隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1435.檻の中の鼓動

2014年02月07日 | サスペンス
檻の中の鼓動
読 了 日 2014/01/28
著  者 末浦広海
出 版 社 中央公論新社
形  態 単行本
ページ数 285
発 行 日 2011/06/25
ISBN 978-4-12-004244-7

 

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評番組で紹介されたミステリーを次々と読めるのは、手元不如意となって仕方なく始めた、図書館通いのおかげだ。懐の寂しいのはあまり歓迎すべきことではないが、古書店めぐりを控えての図書館通いは、新刊でなければ割りと順調にことが運び、読みたい本を読むことができて、心豊かだ。

しかし、古書店に行かなくなったって、従来僕が古書店で散財していたのはわずかな額で、止めたからと言って懐まで豊かになるわけではないのだが。それに昔からのことわざに「ちりも積もれば山・・・」と言うが、ちりはいくら積もっても山にはならず、僕の場合は塵はあくまで塵のままだ。おっと、折角心豊かになったのだから、後ろ向きの話は止めよう。

この作者は2008年、「訣別の森」(応募時のタイトル「猛き咆哮の果てに」を改題)で、第54回江戸川乱歩賞を受賞しており、順序としてそちらを先に読もうと思ったが、たまたま木更津市の図書館が貸し出し中だったことから、こちらの書評番組か何かで紹介された方を読むことにした。
かれこれ3年近く前に刊行された本が何故今頃紹介されたのかは、紹介した人物とともに忘れた。しかし、そんなことはお構いなく、知らない世界を垣間見ることができて楽しく読めた。

 

 

ベテランの刑事と若い刑事の二人組みがパトロール中に“公園のトイレに産み落とされた嬰児の死体・・・”という無線が入り、近くにいた彼らはパトカーを現場に乗りつけた。
生み捨てられた嬰児は既に死亡しているように見えたが、年配の刑事は狂ったように嬰児を抱きしめて、自分の子供につけようと決めてあった名を叫ぶのだった。彼、四十年配の刑事は、不妊治療を続けた末、やっと授かった子供を妻が流産したばかりで、失意の毎日だったのだ。 そんな彼が、嬰児を抱きしめ蘇生を図る姿に若い刑事はただ呆然とするばかりだった。

と、そんなプロローグから物語は始まるので、警察小説かという思いを持って第一章に進むと、その思いを打ち消すように様相が一変する。その世界にまったく疎い僕は、初めて“デリヘル”なる組織の内容を知ることになる。
車で市内を走っていると電柱などに張ってあるポスターやビラで、“デリヘル”なるものの名前と漠然としたイメージはなくもなかったが、その興味深い実態を知り、なるほどと納得。
“デリヘル”とは知る人ぞ知る「デリバリー・ヘルス」の略称で、文字通り解釈すれば顧客からの電話で、マッサージなどのヘルス介助員を送り込むと言うことなのだが、実際は男性客に対して若い女性を送り込むと言うことだから、そこでの行為は推して知るべし。
そうした組織は反社会的な団体の下部組織である場合が多く、資金源になっているらしい。

 

 

織が送り込む女性は様々な手段で確保して、若い女子高生から人妻や年配者、果ては妊婦までが登録されて、客の要望に応えている。デリヘルはいくつかのチームで組織されており、チームごとにそれをまとめるリーダーがいる。
リーダーは客の求めに応じて、登録されている中から人選して女を送り込むという仕事をする。
中畑蘭子が率いるチームにはアキナという若い妊婦がいた。そのアキナに客がついたとの連絡が入り、指定のラブホテルに送ったが、彼女はそこで出産してしまう、というハプニングが起こった。

元婦人警官だったという中畑蘭子が、どんな経緯でデリヘルのリーダーと言う稼業に陥ったのか?
若い妊婦のアキナが何故デリヘル嬢などという仕事をしているのか?
多くの謎をはらんで進むストーリーは、スリリングな展開を示しながら、裏社会の実態を描写する。
そして、プロローグで示された事態のその後が、後半の重要な鍵となって・・・・。

 

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