隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1013.三年坂、火の夢

2009年08月06日 | サスペンス
三年坂 火の夢
読了日 2009/08/06
著 者 早瀬乱
出版社 講談社
形 態 単行本
ページ数 380
発行日 2006/08/10
ISBN 4-06-213561-2

 

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ばらくご無沙汰している江戸川乱歩賞受賞作品を検索した折、ノスタルジックな感覚の タイトルに惹かれて読もうと思った。
多くの本を読んでいると、タイトルだけで内容の傾向のようなものが、おぼろげながら判るような気のす る時もある。そういう時には自分の勘を信じることにしている。
だから、作家諸氏も多分作品のタイトルには、充分に気を使っているのではないかと思うが、どうだろう ?
こういうタイトルに郷愁のようなものを感じるのは、本格的にミステリーを読むようになった、僕にとっ て原点とも言えるのが、シャーロック・ホームズだったから、古き良き時代を連想させるようなミステリ ーに惹かれるのかもしれない。

 

 

まあ、そういったところで読み 始めると、まさしく本書の舞台は維新後の間もない明治初期の東京だった。
メインのキャラクターは二人。
帝大進学を目指し奈良県S市から東京へ出てきた内村実之、と、大学進学のための予備校(この頃から予 備校はあったのだと、初めて知った)、開明学校で英語の講師をつとめる高嶋鍍金(めっき)先生。
物語はこの二人の視点、“三年坂”と“火の夢”ということで進行する。
貧乏士族・橋上家の次男坊である実之は、父親の橋上隆が家を捨てて東京に出てしまったために、母親、 兄・義之とともに母親の旧姓内村になって、母親の実家で暮らすことになった。
成績の優秀な兄は帝大に進学していたが、ある時怪我をして実家に戻ってきた。大学も辞めてしまってい たようだが、その理由も判らないまま怪我から入った菌に犯されまもなく死亡してしまう。
義之は東京で父親探しをしていたらしいが、死の直前に口走った「三年坂・・・」の謎とは何か?
アルバイトでためた金と、友人の援助もあって、実之は帝大進学を目指すという口実で、東京へ出ること を決心する。

 

 

方、高嶋鍍金は出版社天命館の編集者鷺沼の依頼で、書いた都市火災についての原稿が 好評だったということで、再び原稿の依頼をされる。
同じ開明学校で、物理学を教えている立原との間で、東京を焼き尽くしてパリ並みの都市の再開発をする には、どこに火をつけるかという話になるのだが・・・。

このストーリーの見事なところは、内村実之という青年の、受験を控えた中での“三年坂”探しのもどか しさと、一方の高嶋鍍金の東京を焼き尽くすための複数の発火点探し、そして、失踪した実之の父親が、 どのように繋がっていくのかが終盤まで混迷の度合いを深めていくところだ。
東京の坂の名前の由来が、解明されていくのも面白い。

余談になるが、僕がこうした古い東京に郷愁を感じるのは、昭和20年、東京大空襲の日まで、下町の駒形 に住んでいたせいかもしれない。読み終わってから、ふとそんなことを感じた。

 

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