道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

山歩きの必携品

2024年08月02日 |  山歩き
登山を愛好する人に、お勧めしたい携行食品がある。これを携行していれば、道迷いや疲労による遭難を防ぐ効果は大きいと思う。
卑近な体験を大袈裟に喧伝すると思われるかもしれないが、ご参考までに・・・

まだ老年には充分間があった年頃、よく行く奥三河の低山に登った。標高1000mぐらいの、火山起源の岩山で、登路は変化に富み、山頂からの眺望も佳いことで知られている。自生する遠州シャクナゲの開花期には、ハイカーで賑わう山である。登山口は3カ所あった。

ある時、いつもと違う登山口から山に入った。
山頂からの展望を満喫し、来た道と別の登山口への下山路を降った。昼食をしてから登ったので、日没が迫っていた。その下山路は何回となく歩いていて勝手知った道だった。日暮が近いことで我知らず気が急いていたのか、常より足早に尾根を降って行った。

突然、歩いて来た道が絶壁を前に途切れ、谷を隔てた向かいの尾根が、黒々と眼の前に迫っていた。
下山路は尾根伝いとばかり思い込んでいたから愕然とした。この山に、んな絶壁の個所が在ることが、信じられなかった。何処か知らない別の山に居るような気持ちに襲われ、心臓がパクパクして冷や汗が出て来た。
かつて南ア塩見岳に1人で登り、山頂直下のザレ場でマーキングを見落としてルートを外れ、谷に向かってズルズル動く足元に、心底慄いた記憶が蘇った。
その時は、ルートを降ってきた登山者に助けてもらい、事なきを得たのだが。

落ち着くためにその場の岩に腰を下ろし、ザックの雨蓋から、山頂で飲むコーヒーや紅茶のために用意している練乳(コンデンスミルク)のチューブを取り出し、直接練乳を口内に押し出した。濃厚なミルクの味と強い甘味が口から喉にゆっくり流れこんだ。
不思議なことに、忽ち焦燥感が消え、気分が落ち着いてきた。
地図を出し、コンパスで現在位置を確かめる余裕を取り戻した。ミルクの効用である。
泣き喚いていた乳児も黙るミルク。人間は幾つになっても、精神的な不安に陥ったら、ミルクに勝るものはないと痛感した。

下山道の明確だった地点まで戻ると、断崖の30mほど手前の大岩の基部に目立たない道標を見つけた。尾根道の進行方向左の谷に向かって山道が折れ、延びていたのだった。大岩下の道標を見落として直進してしまったのである。絶壁からの眺望を一時楽しむ人たちの踏み跡を、下山道と間違えたのだった。

練乳の鎮静効果の絶大なことには愕いた。山で遭難の危機に瀕したら、これを口にすれば、鎮静効果とエネルギー補給効果を同時に期待できると知った。
遭難まで行かなくとも、バテたら、気力が失せたら、不安に駆られたら、歩きながら練乳を口に押し出し、水で流し込むのが良いと思った。
流動物だから、クッキーやビスケットなど粉物の行動食より効果が早い。以来、登山を已めるまで、練乳チューブの持参は欠かさなかった。
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