壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

多すぎて

2010年09月18日 22時41分28秒 | Weblog
        榎の実散る椋鳥の羽音や朝嵐     芭 蕉

 初期の作であれば、椋鳥(むく)の羽音に朝嵐を感ずる、という比喩的な句意となるところだが、元禄期の作とすれば、実景を詠んだものとしなくてはならない。
 さわやかな秋気を感ずる句であるが、材料が多すぎて、心にじかに迫る力には乏しい。
 『蕉翁句集』には、元禄六年の作とある。

 「椋鳥」は、椋(むく)の実を好んで食べるのでこの名があり、小鳩ぐらいの大きさで群棲する。体は灰色で、頭上に白毛を交えているので、白頭翁(はくとうおう)の名もある。翼をせわしく羽ばたいて直線的に飛び、群の羽音はジャーッというすさまじいものである。この騒音・糞害のひどい新松戸・我孫子の駅前は、テレビのワイドショーなどで盛んに取り上げられている。

 季語は「榎(え)の実」で秋。榎は夏に花をつけ、秋に小豆ぐらいの球状の実を結び、熟すると黄赤色を呈する。「椋鳥」も秋の季語である。

    「榎の実がはらはらとこぼれ、椋鳥の群の羽音がひとしきりざわめいて聞こえる
     その時、それらをつつんで秋の朝の嵐が、冷ややかに吹き過ぎたことだ」


     駅前のポスト塗りたて椋鳥群るる     季 己