Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

「ふるほん文庫やさんの奇跡」を読んで

2005-09-23 08:14:19 | 読書録(その他)
「ふるほん文庫やさん」。
5年前、長崎の路面電車に乗りに行った帰り、長崎駅のキオスクで古本が売られているのを見つけた。
これ幸いと数冊買い込んだのを覚えているが、これが「ふるほん文庫やさん」の書架だった。
その時は「ブックオフの亜流」と思っていたが、それが間違いだった事を本書で改めて知った。

しかも、この「ふるほん文庫やさん」は九州にずっとあるものだと思っていたが、実はその発祥が愛知県豊田市だったという事実には驚いた。
行こうと思えば行けた訳で、この事を本書で知った時は、まさに「痛恨」の一語に尽きた。

「斜陽」と言われ続けて久しい古本業界。
確かに多くの古書店の店頭を見ると、文庫本の占有面積は大きくない。
店頭の均一コーナーに大量に並べられていたりと、じゃまっけにされている印象すら受けることもある。
文庫本ばかり売りに行くと、露骨にイヤな顔をされたこともある。

と、発行点数の割に大きく扱われていない文庫本だが、逆に言えば安く仕入れができる。
そこに目を付けて文庫本に特化したという発想にはなるほど、と頷かされた。
確かに「安く仕入れて高く売る」という商売の基本に忠実だ。
その基本すら守れていない、「趣味の延長」という古書店を多く見ているので、改めて、この世界の「浮世離れ」ぶりを本書を通じて実感する。

そう考えると、古本関係のエッセイによくある「浮世離れ」感が全く感じられなかった事も理解できる。
一日の売り上げがいくら、在庫何冊・・・と数字が頻出する。これは古本の関係書としては極めて異質な話で、「ビジネス書」の体裁に近い。
しかし、ビジネス書では読み飛ばしてしまいがちな著者のエピソードや、人生観等が面白い。
それらを一々列挙するのも野暮なので止めておくが、1996年に豊田市から小倉へ移転した理由などその真骨頂だった。
インターネットが一般的でなかった当時、豊田市にそんな面白い店がある事などついに知ることがなかった。その事が本当に残念でならない。

そして、最後に「としょかん文庫やさん」の発想には絶句した。
「文庫図書館」という構想が存在する事は「知識」として知っていたが、今HPを見るとここまで育っているとは思わなかった。

日々大量に発行され、読み捨てられる文庫の点数を考えると、「文庫図書館」とい構想の壮大さに驚き、本当にできるのかと懐疑的な気持ちを抱いたが、3万点を超える文庫本を収蔵したという実行力にはもう感嘆するのみ。
単に「文庫本」を商品として考えるなら「ブックオフ」と変わるところがないが、「ふるほん文庫やさん」はそうではない。
安く本を買う場所に過ぎない「ブックオフ」の違いはこの点にある。

本書を読み通すと「有言実行」、目的のための戦略の立て方、サポーター獲得の手法が実に明快な事に気づく。
しかも文章に迫力がある上に、面白い。
300ページを超える本なのに一気に最後まで読み通してしまった。

<データ>
「ふるほん文庫やさんの奇跡」谷口雅男著 ダイヤモンド社
価格1600円(本体)

「ふるほん文庫やさん」のホームページはこちら

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