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隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1593.マッチメイク

2016年01月25日 | サスペンス
マッチメイク
読了日 2016/01/07
著 者 不知火京介
出版社 講談社
形 態 単行本
ページ数 385
発行日 2003/08/07
ISBN 4-06-212001-1

 

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昨日(23日金曜日)、処方されていた血圧降下剤が切れたので、病院に行ってきた。慌て者の僕はかかりつけの医師の診察日をうっかり間違えて、その日の診察は午前中だけだったのに、のんびりと午後になってから出かけていったのだ。
受付で、診察券と血圧管理表を渡したら、「今日は診察は午前中だけですよ。」と言われ、しまった間違えた! と言ったら、受付嬢、「でも先生が2時半ごろ見えるので、お待ちいただければ、多分診てもらえると思います。」と言うので、2時半まで待つことにした。病院はいつも待ち時間が長いので、そのために持ち込んだ文庫本をゆっくりと読むことにする。 薬を変えたりして飲み続けてはいるが、どうしたことか一向に数値が安定しない。全く自覚症状はないから、さほど心配はしてないが、それでも血圧が高いことは良いことではない。ストレスをため込まないよう気を付けて、過ごすことを心がけてはいるのだが・・・・。

 

 

2時半からのドクターの診察では、いつものように簡単な問診だけだが、1週間後の29日金曜日に循環器内科の診察を改めて受けることを勧められて、予約を取った。そのため今回の降圧剤は6日分だけの処方となった。
今年で僕も喜寿となるから、押しも押されもしない年寄りだ。少しそれらしく食事なども気を付けなければいけないのかな。とは思うが、貧乏暮らしの僕は贅沢な食事をしているわけでも、偏った食生活を送っているわけでもない。食事やその他についても、ごくごく普通の暮らしをしているので、血圧の高い要因はとんと見当がつかないのだ。
植木等氏の歌の文句ではないが、そのうち何とかなるだろう。

 

 

近のことだって記憶はあいまいなのに、この本を手に入れたのはかなり前のことだから、どのような状況で僕の手元にあるのかは全く覚えていない。多分江戸川乱歩賞の受賞作を集中して読んだ時期があったから、そうした時期だったのだろう。近頃長い間積ン読だった蔵書を、思い出したように読んでいる中で、底の方から引っ張り出して読んだ。その昔、僕も近所の子たちと同様に、テレビのある家にお邪魔して、夢中になってプロレスを見たものだ。
余談になるが、その当時はテレビもまだまだ一般に普及しておらず、テレビのある家は近所に2-3軒しかなかった。しかもそうした家には近所から大勢の子供が、押しかけて見せてもらっていた。
そうした家の人たちは子どもたちばかりでなく、大人でも快く受け入れて、一緒にテレビを楽しんでいた。今の時代では考えられないほど、そんな地域の繋がりが生きていた古き良き時代だったと、思わせるものがあった。

 

 

僕も今でこそ興味が他に移って、プロレスを見ることもなくなったが、その当時はテレビの珍しさや、花形スター・力道山の雄姿は、何物にも代えがたい魅力をもって僕たち子どもの心をとらえて離さなかったのだ。
否、子供ばかりではない、大人も老人も国民的スターに魅了されていた。今、そんな誰しもが興味を惹かれる物事があるだろうか?一億総中流化と言われた時代を経て、多様化の時代になった現在は、それぞれが独自の価値観を持つから、昔のようなことが再び蘇ることは、もう望んでもないのだろう。

プロレスは全盛時代から、八百長だという話があった。子供の頃はそうした話を半信半疑でとらえていたが、この本によれば、そう本書はプロレスの世界を舞台としたミステリーなのだ。そんなことは断らなくとも、表紙のイラストを見ればすぐにわかることだが、プロレスも演劇と同様に、脚本家がいてその脚本通りに試合運びが行われるということなのだ。
その脚本家をマッチメイカー、脚本を練ることをマッチメイクと言うのだそうだ。演劇と違って100%マッチメイク通りにいかないこともままあるようだが、おおよその試合はマッチメイクに沿って行われるということだ。 だから八百長と言うのとは少し違う。八百長は特に試合が賭け事に用いられるときに行われて、人気のある方のレスラーに、大半の掛け金が偏ったとき、わざと負け戦をするといったようなことだ。
脚本によって試合運びが行われることは、先述の通り演劇と同様にその試合のプロセスを観客に楽しんでもらうという寸法なのだ。

 

 

書では、関西を拠点とするチームの主宰者―彼もまたプロレスラーの一人で、しかも国会議員である―が、毒殺?されるというところから、ストーリーが始まる。
実在の人物を思わせるようなところもあるが、多数のプロレスラー志願者の中で、厳しい訓練を耐えて生き残 った新人プロレスラーの視点で、ストーリーの展開が語られていく。試合運びや下働きの様子も描写しながら、プロレスと言う格闘技の内幕も、判りやすく描かれる。
そして、第2の事件が引き起こされる。果たして連続殺人か?謎解きの興味もあることはあるが、プロレス業界の複雑な人間関係などが、僕にはミステリーへの関心を薄めているような気がするのは、やはり今の時代とマッチしていないからか?ちょっと残念。

 

 

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1590.鳥追い

2016年01月16日 | サスペンス
鳥追い
読了日 2015/12/29
著 者 和田はつ子
出版社 角川書店
形 態 文庫
ページ数 284
発行日 2000/02/10
ISBN 4-04-340705-X

 

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昨日近くのヤマダ電機で、SATA(シリアルATA=ハードディスクの接続方法)をUSBに変化できるケーブルを買ってきた。訳あって使えなくなったパソコンから、取り外したHDDを外部記憶に使おうと思ってのことだ。さらには、今パソコンと接続しているHDDをBDレコーダーに録画用として使おうとしているのだ。
今は僕のようにパソコンから取り外したHDDだけでなく、安く出回っている内臓用のハードディスクを、外付け用として使うためのケースもいろいろ出ている。USBケーブルで簡単に接続できるので、ケーブルやケースの需要があるのだろう。
僕は取り外したそのままの形で、接続できるのと価格もケースより安価なので、ケーブルにしたというわけだ。 今では、少し前には考えられなかったような、大容量のHDDが出回っており、テレビ受信装置が付属したパ ソコンでは、録画も行えるように3TBとか4TBなどと言う大容量のものが、内蔵されるようになっている。
そうした大容量を持つHDDは、たくさんのデータを保存できる反面、いったん故障したり壊れたりすると、大きな打撃を受けるデメリットもある。そうしたことを防ぐためには、こまめににバックアップを行う必要もある。

 

 

帰宅後、早速僕はパソコンとケーブルでつないだHDDに、従来使用していた外付けのドライブからデータを移し替えた。不要になった2TBのそのドライブは、録画用にディスクレコーダーに接続して使うつもりだが、まだ接続していない。今日この記事のアップロードが終わったら、取り掛かるつもりだ。
今ではレコーダーも昔のVHSビデオテープの時代と違って、高画質のデジタル録画だから、画質を少し上げただけでも、結構な容量を使うことになる。そのため内蔵されるハードドライブも、だんだん大容量のものが採用されている。しかも、現在販売されているレコーダーは、外付けのドライブ対応になっているので、かなりの録画データが保存できる。
ミステリーを読むことと同様に、ミステリードラマや映画を見ることも、僕の楽しみの一つなので、これから大いにこのHDDが活躍することになる。それでも前述のとおり、突然のデメリットも考えられるから、残したいものはDVDやBDなどの保存して必要もある。

 

 

者の本は2012年10月に「享年0.1歳」を読んだのが最後だから、もう足掛け4年も前のこととなる。この読書記録を始めたころ、僕はサイコサスペンスに夢中になって、最初に読んだ「心理分析官」で、ファンとなって作品を読み継いできた。それにしても、前回から随分間が空いた。
間もなく1600冊にも及ぼうとする読書量だから、好きな作家の本でもそうそう続けて読むというわけにもいかないのは、仕方がない。それでも本書で15冊目となるから、多く読んできた方だろう。
和田はつ子氏はこうしたサイコサスペンスの中にも、同じ主人公が登場するシリーズ作品を書いている。「心理分析官」をはじめとする加山知子シリーズ、本書で活躍する日下部遼&水野薫シリーズなどだ。いつでも面白い本を読もうとすれば、そうしたシリーズ作品を選べば安心なのだが、違う傾向の作品も読みたいし、新たな作者による新たなストーリーも読みたいという欲求も抑えられない。それに僕のように貧乏で新刊を買えないものにとっても、少し時間を置けば半額以下の安い価格で販売する古書店がいくらでもある。
読書好きのものにとって良い時代が来ているのだ。

 

和田はつ子氏の作品の多くが角川書店のホラー文庫に分類されており、今までそれらの何点かを読んできたが、確かに起こる事件そのものはホラーと言われてもいいようなものだ。しかし僕は決してホラー小説だと思って読んできたわけではない。いずれも論理的な解釈が行われて、特に本書に出てくる文化人類学の助教授・日下部遼と警視庁捜査1課の刑事・水野薫のコンビが活躍するシリーズでは、助教授の専門的立場からの解釈が事件解明への助けとなっている。
ところが今回読んだ本書は従来僕が読んできたものとは、いささか趣が異なり、SFかあるいは超自然的な出来事を描いているのだ。
アイヌの末裔でもある日下部助教授の経験と知識は、それでもあらゆる可能性を鑑みて、地方の伝説にうたわれる出来事が、実際に起きていたことを推量されるという結果を招いている。
そんなことで、僕は少し驚いたが、それでも著者の作品独特の、事件発生から水野による日下部へ、事件への関わりを誘い込む成り行きに、僕はワクワクするような気持ちをもって読み進めるのだ。

まだまだ著者の未読の作品はたくさんある。何年か前からは著者の作品が、時代ミステリーへと移って、現代ものが無くなっているようで、寂しい気もするが未読の作品を探して、少しずつ読んでいこうと思っている。

 

 

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1583.総理にされた男

2015年12月26日 | サスペンス
総理にされた男
読了日 2015/12/11
著 者 中山七里
出版社 NHK出版
形 態 単行本
ページ数 341
発行日 2015/08/25
ISBN 978-4-14-005670-7

 

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一昨日(12/24)の夕方から昨日の朝にかけて、十四時間もの睡眠をとった。24日はクリスマス・イヴと言うことで、世間は俄かクリスチャン、と言うか1日クリスチャンが大勢現れて、それぞれお祝いをしたのだろうが、僕は夕方から体の節々が痛くなり、身体全体がだるくて具合が良くない。風の初期症状かと思って、熱を測ったが平熱。
それでも起きているのがつらくて、6時過ぎには布団に入った。いつもは就寝前に血圧を測るのだが、それも忘れて布団に入ると同時に寝についたらしい。いつもは30分くらいは寝付けないのだが、やはり体が休むことを要求していたのだろう。ところが翌朝8時に起きたら、だるさが抜けて少しあった頭痛も収まっている。
朝食も普通に食べられて、身体の調子も普通通りになっている。昨夜の不具合は何だったのだろうと思うほどだ。単なる疲れなのか?と言ったって毎日が日曜日の身にとって、疲れることなんか何一つしてないのだ。歳をとるといろいろとわけのわからないことも起きる。そう思ったが、人は訳の分からないことには恐怖を感じるものだ。あまりそんなことは起きてほしくない。まあしかし、1日で回復したことを喜ぼう。

 

版元のNHK出版と言えば、以前は「日本放送出版協会」ではなかったかと、ネットで検索したらその通りで、2010年に今のNHK出版に名称が変更されたということだった。僕がなぜこの出版社に関心があるかと言えば、鈴木栄氏の著作「生きよわが子たち」、「生きよ仲間たち」、「光はバスに乗って」などが、その日本放送出版協会から刊行されていたことを思い出したからだ。
鈴木栄氏とは、僕の息子がお世話になっている社会福祉法人薄光会の二代目理事長だ。二人の重度障碍者を子に持ちながら、同様の親たちの協力を得て、子たちの将来を見据え社会福祉法人を立ち上げた中心人物である。残念ながら平成15年に癌のため、惜しまれながらこの世を去った。
当時はまだまだ障碍者への認知が定まらず、福祉施設は障碍者を十分に受け入れが可能なほどなかった時代だ。そんな中、強烈な個性とカリスマ性で職員や保護者たちをリードしながら、薄光会を発展させた。その個性は必ずしも周囲の共感を得るものばかりとは言えなかったものの、草創期の重度障碍者優先の施設運営には目を見張るものがあったことは、誰しもが認めるところだ。
法人の存在が社会に認められることを目指して、執筆したのが先述の著書である。すでに絶版となってしまったが、Amazonなどで探せば見つかるかもしれない。関心のある方には是非読んでもらいたい。

 

 

当時はいかにもNHKの子会社らしく、まじめ一辺倒の本ばかりを出版するという印象があったので、今回本書がNHK出版の刊行ということにちょっと驚いて、昔のことを思い出した次第だ。こうしたエンタテインメント作品も出すようになったのかと思ったが、僕が知らないだけで前から出していたのかもしれない。
著者・中山七里氏の作品も17冊目となった。僕は著者のデビュー作で「このミステリーがすごい!」大賞受賞作の「さよならドビュッシー」より先にその番外編ともいえる「要介護探偵の事件簿」を先に読んでから、魅力的な内容や読みやすい文章に惚れ込み、すぐそのあとにデビュー作を読んでいる。
そしてさらに、その行間から音があふれ出てくるような、圧倒的な音楽表現に驚くと同時に、この作者の著作はすべて読もうという気になったのだ。ところが中山氏の旺盛な執筆は僕の読書能力を上回り、新たな作品が出るたびにそれほど間を置くことなく読んでいるつもりだが、にも関わらずまだ手に入れてないものが3冊ほどあるようなのだ。

本書はタイトルから想像できるように、政治とは全く無関係の男が、よんどころない事情から総理大臣の身代わりを務める羽目に陥るという話だ。それだけでは何かドタバタ調の喜劇を想像して、何か胡散臭い感じもするのだが、読み進むうちに政界の動き方などにも触れて、次第に引き込まれてゆく感じがする。

 

 

れない劇団員・加納慎策は、たまたま現役の総理大臣に似ていることから、前座の出し物として、総理の形態模写を演じていた。次第に彼の模写はそこそこの評判になっていったが、彼とすれば本番の出し物での出番のないことに苛立ちを感じていた。そんな彼はある日マンションを出たとたん、待ち構えていたとみられる二人の男に両脇から挟まれて、拉致されたのだ。
彼が連れていかれた先は総理官邸に隣接する公邸で、現れたのはなんと内閣官房長官の樽見政純だった。長官に言い含められて一時的なつもりで、総理の替え玉を演じることになるのだが・・・・。

このストーリーの面白いところは政界の裏側が、ほんの一部分ではあるが垣間見えるところで、政治に全く関心のない人でも、面白く読めるのではないかと感じさせる。一時的なものと思っていた加納慎策だが、とんでもない状況に陥る展開は、スリリングで先行きの不安を募らせながら進む。

 

 

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1572.本命

2015年11月29日 | サスペンス
本命
DEAD CERT
読了日 2015/11/12
著 者 ディック・フランシス
Dick Francis
訳 者 菊池光
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 318
発行日 1976/06/30
ISBN 4-15-070704-9

 

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々回コーヒーについて書いたが、忘れていたことを一つ思い出した。10月4日に行われた天羽支部会(社会福祉法人薄光会の施設利用者の保護者・家族で構成されるいくつかある団体の一つで、ケアホームの利用者の保護者・家族の会が年に数回開催する会合)の折に、以前から親しくしている薄光会役員のM.Kさんから、瓶入りのインスタントコーヒーを頂戴した。彼女は息子さんのために、薄光会の通所施設の一つである湊ひかり学園を利用した後、息子さんを豊岡光生園へと入所させた。
当初は、湊ひかり学園の保護者・家族の会の役員として活動したが、その功績が認められて薄光会の役員となった。そればかりか薄光会の保護者・家族が立ち上げたNPO法人・NPOひかりの役員としても関わりを持って、八面六臂の活躍は薄光会の職員を始め、多くの保護者からの信頼を勝ち得ている才媛だ。

僕は普段はペーパードリップでコーヒーを淹れるので、インスタントコーヒーは飲まないのだが、他に大事な使い道があるので有難かった。あまりよく知られていないと思うが、インスタントコーヒーは、調味料としても重宝に使えるのだ。 他にもいろいろと使い道はあるのだろうが、僕はカレーを作ったときに、出来上がりの鍋に小さじ一杯くらいを振りかけてよく混ぜる。カレーは一晩寝かせた時が旨いといわれるが、コーヒーを少量混ぜることにより、一晩寝かせたものと同じくらいにコクのある味になるのだ。自家製のカレーだけでなくレトルトの場合は、玉ねぎを半個(小さめのときは1個)をみじん切りにして、ひき肉と一緒にフライパンで炒めて、そこへレトルトのカレーを混ぜてから、小さめのスプーン1杯のコーヒーを振りかけてよく混ぜる。
すると、レトルトとは思えないほどの味わい深いカレーができる。ちょっとひと手間を掛けることで、おいしく食べられるのだ。とまあ、そんなことで頂いたコーヒーは充分役立っている。
MKさん、証文の出し遅れのようで、申し訳ありません。遅ればせながら、ありがとうございました。

 

 

競馬について僕は関心がなく、テレビ中継もあまり見たことがない。もちろん競馬場へも足を運んだことがない。好きな人は「パドックのサラブレットの姿を見るだけでも良い」などという。しかし、そうは言っても興味のないことには関心を持つこともなく、若いころ仲間が場外馬券を買うのを見て、植木等氏の「馬で金儲けしたやつぁ無いよ」を思い浮かべる始末だったのだ。
そんなことでこの人気シリーズ、競馬ミステリーにもさほど惹かれることもなく、そのうち機会があったら第1作だけでも読んでみようか、とそんな感じだった。そこで、古書店を訪れる都度、なんとなく本書を探していたが、もうだいぶ前の刊行だからか、目にすることはなかった。
このシリーズはテレビドラマ化されて、わが国でもNHK かどこかで放送されたものを見たが、内容はすっかり忘れた。主演のイアン・マクシェーン氏を覚えているくらいだ。
本書がドラマになったのかどうかは分からないが、またどこかでドラマが放送されたら、(その望みは薄いが)、今度は興味を持って見ることができるだろう。

 

 

み始めると関心があるとかないとか言ったこととは関わりなく、ストーリーに引き込まれる。小説として、ミステリーとしての魅力が、ぐいぐいと物語に引き込むのだ。やはり多くの読者に迎へ入れられた作品は、競馬の好き嫌いに関係なく、面白く読ませる力がある。
が、もちろん、競馬好きの人ならもっと楽しめるのだろう。
この作品での競馬はわが国ではあまり聞くことはないが(いや、僕が知らないだけで、多く開催されているのかも知れない)、障害競走だ。巻末の解説によれば、わが国と英国とでは競馬への関心がだいぶ異なるようだ。
わが国でも本場英国にならって、“日本ダービー”と名付けられたレースもあって、普段それほど熱中しない人までも、引き込むほどの人気を博している。
さらには、競走馬や競馬について、部外者でもわかるような説明が、ストーリーの少しも邪魔にならずに、判りやすく溶け込んでおり、あたかもその道の専門家にでもなった気にさせる。
そうしたことも含めて、このシリーズがミステリーファンのみならず、絶大な人気を保っている秘訣なのだと感じ入った次第だ。

 

 

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1566.蟻の木の下で

2015年11月11日 | サスペンス
蟻の木の下で
読了日 2015/10/31
著 者 西東登
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 300
発行日 1976/07/15
書肆番号 0193-360434-2253(0)

 

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書記録を始めた平成11年から2~3年の間は、まだそれほど多くなかったBOOKOFFや、そのころまだあった復活書房(木更津市には亡くなったが、他の地域にはまだあるらしい)などという古書店チェーンの店で、ミステリーを探し歩いたものだった。
本書もおそらくその頃BOOKOFFで買い求めて、10年以上も積ン読にしておいたものだ。当時はまだ翻訳物を読むことが多かったので、乱歩賞受賞作だからいつか読もうと思い、買っておいたのだろう。後に翻訳物から一転して国内ミステリーに目を移してからは、特に江戸川乱歩賞の受賞作を一通り読んでおこうと、手に入れる都度読んできたつもりだったのが、いくつか読み残した古い作品があって、本書の他にも手元に何冊かあるはずだ。
毎年新たな受賞作が生まれているので、まごまごしてると読み切れなくなる恐れもある。しかし、僕が生涯に読むことのできる本の数など、いくら頑張ってみたところで、たかが知れてる。だが、読んだ本から何を学ぼうなんてことは思わなくとも、多くの本を読みたいと思う欲求がすたれることはない。

 

 

僕がこの本を読むのを遅らせた一つの要因は、表紙のイラストにもある。兵士の姿から大戦中の悲惨な事柄を思い浮かべる最後の世代である僕は、実を言えばそうした戦時中のネガティブな出来事は読みたくないのだ。
反戦を叫ぶ人たちは、戦争の実態を知って戦争反対につなげることを主張するが、僕のように心身ともに弱い人間には、特に精神的に強くないものにとっては、読む都度心に受ける衝撃が大きく、回復するまでしばらくかかるからなのだ。
案の定この作品で語られるエピソードは、作品の根幹をなす出来事でもあって、微に入る表現は痛ましい。しかし、そうではあるがストーリーはもっと複雑な様相を展開して、ミステリーの面白さを表すから、読後感は悪くない。
読書の旬ということから言えば、やはりこの作品はもっとずっと以前に読むべきだったかもしれない。それとも、戦後70年という節目の年に、改めて戦争を考えるきっかけをつかむ、そう言った点で旬だったかもしれない。戦争が生み出す一つの悲劇が語られているということで、こうした物語がもっと読まれることが望ましいことか。

 

 

NHK BSプレミアムで放送されている、「刑事フォイル」という英国のドラマでは、大戦中の英国を舞台として様々なエピソードが語られる。
同じ戦時中の話とはいえ、わが国とは事情が異なりドイツ軍との交戦に手を焼く、英国軍の模様などもエピソードに組み入れられて、そうした中で事件捜査に励む刑事フォイルの活躍が描かれるのだ。
軍隊とは言いながら、共通した部分を持ちながらも、彼我の差は誠に大きく割と自由に発言できる米英の軍隊にわが国が敗戦したのは当然だ、という認識をこういう映像を見ながら改めて持つのだ。
少しわき道にそれた。途中痛ましいエピソードを挟みながらも、全体的にはミステリーの面白さを保持して、読みごたえを感じた。タイトルが秘めた謎も中盤には明らかになるが、この世にはまだまだ人々に知られていない不思議な世界がある。

 

 

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1563.わが愛しのワトスン

2015年11月02日 | サスペンス
わが愛しのワトスン
My Dear Watson
読了日 2015/10/22
著 者 マーガレット・P・ブリッジス
Margaret Park Bridges
訳 者 春野丈伸
出版社 文藝春秋
形 態 単行本
ページ数 244
発行日 1992/09/30
ISBN 4-16-313510-3

 

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陰矢の如しなどと引き合いに出すまでもなく、毎年、月日の経つ速さを実感する季節が近づいてきた。
まだ年末までには間があるが、今日は12月並みの陽気だそうで寒く、朝から冷たい雨が降っている。今僕は娘からのプレゼントのシブースト(フランス発祥のケーキだそうだ)なるケーキを食べながら、コーヒーを飲みながら、この記事を書いている。今日は僕の76歳の誕生日なのだ。
もうこの年になると、おめでたいなどとは言ってられないが、それでもこれと言った体の不具合もなく、健康でいられることはありがたい。今は、健康寿命などということが言われているから、生きている限り健康でいたいものだ。

いよいよ、今日からこの読書記録も17年目へ突入だ。1999年の今日、読書記録を始めた時には、こんな日が来るとは考えもしなかったが、月日の過ぎるのは夢のように早く、歳をとったことまでが感慨深い。当初70歳までの10年間で、500冊のミステリーを読もうと始めたことで、現在のように次から次へと面白そうなミステリーの新刊が発売されるとは予想もしていなかった。
当時はまだ辛うじて、サラリーマン現役だったから、たまには上京して神田の古書店を見て歩いたりしたものだった。
とにかく面白く読めるミステリーを捜し歩いたのだ。当初はサイコサスペンスに夢中で、海外作品にそうしたジャンルのものを求めていたから、と言うのも元々はそれまで長いことミステリーの世界から遠ざかっていたのを、パトリシア・コーンウェル女史の「検屍官」シリーズにより、読書意欲を呼び覚まされたからなのだ。
すでに16年もの歳月が過ぎ去ってはいるが、時々当時のことを思い出して、本への思いを新たにする。
後期高齢者となった今、残された人生もそう多くはないことを思えば、出来るだけ読んでおきたいと思うが、なかなか思うようには簡単ではない。せめて積ン読となっている蔵書だけは消化しておきたいものだ。

 

 

木更津駅近くの古書店の店頭に常時古い文庫や単行本の、80円、100円の均一セールが陳列されている。以前はよく利用した店だが、最近はBOOKOFFの利用が増えたため、めったに行かなくなった。先達てしばらくぶりで前を通ったので、店先の棚を覗いたら本書を見かけて、買ってきた。
今ではもう廃止されてしまったが、サントリーミステリー大賞の第10回特別佳作賞に選ばれた作品だ。この読書記録を始めたころは本選びの指針としていた、サントリーミステリー大賞に対する懐かしさも手伝ってのことだった。サントリーは、アンクルトリスとか柳原良平氏のイラストによるCMや、山口瞳氏に対する憧れとか、モダンな感覚を抱かせて、ミステリー大賞にしても斬新なミステリーが生まれるのではないかという期待を持っていくつもの受賞作を読んできた。
僕が期待した傾向は現れなかったが、僕の好きな作家のひとり由良三郎氏などの人気作家を輩出した。

 

 

頃はあまり聞かなくなったが、シャーロキアンは今でも世界各地で、活動が活発なのだろうか?
ホームズの人気は衰えることなく、毎年新たなファンを増やし続けているのだろう。映画やドラマも新作が生まれて、オリジナルのみならず多くのパロディやパスティーシュといった映像化もが生まれている。 古今にわたるファンはそうした作品にも、古き良き時代への思いや憧れなども抱いて、そうした作品群を受け入れている。
さてこの作品は、マーガレット・パーク・ブリッジスというニューヨーク生まれの女性が応募して、第10回サントリーミステリー大賞の特別佳作賞に選ばれたものだ。そして驚くことに、シャーロック・ホームズは女性だったということで、彼女の視点で物語の進行が語られるのだ。
「シャーロック・ホームズ最後の事件」でホームズと格闘の末、ライヘンバッハの滝に落ちて死亡した、仇敵モリアーティ教授の娘だという、女優のコンスタンス・モリアーティがホームズとワトスンの前に現れる。そして、なんとワトスンはコンスタンスの美貌の前に、一目で心を奪われるという事態に陥るのだった。 だが、ホームズはコンスタンスの美貌の裏に、父親のモリアーティ教授に劣らぬ悪の気配を察して、ワトスンに警告を発しようとするのだが・・・・。

着想は面白いがホームズの女性としての利点が現れてないような気もする。総体的には可もなし不可もなし?と言っておこう。

 

 

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1560.月光のスティグマ

2015年10月27日 | サスペンス
月光のスティグマ
読了日 2015/10/18
著 者 中山七里
出版社 新潮社
形 態 単行本
ページ数 287
発行日 2014/12/20
ISBN 978-4-10-337011-6

 

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010年、「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビューした中山七里氏の作品は、今年までの5年間で18冊を読んだことになる。彼はこの他にも何冊かの作品を世に出しているから、その執筆活動は驚異的ともいえるだろう。
寝る間も惜しんで作品を生み出しているのだろう、と僕などは考えるのだが、そんなことは微塵も見せないで、たまにテレビの書評番組などにも顔を出すという余裕さえ見せるから驚きだ。
出版各社の編集者からの要請にこたえて(という件については、「1366.いつまでもショパン」の記事の中ほどに記した)、次々とストーリーを編み出す創造力はどこから来るのだろう?などと考えるだけ無駄なようだ。この作者の他にも僕は全作読んでみようと思う作家はほかにも数人いるから、のんびりゆったりと読書を楽しもうと思う僕は、そのスピードにとても追いつけない状態である。が、嬉しい悲鳴を上げているといったところか。
しかし、職人気質ともいえるような中山七里氏でも、多作による質の低下を心配するのは、僕の杞憂?であればいいのだが。

 

 

少し話は異なるが、ごく最近太宰治氏の芥川賞への執着心の表れともいうべき手紙が公開された。僕はその話により、「人間失格」などの現在も人気を保ち続ける作品を多く残した、ある意味文豪ともいえる氏の誠に以て人間臭さの表れだと認識して、微笑ましい思いを感じた。
比べるのはどうかとも思うが、同じ作家ながら目指すところは全く違うようでいて、どこかに共通点があるのではないか、などと思うのは下種の勘繰りか?
本来、作品を評価するのは批評家でも賞の選考員ではなく、読者のはずなのに、その読者が受賞作に群がるというのも、何か皮肉のような感じがするのは僕だけか?そういったことからは、僕が中山氏の作品の質の低下を心配するなどもおこがましい限りかもしれない。“どんでん返しの帝王”などと言われることを、誇りに思ってどんどん作品を生み出してほしいと願うのがファンとしての本音だ。

 

 

ステリーの題材として、双生児が登場するのは古今東西変わらぬことのようだ。表紙のイラストでもわかるように、本書にも双子の美人姉妹が登場して、ミステリーの種を振りまくのだ。
スティグマとは本文中には傷跡と説明があるが、辞書を引くと他にも恥辱、汚名、汚点などといった意味もあり、意味深なタイトルとなっている。八重樫麻衣、優衣の姉妹と、幼馴染で隣同士の神川淳平は、子供の頃の遊びの中で、姉妹の内のどちらかと結婚することを約束させられる。そんな子供時代だったが、彼らが中学生になって思春期を迎えたころ、突如として大地震が襲う。倒壊した家屋の下敷きになって、姉妹の内の一人は助かったが、淳平の家族も姉妹の家族も助からなかった。助かったのは淳平と優衣だけだったようだ。

そして、検事となって特捜部に配属となった神川淳平。彼が担当する事件に関わりを持つと疑惑のある議員の秘書として、彼の前に現れたのは八重樫優衣だった。

従来のミステリーとはいささか趣の異なるストーリーに、こちらの方も戸惑いを覚えるが、ファンとしては何とか及第点ということにしておこう。

 

 

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1555.激流

2015年10月21日 | サスペンス
激流
読了日 2015/10/04
著 者 柴田よしき
出版社 徳間書店
形 態 文庫
ページ数 (上)422
(下)494
発行日 2009/03/15
ISBN (上) 978-4-19-892943-5
(下) 978-4-19-892944-2

 

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田よしき氏の作品はアンソロジーの短編をいくつか読んではいるが、長編は横溝正史賞を受賞した「RIKO-女神の永遠-」しか読んでいない。あまり目に留まらなかったというか、もしかしたら「RIKO-女神の永遠-」があまり印象に残っていなかったのか?
最も僕は忘れっぽいから、どの作家の作品でもしばらくたてば忘れてしまうから、この作家の作品は全部読んでやろう、などと思わない限りは幾度も読むことはない。ではなぜこの作品を読もうと思ったのかと言えば、単純にドラマ化されたからだ、というだけだ。
前にも何度も書いたが、僕は結構ドラマ化されてから読むことも多く、見てから読むか、読んでから見るか、そんなどこかのキャッチコピーのような具合である。ただこのドラマは残念ながら、見はぐってしまったのだ。 多分DVDになって、レンタル屋さんに行けばあるのだろうが、それは本を読んでからにしようと思っている。

 

 

例によって僕はドラマの内容がどんなものかは知らない。だから読む前には全く先入観がなく、純粋に楽しむことができた。それは文字通り楽しむという言い方が当てはまり、写真で見る通り分厚い文庫2巻組ながら、全く“巻置く能わず”といった感じで、多岐にわたる登場人物、エピソードにもかかわらず、一気に読み通した。中学3年の同級生5人の20年後が、描かれるのだが、愛すべきキャラクターたちの言動が、胸を打ち時には涙を誘うのだ。
僕自身の中学から高校に至る学校生活には、いい思い出はあまりない。どちらかと言えばおまり思い出したくないことばかりのような気がする。いまだに毎年高校のクラス会が開催されて、年に1回だから会って話したい友もおり、出席しているが高校生活の思い出はほとんど僕の記憶から抜け落ちている。
人間思い出したくない記憶は忘れていくらしい。
そんな僕だからこんなストーリーの中で、35歳になった彼らがそれでも青春を謳歌するかのごとき行動はうらやましい。決してハッピーエンドの物語ではないが、この後も彼らはそれぞれが人生をたくましく、幸せをつかんでいくのだろうと思わせて、物語を読んだという幸せな読後感を覚える。
後で、TSUTAYAかあるいは通販のレンタルでも探して、ドラマのDVDを借りてみよう。

 

 

まりいい思い出のない学校生活であったが、僕が通っていた県立大多喜高校の3年D組のクラス会(昭和33年卒業から33会と名付けている)は、今でも毎年行われており、出来るだけ参加するようにしている。
以前は新年会として、1月から2月にかけて開催していたのが、ここ何年かは4月に花見を兼ねて行うようになった。しかし、毎年寄る年波に勝てずに他界する者もいて、だんだん寂しくなる。だが、毎回幹事を務めているT氏夫妻(クラスメイト同士で一緒なった)は、最後の一人になるまで会は続けると意気込んでいる。
そんな幹事の意気に感じて、また、会長のI氏にも逢いたくて僕も長く参加したいと覆っている。

 

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1552.虚無への供物

2015年10月15日 | サスペンス
虚無への供物
読了日 2015/09/21
著 者 中井英夫
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 664
発行日 1974/03/15
ISBN 4-06-136004-3

 

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譜によれば、この作品は昭和39年(1964年)2月に塔晶夫の名で、講談社から刊行されたという。この文庫はその10年後に同社から出ているから、その間10年を要しているという勘定だ。これを買ったのはそれほど前ではないが、それでも買ってから数年は経つだろう。なんでそんなに間が空いたかと言えば、これと言って理由はない。いつもの気まぐれだ。一部のミステリーマニアの間では名作?の誉れ高いタイトルなので、いつかは読んでおこうと買っておいたのだった。
若いころと違って歳をとった今では、本の厚さに恐れをなす、といった感じで、そんなことも読むのが後回しになった要因かもしれない。僕は自慢になる話ではないが、中井英夫氏を知ったのは、この作品が「薔薇の殺意~虚無への供物」(1997年NHK)というタイトルでドラマ化されたものを見た時だった。
ミステリーファンが聞いてあきれる、などと言われ兼ねないが、僕は最近になって、知らないことの方が多いのは、普通だと思うようになった。だから、著者を知らなかったというのも、自慢にはならないが恥だとも思っていない。
ま、それはともかくとして、この分厚い文庫を読み始めて間もなく、その探偵趣味ともいえるような内容に、引き込まれたのである。余分なことだが最初にこの本が出た昭和39年は、僕が結婚した翌年で、たぶんその後何年かはミステリーを読んでいなかったと思う。だからといって僕がこの本を知らなかったという言い訳でも何でもないが、横溝正史氏の「本陣殺人事件」の一部分を想起させるようなところが、若いころの探偵小説に夢中だったことを思い出させたのだ。

 

 

零落した氷沼家を舞台に始まる四つの事件は、果たして連続殺人なのか?
第一の事件は氷沼家の風呂場で氷沼紅司の死体が発見されたことだ。現場は内側から施錠された密室であることから、病死と思われたが、一同は巧緻な犯人がいるという仮説に対して、推理合戦を始める始末だ。
何だこれは?と思わせる展開だが、徐々にミステリーらしさを増して、謎解きは単純と思われた事件が第2第3の殺人が起こるところが混迷を深めていく。

 

 

戸川乱歩氏をはじめ、古今、内外のミステリー作家や、その作品が比喩として現れるところも面白く、途中までユーモア・ミステリーかと思えるようなところもあるが、終盤に至るまでには、重厚さを表しながらミステリーとしての展開を見せ始める。
現在のスピード感にあふれるミステリーに比較すれば、時の流れがいかにも時代にふさわしい感じで、僕などはもう少しスピードアップしないかと思うようなところもある。しかしそんなところは枝葉末節なことだろう。全体としては、ミステリー好きの人なら一度は読んでおいて、損はないだろう。アンチミステリーとして有名だとの話もあるが、僕はミステリーとして、あるいは昔ながらの探偵小説?として楽しんだ。

 

 

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1540.沈黙の土俵

2015年09月21日 | サスペンス
沈黙の土俵
読了日 2015/08/18
著 者 小杉健治
出版社 勁文社
形 態 文庫
ページ数 367
発行日 1997/02/15
ISBN 4-7669-2662-5

 

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来読んできた著者の作品とは一味違う内容だ。タイトルで分かるように、相撲の力士を題材にとっていて、一時期世間をにぎわせた八百長問題なども絡ませた、ミステリーだ。
大相撲の秋場所も後半戦に入った。今場所は横綱白鵬が初日から2連敗した後、休場するなど波乱のスタートだった。優勝力士はだれか?が一番の興味を引くところだが、NHKテレビに出てくる解説者の口に上るのは、一番に照ノ富士だ。しかし、僕としては日本人力士にも頑張ってもらいたい。
稀勢の里がいいスタートを切って、大いに期待したいところだったが、残念ながら五日目に宿敵ともいえる栃煌山に敗れた。途中下位力士との対決での取りこぼしに気を付けて、中日八日目で勝ち越しを決めるくらいの勢いがほしい、そんなことを思っていたがなかなか勝負の世界は厳しい。
だが、どこの世界でも同じだろうが、ライバルがいてこそ切磋琢磨して、強くなれるのではないだろうか。今場所はもう一つ勝負を面白くしているのが、尾車部屋の嘉風だ。まさかの二日連続の金星や、二大関を破るなど、さらには今場所好調な関脇・栃煌山を破る大活躍を見せている。千秋楽まで大いに賑わしてほしいものだ。

 

 

本書は25年前、横綱にもなろうかという勢いだった雷神という力士が、八百長相撲の疑いをかけられて、相撲界を去るという事件があった。その後雷神は行方が分からなく、人々の話題に上ることもなくなっていた。
フリーのスポーツ記者・吉野大作は、同業の田川から「雷神を見つけた」という話に乗って、秋田県を訪れる。 辰村工房という木の看板を掲げた家で、こけし職人として働く辰村は、二人に向かって「俺は相撲取りじゃない!」と怒鳴って二人を追い返した。
だが、吉野はあきらめきれずにその後も辰村のもとを訪れて、彼の息子・一也に相撲の才能を見出すのだった。 そして辰村を説得して、一也を吉野が現役時代からつきあいのある鳴神部屋に、入門させることを承知させるのだった、が・・・・

 

 

うしたこととは別に、横尾弁護士は殺人罪で服役している滝本という男が、冤罪であることを信じて、事務所で働く小宮冬子を伴って、滝本と面会するのだが、彼はかたくなに自分がやったのだという。
そうした二つの事柄が並行して進んでゆく。
それらがどう繋がってゆくのか、物語は興味を引きつつ展開してゆく。従来読んできた裁判劇とは一味違う物語だが、例によって複雑な構成がサスペンスに満ちて語れて行く。

 

 

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1539.海と毒薬

2015年09月19日 | サスペンス
海と毒薬
読了日 2015/04/13
著 者 遠藤周作
出版社 新潮社
形 態 文庫
ページ数 174
発行日 1960/07/15
ISBN 4-10-112302-0

 

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者の本は昔、20代の頃に読んだような気がするが、記憶がおぼろだ。BOOKOFFで何とはなしに本書が目について買ってきた。
著者もこの作品もあまりにもよく知られているが、僕は今まで興味を惹かれることはなかった。確か若いころ一つや二つ読んでいるはずなのだが、あまりあてになる記憶ではない。
なんといっても文学作品に傾倒していたのは、昭和27-8年ごろのことだから、忘れることの得意な僕が覚えているわけはないのだ。それでも今回この本を買ったのは、一度は著者の作品をじっくりと読んでみようと思ったからだ。それに、ミステリーを匂わせるようなタイトルも目を引いた要因かもしれない。

 

 

内容は、太平洋戦争末期に起こった事件を題材とした、ドキュメンタリーとも見えるストーリーだった。
巻末の佐伯彰一氏の解説によれば、著者は常に「日本人とはいかなる人間か」という問いかけを念頭に置いていたという。

物語は、東京の会社に勤める夫が妻とともに、郊外の住宅に引っ越してきたところからスタートする。
男は気胸を患っており、近くの勝呂医院を訪れる。気胸という病気を僕は知らなかったので、ネットで調べたら、それほど珍しい病気ではなく、多くは自然気胸と呼ばれて肺の一部が嚢胞(のうほう:軟組織内に病的に形成された液状成分を持ち、液状成分周囲を固有の単層上皮に覆われている球状の嚢状物を指す。=wikipedia)化して、それが破れることで呼吸の際に空気が漏れる状態だというが、激痛を伴う場合もあるという。
勝呂という医師は無口で暗い雰囲気を持つ医師で九州のF市弁だった。だが、気胸の治療で男の肺に空気を入れるための気胸針の入れかたは、見事な腕前だった。こんな腕のいい医者がなぜこんな郊外にいるのだろうと不思議に思った。

 

 

トーリーは2部構成で、一部で語られるエピソードの中に、後の話の重要な部分が隠されているのだ。
九州の大学付属病院で戦争末期に行われた、米軍捕虜に対する生体解剖事件(実際の事件だ)の小説家だけあって、その施術場面は戦慄を覚えさせる。行った人間たちが異常だったのか?
戦争が人間を異常な状態にしたのか?読んでいて、ちょっとやりきれないような気分に陥る。

 

 

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1536.無垢と罪

2015年09月13日 | サスペンス
無垢と罪
読 了 日 2015/03/28
著  者 岸田るり子
出 版 社 徳間書店
形  態 文庫
ページ数 233
発 行 日 2013/06/15
ISBN 978-4-19-893700-3

 

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雨の影響で川の氾濫による堤防決壊が、大きな被害をもたらした茨城県、宮城県、あるいは栃木県など、被災者の皆さんに心からお見舞い申し上げます。日がたつとともに東日本大震災を彷彿させる被害の状況が明らかになって、一日も早い復興を望むばかりだ。

 

 

さて、僕はこの著者の作品が好きで、デビュー作をはじめ結構読んできた。読み始めたのが第2作「出口のない部屋」からだったので、どうかするとそれがデビュー作かと思ってしまうこともある。
が、ともかくその後読んだデビュー作で鮎川哲也賞受賞作の「密室の鎮魂歌(レクイエム)」とともに、僕は著者のファンになった。
旺盛な執筆活動で次々とミステリー作品を生み出す著者を追いかけるのは容易ではないが、本書で6作目となった。下表にあるように6篇の短編集だが、それらが一つになった長編ともいえるような具合だ。
特に僕が好きなのは最初の「愛と死」だ。僕は読みながら、2007年に公開されたアメリカ映画の「デジャヴ」を連想した。いやそれだけではない、こうしたシチュエーションの物語は数多く作られているが、最近見たのがアメリカ映画の「デジャヴ」だ。いや違った、一番新しく見たのはつい先日NHK・BSプレミアムで放送された、同じく米国の映画「ミッション8(エイト)」だった。
と言っただけではわけのわからない話だろう。映画とはもちろん内容が全く異なるから、僕の連想は少し意味合いが違うのだ。過去と現在が交差するようなという意味だ。

 

 

の作品では、SFのようにタイム・スリップとかタイム・トラベルの話ではないのだが、僕がそういう感覚を覚えたということである。
僕は特別にSFが好きだというわけではないが、米映画にはそのような題材が使われたものが数多くあるようだと認識している。古くはカーク・ダグラス氏主演の「ファイナル・カウントダウン」なども僕の好きな映画だ。
僕の頭の中のことを書いてもしょうがないな。とにかく本書は著者の今まで読んだ作品とは少し趣が異なって、不思議な感覚を呼び覚ます。下表にあるように2010年から3年にもわたって発表された短編を集めたものだが、通して読むとあたかも連作短編集というか、長編とも思える展開を示すのだ。
そして僕はますます著者の作品に惚れ込んでいく。

 

初出
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 愛と死 問題小説 2010年5月号
2 謎の転校生 問題小説 2011年11月号
3 嘘と罪 読楽 2012年6月号
4 潜入捜査 読楽 2012年11月号
5 幽霊のいる部屋 読楽 2013年1月号
6 償い 読楽 2013年3月号

 

 

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1535.夏井冬子の先端犯罪

2015年09月11日 | サスペンス
夏井冬子の先端犯罪
読了日 2015/03/25
著 者 小杉健治
出版社 集英社
形 態 文庫
ページ数 292
発行日 1993/04/25
ISBN 4-08-748022-4

 

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つの台風による雨風の被害が、関東・東北に甚大な被害をもたらした。テレビの画像が被害の痛ましさを何度も流して、心が痛む。被害を受けた地方の方々には心からお見舞いを申し上げたい。当地方では何日が続いた涼しい日がおわり、再び夏が戻ってきたようだ。朝から暑い日差しが降り注いでいる。

小杉健治氏の作品を読むのも18冊目となった。著者の作品もできれば全作読みたいと思う作家の一人だ。
司法の世界とは全く無縁の著者が、多くの裁判小説を発表していることに、驚きを感じてきたがついにこの作品で、専業作家になる前のコンピュータ関連の仕事を題材とした作品に接することになる。
巻末の新保博久氏の解説にあるように、律儀な作者が生み出すストーリーは、数々の要素が絡まって味わい深い物語を構成している。特に裁判小説、あるいは法廷物と言った方がいいか?リーガル・ストーリーは毎回複雑な人間関係が、事件を一層複雑にしているところが、読みがいがあって、僕の好きなところだ。
その著者がかつて勤務していたというデータベース会社で、どのような職務をこなしていたかは知る由もないが、そうした体験がどのようにこの作品に活かされているのか、読む前に僕の中で期待感が高まる。

 

 

東証一部上場の大東電機の特許部では、従来手作業で行われていた特許出願システムの、コンピュータ化を進めていた。それまで特許部の生き字引とさえ言われていた、小宮山貞夫はコンピュータに拒絶反応を示した。
それまで自分の能力をかさに横柄な態度を取り続けてきた小宮山は、新たに特許部の部長として就任した玉置は小宮山をコンピュータ導入プロジェクトから外したのである。コンピュータ導入に対応できなかった自分の能力に気づかず、逆恨みをした小宮山は、ナイフを持って部長の玉置に向かっていくのだが・・・・。
ストーリーはそんなところからスタートする。

大東電機特許部ではその後、3件の先端技術の特許を申請するが、同様の特許がすでに出願されており却下されたのである。データがコンピュータから進まれたらしいと判断された。

 

 

くからパソコンに携わってきた僕を、こうしたストーリーは興奮させるに十分だ。
今OSのWindowsも10になって、パソコン環境はまた一段と進化を遂げたが、もっともっとこうしたIT関連のミステリーが生まれてくることを期待しているのだが、僕の情報収集能力はそうした情報を知ることができないでいる。

 

 

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1533.訪問者

2015年09月07日 | サスペンス
訪問者
読了日 2015/03/20
著 者 恩田陸
出版社 祥伝社
形 態 単行本
ページ数 283
発行日 2009/05/20
ISBN 978-4-396-63317-2

 

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近はコーヒーも家で飲むことが多くなって、以前はよく利用していたマクドナルド(マックスバリュ[イオングループが経営する小型スーパー]太田店の一角にある)とも疎遠になっていた。
先日、マックスバリュで買い物をした後、午後3時過ぎで小腹もすいていたこともあって、しばらくぶりにマクドナルドに入った。※ブログへの投稿がだいぶ遅れているから時節がだいぶずれている。
僕は退職してからの習慣でファーストフッドなどに入った時に、コーヒーを飲みながら本を読む。だからマクドナルドに入るときは前もって読む本を持参するのだが、その時はあいにく買い物ついでだったから、本は持ってなかった。
そこで、近くにあるBOOKOFFに足を伸ばし、108円の単行本の棚でこの本を見つけて買ってきた。たまに思い出したように読みたくなるのがこの著者・恩田陸氏の作品だ。
この表紙の装丁を見て、著者が何かの折に装丁に希望を出した旨の話を何かで読んだことを思い出した。
その本が何だったかタイトルがちょっと思い出せないが、それに雰囲気が似ていたのも買う気になった要因かもしれない。彼女の作品は時として、理解に苦しむようなところもあるが、そうしたことも含めて僕の好きな作家の一人だ。

 

 

実業家の朝霞千沙子が建てた山中の古い洋館に、朝霞家の一族が集まった。
当の朝霞千沙子は3年前に不審な死を遂げていた。一同がここに集まったのは、朝霞千沙子が育てたる映画監督・峠昌彦が急死したからだ。
ここまでの展開が、僕に恩田氏の別の作品「木曜組曲」を思い起こさせる。こうしたシチュエーションはミステリーの定番でもある「館」もの、あるいは「嵐の山荘」とか形を変えて、数えきれないほどの作品が生み出されている。
だが、恩田氏の作品はそれらの類型とは一味もふた味も異なって、僕をサスペンスの境地へと誘う。
晩さんの席で公開された、峠昌彦の遺言状には「父親が名乗り出たら、著作権継承者とする」と言った、不可思議な文言があった。峠昌彦は孤児だったのではないか?
さらに数日前この館には「訪問者に気を付けろ」という怪文書が届いていた。

 

 

ビュー作の「六番目の小夜子」を始めとして、不思議な感覚をもたらす環境設定は、著者の独特の感性によって紡ぎだされる物語舞台だ。好きな作家のストーリーが好みの展開を見せて進むとき、僕が幸せを感じる時なのだ。
こうした好きなストーリーを読むときは、脇にコーヒーがほしい。そう思うと僕は途中でコーヒーを入れるため階下に降りる。若いころは途中で本を置くなど考えられなかったものだが、歳をとった今では、面白い本ほど休み休み、読むことが習わしとなっている。
あまり先を急がなくなったのは、どうしてだろう。こうしてじっくりと味わいながら読める本と、あとどれくらい出会えるのだろう?

 

 

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1516.R保険査定者・御手洗沙希の事件ログ

2015年01月14日 | サスペンス
R保険査定者・御手洗沙希の事件ログ
読 了 日 2014/10/12
著  者 有沢真由
出 版 社 宝島社
形  態 文庫
ページ数 299
発 行 日 2014/06/19
ISBN 978-4-8002-2752-2

 

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にも書いた覚えがあるが、ミステリーにおける探偵の職業はもう出尽くしたのではないか?
そういう説もあるが、新しい作品を次々と読んでいると、いやいや、まだまだ世の中にはいろいろな職業や商売があって、新しい探偵の生まれる余地はあるのだという気がしてくる。
本書の主人公はタイトルにあるように、保険査定者を職業とする女性だ。と言っても保険査定者とはどんなことをするのか?Rとはなんだろう?
多分著者の有沢真由氏は、自身の職歴である外資系の保険会社勤務経験から、本書の主人公をつくりだしたのだろう、と想像できる。なんといっても自分のよく知っている部分をストーリーに取り込むことが、読者に受け入れられるもっとも近道だと、誰かも言っていた。

 

 

Rというのは給付金や保険金を受け取る人物、ということが「文中に登場するの保険用語」に説明されていた。
主人公の御手洗沙希はビッグシップ生命保険会社というアメリカ資本の会社に勤務するビジネス・ウーマンだ。
読み終わってからだいぶ日が経っているので、連作の各ストーリーが頭の中から消えようとしている。こういう記事は読んですぐ書かなければ、あまり内容に沿ったことは書くことが困難になる。そんなことは重々わかってはいるものの、いろいろあって3-4か月もたってからこうして書こうとするからどうしても無理があって、いつもながらお茶を濁すことになる。
保険会社に所属する保険査定者は、多くの場合は保険会社から委託された外部の機関に所属する保険調査員とはおのずと仕事の内容が違い、給付金や保険金の査定業務を仕事とする社員だそうだ。

 

 

はいっても問題が発生した、あるいはトラブルが起こったような場合は、医療機関を訪れて保険者の病状を確認したりすることも業務の一部となる。
そこはこうしてミステリーとなる要素も多分にあり、現実はどうか僕の知るところではないが、世の中には様々な仕事があって、回っていることに興味をひかれる。

 

収録作
# タイトル
査定ログⅠ 久世凪男の契約
査定ログⅡ 牟田井七美の契約
査定ログⅢ 室川春美の契約
過去ログⅠ 十六年前の事故
過去ログⅡ 料金部三課 宮下洋介の過去
査定ログⅣ ファイナルジャッジ

 

 

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