治以来、日本に在留した欧米人は、居留地での蒸し暑さに耐え切れず、夏は箱根・軽井沢・日光に避難した。まさしく、彼らにとっての日本の夏の湿気は、災難だったのだ。

避暑というより、避湿が真の目的だった。世界の熱帯・亜熱帯地方の各地に植民地を多くもち、高温多湿に充分な経験が蓄積されていたはずの彼らでも、日本の夏は耐え難かった。多湿のレベルが違っていたのだ。現在でも、東南アジアの次に日本に立ち寄った欧米からの観光客が、「タイ・マレーシアの暑さと質が違う。日本の暑さは重い」とテレビのインタビューに答えている。「重い暑さ」とは言い得て妙である。

体熱を下げる機能は本来身体に備わっている。それを妨げるのは高湿度である。この大元の要因を避ければ、熱中症などにかかることはないと思う。予防は、高湿度環境に身を置かないことに尽きるようだ。



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