隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1633.黒猫の回帰あるいは千夜航路

2016年05月31日 | 安楽椅子探偵
黒猫の回帰あるいは千夜航路
読 了 日 2016/05/31
著  者 森晶麿
出 版 社 早川書房
形  態 単行本
ページ数 289
発 行 日 2015/12/08
ISBN 978-4-15-209583-1

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

 

リーズ最新刊は第6作目となる。この巻を読んでいて、僕はふとこれは切ない二人のラブ・ストーリーだという感慨を覚えた。切ないというのは、僕の内なる想いなのだが、特に今回は連作短編集だから、1篇ごとにそうした状況が現れて、時に僕は心の内が若返り切なくなるのだ。
若い頃は今よりずっと自分自身に自信があって、好きで一緒になったカミさんをほっといて、好き勝手をしていたが、今歳をとって先行きが見えるところまで来ると、カミさんをはじめとする家族がとても愛おしくなり、若い二人の恋愛模様が微笑ましくも切ない状況が、とてもよく理解できる?ような気もするのだ。
このシリーズ作品に僕がひきつけられるのは、安楽椅子探偵という僕の好きなジャンルの作品、というばかりでなく全編に漂う知的な雰囲気や、僕の大学生活への憧れなど、さまざまな要因が相まって、他の作品にはない魅力を僕に伝えてくる。

 

 

若くして大学教授になった「黒猫」と、その付き人となった「私」の間柄は、時に恋人模様を表したり、あるいは教授とその弟子となったり、特に「私」はここに至って、ようやく博士論文の提出も終わり、黒猫と肩を並べるところまで来たかと思えるが、そう簡単には片付かない。
黒猫のその素晴らしい頭脳に追いつくには、まだ何年もかかるかもしれない。否、そんなことは到底無理なことなのかも。しかし、巻を重ねるごとに、彼らの会話は次第にツーカーと言った雰囲気が漂い、恋愛模様の進展をうかがわせるのだ。
ところで、このシリーズの特異なところは、短編長編を問わずすべてのエピソードについて、ポオすなわち探偵小説の始祖とも言われる、エドガー・アラン・ポオの作品を引き合いに出しているところだ。
それというのもエドガー・アラン・ポオはそもそもが「私」の研究課題なのである。

 

 

念ながら僕はポオについてそれほど詳しくないし、作品も新潮文庫の「モルグ街の殺人事件」を読んだだけだ。もっとも短編集だから、その中には表題作の他に

落穴と振子(The Pit and the Pendulum)
マリー・ロジェエの怪事件(The Mystery od Marie Roget)
早すぎる埋葬(The Premature Burial)
盗まれた手紙(The Purloined Letter)

と、全部で5編が収録されており、僕はこの中の安楽死す探偵譚として著名なマリー・ロジェエの怪事件(The Mystery od Marie Roget)を目的としていた。
黒猫シリーズでは作品ごとにポオの小説だけでなく、エッセイまでも引きあいに出して、事件や事象がいかに関連しているかを解き明かす。そうした薀蓄というような解説は、ミステリーファンにはたまらなく面白いものだろう。それほどポオに関心のない僕でさえ、その知識と論調になるほどと納得させられるのだから。

 

収録作
# タイトル 紙誌名 発行月・号
第一話 空とぶ絨毯 ハヤカワミステリマガジン 2015年11月号
第二話 独裁とイリュージョン 以下書き下ろし  
第三話 戯曲のない夜の表現方法    
第四話 笑いのセラピー    
第五話 男とはこの最後の晩餐    
第六話 涙のアルゴリズム    

 

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿