Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

岐阜市は「路面電車」をどう議論してきたか?(その12・前編)

2005-03-24 06:01:00 | 鉄道(岐阜の路面電車と周辺情報)
 住民の大部分が納得できるとは思えない状況下で突然出された、岐阜市の路面電車の存続断念表明。
 このため、路線存続を求める運動は止まなかった。
 そして、11月にはフランスの企業、コネックス社が岐阜の路面電車への経営参入を表明し、事態は複雑化していく。今回の事例ほど、路線の存廃を巡って様々な議論が交わされた事例はないと思う。
 今回は平成16年最後の県議会である第7回定例会における議論を見る。
 なお、本文中<質問>は議員質問内容、<答弁>は市当局、<市長答弁>は市長の発言内容をそれぞれ示す。

参考:「岐阜市議会議事録」

<質問1>
 路面電車、特に揖斐線の代替交通についてお尋ねする。
 揖斐線については、国土交通省は去る平成16年11月8日に名古屋鉄道株式会社に対し来年3月31日での廃止許可を与えた。これをもって、90年にわたって市民が利用してきた岐阜市内線等を初めとする電車が廃線となる。現在600ボルト線区全体で約1万人の利用者が通勤、通学を初めとして利用している。特に揖斐線沿線では学生に多く利用されており、廃止された後の代替交通の確保は緊急を要する問題となっている。岐阜市を初めとする沿線市町にとって岐阜600ボルト線区の利用者のために足の確保は重要な課題となっている。このためには現在の鉄道サービスの水準を確保することは最低限度必要であり、現在の鉄道利用者に不便をかけないようにする必要がある。
 ところで、電車の存廃問題に関して一言申し上げておきたい。
 沿線市町が路面電車の存続に向けて活動を行っている際に、廃線に係る許認可権限のある国や、道路管理者であり広域行政をつかさどる立場にある岐阜県はどういった役割を果たしてきたのでしょうか。見ている限りでは不十分で、国、県及び市の連携不足により、結果として岐阜市が大きな判断を強いられたように思う。このようなことは現在進めている代替バスについても同様に見受けられるところである。岐阜市を初め、沿線市町では市民生活への影響を懸念する余り、国や県を差しおいて突出した動きになっているのではないかと心配している。
 揖斐線や美濃町線の代替バスの運行は広域的交通体系を確保することである。こういった状況の中で国や県は積極的にその役割を果たすべきであると思う。市当局においては国や県に要請すべきは要請し、国、県及び沿線市町が連携を図って代替交通に向けて万全の体制をとっていただきたいと考えている。
 そこで、以下について質問する。
 第1点目として、本市では来年度から市営バスのすべての路線が岐阜バスに営業譲渡され、市内バス運行は岐阜バス1社の体制となる。現在検討が進められている代替バスの運行にあっては自由参加の観点から、必ずしも岐阜バス1社にこだわる必要はないと考えており、むしろ市民の中には岐阜バス1社となることによる弊害を心配する向きもある。このために代替バス事業参入については広く他の交通事業者からも提案を求めることが必要ではないかと考えるが、その取り組みの状況はどのようになっているのか。
 第2点目として、来年4月1日の運行は待ったなしの状況であり、限られた時間の中での作業となるが、今後の代替バス運行に係る作業の見通しはどのようになっているのか。
 第3点目として、電車が廃線となった後の代替バスの運行は御嵩町や豊田市など他都市においても運行が実施されているが、いずれの都市も非常に経営が厳しい状況であり、運行維持のための補助金によって維持されているところである。本市においても名鉄が撤退するということはもうからないからであって、その代替バスは赤字運行になり得る状況と想定、対応していくことが必要ではないかと思う。もとより営業の効率化等、バス事業者の経費削減の努力が大前提となるが、それでも赤字が生じた場合は、生活路線を確保する観点に立って沿線市町が適正な負担の中で維持助成を図るべきではないかと考えるわけであるが、以上3点について市長公室長にお伺いする。

<岐阜市答弁1>
 現在、沿線市町対策協議会の場において作業を進めており、美濃町線では現行バス路線の始終発時刻の繰り上げあるいは繰り下げ、さらには増便を、揖斐線については並行している国道303号を活用したルートなど、交通空白地域が生じないよう地域交通の確保や輸送サービスの向上を図るため、さまざまな角度から検討を行っている。
 また、沿線市町対策協議会ではバス運行事業について参入の自由の観点から門戸を広げ、去る11月2日に岐阜県バス協会及び岐阜県タクシー協会に加盟している交通事業者に対して説明会を開催した。 その際には、バス事業者とタクシー事業者、合わせて15社が参加をしたが、各事業者から具体的な申し入れはなかった。現在は既存路線の合理的活用等の観点から岐阜バスと運行について鋭意検討を進めている。
 次に、2点目の、今後の見通しについて、沿線市町対策協議会において岐阜バスとルートや運行本数などの事業計画の策定を本年12月中をめどに行うこととしている。その後、岐阜バスから中部運輸局に対してバス路線の認可申請を行っていただき、4月1日からのバス運行に向けて万全の準備を進めているところである。
 最後に、3点目の、バス運行に対する維持助成について、代替交通の運行に当たっては交通事業者がその責任において行うべきものであり、運行の効率化や経費の削減といった企業努力が必要であると考えている。したがって、運行当初から助成を前提としているものではない。しかし、交通事業者が経営努力をしたにもかかわらず赤字を生じた場合においては、利用実態を把握する中で、利用者の利便性確保や生活路線維持等の観点から、沿線市町が支援についての検討を行っていく場面も生じるのではないかと思っている。

<質問2>
 コネックス社の提案する交通政策についてお尋ねする。
 まず、路面電車の存続については、岡山電気軌道株式会社との上下分離方式による運行を目指して、さまざまな検討がなされてきた。財政が先細りになり、さらに、利用者が減少し続ける中で今後さらに財政負担を続けていくことは適切な財源の活用とは言えないことなどを理由に、沿線市町における存続については断念したところである。さらに、11月8日、国土交通省は名古屋鉄道株式会社に対して岐阜市内線、揖斐線、美濃町線等の廃線を許可した。
 これからの高齢社会に比較的維持コストが安く環境に優しい、しかも、交通渋滞にも影響されない路面電車を存続させたい。あれだけの資産をなくすことはないと考えていた。しかし、現状の路線では中途半端であり、今後の都市交通の機能体系も路面電車とバス路線で整えるため、路線を延長し、岐阜大学病院と県庁、また、環状線をつなぐよう重要な移動手段として位置づけ、整備再生したいという思いがあった。しかし、年間4億円ほどの赤字補てんをする上に、さらに、延長整備のために膨大な財政負担をかけることは到底不可能なことである。断念やむなし、苦渋の選択であった。また、路線バスは来年3月末をもって岐阜バスへの路線譲渡が完了し、これにより岐阜バス1社体制となる。
 このような中で市民交通会議や1日市民交通会議等が開かれ、バス料金に関することやバス路線網についての問題、さらに、地域の足となるコミュニティーバスの整備を求める等の意見が出された。市民は現状のバス路線に不満を感じている状況がよくわかる。今後、本格的な少子・高齢社会が到来し将来のまちづくりを考えるとき、現状を抜本的に考える新たな理念に基づく総合交通政策の検討が絶対に急務である。
 こういった中、11月15日、フランスのコネックス社から岐阜都市圏における公共交通ネットワークを関係市町とともに考え、それに基づいて行政と契約を結ぶという形で公共交通を運営するといった内容の提案があった。コネックス社についてはフランスのパリに本社があり、世界23カ国、5,000地域で公共交通に関する事業の展開をしており、2003年の売り上げは約4,775億円と聞いている。今回の提案にはコネックス社と行政が契約関係を結び、互いが一定の投資を行う中で、両者が利益を上げていくといった考えに基づいて行われている。これはコネックス社が今まで海外で行ってきた事業手法や実績に基づく提案と思われる。
 ヨーロッパでは交通に関する権利、いわゆる人が移動する権利を保障するといった人間主義的な考え方が根幹にある。公共交通は運賃収入のみで経費が賄えるものではないとの認識があり、よりよい公共交通サービスを受けるために市民が一定の税負担を行うことは当然であると考えている。例えば、道路をつくるように河川を整備するように都市計画として公共交通を整備する。赤字になるから運賃を上げるのではなく、税の一環として運用し、もし利益が上がったならば市民に還元をする。今回のコネックス社の提案の根底にはこういった理念、考え方があると理解をしている。しかしながら、このようなヨーロッパ型の提案を、理想的とはいえ、一挙に日本に、岐阜に持ち込むのは大変に難しい感がある。赤字になれば運賃を上げる、運賃を上げれば利用者は減少するといった悪循環が続く日本で、新たな公共交通の位置づけのため、思い切った改革をする時期が来ているのではないだろうか。だれもが、このままではいけない、何とかしなくてはと危機感を抱いている。コネックス社の提案は単に外国企業が岐阜に参入ということではなく、改革と受けとめるべきである。なぜならば、コネックス社は交通手段は市民の足を守ることであり、交通行政の基本の基本であることを認識させてくれたからである。黒船が明治維新のきっかけになった、まさにそれである。コネックス社の進出実現は、路面電車存続、再生がかなうチャンスととらえている。
 そこで、以下、3点についてお尋ねする。
 第1点目、コネックス社は11月15日、国、県を初め、沿線市町に対し事業提案を行ったが、この提案をどのように受けとめられたのか。
 第2点目、今回提出された提案を今後どのように取り扱っていかれるつもりか。
 第3点目、仮にコネックス社が実際に運行を行うことになった場合、恒久的な財源確保をするため、仮称・公共交通税の制度を設けられるよう、また、仮称・公共交通維持交付金を国から受けられるよう国、県に働きかけてはどうか。
 交通政策の行き詰まりはどの自治体も抱える共通の課題である。岐阜モデルをつくり、岐阜から全国へ発信してはいかがか。

<岐阜市答弁2>
 コネックス社はヨーロッパを中心として世界各地で公共交通全般に関する事業を展開している会社である。今回の提案は、岐阜都市圏におけるバスや路面電車などの公共交通ネットワーク構築について提案をされたものであると認識している。
 2点目の今後の取り扱いについては、コネックス社の提案は、コネックス社と行政が権利と義務を定めた契約を結ぶことなどを初めとして多岐にわたっており、その内容について疑問点などもあり、十分に理解ができない面もあるので、関係機関が一堂に会する検討会等への参加を通じて岐阜市の公共交通に対する考え方を説明するとともに、本提案の課題も整理したいと考えている。
 3点目の、恒久的な財源の確保について、例えば、フランスでは交通税として公共交通に対しての財源確保の手だてが実施されているところである。一方、我が国ではバスについては国、県、そして、本市においても生活路線の路線維持に対する助成制度が確立されているが、鉄軌道に対しましては国及び県について制度がなく、良質な公共交通サービスの確保という観点からすると十分とは言えないと考えている。今後の高齢社会の進展、環境問題の顕在化、あるいは、まちづくりの再生などの社会状況を踏まえると、公共交通ネットワーク整備とその財源は重要な課題であると認識している。恒久的財源確保の問題は国の制度改正を伴うものではないかと思っており、国など関係機関には問題提起をしていきたいと考えている。

<質問3>
 検討会等へ積極的に参加して、コネックス社の内容について検討していくということであるが、いつ参加するかということが問題だと思う。条件をつけて条件が整えば参加するということではだめだと思う。今、動きを市が静観をしているという状況で、まだコネックス社が基本理念だけを公表しただけで、経営上の試算が出してないということが理由のようであるが、むしろ呼びかけがあれば積極的に検討会に参加をして、その中で市の考えを述べて、そして、可能かどうかを見きわめるべきだというふうに思うが、いかがか。

<岐阜市答弁3>
 コネックス社からの提案については、公共交通事業の運営などに対する基本的な考え方を示したものであって、提案された内容については整理すべき課題等もあると考えている。そこで、検討会あるいは準備会への参加は、国や県など関係機関が同じ席に着く場であると理解しており、要請があれば、これに参加したいと考えている。この検討会等の場においては提案書の内容について疑問点や課題を整理していくとともに、岐阜市の公共交通に対する考え方も示したいと考えている。
 また、名鉄路面電車廃止に伴う代替交通の確保については、コネックス社の問題に左右されることなく、平成17年4月1日からの運行開始に向けて、鋭意その準備を進めているところである。

<質問4>
 名鉄電車の撤退についてお尋ねする。
 岐阜市が名鉄電車の撤退やむなしを表明して以後に開催された市民交通会議、1日市民交通会議は、それでも電車を残すよう岐阜市に迫る意見であふれている。この最初の市民交通会議に市長が出ずに助役が出て市長の思いを伝えたというあたりも、ちょっと解せぬところだが、「こういう会議を意思決定する前に開くべきや。」といったような声まで1日市民交通会議では上がっている。そこへフランスのコネックス社から路線を引き継ぐ意思がある旨の計画提案があったわけである。提案書に目を通しただけで説明を受けているわけではないので限界があるが、ポイントと思われる事柄についてお伺いする。
 フランスと日本における公共交通に対しての認識の違いもあるが、コネックス社が述べていることは、財政的な支援、そして、電車の走る環境の整備、乗客のサービスの向上、利用料金の一元化などへの支援を求めている。そして、前提条件として名鉄との協議が調うことも述べている。求めている前提条件の中で、必要な資料、データの情報収集やら研究やら調査が期間内に終わることと同時に、名鉄及び他の公共交通事業者との事業引き継ぎ等に関する調整が完了することというものがある。この件について市長の思いを聞くのは新聞紙上ということになっているが、岐阜市は民と民の話だから名鉄と話し合ってもらえばいい、名鉄さんはどうかというと、自治体と話し合ってもらえばいいということで、キャッチボールが続いているようである。きょうの新聞にも伝えられているが、検討委員会に参加する。要請があれば出るということだが、この検討委員会に参加する岐阜市側の姿勢の問題として、お金のかかることはできない、あるいは、あくまでも民間と民間の話という姿勢なのか、どんな姿勢で臨まれるのか、答えていただきたい。
 これは新聞紙上で伝えられた中部運輸局長の講演内容で、「路面電車が見直されている中、四十万人の都会でどうして存続できないのか」さらに、コネックス社の打診にかかわって、「赤字部分の面倒を誰が見るかは今後避けて通れない議論。欧州では市が交通計画を立てて持ち出し覚悟でやっており、コネックス社はそれを見越している。日本でも今後欧州スタイルに変わってくるのでは」と述べているが、市長はどんな姿勢でこの検討委員会に臨もうとしているか、答えていただきたい。
 そして、もう一点、岐阜県への要請について、JRや私鉄の鉄道、路面電車などの撤退に対して、全国各地で自治体などが中心になり第三セクターを立ち上げて路線を守っている例がある。それは上下分離であったりと、形態はさまざまであるが、目を引くのが沿線の自治体とともに県が主導的な役割を果たしていることである。青森県や岩手県の姿勢であるが、市町村には負担はかけられないと明確に答えられているようである。美濃町線、揖斐線、ともに行政を超えているわけであるし、県も主体的に参加するべきと思う。県にこの名鉄撤退問題に対して主体的な参加をかけ合う用意はないのだろうか。

<市長答弁4>
 コネックス社が提案するであろう検討委員会に参加するに当たっての基本的考え方、姿勢についての質問について、コネックス社は今月をめどに検討会を立ち上げたいと考えているようであり、非公式であるが参加の打診を受けている。本検討会には沿線市町はもとより、中部運輸局など国の機関あるいは岐阜県及び岐阜県警察、さらには、交通事業者にも呼びかけをしていると聞いている。当然本市としても正式な要請があれば、この検討会に参加をし、提案内容の疑問点などについて、この検討会の場を通じて検討、精査をしていきたいと考えている。
 コネックス社が交通事業運営に参画するに当たっては、民間交通事業者との間でバス路線や資産問題等についての調整が必要ではないかと考えており、民間同士の話し合いも積極的に行っていただきたいと思っている。
 いずれにしても、コネックス社は検討会の進捗に合わせて、事業内容についても触れていきたいと言っているが、路面電車については交通手段としての有効性を否定しているものではないので、この検討会において本市の考え方を明確に説明し、関係機関で議論を深めていきたいと考えている。
 2点目、県の役割についての質問があったが、県の役割について、他地域の鉄軌道廃線後の対応の中では県が重要な役割を担っている例が多く見られる。例えば、福井県のえちぜん鉄道では、新会社への設備投資に関する補助を全面的に行っており、また、富山県の万葉線では第三セクターへの出資、さらには、青森県の青い森鉄道は上下分離方式であるが、青森県は運行会社への出資はもちろん、第3種鉄道事業者として資産購入を初め、線路、電路の維持管理等を行っているという状況である。
 岐阜600ボルト線区は、関市あるいは本巣市など、揖斐方面とも結ぶ広域的な路線という観点から、岐阜県には指導的な役割を担ってもらうよう期待をしているし、本市としても引き続き要請をしたいと思っている。

<中間のまとめ>
 路面電車の存続断念を受けて、代替交通の検討が事務的に進められていることが窺える。
 これは市長答弁ではなく、岐阜市当局が答弁していることからも明らかだ。
 そんな中で突如出されたコネックス社の構想。
 この構想に対して、岐阜市はどう対応して良いか戸惑っている様子が見える。
 しかし、気になるのは「民間交通事業者との間でバス路線や資産問題等についての調整が必要ではないかと考えており、民間同士の話し合いも積極的に行っていただきたい」というくだり。
 まずは民間企業間で調整を、という訳だが、話が公共交通に関するものである以上、まち作りへの影響は大きい。にも関わらず、行政が仲介して調整することは考えていないというのだろうか。
 どうも岐阜市の考え方は理解し難い。
 また、代替バスに関する答弁の中で「交通事業者が経営努力をしたにもかかわらず赤字を生じた場合においては、利用実態を把握する中で、利用者の利便性確保や生活路線維持等の観点から、沿線市町が支援についての検討を行っていく場面も生じるのではないか」とあるが、赤字に耐えきれず路面電車が撤退する以上、代替バスを運行する交通事業者が誰であっても、収支が苦しいことは明らかだろう。地域の足を守る必要がある以上、そういった事態を想定して対応を検討していく必要があるのではないかと素朴な疑問を持った。
 
 後編へ続く。

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