Simplex's Memo

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岐阜市は「路面電車」をどう議論してきたか?(その19)

2006-11-29 07:30:20 | 鉄道(岐阜の路面電車と周辺情報)
岐阜市議会と岐阜市が「路面電車」について、どんな議論をしてきたかを自分なりに議事録を読んできた本シリーズも19回目。
よくもまぁ、ここまで飽きずにやってこられたものだと自分でも思う。
今回は2006年9月に開催された平成18年第4回定例会の様子を見てみたい。

この頃になると、岐阜市内でも軌道の撤去に踏み切るなど、廃線跡撤去の動きが本格化している。
そんな中で行われた議会でどのような議論があったのだろうか。

(質問1)
 公共交通としてのバスは、路面電車が廃止され本市にとっては唯一の公共交通機関である。
 とりわけ本市の重要課題の1つである中心市街地の活性化や自動車からバスへの転換を促していくために、バスは市民、利用者に親しまれ、愛される乗り物になっていくことが必要である。
 バス交通の重要性は、今後、高齢化社会を踏まえますと、ますます増大していくものと認識している。
 10月から運行されるコミュニティバスにも大きな期待を持っている。
 以下、このような認識を踏まえて、質問する。
 
 現在、岐阜市内を運行している路線バスは、岐阜バス、名鉄バス、そして、岐阜市市営バスの3社が路線権を岐阜バスに譲渡し、岐阜バスが市内一円を独占的に運行している。
この結果、いろいろな問題もあらわれてきている。
 大きな問題の1つは、運行上の気の緩みがあらわれている。
 平成18年3月3日、夜、岐阜市寺田市道交差点で岐阜バスと軽乗用車が出会い頭に衝突、バスの乗客や軽自動車の運転手合計10人が重軽傷を負った事故があります。 この事故に関して国土交通省中部運輸局は、路線バスの運転手に対する指導や監督が不十分だとして、道路運送法違反で岐阜バスに対して警告書を発したところであります。
 関連して、運輸省が3月22日に、このバスの所管営業所・柳ケ瀬営業所の立入監査を実施した。
 この結果、安全確保のための運転手に対する指導、監督が不十分、運転手1人が法定の1日の拘束時間16時間を上回っていたといった違反が判明し、警告書が交付された事実がある。
 また、5月9日夜、今沢町を走行中の岐阜バスが急ブレーキをかけたため、乗客が転倒してけがをしたという事故がありました。
 また、事故ではないが、交通ルールを無視した運転をするという市民の苦情が数多く寄せられている。
 その中の1つは、右折の際、赤信号でも交差点を運行し、横断歩道の人々に大変危険な思いを持たせたこと。
 次に、高齢者がバスに乗車した場合、なかなか若い人々のように迅速な着席ができないのが実情であります。しかるに、着席状況を確認せずにすぐバスを発車させるために、転倒事故の危険が絶えずあるということでもある。
 また、理由はわからないが、バス停にいて乗車しようとバスを待っていてもバスが通過してしまうということも多々あった。
 また、車道を自転車で走行中、岐阜バスがクラクションで威嚇した、このような苦情も寄せられている。
 岐阜市内を運行するバスは岐阜バス1社しかない。最近は岐阜バスさんも安全運転に努力されているとの声も聞かれる。
市民から、安全で、便利で、親しまれるバスになるよう、どのように指導なされるのか、お伺いする。
 また、現在は1社のみの運行許可を持ち、独占状況であるが、国においては営業の自由化が検討されており、来年度にはこの波が岐阜市にも押し寄せる可能性があります。
 本市においてはどのような対応をなされるか、お考えをお聞かせ願いたい。
 次に、岐阜バスに対して、平成18年度バス路線維持補助事業として従来の市営バスの譲渡路線補助を含めて8,880万5,000円が補助されているが、補助金の算定基礎をお教え願いたい。
 そしてまた、さきにお尋ねしたように、路線バス営業が仮に自由化に至った場合、営業は自由競争の原理が働く。
 この場合、現在のバス路線維持補助事業は、いかなる取り扱いになるのか。そしてまた、岐阜市内の市民の交通手段の対策はいかにお考えなのか、お伺いする。

(岐阜市答弁1)
 バス交通事業者に関する質問にお答えする。
 第1点目の、岐阜バスの運転マナーについて、岐阜市は、平成18年3月に策定いたしました岐阜市総合交通政策で、バス交通を中心といたしました交通体系の確立を目指すことにしており、公共交通の使命である安全、安心の確保が重要であると考えている。
 一方、国では、昨今の公共交通機関の事故、トラブルを受けて、安全、安心の確保に向け、平成18年10月から運輸安全マネジメント、こういったものを導入するために道路運送法等の一部を改正する法律が施行される。
 この法改正によりまして、輸送の安全性を確保することはもとより、交通事業経営者の安全確保義務が明確にされ、経営のトップから現場の運転手に至るまで、輸送の安全の向上に努めていくことがより一層求められることとなる。
 議員指摘の運転マナーの向上についも輸送の安全確保のため改善すべき重点課題と認識しており、これまでにも交通事業者にはその改善を求めたり、中部運輸局岐阜運輸支局とは情報を共有しながら、運転マナーの向上に向け要請をしてきた。
 今後は法改正により交通事業者の安全確保義務がさらに増すことから、国など関係機関との連携を図りながら、必要に応じて、岐阜バスに対しまして運転マナーの向上に向け一層強く要請をしたいと考えている。
 第2点目の、路線バス事業への新規参入についての質問について、平成14年2月の
道路運送法の改正により、路線バスへの参入及び退出は自由化されております。  が、現段階では路線バス事業者は限られているのが現状である。
 しかし、これも平成18年10月に施行予定のコミュニティバス等の許認可の一本化を図る道路運送法の改正により、路線バス事業者へ参入の門戸は広がると考えられている。
 このため道路運送法改正の運用についての詳細が明らかになった時点で、本市の対応についても検討したいと考えている。
 最後に、バス路線維持補助金について、本市では、市の単独補助として、全国に先駆けて平成14年度にバス路線を維持するためのバス路線維持補助制度を創設した。
 この補助制度は、平成14年2月の需給調整の撤廃などの道路運送法改正により路線の廃止が懸念されたことから、国、県の補助基準を参考にして、市民の皆様方の移動の手段として必要なバス路線を維持するために補助制度を設立したものである。
 補助金の算出根拠については、本市における路線バス事業者は東海地区の標準的なバス運行経費を下回っているため、運賃収入が実際の運行経費を下回る場合には、その差額を路線維持補助額として計算している。
 今後、路線バス事業者の新規参入があった場合にも、市民の皆様の交通の移動手段として必要であり、また、補助要件を満たせば、この補助制度を活用して路線の維持を図りたいと考えている。

(質問2)
 JR岐阜駅周辺の自転車駐車場について基盤整備部長にお伺いする。(中略)
 路面電車が廃止をされ、エコライフで自転車を利用する人たちもふえているのではないかと思われる。
 駐輪場は既に現状でも飽和状態、いっぱいだ。
 職員、シルバー人材センターの方がやっておられるが、整理をして、詰めに詰めて、これ以上詰めようがないというぐらいうまく詰めて、そして、自転車を整理をしているわけですけれども、それでもあふれて受付の入り口の所まで置かざるを得ない、つまり屋根のついていない広場にまで置かざるを得ないということになっている。
通常の予定の台数よりも200台以上が追加で受け入れているのではないかというふうに思われる。
 そこで、東駐輪場が高架下に移動するという計画があるそうである。2段式の収納をして、1階部分、つまり高架下の1階部分、ハートフルスクエアーGから国道までいっぱいいっぱい使っても1,714台が収容台数とのことである。
 つまり今現在1,700台のところが1,714台で14台しかふえないという状況である。これは移動しただけであり、何の意味もないのではないかと思う。
 高架下は、まだ2階、3階部分はあいております。最低でも先ほどの332台、それから、潜在的な待機をしている人、それから、日常的に200台ぐらいはオーバーして預けているという状況を見れば、最低でも2,500台のスペースは確保しなければならないと、こうふうに思うが、いかがか。
 また、高架下に移動するのは一体いつなのか、お聞かせいただきたい。
 2つ目に、332台の定期利用予約の待ち台数がある。
 それから、予約をしていない希望者はさらにいるわけだが、この人たちに対するサービス、対処はどのようにされるおつもりか、お聞かせいただきたい。

(岐阜市答弁2)
 JR岐阜駅周辺の自転車駐車場の収容台数の増設と移転時期についてお答えする。
 今年度実施している岐阜駅周辺の短期的な自転車等駐車場対策に関する総合計画を作成している中で、当該地区の必要台数、候補地の選定、整備年度などを検討したいと考えている。
 今回移動する高架下空間のさらなる利用については、当該地がJRの開発区域であるため、JRとの協議が必要と考えている。高架下の駐車場建設については平成18年度内の完成を予定しており、完成後、速やかに移動したいと考えている。
 2点目の、定期利用希望者への対応についてお答えする。
 JR岐阜駅周辺における自転車駐車場の需要は、現在の定期利用希望者の増加傾向、さらに、エコライフや健康志向からの自転車利用回数の増加のほか、駅前再開発事業等によるにぎわいの創出などから、基本的には高まる方向にあると考えている。
一方、人口減少、大型商店施設の撤退など、自転車利用者の減少の可能性のある社会的要因もあり、長期的な方向は不透明であると考えている。
 このようなことから、短期的には最小限必要とされる自転車駐車場の収容台数を確保する一方で、長期的に鉄道事業者等への協力を図りつつ、既存自転車駐車場の有効活用など総合的な取り組みを進めたいと考えている。

(第4回定例会のまとめ)
岐阜の街から路面電車が姿を消して一年半。
議員の関心はもはやなく、「路面電車」という言葉が出てきても、もはや「枕詞」的な使われ方をしていることがわかる。
それは、路面電車再生運動に対して一言も言及がなかったことからも明らかであり、その意味ではまさしく「路面電車の復活の目は完全に消えた、いや行政サイドの視野には全く入っていなかった」ことが言える。

今回の質疑を見ていて興味を惹くのは、順序は逆になるが次の二点。
・路面電車廃止に伴って、自転車利用者はどれだけ増えたのか。
・路面電車廃止、バス路線の一体化によって岐阜市内唯一の公共交通機関となった岐阜バスの現状

前者については、岐阜市自身が自転車の活用を強く主張してきた経緯があり、その結果としてJR岐阜駅周辺の自転車置き場が自転車で溢れているということになる。
路面電車廃止に伴ってどれだけの人が自転車へ、自家用車に切り換えたか、揖斐線では結構調査がなされた記憶があるが、岐阜市内線ではどうだったのだろうか。
数値的な根拠が欲しかったと思う。

後者については、路面電車廃止直後から岐阜バスは様々な問題を起こしていた。
問題を引き起こす、その企業体質は全く変わっていないということが質問から読みとれる。
それから路線維持のための補助金。
性格としてはローカル私鉄の路線存続のために自治体が交付するお金と変わるところはない。
路面電車への赤字補助による路線存続はいわば「二重投資」であり、そういう意味からも存続はあり得なかったし、復活はもっとあり得ない。
そういった所からも、岐阜市が早い段階からバス中心の公共交通計画を考えていたことが読みとれる。
ただ、路面電車を「幹」に、バスを「枝」にするという発想はあり得たと思うが、安全地帯さえもない貧弱な環境ではやはり無理ということになろうか。
それ以前に岐阜市自身が「バス中心の公共交通体系」を構築することを明らかにしている以上、そういった意味からも行政サイドが路面電車に対して冷淡な対応をとり続けたと改めて思う。

ただ、その「主役」たる岐阜バスにも事業者としての的確性に疑義がある、棚からぼた餅的に独占的な地位を手に入れたことによる奢りが見られるような気がするのは自分の気のせいだろうか。
その姿勢を正す一番の薬は新規路線バス事業者の参入による競争、ということになると思うのだが、ただでさえ路線バス事業は採算性が悪い。
そのような事業にわざわざ参入してくる事業者もそういるとは思えない中、この問題は根深いものがあると感じた。

ここまで19回(前後編もあるから実際はもっと多い)に亘って続けてきたこのシリーズ、今回を以てひとまず終わりにしたいと思う。

理由としては、次の三つ。
・岐阜の街から路面電車が消えて一年半が経過し、軌道の撤去も本格化し急速に痕跡を消しつつあること。また、市議会の議論からも「路面電車」が姿を消していること。
・名鉄の資産を活用した路面電車再生運動、「サン・ストラッセ」を中心とした再生運動に一区切りがついたこと。
・「サン・ストラッセ」側が名鉄の資産を活用せず、ゼロからの路線計画を検討していたり、関市の有志で始まった「関に電車を望む会(美濃高速鉄道ネットワーク研究会)」の議論は従来の再生議論とは別物として考えた方が良いと考えられること。

ただ、誤解して欲しくないのは、今回の記事を最後にこのカテゴリーの更新を打ち切る訳ではなく、何か興味を惹く話が出てくれば、また書くこともあるかもしれない。
まぁ、区切りとしては良い塩梅ではないかと思っている。

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