憂国のZ旗

日本の優れた事を様々話したい。

「文明の敵」との戦い、彼我の落差 杏林大学名誉教授・田久保忠衛

2014-09-29 10:15:52 | 時評

【正論】
「文明の敵」との戦い、彼我の落差 杏林大学名誉教授・田久保忠衛

2014.9.29 05:03 (1/4ページ)[正論]



 大仰な言い方をする、と笑われるかもしれないが、旧来の国際政治の常識では理解できない異常な事態が進行している。民主主義、法治国家、人権尊重などを共通の価値観とした文明社会に国際テロ集団が匕首(あいくち)を突きつけている。

 世界の警察官にならないと宣言したオバマ米大統領は、無法なテロ集団を前に期限を付けて米軍を撤退してしまったり、今後の撤退計画を知らせたりしている。シリアとイラクにまたがる広大な地域を自らのものだと勝手に唱えた、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」打倒の根拠は、国連憲章第51条「自衛権」の発動にあるとして、空爆の範囲をイラクからシリアに拡大したものの、律義にも地上戦闘部隊は投入しないと繰り返しテロリストにまで伝えている。同盟国の指導者に礼を失することになるが、米国が気が良すぎるのとは対照的に、相手は質(たち)が悪すぎる。

 ≪欧米狙う伏兵のテロ組織も≫

 米軍主導のシリア空爆の対象は、国際テロ組織アルカーイダと袂(たもと)を分かったイスラム国と、アルカーイダ直系の「ホラサン」などである。

 イスラム国の残虐性は、この6月にイラク北部の主要都市モスルを占領した際のニュースで世界に流れた。米人ジャーナリストを2人、英国人を1人といった具合に次々に処刑し、その模様をネット上で世界に散蒔(ばらま)くのは正気の沙汰と思えない。性奴隷となった女性の犠牲者もどれだけ増えているか。米中央情報局(CIA)がこの11日に公表した推計では、6月現在で1万人程度とみられていた戦闘員の数は、ここ数カ月で3万1500人になったという。

 イスラム国が中東での当面の脅威とすると、ホラサンは直接、米欧諸国を攻撃対象にしている。

 ジェームズ・クラッパー米国家情報長官が「ホラサンはイスラム国に負けず劣らずの脅威」とワシントンの情報関係者の集まりで述べたのを機に米メディアが報じ、初めて脚光を浴びた。個人による自爆テロと、衣服に浸す液体爆弾など探知しにくい精巧な爆発物の使用を得意とする。両組織間の連携の有無や方法は分からないが、2千人ともいわれるイスラム国の外国人戦闘員がいずれ帰国したとき、どんな役割を演じるのか。

 ≪「イスラム国」の聖戦戦略≫

 鋭い論評で知られるチャールズ・クラウトハマー氏が18日付の米紙ワシントン・ポストに「イスラム国のジハード(聖戦)論を解釈する」との一文を書いている。

 イスラム国は、比類なきまでに惨(むご)い処刑やシーア派受刑者虐殺の場面を公開し、徒(いたずら)に世論を刺激して米軍の猛爆を招いている。狙いの一つは「アラビア半島のアルカーイダ」、パキスタンのラシュカレトイバやタリバンなどのテロ組織のチャンピオンになることだ。それには、米国をメソポタミアの戦争に引きずり込めばいい。



 第二に、米国との持久戦だ。この軍事大国が「9・11後型」の道を進むことを知っているからだ。「米国は衝撃を受けて激高し、行動する。その後、速やかな解決が不可能だと知るや、うんざりして退却を命じる指導者たちを探すようになる。その典型がオバマだ」-と言うのである。

 9・11以来10年にわたって世界の心胆を寒からしめたアルカーイダは、最高指導者ウサマ・ビンラーディンの殺害とともに二軍の地位に転落し、代わってイスラム国とホラサンが台頭したということであろうか。テロリストの影はインド、インドネシア、オーストラリアなどに次第に及ぶ気配だ。

 ≪「一国平和主義」に回帰?≫

 私は、シリアへの空爆の拡大で40カ国以上の有志連合ができつつあることを歓迎する。気になるのは、シリア空爆に加わったのが、米国のほかサウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン、カタールの5カ国にとどまっていることだ。

 宗派対立をはじめとする従来の国家間、国家内の争いにこだわってはこの戦いに望みはない。ウクライナを侵略したロシア、市民の虐殺で悪名高いシリアのアサド大統領、核開発疑惑をめぐる米欧との交渉が難航しているイラン、軍事力を背景に南シナ海などの現状を変更しようとしている中国などは、国際法に違反するなどとしてシリア空爆には反対してきたが、オバマ大統領の決定を何としても阻止しよう、としてはいない。

イスラム国から「南部チェチェンを含むカフカス解放」を突きつけられているロシア、ウイグル族の反乱とイスラム・テロリストとの関係に怯(おび)える中国、イスラム国を天敵視しているアサド大統領、アサド政権の後ろ盾といえるイランは、「共通の敵」に直面して米国と同じ歩調を取り得るのか。

 こうした中で、日本は主役を演じる立場などにはないが、日本国憲法の範囲内での個別的自衛権、集団的自衛権といったちまちました議論を見ていると、世界の軍事的関心との落差に呆然(ぼうぜん)とする。せめて憲法改正の機運でも盛り上げないと、日本は再び、「一国平和主義」に戻っていってしまう。(たくぼ ただえ)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿