Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

岐阜市は「路面電車」をどう議論してきたか?(その17・後編)

2006-06-12 06:23:19 | 鉄道(岐阜の路面電車と周辺情報)
昨日に引き続いて平成18年第1回定例会の議事録を読んでみることにする。
この第1回定例会では路面電車再生・公共交通政策関連で3つ質問が出されている。
最後の一つはどのようなものだったのだろうか。

(質問)
 岐阜市総合交通対策についてお尋ねする。
 交通対策の1つ目は、路面電車について。
 株式会社サンストラッセ新鉄道準備室が現在計画している事業についての社会的費用便益分析の結果については、市長公室長が答弁をしており、3.2倍という費用、便益は認めてみえるものの、乗客見込みの積算や「乗って残そう運動」をやってもだめだったじゃないか、こういうことも言っていた。
 私たち議員のもとにもこれらの資料が届いた。ちょうど議会の前だったが、こういうような事業計画だった。

 実は室長と同じ思いだった。名鉄でやってだめなものが今度の新しい会社でどうなんだというふうに思い、実は神田町6丁目の新鉄道準備室へ行ってきた。そこでのお話はもう私にとって大変カルチャーショックであり、初めに言われたことは、この事業はあの名鉄電車の復活ではない、まさに新規参入事業だ、そういう評価をしてくれということだった。
 
 早ければ来年度にも旧美濃町線を走らせるという計画だけれども、走る電車はLRTだ。低床、低振動、低騒音、料金は岐阜市内100円、それから、岐阜―関間は今までの510円が450円、岐阜―芥見で前390円だったのが300円、朝と夕方は10分置き、それから……できるわけないと思うだろう。
 人間も長く生きてるとそういうふうにね、もう非常に、事を聞いたときに疑い深くねえ、そういう純粋に受け取るという気持ちが薄れてくるけれども、実はね、こ富山の万葉線、えちぜん鉄道ね、福井の。そういうところは実はこれ実現している。
 例えば、パーク・アンド・ライドを市が応援して安く借りる、それから、ほかの鉄道と接続する、岐阜で言えば長良川鉄道とか樽見鉄道だ。それから、TDMでスピードアップする、高岡では電車の沿線に高校とか図書館を移転させて公共施設をつくった。
 そして、えちぜん鉄道では駅に無料のレンタサイクルをつくって、これ放置自転車でやったんだけれども、その自転車を電車の中に持ち込めるようにする。
 こういう漫然と走らせるのではなくて、乗るための仕組みづくりを非常に精力的にやっている。
 結果ですね、LRTのMOMOを導入した岡山では前年比で4%、高岡では3%、福井では15%という乗客増がある。
 で、財政計画上も年間12億も赤字を出してそういうとこに税金使っていいのかというふうに言われた。
 しかし、この計画を見ると初年度3億8,000万ぐらいでずうっと減っていって、10年後ぐらいには大体とんとんになる。
 まあ一言言っておくと、私は公共交通というのは赤字で何で悪いのか。
 だって、国際会議場だって市民会館だってずっと赤字だ、運営費。毎年補てんしてんだから、こうやって市民が都市機能を移動する、このことが公共の性格からいって赤字で悪いとは思わないが、そういう財政計画を持っている。
 とにかく、あの電車の復活ではない、新しい事業だ、このことが私は大変新鮮に受けとめることができた。
 そして、先日県議会で地域計画局長も答弁をしたけれども、今後関係の沿線市町と、関係市町と一緒に事業者の説明を聞いてみたいということだった。
 そこで、岐阜市としてもぜひですね、この関係者会議でよく勉強していただきたい。あなたがあれこれ疑問に思ってるっていうことを、ここへね、岐阜市としても主体的に参加してってほしいというふうに思うが、御答弁をお願いする。

(岐阜市答弁)
 路面電車の再生復活に係る事業の提案について、現在この提案に対して岐阜県が主催する意見交換会に事業提案者も参加し、提案の具体的な内容について話し合いをしているところである。
 路面電車は既に昨年3月末をもって廃線となっており、既に架線、車両はなく、現在、軌道の撤去協議が名鉄と道路管理者の間で進められている。
 仮に再生をするということになると、その取り扱いは今までの名鉄の継続事業とはなり得ず、新規の事業特許が必要となり、バリアフリーの対応を含め、審査基準が厳しくなっている。
 また、提案されている事業計画には、利用者増の根拠や収支計画、併用軌道における道路構造上の問題や軌道敷内通行不可など、課題と問題点がある。
 このようなことから、県当局と沿線市町といたしましては、事業提案者から既に示されている事業計画のさまざまな課題や問題点について、まずは明らかにしていただくことが必要ではないかと考えている。
 引き続き県と沿線市町及び事業提案者が話し合いを重ねていくことになるのではないかと考えている。

(岐阜市答弁に対する質問)
 電車について、ちょっと一言だけ市長に聞いておきたい。
 美濃町線からまず走らせる計画だと言ったけれども、初期投資が合計で47億円。 今トラストみたいなエンジェル基金を集めてみえるが、会社、民間の出資が16億超、それから、国庫補助が15億円、で、地域の協調補助っていうのが15億円あって、そのうち県と関係市町が半分ずつですから、7億7,000万円、県。
 そして、関係市町7億7,000万、この7億7,000万のうち、人口案分でやってくと岐阜市(の負担分)は、4億5,000万だ。
 まずスタートの旧美濃町線の新しい電車を走らせるのに、岐阜市分で4億5,000万を出せないか。

 出せる。だって駅前のデッキの幅広げて5億円だ。
 で、西の方でもシティ・タワーの前、幅広げましょうということでまた5億円、合計10億円、どっかから出ている、お金が。
 だから、集中と選択、そして今この岐阜市にあって、産廃が出た、電車がなくなった、いろんな店舗が撤退していく、そういう中で、これ唯一ほんとに夢とロマンのある事業だと思う。
 この4億5,000万という金額について、市長の御判断を一言だけ聞いておきたいと思う。

(市長答弁)
 路面電車については、かねてより民設民営ということで、本当に事業採算性を持っておやりになることであり、かつまた市民の皆さんの御理解が得られれば、我々としてもできる限りの御援助を国及び県とともどもしていきたいと思っている。
 先ほどの当初資金だけの問題ではなくて、事業全体、今後何年間にわたって幾らずつ毎年かかっていくのかなども含めて、総合的な事業計画の合理性などについて、国、県、それから、関係市町村の間でよく議論をして、本当にこれが我々にとって重要なものである、有効なものであるということであれば、いろいろと研究をしたいと、思っている。

<平成18年第1回定例会のまとめ>
今回、路面電車絡みで出た質疑は3点。
内容を見ると次のように分類されるだろうか。

○総合交通対策への取り組み(オムニバスタウン構想など)
○総合交通対策への路面電車再生運動の取り込み
○路面電車再生運動に対する岐阜市、岐阜市長の方針

一つ目については「バスしかない」状況下で計画を立てていくことになるが、内容を見ると事業者である岐阜バスの果たす役割は大きくなっている。
岐阜バスに行政が補助を行っていくことになるが、果たして行政の思惑と連動して岐阜バスが動くかどうかは未知数な所はある。
同社は3期連続で増収しているものの、名鉄バス・岐阜市営バスの路線移管が終了し、愛知万博のようなイベント輸送もない。
中長期的には良くて現状維持、悪ければ乗客減もあり得る訳で「補助金頼み」の経営に陥りかねないのではないかという懸念もある。
そうなると、どこが「独立採算」かと考えてしまう。

二つ目については前回も触れているので概要のみに止めるが、路面電車再生運動側の事業計画、社会的費用便益に対する岐阜市の評価は低いのかな、と思わずにはいられない。
確かに問題の多い事業計画ではあるけれども、岐阜市がその気になれば名鉄へ資産譲渡の働きかけもできるのではないかと思ってみたりもする。

三つ目、今回取りあげた路面電車再生運動への岐阜市、岐阜市の方針が問われたが、結構面白い所を突いていると思った。
JR岐阜駅の連絡通路の拡幅に5億円、シティ・タワーの前の道路拡幅に5億円が出資できて、路面電車再生に必要な負担額4.5億円が出せないのかという論点は興味深い。
また、岐阜駅前の整備に投入されている費用の大きさを改めて実感する。

これに対する岐阜市・岐阜市長の答弁はこれまで通りで全く面白味はなかったけれども。
「研究したい」としているが、どこまで具体的に動いているかも疑わしい。
岐阜市としては再生時の公金投入もさることながら、赤字確実の事業に継続的に公金投入を求める路面電車再生運動の方針には乗りたくないというのが窺える。
それからもう一つ。
市長は「市民の皆さんの御理解が得られれば」としているが、どのように意向を把握するのだろうか。
住民投票でも行うのか、それともアンケートでも実施するのだろうか。
まだ「民意を問う」所までは計画自体は熟していないが、単なる「やらない」言い訳として「市民」を持ち出すのは止めにした方が良いのではなかろうか。
最も、既に実施された市長選挙の結果を持ち出して「路面電車廃止は問題なかった」という言い方もできる訳で、この辺りは引いた目で見ておいた方がいいような気もする。

この第1回定例会後、路面電車再生運動が国土交通省に提出していた軌道事業特許申請が受理された
良くも悪くも路面電車再生運動に関する結論が18年度中には出る訳で、岐阜市議会の議論も盛り上がりを見せるのではないだろうか。
そんなことを思いながら議事録を読んでいた。


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