株価暴落 | ||
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読 了 日 | 2012/04/27 | |
著 者 | 池井戸潤 | |
出 版 社 | 文藝春秋 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 302 | |
発 行 日 | 2007/03/10 | |
I S B N | 978-4-16-772801-4 |
つの間にか著者の作品も15冊目となった。
若いころの自分の仕事である経理業務が、銀行取引と無縁でなかった頃と重ね合わせて読むとき、胸の痛くなるような不安を抱かせる銀行ミステリーに惹かれて、読み続けてきた。だが、最近は銀行関連だけではない企業小説で大いに気を吐いており、昨年は「下町ロケット」という作品で、第145回直木三十五賞を受賞したことは周知の事実だ。
僕はまだ読んでないが、ファンとしてはできるだけ近いうちに読もうと思っている。近いうちに読もうと思う本が次々と出てきて、どれだけ対応できるか、全く分からないが嬉しい悲鳴を上げている状態だ。著者は、受賞作に限らずすべての著作を読んでみようと思っている、数少ない作家の一人である。
まあ、欲張ってそう考えていても、どれだけ読めるかはわからないが・・・・。
タイトルは、何らかの理由で企業の株価が急激に落ち込むことを意味しているが、最後まで読んでもう一つの意味が込められていたことがわかる。
本書は白水銀行という中堅の都市銀行を舞台としたドラマで、その中で行内では通称“病院”と呼ばれる審査部に所属する行員が主人公だ。審査部とは、取引先の決算書などの財務諸表などから、健全な経営状態を保っているかを検証して、融資に値するか否かを判断する部署である。
著者の作品を読み続けているうちに、僕の中で多少銀行に対する見方に偏りが生じているかもしれないが、学閥や個人の上昇志向、あるいは銀行員の誇りや矜持といったことによる、確執がいつでも銀行内で渦巻いているような印象を持つようになった。
もちろん小説はフィクションだから、そうしたところがいささか強調されているのだろうが、本書でも銀行本来の姿を追い求める審査部の主人公と、問題を先送りしようとする企画部の担当者との争いが描かれる。
白水銀行の顧客である大手スーパーの一風堂に対して、企業テロの爆破予告の手紙が届き、予告通りの爆破事件が勃発する。一風堂の担当者から相談を受けた審査部の坂東は、犯行声明を発表することを勧めた。
だが、それが元で一風堂の株価は暴落、一風堂は巨額の追加支援を要請してきたのだ。そして、テロは次の爆破を実行してきた。
行内では一風堂の集英社に要請にこたえるべきか否かの論争が審査部と企画部の間で闘わされる。
同時に爆破事件に対する警察の捜査のもようが並行して描かれて、緊迫した二つのケースが不安感を漂わせる。一風堂内のオーナーの現状認識のなさは、大手企業のトップとして信じがたい気もするが、こうしたストーリーの一つの定型人物像か。
僕はこのような銀行ミステリーを読むたびに、胸が痛くなるような不安感を抱くのは、なぜだろうと考えると、一つは感情移入のし過ぎということもあるのだろうが、やはり、銀行融資に対する過ぎし昔の苦い経験がトラウマのように残っているのかもしれない。
もう40年以上も前のことが、記憶ではなくある種の恐怖感のような形で残っていることが不思議だ。それでも僕は、また読みたくなるのだ。
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