日曜日の午後5時、飛行場跡地に夕日を見に行くのが大好きだった。
日中の日差しは強いホンジュラス。しかし、この時間になると何とか外に出られるレベルになる。
自宅から約20分、舗装されていない砂利道をゆっくり自転車で移動すると、この空地に到着する。
その日も飛行場に向かって、ぼくはのんびりと自転車のペダルを踏んでいた。
ちょうどマリソルの働いているクラブの横を通過したとき、ぼくの名前を呼ぶ大きな声が聞こえた。
振り返ると、何とマリソルが手を振っている。手にはビリヤードのキューが。
彼女は、ナイトクラブ横のビリヤード場で遊んでいたようだ。
ぼくは自転車をぐるりと旋回させ、彼女のいる場所まで戻った。
高まる胸の鼓動。
昼間に彼女を見るのは初めてだった。
「やあ。ビリヤードやってるの」
「そうよ。一緒にやる」
「ぼくはいいよ。あまり上手くないから。それに、これから夕日を見に行くんだ」
「夕日?」
「ああ。飛行場跡地がこの先にあってね。とっても素敵な景色なんだ」
小さな花柄のある白いノースリーブのワンピースにジーンズ姿の彼女。
大きな目で、ぼくを見つめている。
「私も一緒に行っていいかしら」
「えっ?」
ぼくは二つ返事でOKをする。
すると、彼女はすぐに自転車の前へ飛び乗った。
ホンジュラスの田舎ではスポーツタイプの自転車が普及している。日本では、タイヤの太いマウンテンバイクと呼ばれている自転車だ。
2人乗りをするときには、ハンドルと椅子をつなぐ太いパイプを利用する。
彼女はその部分に横座りになり、両腕は、ハンドルの内側をつかんだ。
再度、ゆっくりと自転車をこぎはじめた。
あの夜と同じ香水の匂い。でも、風がその香りを運んでいくので、あまり強くは感じない。
約50mパンアメリカハイウェイを移動すると、左折して、砂利道に入る。
マリソルは、周りからみると普通の女の子。とてもナイトクラブで仕事をしているようには見えない。
知り合いと鉢合わせして、からかわれるのではないかとドキドキしていたが、好きな女性と一緒にいることへの緊張感は不思議となかった。
「ここだよ」
「まあ、素敵」
前方には赤茶けた1kmほどの滑走路が横たわる。その先には沈んでいく美しい夕日が。
広場では何人かの子どもがサッカーをして遊んでいる。
ラテン人は、のんびりと美しい自然の風景に浸るようなことはあまりしない。パーティー好きで、楽しくお祭り騒ぎをする方を好む。
でも、このときのマリソルは、静かに沈む夕日をぼくと一緒に見ていた。
「きれいな夕日でしょ」
「ええ」
「ここは昔綿花を輸送するのに使われたらしいよ」
「へぇー。詳しいのね」
彼女のことをもっと知りたかった。家族のこと、出身地のこと。
でも、プライベートなことを聞くのも失礼かと思った。
幸せだったならば、こんな熱い地方のナイトクラブに出稼ぎに来ることもなかっただろう。
「少し暗くなってきたから、そろそろ帰ろうか」
「ええ。どうもありがとう」
サッカーをしていた子どもたちは既に帰路についていて、周辺には小さな女の子たちがぬいぐるみで遊んでいる笑い声がこだましていた。
ぼくにもう少し勇気があったら、そして誰も人がいなかったなら、夕日を見ている間、彼女の肩に手をかけていたに違いない。
彼女を、ビリヤード場の前まで送る。
「またビリヤードの続きをやるの」
「今日はもうおしまい。お店の準備をするから。今度はいつ会えるの」
「また今度お店に行くよ」
「本当?」
「ああ」
マリソルはにっこりと笑ってクラブの裏口から中へ入っていった。
彼女との2回目のデートは、そう遠くないことを感じていた。
多くの方に楽しい旅をしていただければと思います。
応援のクリックをどうもありがとうございます。
日中の日差しは強いホンジュラス。しかし、この時間になると何とか外に出られるレベルになる。
自宅から約20分、舗装されていない砂利道をゆっくり自転車で移動すると、この空地に到着する。
その日も飛行場に向かって、ぼくはのんびりと自転車のペダルを踏んでいた。
ちょうどマリソルの働いているクラブの横を通過したとき、ぼくの名前を呼ぶ大きな声が聞こえた。
振り返ると、何とマリソルが手を振っている。手にはビリヤードのキューが。
彼女は、ナイトクラブ横のビリヤード場で遊んでいたようだ。
ぼくは自転車をぐるりと旋回させ、彼女のいる場所まで戻った。
高まる胸の鼓動。
昼間に彼女を見るのは初めてだった。
「やあ。ビリヤードやってるの」
「そうよ。一緒にやる」
「ぼくはいいよ。あまり上手くないから。それに、これから夕日を見に行くんだ」
「夕日?」
「ああ。飛行場跡地がこの先にあってね。とっても素敵な景色なんだ」
小さな花柄のある白いノースリーブのワンピースにジーンズ姿の彼女。
大きな目で、ぼくを見つめている。
「私も一緒に行っていいかしら」
「えっ?」
ぼくは二つ返事でOKをする。
すると、彼女はすぐに自転車の前へ飛び乗った。
ホンジュラスの田舎ではスポーツタイプの自転車が普及している。日本では、タイヤの太いマウンテンバイクと呼ばれている自転車だ。
2人乗りをするときには、ハンドルと椅子をつなぐ太いパイプを利用する。
彼女はその部分に横座りになり、両腕は、ハンドルの内側をつかんだ。
再度、ゆっくりと自転車をこぎはじめた。
あの夜と同じ香水の匂い。でも、風がその香りを運んでいくので、あまり強くは感じない。
約50mパンアメリカハイウェイを移動すると、左折して、砂利道に入る。
マリソルは、周りからみると普通の女の子。とてもナイトクラブで仕事をしているようには見えない。
知り合いと鉢合わせして、からかわれるのではないかとドキドキしていたが、好きな女性と一緒にいることへの緊張感は不思議となかった。
「ここだよ」
「まあ、素敵」
前方には赤茶けた1kmほどの滑走路が横たわる。その先には沈んでいく美しい夕日が。
広場では何人かの子どもがサッカーをして遊んでいる。
ラテン人は、のんびりと美しい自然の風景に浸るようなことはあまりしない。パーティー好きで、楽しくお祭り騒ぎをする方を好む。
でも、このときのマリソルは、静かに沈む夕日をぼくと一緒に見ていた。
「きれいな夕日でしょ」
「ええ」
「ここは昔綿花を輸送するのに使われたらしいよ」
「へぇー。詳しいのね」
彼女のことをもっと知りたかった。家族のこと、出身地のこと。
でも、プライベートなことを聞くのも失礼かと思った。
幸せだったならば、こんな熱い地方のナイトクラブに出稼ぎに来ることもなかっただろう。
「少し暗くなってきたから、そろそろ帰ろうか」
「ええ。どうもありがとう」
サッカーをしていた子どもたちは既に帰路についていて、周辺には小さな女の子たちがぬいぐるみで遊んでいる笑い声がこだましていた。
ぼくにもう少し勇気があったら、そして誰も人がいなかったなら、夕日を見ている間、彼女の肩に手をかけていたに違いない。
彼女を、ビリヤード場の前まで送る。
「またビリヤードの続きをやるの」
「今日はもうおしまい。お店の準備をするから。今度はいつ会えるの」
「また今度お店に行くよ」
「本当?」
「ああ」
マリソルはにっこりと笑ってクラブの裏口から中へ入っていった。
彼女との2回目のデートは、そう遠くないことを感じていた。
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