こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
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歌人 河野裕子という人。

2011-02-06 22:28:21 | 読書、漫画、TVなど
  たとえば君  ガサッと落ち葉すくうように私をさらって行つてはくれぬか



河野裕子 (シリーズ牧水賞の歌人たち)
真中 朋久,伊藤 一彦
青磁社


2か月ほど前に、テレビをぼんやり見ていてたら、何人かの人の言葉などを特集していたようですが、河野裕子と言うひとの歌を聴いてすごい衝撃を受けました。

河野裕子さんは、牧水賞を受賞した女流歌人で、その世界では有名な方だそうですが、短歌には縁のない私には、まったく初めて聞いた名前でした。

歌人・・
与謝野晶子に代表されるように、彼女たちは、時に優しく、時に激しく、時に淫靡で、時にはかない感性の揺らぎを、短い一遍の歌に閉じ込めます。

普段は、ほとんど耳にすることはない短歌。

たとえば君  ガサッと落ち葉すくうように私をさらって行つてはくれぬか

この歌を聴いたときの衝撃。

こんなブログひとつ書くのに、長々と訳の分からない言葉を羅列している私にとって、言葉を紡ぐというのは、こういう事なのだと鳥肌が立つ思いでした。
どれほどの熱い思いや激しい衝動を、この歌から感じ取れるか・・。

私は、そのあとの何編かの歌を聴いて、すっかりこの人に憧れてしまいました。

ネットで探した特集本を、毎晩眺めては読み返していました。

「ゆたゆたと血のあふれている冥い海ね」くちずけのあと母胎のこと語れり


母になっってからの歌。

子がわれかわれが子なのかわからぬまで子を抱き湯に入り子を抱き眠る

頬を打ち尻打ちかき抱き眠る夜夜われが火種の二人子太る


短歌はわからなくても、毎日必死に子育てをしていた日々が、フラッシュバックされるような歌です。

そして、夫と自分の間に、子供たちを挟んで、木漏れ日の山道を歩いたであろう情景・・。

たつたこれだけの家族であるよ子を二人あひだにおきて山道のぼる


そして、京都大学医学部の医師であり、歌人である夫についてアメリカで暮らしていたころのうた。

日本人が日本人といふ自意識に私やせるなよ言葉やせるなよ

ぽぽぽぽと秋の雲浮き子供らはどこか遠くへ遊びに行けり


ちょっと笑っちゃた歌。わかるような気がして。

一心に包丁を研いでいるときに睡魔のやうな変なもの来る

そして子供の一巣立ちを見る母のおもい。

二人しか居ない子のまず上の子が出てゆきたる 歯刷子置きて

夏至はもう何年もまへのことに思われて変に静かな夏ばかり来る

夫の背中を見て思ったのか・・・

わが病めば醤油とみりんの割合のわからぬ君が青魚(あおいそ)を煮る

彼女は乳癌発症し、乳房切除を行います。

わたしより私の乳房をかなしみて悲しみゐる人が二階を歩く

二人子を養いくれし双乳の左傷つけば右が励ます

文献にがん細胞を読み続け私の癌には触れざり君は

病むまへの身体が欲しい 雨上がりの土の匂いしてゐた女のからだ



読めば、風景も風も、臭いさえ感じられるような歌が綴られていきます。

やがて、彼女の癌は再発します。

ああ寒い私の左側に居てほしい暖かな体、もたれるために

絶筆から

心細く世の道は続きゐむ階段おりきてありがたうという

茗荷の花こんなにうすい花だつた月の光もひるんでしまふ

死は少し黄色い色をしてゐしか茗荷の花は白黒(モノクロ)であった

あなたらの気持ちがこんなにわかるのに言い残すことの何ぞ少なき

手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が



河野裕子さんは昭和21年に生まれ、16歳から本格的に短歌の投稿を始めたそうです。
精神的に不安定とな休学したりしながらも、20歳で京都女子大文学部に入学、21歳で同人誌「幻想派」で、夫となる永田和宏氏と出会い、26歳で結婚しました。
その後、二人のお子さんを育て、愛する母を見送り、その間も歌人として大活躍していました。2002年に牧水賞を受賞。
昨年8月、乳がんの再発で永眠されました。享年64歳でした。

写真を見ても、美しく年を重ねた河野裕子さんの人生は、必ずしも河野裕子さんのものだけではなく、私の半生にも感じられ、今自分が感じている苦しみさえも、一生の中では何ぼのものであろうかと思わせてもくれます。


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2 コメント

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Unknown (さいたまの看護師)
2011-02-08 15:58:13
いいですね河野裕子さん
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素敵でしょう? (こぶた部屋の住人)
2011-02-08 22:56:47
こんな感性の一かけらでもあったら、と思いますが、彼女は、精神的にとても細い方だったようで、随分そのことでは苦しまれたようです。
私は、どちらかというとズボラ&なるようになるさ的人間なので、そこは望めそうもありません。
でも、憧れます。
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