壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

きりぎりす

2010年09月09日 22時31分00秒 | Weblog
        白髪抜く枕の下やきりぎりす     芭 蕉

 発想はまことに素直で、季感と心境とが渾然融合した、境涯の句とも言うべきものである。
 枕や床の下のきりぎりすは、和歌や漢詩にも多く詠まれている。たとえば、『過去種』には『山家集』の、
        きりぎりす 夜寒になるを 告げがほに
          枕のもとに 来つつ鳴くなり
 が指摘されている。それを「白髪抜く」としたところに、俳諧的把握があることは、『蒙引』にいうとおりで、この句の手柄と見るべきであろう。元禄三年八月の作。

 「きりぎりす」はコオロギ(蟋蟀)のこと。昔はコオロギと逆用されていた。秋季。その実際に触れて生かされたものであろう。

    「なんということもなく白髪を抜いていると、枕の下のあたり、
     蟋蟀の声がしているのに気づいた。いつかその声に引き
     込まれたが、自分もそぞろ身の秋を感じたことだ」


 ――だいぶ涼しくなったので、『院展』を観るために日本橋三越へ行ってきた。
 同人最新作と入選作合わせて300余点、力作もかなりあり結構楽しませてもらった。ただ、感心はしてもどこかで見たような作品が多く、感動した作品は17点。その作家名を順不同・敬称略で下記に記す。

     吉村 誠司  大野 百樹  倉島 重友  大野 逸男  (以上同人)

     阿部 任宏  大嶋 英子  奥村佳世子  鴈野佳世子
     岸野  香  北田 克己  並木 秀俊  波根 靖恵
     前田  力  松下 雅寿  村田 潤治  山田  伸
     吉井 東人  (以上一般入選作)

 この中でも特に手元に置きたいと思った作品は、次の8点。
     吉村誠司  祭壇(バリ島にて)   大野百樹  陽
     倉島重友  土の家         大嶋英子  時をこえる詩
     岸野 香  Trip           北田克己  月の導者(しるべ)
     並木秀俊  閃しゃく(火に樂)   波根靖恵  約束の行方


      こほろぎの闇の彼方の少年期     季 己