命

６月最後の日、６月３０日は二組のお茶会があった。

昼食後すぐの時間、還暦を控えた同業者と久しぶりの再会、
ちょうど一年前、我々が所属する組織の選挙があって、
私が頼む前に、対立候補者から頼まれていたために彼は私の
申し出を断った、それ以来疎遠になっていたのである。

本質的には、気心の合った男同士である、笑顔の再会と成った。
「Ａさんは、Ｕさんが言われた通りの人でした、困りました ！」
私が押す候補者に対抗して立候補したＡを彼は支持して投票した。

その後のＡとの付き合いの中で、私が指摘していた通りの不始末を
されて困ったと云うのである ！　(もう遅いゾ ？) 私は腹の中で
独り言つぶやいた。(しかし、Ｋ君 ！　早く判っただけ良いか ？)
「Ｕさん ！　元気そうですね ！」 彼は安心したように私を気遣った。

彼の身近な周囲に、難病の手術をされた方が居るのだが、精神的な
不安定があって大変でしたと云うのである・・・？
Ｕさんは、どうして克服しましたかと聞いてきた ？
自分に襲い掛かってきた運命と、それに対峙した時の心構えを想い出し
乍ら話した。

医師への感謝、看護師さんへの感謝、家族はじめ周囲の方々への感謝、
それと大事なことは、ご先祖様への感謝である。

命の淵に立った時、人間は何を考えるだろうか　？
私は、身近な者へ先発つ不幸を心の中で詫びて、未練を断ち切ること
から始めた。

医師の宣告の後、石手川河川敷の公園へ降りてみた、あれは７月の
空が真っ青に晴れ渡った日だった・・・！
小鳥がさえずり、周囲は私の心等、気遣いしてくれる筈がない・・・
何時も通りの日常が時を刻んでいた。

木の椅子に腰を下ろして、川原に目をやって見る、見上げる空は
真っ青な筈なのに、古いセピア色の写真のように空しかった。
何かが違う ！　心の中の無限の空洞が何処までも続いているような ！
世の中で、ただ、ひとり ？ ひとりぼっち ！　ポツンと佇む自分が
居た。
なんとも云えぬ孤独感と不条理な無常を味わっていた。

何の樹か、名前は解らなかったが ？
大きな樹の幹に手を添えて、生きていることの証を確かめていた。

検査入院が終わって、院長の紹介で、大きな専門病院へ転院した。
私の、生と死を見つめる日々が始まるのである。

私は、身内の病気 (明日なき命) の宣告を代表して聞いて来た。
だから、今度も自分の耳で、目で、確かめる役をしたのである。
「 覚悟していますので、遠慮しないで言ってください ！ 」
「 しかし、家族には知らせないで下さい　？」　私の問いかけに
病院側は「 家族からは、隠さず伝えてくださいと言われました 」
との答えだった・・・。
だから、私たちは全てオ－プンに事を運んだのである。

冷静な覚悟が、いかに大事か ！ 私はそれを実践した。
＜ことに臨んで後悔なし＞ 私の座右の銘のひとつであるが、
やはり、人間である、家族、忘れ得ぬ人々、心引かれる未練も
ないことはない ？　さまざまな思いを乗せて・・・
私の手術は行われ、生還への道が開かれて行ったのである ！？

私は今、生かされる命に、人知を超えた力を感じている。
吾は、何を成すべきか ！　その吾に、命を与えし者達へ真摯に
答えなければ成らない。

私が今、振り返って、ひとつだけ言い伝えるとしたら・・・
「明るくなりなさい ！」　と答えるだろう ！？

悲嘆に暮れる時に、何を言うのだと、お思いであろうが ？
落ち込んだ時にこそ ！　暗くなりがちな心を奪い立たせて・・・！
明るく振り舞おう　！　そうすると病院側、介護の家族、患者仲間すべて
に伝染して良い空間が生じる、明るい空気が生まれる。
笑顔が出るようになる ！ 死の淵に有りながら！ その生きている刹那
が愛しくなる、大切に成る ！？

悲しい時でも、明るく振舞うことで人知を超えた力をいただく　！？
私は、自分の体験で本当にそう思っている。
人間が持つ自然の治癒力が働くのかも知れない。

同士Ｋ君との語らいは終わった、彼の帰宅の時間が迫っていた。
「今度はＵさんの云うとおりにしますからね、何でも云ってください ！」
彼は、笑顔を残して去って行った。

私は、幸せを独り占めにしない男・・・人に与えたい男・・・！？
だから、友達の輪が大きく、更に大きく膨らんで行く・・・。

Ｕ は、幸福を振りまく男、　良いんじゃぁ・・・ないの ！
雨上がりの空に、青空が広がってきた・・・！
次の、大きな会合の時間が迫っていた ！
方向が一緒で、心通う男の友情・・・良いね・・・！？

私の名は、〇〇本部長 ！　男の勲章である・・・。。。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　合掌