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硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語。あとがき

2021-09-07 20:07:04 | 小説
恋物語。これにて終了です。
ようやく着地出来て、今、安堵しているところです。

物語りを始めようと思ったのは、街で偶然見かけた、高校生の男の子と女の子の別れる際の姿が、映画のワンシーンのように観えたことがきっかけでした。
そして、ちょっと、妄想を働かせて、短編でいいから、文字に起こしてみようかなと思ったのですが、ずいぶん長くなってしまいました。

世の中は、すごい勢いで変化していて、生きづらさを感じる事もありますが、恋物語を通して、読んでくださっていた皆様の心に、ほんの少しでも、ホッとする気持ちが生れれば幸いです。

いつもながらではありますが、拙い文章に最後までお付き合い頂き有難うございました。




恋物語。最終話

2021-09-07 19:49:02 | 小説
「きらら。どうかしたの? 」

私の右斜め前で昼食を摂っていた彼が、優しい微笑みを湛えながら、尋ねてきた。

「あっ、ごめんなさい。」

「時々、遠くを見るような目をして、ぼんやりしてるよね。何か考えているのは分かるけど、僕で良かったら力になるよ。」

「ありがとう。ちょっと過去の事を想い出していただけだから、大丈夫だよ。」

「そう。よかった。」

そう言うと、食べかけのカツサンドを、むしゃむしゃと頬張りだした。

コロナウィルス・パンデミック下の大学は、週2回の登校と、オンラインで授業を進めていたが、感染者数の増減の度に出される政府の方針に追われていた為か、大学側も手探り状態が続いており、課題を提出するにも、煩雑さがあり、学びのモチベーションを保つのが難しかった。しかし、環境に順応してゆく事はそれほど難しくなく、オンライン授業が中心の環境は、時間管理を個人個人に委ねられている状態でもあったから、消費活動には、あまり興味のなかった私にとって、コロナストレスという言葉が世に出回っていた三年弱の期間は、川島君と共に過ごせる時間と、読書する時間が確保でき、とても充実した楽しい日々であった。

しかし、多くの犠牲を払ったコロナウィルス・パンデミックは、様々な問題を抱えたまま、症状を抑える新薬の登場と、ワクチン接種と、自然による抗体、免疫獲得によって、発症者が緩やかに減少し、科学力と政治力の勝利というアナウンスで、終息宣言がなされると、私達大学生は、初めて、学校が中心となる生活を送る事となり、街行く人々の生活様式が変わり始めると、彼も海外留学を行うために、アルバイトを始め、私も、ゼミに入り浸る日々が続き、すれ違いも増え、互いに進むべき方向が異なることに気付き始めた。

恋愛と素晴らしさと煩わしさに窮した私は、母に助けを乞うたが、実に母らしい、「恋の痛みって言うのはな、恋している時だけにしか分からん痛みなんやから、一度は経験しときっ。」という、抽象的な答えを前に、戸惑いを隠せず問いを求めたが「自分で考えやな、成長できひんよ。」と念を押され、突き放されてしまった。
当時は、今でもと言うべきか、恋愛初心者だった私は、距離や時間は問題にならないと考え、互いに抱える違和感を解消するべく、何度も話し合ったが、お互いに、肝心なところで妥協できず、ついには、交際3年目の春、彼のイギリス留学を機に、離れることになった。

校舎裏で川島君に告白した時の気持ちは、嘘偽りのない感情であったが、悩み抜いて離れる事を選んだのは、今思い返すと、確かではない「愛」は、「愛」というより、依存に近いという考えを払拭できなかった事と、ハムレットの劇中で発せられる、

「己に誠実であれ」

と、言う、シェークスピアの言葉が、私の中心に、しっかりと根を張っていたからだと思う。

AIの研究をしていると、異性と交際する術は、私よりAIの方が人間らしいのではないかと錯覚する時もあるが、人はAIとは違い、自我の選択によって、失敗をしながら、未来を切り開いてゆくものであると理解できるようになった昨今では、悩む事も成長を遂げる為の大切なプロセスなのだと思えるようになってきた。

「優しいね。ディビッド。」

イスラエル国籍を持つ、イスラエル人の父親と日本人の母親のもとに生まれたディビッドは、残りのカツサンドを口に入れると、左手の親指を突き立てて微笑んだ。


恋物語。109

2021-09-06 21:22:09 | 小説
卒業を迎えた二月の下旬は、初夏を思わせる日もあり、春の象徴である桜も、三月の中旬には、葉桜に姿を変えていた。気がかりだったコロナウィルスの感染者数の動向は、私達の願いが届いたのか、偶然にも減少し、大学入試試験や卒業式も、無事、終えることが出来た。

今、改めて振り返ってみると、あのクリスマスの夜のLINEとその後に続く出来事は、とても思い出深く、私の周りの人たちにとっても、大きな岐路になったのではないかと思っている。
あの後、綾乃は、心理学科のある大学へ進学すると言い出し、猛勉強を始め、綾乃と親交の深かった村主さんは、社会学部のある大学へ、君塚さんは、体育大学へ進路を変更し、三人共に無事進学を果たした。
彼女達の選択は、先生も含めてかなり驚いていたが、私は、彼女達の背後に浮かび上がる、とても明るく輝いている色を見て、うらやましく思っていた。
川島君も、語学力を向上させるために、外語大学へ進学したが、私と言えば、ハンソン・ロボティクス社が開発した「ソフィア」の動画に感動した時の僅かな気持ちにすがるように、辛うじて、ロボット工学科のある大学へ滑り込んだ。

川島君の親友の松嶋君は、卒業式後、正門前で、卒業生やその両親、先生方が、記念写真やおしゃべりに講じている事を気にも留めず、大きな声で水野櫻子先生にプロポーズをして、周りにいた人達を驚かせていた。告白された水野先生は、学校では見せたことのない笑顔を浮かべ、松嶋君からのプロポーズを受け入れ、2人とも、とても幸せそうだった。
川島君はプロポーズの事を知らされておらず、とても驚いていたが、これからどうしてゆくのかを聞くと、松嶋君はネットでは少し有名で、その活動を本格的に本職とし、主夫もしつつ、水野先生をサポートしてゆくのだと話してくれた。

綾乃たちや松嶋君の行動は、私に、私が思い込んでいた正しさとは、他に依存しているものでしかない事と、自立とは、共助とは、こうあるべきなのだと、行動をもって教えてくれた気がしたのだった。

恋物語。108

2021-09-01 21:28:44 | 小説
(きららは、どうなの? )

しばらく、返信を待つ。さすがに悩んでいるんだなぁ。きらら、大丈夫だったかな。

(私からも報告です。無事、告白できました。泣いちゃったけど。)

ああっ、号泣している姿が目に浮かぶ。ここは励ましてあげなきゃ。

(えらい! えらいぞきらら。よく頑張りました)

(川島君、好きな人がいるからって言ってたけど、私、それでも待ってますって言っちゃった)

(wwwwwww)

(笑うなよぉ。はずかしいじゃないか)

(ごめん。けど、これでいいんだね)

(もちろんです)

(おkです)


(私、川島君の事が本当に好き。だから、彼の事、待ち続けようと思う)

うわぁ~。純粋。きららって、こんな事言える人だったんだ。ちょっと茶化しとこかな。

(熱いねーwww)

(うっさいよ)

(wwwwwww)

(綾乃。本当にありがとう)

きららなら、受験も恋も、きっと上手く行くはず。

(どういたしまして。受験に恋愛にがんばんなよ、きららは両立できそうだから羨ましい)

(そんなことない。いっぱいいっぱいですwww)

(www応援してる)

(ありがとう。綾乃も、参考書開いてねwww)

ふふっ。じゃあ・・・。

(ここにも川島が~www)

(wwwwwww)

(じゃあ、また、学校でね)

(うん。じゃあまたね)

((‘’◇’’)ゞ)

((''◇'')ゞ)

二人とも、分かってくれた。すごく、ホッとした。年が明ければ、卒業式までほとんど顔を合わさないから、こじれてしまったら、ずっと、言葉にならない気持を引きずったまま、受験日を迎えてしまう。それじゃあ、良い結果なんて望めない。
私からの告白じゃないから、そこまで、気にしなくていいんだろうけれど、私の性格じゃあ、とても無理。
だから、告白されたのが、川島君ときららの二人で、本当に良かった。

「綾乃―! 早くお風呂に入ってしまいなさい! 」

また、お母さんから催促されちゃった。私って、いつまでたっても、子供なんだよなぁ。

「わかってるー! 今から入るよぉー! 」

バッテリー容量が10%を切った携帯を充電器に戻す。私も、心身ともにローレベルだ。お風呂に入ってチャージしなくちゃ。

恋物語。107

2021-08-31 21:19:38 | 小説
ん~。でも・・・。そうだなぁ・・・・。いい経験だったと、無理をしてみるか。それから、ちょっと気持ちが変わった事を・・・・。
散らかってる頭の中を、少しづつ整理しながら、文章を綴ってゆく。

(たしかに良い経験だった。それからね、偶然、電車の中で先輩と話し合えた後に先輩の彼女って言われてた人にも会って、話を聞くことが出来たんだ。だから、当時のもやもやした気持ちはなくなったし、考え方も少し変わった気がする)

そして、もう一つの報告も忘れずに。続けて送信。

(それから、もう一つ報告があります)

(すごいね! 綾乃に比べて、私は全然駄目)

あれっ、もう返信が来た。はやっ!

(なになに)

いやっ、反応が早い。ここは、名前だけ送っておこう


(川島君)

(!! どうした ! )

めっちゃ動揺してる。ごめんねきらら。

(フッてしまいました。ゴメンナサイ)

(どういうことなの。説明して)

うぁ~。おこってるよぉ。

(怒ってる? )

(ちょっとね。でも、どうして)

やっぱり怒ってたかぁ。ここはきちんと説明しなくちゃね。

(本当にごめん。川島君はやっぱり友達なの。それに、今は受験に専念しないと、絶対後で後悔すると思ったから)

(わかったよ。もう怒らないwww でも、川島君はどういってたの)

う~ん。そこは気になるんだね。ここはヘンに言い訳せず、簡潔に伝えよう。

(私の気持ちを理解してくれた。それで、参考書開けよってwww)

これでいい。きっと、わかってくれるはず。そうだ。きららの報告も聞かねば。

恋物語。106

2021-08-30 21:06:50 | 小説
どうしよう。どうやって伝えよう。嫌われることを覚悟してでも、誠実に伝えなきゃ。ここで逃げてしまったら、絶対に後悔してしまう。
でも、どう書き出していこうかなぁ・・・・・・。

(報告します。無事先輩に告白できました。でも、上手くいきませんでした。なぜなら、先輩はゲイな人だったからです。そのような告白をされて、最初はどうしようかと思いましたが、先輩の話を聞いているうちに、私の世界は狭いんだなと感じました。今のままではいけないんだなとも思いました。それで、きっぱりとあきらめが付いたかと言えば、そうでもないですけど、少しだけスッキリしました)

これでいいかな。間違ってないかな。もう一度読み返してから送信だな。

「うん。これでいい。じゃあ・・・・・。届け、私の想い!」

祈りを込めて、青い紙飛行機をタップする。ドキドキする。きららは、なんて返信してくるかな。なんか、お腹が痛くなってきた。

ピヨピヨ! 来たっ。

(失ったものも大きいけれど、得るものが沢山あったみたいだね。綾乃の言葉に、勇気をもらえたよ)

おおおっ。きらら、なんて優しいの。この後の展開が苦しくなっちゃうじゃん。
ここは丁寧に、返信。

(こちらこそ背中を押してくれてありがとう。けど、ヒドく傷ついてますwww)

(ゲーテ曰く、泣いてパンを食べた者でなければ、人生の本当の味は分からない)

ゲーテ!? 詩人だったっけ。

(??)

(ごめん。つい)

きらららしいなぁ。

(wwwwwww)

(ゲーテって言う人の言葉なんだけど、ふいに浮かんで)

(きらららしいよwww 何となく意味は分かるから大丈夫だよ)

(ごめん)

泣いてパンを食べた者って、今の私の事なんだろうな。その言葉を引き出してくるなんて、さすがきらら。
ここは、私も、背伸びしておかなくちゃね。

恋物語。105

2021-08-29 17:27:14 | 小説
(ありがとうございます。)

(なんで急に他人行儀なんだよw)

(いや、ここはきちんとしておかなければと思いまして)

(www)

(バカにしてる? )

(してないよw )

そんなの知ってるよ。でなきゃ、仲良くなんてできなかったよ。

(分かってたよ。川島君そんな人じゃないもの)

(大学に合格したら、マックでお祝いしよう)

ふふっ。うれしいなぁ。でも、ここは、ちょっといぢっちゃおっかな。

(そういう時は、リストランテ・アサヒナで、ディナーでしょwww)

(お金ないのを知ってるくせに )

ふふふっ。やっぱり楽しいな。

(うそでーす! )

(じゃあ、マックでお祝いね。スベったら、知らないから)

言うねぇ。じゃあ、これでどうかな。

( (´・ω`・)エッ? )

(知りませんよwww とにかくベストを尽くせ! )

真面目だなぁ。けれど、川島君、私の気持ちを察してくれたんだ。すごく、うれしいよ。
私も頑張らなきゃね。

(分かった。ベストを尽くすよ。色々ありがとうね)

(うん。僕も良い経験になった。じゃあ、再び数学の勉強に没頭するよ)

もう、気持ち、切り替えられたのかな? そういう所、凄いなぁ。

(おおおおおっ。まじめーww)

(うるさいよwww)

楽しいけど、これ以上、甘えてちゃあ、川島君の足を引っ張っちゃうだけだ。

(おじゃましましたwww じゃあ、また学校で)

(うん。平川も参考書、開けよ! )

( (‘’◇’’)ゞ )

( (`・ω・´)ゞ )

「ふぅ~。なんとか、伝えられたかなぁ」

ヘンな汗かいちゃった。自分の気持に従って、相手の気持ちを絶つって、本当に苦しい。
それでも、最後まで優しかったなぁ、川島君。いつか、今日の事を想い出した時、これで良かったと思えるように頑張らなければ。

さぁて、つぎは、きららへの報告だ。

恋物語。104

2021-08-28 21:13:51 | 小説
私の今の気持ち。嘘のない気持ちを文字にのせて、川島君の心に届ければ、きっとわかってくれるはず。

(あれから、いろいろ考えたんだ。好きな人にも告白したよ。それで、分かったのは、川島君はやっぱり友達。イイヒトだし、話してても楽しいから、つき合ってもいいかなって思った。でも、好きだった人と、話をしてみて、気付いたんだ。私、まだ、知らない事が多いって。わたし頭悪いでしょ。だから、今、受験に専念しなければ、その先の世界を知ることが出来ないんじゃないかって。それに、恋愛と勉強を両立できるほど、器用じゃないから、川島君の気持はすごくうれしいけど、今の私じゃ、川島君の気持に応えられない。だからごめん。)

ううぅっ、何度読み返しても、心が削られる。振るってこんなにしんどい事なの? 詩音や明日香は本当にタフだわ。でも、川島君は、私の言葉をどう思ってくれるかな。キレたりするのかな、それとも、しつこく付きまとったりするのかな。意外と号泣したりして。そんなわけないか。

LINEの返信を待つ。やっぱり、色々考えてるんだろうな。ごめんね川島君。でも、本人の前で、ごめんなさいって、言わなければならなかったら、言いづらくって、断れなかったかもしれないなぁ。LINEさん、本当に助かったよ。

ピヨピヨ! 来た! 

(胸が痛い)

うわっ! どうしよう。傷つけてしまったかな。もう、謝るしかない。

(本当にごめんなさい m(__)m )

(うそだよwww)

やっぱり優しいな。でも、本当にこの選択で良かったのかな。

(いじわる)

(平川の気持ちはよくわかったよ。僕たちはまだ、何も知らない。それはすごく共感できる。だから今は、お互い、受験にベストを尽くそう。)

うん。そうだね。ありがとうね。なんか、泣けてきちゃうよ。

恋物語。103

2021-08-27 21:44:32 | 小説
「かわしま、かわしま・・・。」

川島君とのトーク画面を開いたのはいいけど、どう、切り出せばいいかなぁ、

「う~ん。まずは、なにしてる・・・かな。きっと、勉強してるんだろうけど」

(何してる? )

送信!

(数学の勉強)

やっぱり! 川島君だなぁ。では、

(まじめーww)

(何言ってんだよ。試験まで残り僅かでしょ)

ちょっと、おこったかな? 

(冗談だよw)

(どうしたの?)

う~ん。そうなんだよね。ここが悩みどころ。

(・・・。)

(なんだよ)

う~ん。どうしようかなぁ。

(・・・・・・。)

(なんなんだよwww)

優しいなぁ。私って、本当にバカだ。でも、ここはきちんとしなくちゃね。けど・・・。

(LINEで済ませていいのかなって思うんだけど)

(何のことだよw)

分かってるくせに・・・。

(いじわる)

(wwwこんな時ぐらいしかマウント獲れないし)

LINEでも謙虚な川島君。文章を通しても、その人柄が分かるよ。

(ちがいない)

(その自信もここまでだな)

おっ、調子に乗ってるな。ここはボケておこう。

( \(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ? )

(なにとぼけでるんだよw)

(すいません)

(wwwそれで、なんでしょう)

よし。これで、少しは気持ちがほぐれた。ここからは真面目に気持ちを伝えよう。
ゆっくりでいいから、丁寧を心掛けて。きっと、待っててくれるはず。

恋物語。102

2021-08-26 20:08:47 | 小説
今日は色々ありすぎて、頭がパンクしそうだった。
圭介先輩がゲイだった事、それを知ってて、なんの見返りもないのに圭介先輩を支え続けていた二宮先輩の事。一コ上とはいえ、同じ学校に通っていて、2人の事はよく知っているつもりだったのに、何も知らなかった事を知って、すごくショックだった。
最初は、私だって先輩の力になれたのにと思ったけれど、二宮先輩のお兄さんの話を聞いて、そこまで心が広くない私には無理だと思った。でも、色々な経験を積めば、二人のような心の広い人になれるはずだし、二人に憧れてるなら、自分を磨いてゆかなきゃ駄目なんだろうな。

自分磨きっていっても、苦しい事や辛い事を経験して考えなきゃダメなんだけれど、私の性格からして、なんとなく避けてしまうかもしれない。
その方が、私らしくって、いいのかもしれないけれど、そしたら、心の広い人にはなれないし、大きな目標に向かって努力をしている圭介先輩もがっかりするんじゃないかな。

私の人生はこれからだというのに、今のまま、ありのままで、い続けていいのかなぁ。
もし、川島君と付き合うとしたら、川島君は優しいから、私は、きっと、彼の優しさに甘えてしまうだろう。その方が楽と言えば楽。
それはそれで、幸せかもしれないけど、私の性格だと、きっと、どこかで、このままでいいのかなって考えてしまう。その時になって、やっぱり無理って言って、川島君を傷つけるより、今、きちんと、気持ちを伝えた方がお互いの為になるんじゃないかな。
きららは、きっと、川島君の気持を尊重するから、怒るだろうな。でも、怒られたとしても、本当の事を伝えた方が、きららにとってもいいはず。

もうこれ以上悩んでても仕方がないや。

ベッドから起き上がると、机の上に置かれた充電中の携帯を手に取り、LINEを開いた。

恋物語。100

2021-08-23 21:36:27 | 小説
(なになに)

(川島君)

(!! どうした ! )

(フッてしまいました。ゴメンナサイ)

なんですってぇぇ! 思わず声が出てしまった。どういうことなのそれっ!
直ぐに問い詰める。

(どういうことなの。説明して)

(怒ってる? )

ああっ、見透かされてる。綾乃、相変らず鋭いなぁ。

(ちょっとね。でも、どうして)

(本当にごめん。川島君はやっぱり友達なの。それに、今は受験に専念しないと、絶対後で後悔すると思ったから)

嘘でも、忖度でもない綾乃の気持ちだ。自分の知らない世界を知る年上の人達と話をしたことで、心境の変化が生れたのだろう。それに比べて私は、なんて心の狭い人間なんだろう。川島君を振った事に苛立っているのに、川島君が好きな人に振られてしまった事を、どこかで喜んでいる。
こんなことじゃダメだ。綾乃の気持について行かなくては。

(わかったよ。もう怒らないよ。 それで、川島君はどう言ってたの)

(私の気持ちを理解してくれた。それで、参考書、開けよってwww)

川島君らしい。でも、ちょっと傷ついてるんだろうな。私、彼の力になれるかな。

(きららは、どうなの? )

そうだ。私も報告しなければ。自分の事だけで精一杯だったから、すっかり忘れてた。

(私からも報告です。無事、告白できました。泣いちゃったけど。)

(えらい! えらいぞきらら。よく頑張りました)

(川島君、好きな人がいるからって言ってたけど、私、それでも待ってますって言っちゃった)

(wwwwwww)

(笑うなよぉ。はずかしいじゃないか)

(ごめん。けど、これでいいんだね)

(もちろんです)

(おkです)

そうだ。私も、きちんと、今の気持ちを伝えておこう。

恋物語。99

2021-08-22 20:36:17 | 小説
(報告します。無事先輩に告白できました。でも、上手くいきませんでした。なぜなら、先輩はゲイな人だったからです。それを聞いた時、動揺しすぎて、パニックになりましたが、先輩の話を聞いているうちに、私の世界はとても狭かったんだなと感じました。そして、今のままではいけないんだなとも思いました。それで、きっぱりとあきらめが付いたかと言えば、そうでもないですけど、少しだけスッキリしました)

そうか。なるほど。先輩の背後に見えた色が、見たことのない色だったのは、そういう理由だったんだ。しかし、綾乃は本当に凄い人だ。もし私が、好きな人から、ゲイだって告白されたら、すごくショックだろうし、話しかけられても、耳に入ってこないような気がする。その点、綾乃は、変わりなく先輩と話し合えたというのだから、そのコミニュケーション力には感動してしまう。

(失ったものも大きいけれど、得るものが沢山あったみたいだね。綾乃の言葉に、勇気をもらえたよ)

(こちらこそ背中を押してくれてありがとう。けど、ヒドく傷ついてますwww)

こんな時、なんて言葉をかけてあげればいいんだろう。変な優しさは余計に傷つけてしまうだろう。賢者は思い悩む者に対して、なんて声をかけるだろう。その時、ハッと思い出す。迷わず画面に文字を打つ。

(ゲーテ曰く、泣いてパンを食べた者でなければ、人生の本当の味は分からない)

(??)

やっちゃった! 焦りに焦る。

(ごめん。つい)

(wwwwwww)

(ゲーテって言う人の言葉なんだけど、ふいに浮かんで)

(きらららしいねwww 何となく意味は分かるから大丈夫だよ)

(ごめん)

(たしかにいい経験だったよ。それからね、帰りの電車の中で、偶然にも先輩の彼女って言われてた人にも会って、話を聞くことが出来たんだ。だから、当時のもやもやした気持ちはなくなったし、考え方も少し変わった気がする)

心に余裕がないと、辛い出来事をよい経験に置き換えることは出来ない。綾乃は、急成長しかけている。

(すごいね綾乃! それに比べて、私は全然駄目だ)

送信と同時に、返信が来る。

(それから、もう一つ報告があります)

えっ。なに。なんだろう。鼓動が早くなる。思わず体を起こし、なぜか正座をしてしまった。

恋物語。98

2021-08-21 21:44:46 | 小説
母との会話によって、自分でも驚く位に泣いて、不安になっていた川島君への想いを取り戻した。しかし、その想いが、みんながよく言う、愛するという気持ちであるのかが分からない。
人生において、大切なものは何かと問うとき、人々は様々な回答をする。
その中でも、愛が、もっとも大切だとしたら、私にとって、愛は曖昧なものでしかないから、いったい何を大切にすればいいのかが分からなくなってしまう。
愛を語る人たちは、どれほど真実の愛を知っているのだろうか。
もし、皆が愛を知っているとするなら、チャペルで、神に愛する事を誓った夫婦が、なぜ離婚してしまうのだろう。
愛を歌った人たちが、不倫をするのはなぜだろう。
それが、愛だからだろうか。だとしたら、愛とは傷つけあう行為なのだろうか。
「真の愛の道は決して平坦ではない」
シェイクスピアはそう言ってたけれど、今の私には、それが理解できない。
川島君への想いは真の愛? 難しく考えすぎ? 好きって言う気持ちは間違いないのに。
私は、どうして複雑に考えすぎるんだろう。
しっかりしろ! 私!

ベッドに寝転がり、天井を見つめる。心配しなくてもいい事まで心配をしている。それもよく分かっている。でも、考えてしまう。
綾乃は、ちゃんと告白できただろうか。川島君は私の事をどう思っているだろうか。
二人がつき合うことになった時、二人に対してちゃんと微笑むことが出来るだろうか。

試験が近いというのに、とんでもない沼に嵌ってしまったなと後悔。しかし、何もしないで後悔するよりは、前向きだ。

ピロロン! 

LINEの着信で我に返る。今は見たくないなと思いながら、重い腕を伸ばし携帯を取る。
画面を見ると、綾乃からのLINE。報告します。で始まる長文。見ないわけにはいかない。
恐る恐るLINEを開くと、そこには、とても悩んだことの分かる、彼女の想いが詰まっていた。

恋物語。97

2021-08-20 20:10:46 | 小説
(あれから、いろいろ考えたんだ。好きな人にも告白したよ。それで、分かったのは、川島君はやっぱり友達なんだよ。イイヒトだし、話してても楽しいから、つき合ってもいいかなって、ちょっと思った。でも、好きだった人と、話をしてみて、気付いたんだ。私、まだ、知らない事が多いって。わたし頭悪いでしょ。だから、今、受験に専念しなければ、その先の世界を知ることが出来ないんじゃないかって。それに、恋愛と勉強を両立できるほど、器用じゃないから、川島君の気持はすごくうれしいけど、今の私じゃ、川島君の気持に応えられない。だからごめん。)

なるほど。と、しか、言いようがない。想定内の事だけれど、胸は痛い。でも、平川綾乃は今までとは違って、しっかり前を向いていて、バスケの試合の時みたいに、一生懸命ゴールを目指している。
そんな彼女の足を引っ張ってはいけない。と、自分に言い聞かせる。けど、少しだけ抵抗してみたい。

(胸が痛い)

(本当にごめんなさい m(__)m )

ああっ、これは本当に無理なんだなぁ。

(うそだよwww)

(いじわる)

(平川の気持ちはよくわかったよ。僕たちはまだ、何も知らない。それはすごく共感できる。だから今は、お互い、受験にベストを尽くそう。)

(ありがとうございます。)

(なんで急に他人行儀なんだよw)

(いや、ここはきちんとしておかなければと思いまして)

(www)

(バカにしてる? )

(してないよw )

(分かってたよ。川島君そんな人じゃないもの)

ああっ、こういう所、キュンってするんだよなぁ。ずるいよ平川。

(大学に合格したら、マックでお祝いしよう)

(そういう時は、リストランテ・アサヒナで、ディナーでしょwww)

(お金ないのを知ってるくせに )

(うそでーす! )

この距離でいい。平川綾乃は、もう、次のゴールを目指してるんだから。
僕も、告白出来て、少しもやもやが晴れた。

(じゃあ、マックでお祝いね。スベったら、知らないから)

( (´・ω`・)エッ? )

(知りませんよwww とにかくベストを尽くせ! )

(分かった。ベストを尽くすよ。色々ありがとうね)

(うん。僕も良い経験になった。じゃあ、再び数学の勉強に没頭するよ)

(おおおおおっ。まじめーww)

(うるさいよwww)

(おじゃましましたwww じゃあ、また学校で)

(うん。平川も参考書、開けよ! )

( (‘’◇’’)ゞ )

( (`・ω・´)ゞ )


携帯を元の場所へ戻し、天井を見上げて大きなため息を吐く。もう一度、これでいい。と、自分に言い聞かせ、シャーペンを手に取る。

「整数cが5以上の時、pはqである為の必要条件ではない。なぜならば・・・・。」

うん? なるほどな。僕が友達以上と思ってても、それが、恋人になる為の必要条件ではなかったんだな。

恋物語。96

2021-08-19 20:47:07 | 小説
「整数cが5以上の時、pはqである為の必要条件ではない。なぜならば・・・・。」

プヨッ! LINEの着信。画面を見ると、平川綾乃の名前。
心拍数が上がる。ちょっと震える手。シャーペンを手放し、携帯を掴んで、LINEを開く。

(何してる? )

(数学の勉強)

(まじめーww)

(何言ってんだよ。試験まで残り僅かでしょ。)

(冗談だよw)

(どうしたの?)

(・・・。)

(なんだよ)

(・・・・・・。)

(なんなんだよwww)

(LINEで済ませていいのかなって思うんだけど)

ああっ。ついに来たか。最後の審判。

(何のことだよw)

(いじわる)

(wwwこんな時ぐらいしか、マウント獲れないし)

(ちがいない)

(その自信もここまでだな)

( \(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ? )

(なにとぼけでるんだよw)

(すいません)

(wwwそれで、なんでしょう)

そこから数分、LINEが途絶える。画面を見ながら、平川綾乃が何を伝えようとしているのか、いくつかのワードを考えて、衝撃に備えた。ためらっているなら、その答えは・・・・・・・。
プヨッ! 返信が来た。しかも、長文だ。