パレスチナ、イスラエル双方の視点から見たドキュメンタリー「衝突の根源に何が」
パレスチナ問題のすぐれたドキュメンタリー、NHKスペシャル「衝突の根源に何が」の内容をご紹介します。
ガザ地区の死者は2万6000人、今も増え続けています
足を切断された子ども
建物の倒壊で失われた幼い命。子どもの犠牲者は1万人を超えています。身寄りを失った孤児は1000人を超えます。
先月イスラエルで行われた世論調査では「軍事作戦でガザの住民の苦痛に配慮すべきか」という問いに対し、「配慮しなくてよい」と答えた人が、合わせて8割を超えていました。
かつてユダヤ人はナチスのホロコーストによって600万人が虐殺された
1948年の「ナクバ(大惨事)」、イスラエル建国により、70万人ものパレスチナ人が長年住んだ土地を追われ、難民となったのです。500以上の集落が破壊され、1万5千人以上が命を落としたと言われています。
パレスチナ人のディアさん。「祖母は占領軍(イスラエル軍)が村に来て人々の手足を切り村から追い出すのを目撃しました。恐怖を与えてその場所から追いやるのが彼らのやり方なのです」
「壁やフェンスで囲まれたガザ地区の外には一度も出たことがありません。これまでも繰り返しイスラエルの攻撃によって命の危険にさらされてきました」
エルサレムにはイスラームの聖地「岩のドーム」があるが、イスラエル軍が占領して入れないため、路上で祈りを行う人たち
1993年の「オスロ合意」は和平への期待を高めた
オスロ合意では、ヨルダン川西岸の一部とガザ地区をパレスチナ暫定自治とし、イスラエル軍を段階的に撤退することになっていた。「2国家共存」を目指そうとしていたのです
しかし、両者の期待はその後失望へと変わっていく。イスラエル政府はガザやヨルダン川西岸で暫定自治を認めたにもかかわらず、ユダヤ人の移住をうながし、入植地を拡大。占領を継続した。
これに怒るパレスチナ人。ガザ地区ではハマスへの支持が広がっていきました。
「パレスチナの若者の大半は平和的な手段で目的を達成する可能性を諦めてしまいました。
10月7日以降の出来事は、イスラエルの占領と残虐行為、それに対するパレスチナ人の抵抗として理解すべきなのです」(オスロ合意に関わったパレスチナ人)
世界の目がガザに向けられる中、ヨルダン川西岸でも住民への抑圧が強まっていました。
あちこちに建設されているユダヤ人入植地。入植活動は「国際法違反」とされながらイスラエル政府は計画を推し進めてきました。軍を常駐し、監視の目を光らせています。
イスラエルが占領した1967年以降に急増したユダヤ人入植地。オスロ合意のあとも強硬派が入植を進め今入植者は46万人を超えています。(白い地域がイスラエル政府公認の入植地だったが、入植地=青い地域をどんどん拡大。パレスチナ人を暴力的に追い出していった)
至る所に検問所も設置され、パレスチナ人の移動が制限されています。
入植地の拡大で生活がおびやかされているウムサファ村。村の周りには大小6つの入植地が取り囲むように建設されています。
更にパレスチナの人々の主要な収入源となるオリーブ畑の一部も入植者が占拠。専用の道路も建設される、など村の存続が脅かされる事態が続いている。
去年6月、村は入植者による大規模な襲撃を受けました。隣の入植地から押し寄せた入植者が突然車を破壊、斧や銃を手に、家々を襲撃して回りました。
その場には軍の姿(イスラエル国旗を掲げた車両)もありましたが、制止することはなかった。
去年10月以降住民が殺害されるケースも急増。これまでに子どもを含む350人以上が兵士や入植者の銃撃などで亡くなっています。
どれだけ明らかな証拠があってもイスラエル政府は自国民を罰することはほとんどありません
なぜイスラエルは国際的な批判を浴びながらも入植を続けるのか?
ネタニヤフ政権に参加し入植を促進している右派政党の議員にインタビュー。
議員は入植者による暴力が横行していることは認めませんでした。
ネタニヤフ政権の閣僚で強硬姿勢をとるニル・バルカト氏。
「すべての原因はイスラエルの占領政策にあると言われていますが」との質問に
「占領などしていない。パレスチナ人の土地などそもそもない」と発言
「2国家共存」についても「うまくいかない解決策を押しつけるな」と拒否
一方、パレスチナ人の組織PLO(ハマスとは対立しているが)、「10月7日について、すべてを正当化するつもりはないが、イスラエルがパレスチナ人にしてきたことに比べればかわいいものです」と発言
「イスラエルの現政権が続く限り、2国家共存は不可能。
双方の政治体制が共存することが唯一の解決策。イスラエルの敵でも奴隷でもなく隣国になるのです。しかし犯罪的で腐敗したネタニヤフ政権は中東諸国の主権と平和を脅かしイスラエル自らの存続も脅かしている」
いまだ多くの人質が解放されず、出口が見えない中、イスラエルの人々の心も揺れ動いている。親族の4人が殺害され、1人が人質に取られているシーラ・ハブロンさん
シーラさんの親族はガザに隣接する地域に暮らし、長年にわたりガザの人々の生活を支援するなど交流を続けていました。決してハマスを許すことはできないものの、これ以上ガザの住民が犠牲になることも耐えられない、と言います。
今も連日激しい攻撃にさらされているガザ
攻撃を逃れ、命がけで避難を続けているディアさん
「ガザではいつ命を落とすかもわからず、若者が未来を築く場所ではなくなったが、私はガザに残って絵を描き続け未来を築きたい」
長年双方の痛みを見続けてきたジャーナリストのアミラ・ハス氏。イスラエル人でありながら対立の現場を取材してきた。
「イスラエルが占領を続ける限り平穏な日常は訪れない。ある時点で爆発する。
パレスチナ人は武装闘争に身を投じてきたが成果を上げてきたとはいえない。一方イスラエルは暴力とは無縁の人々をも殺し、それがより多くの若者たちを暴力による復讐へと強く駆り立てている。
もう内部からの変化は望めない。外からの介入が必要。軍事介入ではなく政治介入です。軍事介入は事態の悪化を招くだけ。
血まみれの惨状をどうして放っておけるでしょうか。」
あまりにも多くの命が奪われていくこの不条理から私たちは目をそむけるわけにはいかない。
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