期待以上に“進化”していた。無心に、ひとすじの気持ちで描かれているのが、うれしかった。
「喜田直哉個展」に行って、楽しんできた。
大は30号Sから、小は0号まで、全部で14点の展覧である。
この一年、色々なことがあったと思う。ご自身の結婚、そして、義父の死などなど、この個展が延期になるのでは、と思っていたが、杞憂に終りホッとした。
喜田さんは確実に進化している。それも期待以上に……。
喜田さんの作品は、一見、水墨画のようだが、“俳句”だと思う。
大多数の画家は、“足し算”で描くが、喜田さんは、“引き算”で描いている。
どういうことかというと、まず、画面に墨を塗り、真っ黒にする。次に消しゴム等を使って消していき、ライオンならライオンを形作っていくのである。濃淡、陰影すべて消しゴムを使っての消し具合にかかっている。どうしてこんな“しちめんどくさい”ことをするのかは、知らない。
だが、“足し算”の水墨画とは格段に違う。一言で言えば、喜田さんの作品は、リアルでやわらく、あたたかい。“いのち”がある。
俳句も、余分なものを削って省略し、単純化することが大切なのだ。そうして対象物の“いのち”をつかみ出せたとき、その句は名句となる。
変人が、喜田さんの作品に心ひかれるのは、こうした共通点があるからかもしれない。
坂村真民の詩の一節に、こんなのがある。
むねに光を!
くらしに夢を!
それはわたしたちの
祈りであり
願いである
忙しい中にも、少しでも心を静めようと、書画に親しむようになったのだが、喜田さんの作品には、その「むねに光を! くらしに夢を!」の祈りがあり、願いが感じられる。
在職中は、職場の部屋に、よく喜田さんの作品を掛けて置いたものだ。
期待以上に“進化”した、と書いたが、モノクロの世界に今展では、色彩の世界の作品が増えたのだ。もちろん、こちらは“足し算”で描いている。これがまた素晴らしい。
とりわけ、「古代風景・森人」が佳かった。小品ではあるが、大きく見える。第一、古格があるのがいい。古格があるのに新しい。
画面中央に大木の塊があり、その左は一面の雲、右側は遠景と空だ。
喜田さんは、どんな祈り、どんな願いを込めて描かれたかわからない。けれどもそれは、鑑賞者が、それぞれ自由に観ればよいと思う。
変人には、昔のよき時代の鎮守の森が見えてくる。画面中央の大木は、神様がこの世に降りて来られるときの依代(よりしろ)だ。その依代を荘厳するのが、画面左の雲なのだ。
禅語に「一水四見」という言葉がある。これは、一つの水も、天人は瑠璃に、人間は飲料に、餓鬼は血に、魚は住処にと、それぞれ自分中心の立場で見ると、見方が異なるのを言う。
作品鑑賞は、これでいいと思う。むしろ、「一水四見」の作品のほうが好きである。誰が見ても同じに見える「絵葉書」作品だけは、買いたくないし、見たくもない。
“引き算”の作品も、どれも甲乙つけがたいほど、魂のこもった快作である。そのうえ、どうしてこのタイトルをつけたか、という謎解きの楽しみがある。
たとえば、DMに使われた作品「理の公式」。ライオンの頭上に、宝飾品が輝いている作品だ。
変人の解釈のヒントだけを書いておくので、実際に会場へ行って、作品と対峙して謎解きを楽しんでいただけたら、うれしい。
[ヒント]①ライオンは百獣の王といわれる。
②「理」には、次のような意味がある。
ア、宝石の模様のすじめ
イ、動植物の表面にあるきちんと整ったすじめ
ウ、治める
③「公式」には、次のような意味がある。
ア、おもてむきの儀式
イ、数や式の間に成り立つ関係
喜田 直哉 個展
9月15日(月)~9月20日(土)
午前11時より午後6時まで(最終日は5時まで)
画廊 宮坂
中央区銀座7-12-5 銀星ビル4階
℡(03)3546-0343
敬老といふ日の海の雲まろし 季 己
「喜田直哉個展」に行って、楽しんできた。
大は30号Sから、小は0号まで、全部で14点の展覧である。
この一年、色々なことがあったと思う。ご自身の結婚、そして、義父の死などなど、この個展が延期になるのでは、と思っていたが、杞憂に終りホッとした。
喜田さんは確実に進化している。それも期待以上に……。
喜田さんの作品は、一見、水墨画のようだが、“俳句”だと思う。
大多数の画家は、“足し算”で描くが、喜田さんは、“引き算”で描いている。
どういうことかというと、まず、画面に墨を塗り、真っ黒にする。次に消しゴム等を使って消していき、ライオンならライオンを形作っていくのである。濃淡、陰影すべて消しゴムを使っての消し具合にかかっている。どうしてこんな“しちめんどくさい”ことをするのかは、知らない。
だが、“足し算”の水墨画とは格段に違う。一言で言えば、喜田さんの作品は、リアルでやわらく、あたたかい。“いのち”がある。
俳句も、余分なものを削って省略し、単純化することが大切なのだ。そうして対象物の“いのち”をつかみ出せたとき、その句は名句となる。
変人が、喜田さんの作品に心ひかれるのは、こうした共通点があるからかもしれない。
坂村真民の詩の一節に、こんなのがある。
むねに光を!
くらしに夢を!
それはわたしたちの
祈りであり
願いである
忙しい中にも、少しでも心を静めようと、書画に親しむようになったのだが、喜田さんの作品には、その「むねに光を! くらしに夢を!」の祈りがあり、願いが感じられる。
在職中は、職場の部屋に、よく喜田さんの作品を掛けて置いたものだ。
期待以上に“進化”した、と書いたが、モノクロの世界に今展では、色彩の世界の作品が増えたのだ。もちろん、こちらは“足し算”で描いている。これがまた素晴らしい。
とりわけ、「古代風景・森人」が佳かった。小品ではあるが、大きく見える。第一、古格があるのがいい。古格があるのに新しい。
画面中央に大木の塊があり、その左は一面の雲、右側は遠景と空だ。
喜田さんは、どんな祈り、どんな願いを込めて描かれたかわからない。けれどもそれは、鑑賞者が、それぞれ自由に観ればよいと思う。
変人には、昔のよき時代の鎮守の森が見えてくる。画面中央の大木は、神様がこの世に降りて来られるときの依代(よりしろ)だ。その依代を荘厳するのが、画面左の雲なのだ。
禅語に「一水四見」という言葉がある。これは、一つの水も、天人は瑠璃に、人間は飲料に、餓鬼は血に、魚は住処にと、それぞれ自分中心の立場で見ると、見方が異なるのを言う。
作品鑑賞は、これでいいと思う。むしろ、「一水四見」の作品のほうが好きである。誰が見ても同じに見える「絵葉書」作品だけは、買いたくないし、見たくもない。
“引き算”の作品も、どれも甲乙つけがたいほど、魂のこもった快作である。そのうえ、どうしてこのタイトルをつけたか、という謎解きの楽しみがある。
たとえば、DMに使われた作品「理の公式」。ライオンの頭上に、宝飾品が輝いている作品だ。
変人の解釈のヒントだけを書いておくので、実際に会場へ行って、作品と対峙して謎解きを楽しんでいただけたら、うれしい。
[ヒント]①ライオンは百獣の王といわれる。
②「理」には、次のような意味がある。
ア、宝石の模様のすじめ
イ、動植物の表面にあるきちんと整ったすじめ
ウ、治める
③「公式」には、次のような意味がある。
ア、おもてむきの儀式
イ、数や式の間に成り立つ関係
喜田 直哉 個展
9月15日(月)~9月20日(土)
午前11時より午後6時まで(最終日は5時まで)
画廊 宮坂
中央区銀座7-12-5 銀星ビル4階
℡(03)3546-0343
敬老といふ日の海の雲まろし 季 己