隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1338.蔵の中から

2013年04月07日 | エッセイ

 

蔵の中から
読 了 日 2013/03/28
著  者 江戸川乱歩
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 246
発 行 日 1988/01/08
I S B N 4-06-195261-7

 

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庫版の江戸川乱歩集の1冊だ。今は昔ほど個人全集や推理小説全集といったものが刊行されることがなくなったのか、あまり見かけなくなった。
そう言えば、僕が本格的にミステリー小説にのめり込んでいった頃は、桃源社、河出書房、春陽堂、講談社など、まだ他にもたくさんあったと思うが、今すぐに思い出せるところを書き出した。そうした出版社が競って探偵小説全集を刊行していたような気がする。
僕はそうした全集の中から、少しずつ読んでいたことを思い出した。ただ僕は、基本的に本は買って読むことにしていたから、経済的に恵まれない環境の中で、手に入れられる本には限りがあった。社会人になってからでさえ、全部買いそろえることができたのは、光文社発行の「高木彬光長編探偵小説全集」くらいだったか。
昭和33年の高校卒業間近の時期には、家業の関係で外房の大原(現在のいすみ市)-東京練馬間を、週に一度往復していたことから、上京した際には水道橋-お茶の水間を歩いて、古本屋巡りの中で古く安い全集崩れを探しては買い求めていたことを思い起こす。

 

 

江戸川乱歩全集は、1970年に講談社から刊行されたものの一部を購入したが、いつか処分したと見えて、今手元にあるのは「幻影上正・続」と「探偵小説四十年」上・下巻くらいだ。そうだ、処分するときにこうした文献に類するものだけとっておいたのだった。
先だって「ビブリア古書堂の事件手帖4」を読んで、江戸川乱歩氏に関する内容だったので、ふと手元にあったこの文庫を読もうという気になったのだ。本書は小説ではなく、タイトルの蔵というのは乱歩氏の蔵書を収納した蔵のことで後にそこは幻影城と呼ばれた。
収集した蔵書の中からいろいろと読んだ本に関しての感想や、内外の探偵小説に関する多くの評論、また評論家の意見に対しての賛否を語ったエッセイなど、それらをまとめたものだ。
これらを読むと、探偵小説勃興期ともいえる時代に、あたかも僕もその場にいたような、何とも懐かしくノスタルジックな気分が沸いてくるのである。前にも書いたが僕の場合は、若さは馬鹿さに通じ、当時いっぱしの探偵小説通を気取っていたことや、できたら将来自分でも探偵小説を書いてみたい、そんな出来そうにもない夢のようなことを考えていたことを思い出して、恥ずかしさ、ほろ苦さ、切なさが入り交じる。

 

 

のブログに時折コメントをいただく“べっち”さんから、「靴に棲む老婆」のところで、江戸川乱歩氏に関するコメントをいただいた。それに対して僕もレスとして、少し書いたのだが若い頃から、江戸川乱歩氏については、探偵小説家というより書誌学者のような感覚を抱いていた。
それは高校生の頃、岩谷書店から再版された「幻影城」を読んだことや、著作をあまり読んでなかったと言うこともあって、そうした思いが僕の中にあったのだ。つい最近読んだ「リンボウ先生の書物探偵帖」で、書誌学者がどういうものか分かったから、乱歩氏は書誌研究者とでも言えばいいのか。まあ、呼び名はどうでも、乱歩氏の古今東西のミステリーに関する収集や研究は、本書を読んだだけでもよく分かるのだ。
ミステリーに関する評論家としては、国内では中島河太郎氏がよく知られており、日本推理作家協会賞を受賞した著作もある。(推理小説展望)本書にも解題として名を連ねてそこでも書いている。最初の“前田河広一郎氏に”というところで、僕はこの前田河という人物についてはよく知らないのだが、「探偵小説が体制に阿(おも)ねりすぎる・・・探偵小説といえどもプロレタリア文学たるべき・・・」というような意味のことを前田河氏が雑誌に書いたことに対しての反論から、僕は興味深く読み始めた。
この時代(大正13年)の探偵小説への認識はこの程度のものだったかと、少しおかしさも感じる。中島氏の解題もその辺のところを冷静に受け止めて、考証を記している。
このエッセイ集は、大正14年から昭和17年までの随筆をまとめたものだそうだが、今と違ってインターネットもない時代だったから、資料の収集にはどれほどの手間がかかったかと、想像するだけでしんどくなる。
たまに僕は手元にある、乱歩氏の「探偵小説40年」の上下巻や、横溝正史氏の「探偵小説50年」などをひも解いて、ぱらぱらと拾い読みをしているが、大作家たちの若いころの情熱が伝わってきて、果たして今と昔はミステリー小説の隆盛はどちらだったのだろうかというような、思いさえわいてくるのだ。

 

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