隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1138.空中庭園

2011年02月14日 | サスペンス
空中庭園
読 了 日 2011/02/11
著  者 角田光代
出 版 社 文藝春秋
形  態 文庫
ページ数 281
発 行 日 2005/07/10
ISBN 4-16-767203-0

 

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スペンスを煽る警察小説が続いたので、全く違う世界を覗きたくなって、本書を選んだ。(当てはまるカテゴリーが思いつかず、とりあえずサスペンスにしたのだが…ちょっと違うような?)
何年か前に著者の角田光代氏が、NHKテレビ番組(タイトルは忘れたが、料理番組でNHKアナウンサーが著名人宅をプロの料理人と訪問して、著名人が得意とする料理を作るといった番組だったと記憶しているが…)に出演していた。
その頃から僕は朝と昼は自分で食事を作る習慣にしていたので、料理番組を務めてみるようにしていたから、運よく著者の料理する姿を見ることができたのだが、その料理はもうすっかり記憶の彼方で、人懐こい態度と、素敵な笑顔のかわいいお嬢さんという印象が強く残っている。
その中でプロの料理人から本書の話題が出ていたことから、興味を抱いていつか読んでみようと思っていた。例によって僕の“いつか読もう”というのは、あまりあてにならない話で、そう思いながら数年も経るのはいつものことだ。
目次をみると章割とも思えないようなタイトルが並んでいるので、僕はてっきり短編集だと思っていたら、それぞれ登場人物がかわるがわるの視点から語られるストーリーで、まとめると長編という構成だった。
こうしたミステリーとは思えない本を読むときは、ブログのタイトルに反するという思いから、「すべての小説にミステリー要素が含まれている」という誰かの言葉を都合よく引きあいに出すことにしている。
だが、読み進めるうちに、そんな無理なこじつけは全く不要とわかった。

 

 

ある、どこにでもありそうな平凡な夫婦と子供二人の4人家族の物語なのだが、見ると聞くとは大違い、といった感じの内容で・・・・普通は「聞いていた話と、実際に見るとでは大きな違いだ」という意味合いなのだが、それとは逆にごく普通に見える平凡な家庭が、実はとんでもない危機をはらんでいたということなのだ。
著者の素敵な笑顔に騙されてはいけない。この笑顔の裏側から紡ぎだされる物語に、驚かされることになる。
前述のごとくこの作品は登場人物たちの視点で語られる6つのエピソードで構成されている。
この家族、京橋家には家族の間で「隠し事はなし」というルールが定められており、それゆえ高校生の長女マナがどこで母親の胎内に、その生を受けたのかとか、マナの「初潮おめでとうパーティ」、中3の長男、コウの「夢精おめでとうパーティ」などという、あっけらかんと家庭内の様子が紹介されるのだが、そうしたこととは裏腹にそこは人間、誰しも人に言えない秘密はあろうというもの。しかし、しかし・・・。

 

 

 

初に登場するのは長女のマナにより語られる「ラブリー・ホーム」。彼女はいまどきの高校生らしく?ボーイフレンドを誘って、自分が生を受けたというラブ・ホテルに行くのだが・・・・。
次は、父親のタカシが語る「チョロQ」。もう、なんというか虫も殺さぬ風を装いながら、この父親は二人も愛人がいたのだ。
三番目は、母親の絵理子の登場だ。隠し事なしにしようという提案を唱えたのはこの母親らしいが、この母親にも人に話せぬ秘密があった。母親の語る物語は表題ともなっている「空中庭園」だ。
四番目、絵理子の母親の語るストーリーは「キルト」。
この母にしてこの娘ありといった感じの、母親・絵理子の生い立ちも波瀾万丈?の人生をうかがわせる。
五番目は父親タカシの若い方の恋人・ミーナの「鍵つきドア」だ。このミーナのこれまでに人生も、決して幸せなものでもなかったことがわかるのだが…。
そして最後は長男・コウの「光の、闇の」。
彼は中三だが、しょっぱなから童貞ではないと断りが入るあたり、彼も親には話せない過去を持つ。

それぞれの面々が語るエピソードは、はて?この先この家族とそれを取り巻く輩はどうなっていくのだろうか?と、不安にさせる要素が多分にあるのだが…。無邪気ともいえる笑顔を見せながら、よくもこんな物語を生み出すものだと、感心するやら、こわいやら・・・。

 

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