壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

海苔汁

2011年01月17日 22時58分26秒 | Weblog
          浅草千里がもとにて
        海苔汁の手際見せけり浅黄椀     芭 蕉

 挨拶の句である。表に述べていることは、海苔汁の腕前であるが、裏には、感謝とその風雅な心をたたえる気持とがこめられている。
 「見せけり」という言い方にも、千里(ちり)の心づくしを認め、それを快く眺めている趣がある。ただ、「手際見せけり」の調子が、高いものとはいえず、いまいちの感がある。

 「千里」は苗村氏。通称 粕屋甚四郎。『野ざらし紀行』の折、芭蕉のお供をして、「信あるかなこの人」といわれている人で、大和竹内村の出で、江戸に住んだ。
 「海苔汁」は、海苔の味噌汁。当時の慣用としては、「苔」の一字だけで「海苔」に用いた。
 「浅黄椀」は、塗椀の一種。黒塗の上に縹色(はなだいろ=薄い藍色)と赤・白の漆で花鳥を描いた椀で、京都二条新町でつくられていたようである。風雅な椀として珍重された。

 季語は「海苔」で春。

    「千里の心からのもてなしで、浅草名産の海苔を入れた海苔汁を
     ふるまわれた。まことに美味で、料理の腕前を遺憾なく発揮した
     というべきである。しかも、海苔汁にふさわしく、雅趣に富んだ
     浅黄椀に盛られていて、亭主の心づかいのほどもおくゆかしい」


      熊野石祀る床の間 日脚伸ぶ     季 己