Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

岐阜市は「路面電車」をどう議論してきたか?(その12・後編)

2005-03-26 08:10:21 | 鉄道(岐阜の路面電車と周辺情報)
路面電車存続断念を受けて代替バスの検討を始めた矢先に飛び込んできたコネックス社の参入話。
これについて、どう議論が繰り広げられたのだろうか。
前編から引き続き、平成16年第7回定例会を見てみようと思う。

<質問5>
 11月15日にフランスの大手交通事業運営会社でフランス・パリに本社を置いているコネックス社から、岐阜市を含む岐阜都市圏におけるバス及び路面電車、鉄道等の公共交通を包括的に事業運営を図る理念や基本的考え方を示した提案書が、岐阜市を初め、路面電車の沿線市町や中部運輸局、中部地方整備局等の国の機関、さらには、岐阜県及び県警察本部に提出されたところである。
 コネックス社に関する問題については、既に他にも代表質問が出ているため、重複をなるべく避けて質問する。
 ところで、コネックス社は1868年、明治維新の年にフランス国内はもとより、ヨーロッパ、北米、オーストラリア、これにはカナダも入るが、世界23カ国、5,000の地域で旅客輸送事業を展開し、総従業員数は5万6,000人を抱える欧州最大手の公共交通運営事業会社である。さらに、コネックス社が特筆すべき点は、単に公共交通を運営するだけでなく、その都市のまちづくりと深く連携を図り運営をすることであると言われており、公共交通とまちづくりの両面において豊富な経験とノウハウを有していることである。また、コネックス社が所属するグループ会社として、ヴェオリアエンバイロメントは上下水道事業、エネルギー事業、環境事業を事業内容としており、2003年度の売り上げは3兆7,180億円という巨大な企業であり、コネックス社だけでも約5,000億円という会社である。外資であるコネックス社が岐阜に着目をし、何とか公共交通とまちを再生したいということから、このたび提案を持ってきたということには、大変価値があることではないかと考える。
 岐阜市では現在この提案書についてさまざまな角度から検討や精査を進められているとは思うが、見方を変えれば、このたびの提案は、岐阜市の公共交通を高齢社会、まちづくり再生にふさわしいものへ大きく転換することができるチャンスである。岐阜県では積極的に提案の中身に踏み込み、大変関心を持っているようであるし、一定の評価をしていると聞いている。このたびコネックス社からは関係者が一堂に集まる場への呼びかけ等の動きもあるかと思う。
 岐阜市としても関係行政機関から押し込まれてやっていくのではなく、積極的な取り組みが必要である。これについては積極的に取り組んでいくというので、これについては割愛する。

<質問5に関連する発言>
 路面電車について積極的にやっていくということで、新聞等にも掲載されたのを見て頑張っていくんだなということを思ったわけであるが、たまたまこれは12月6日の中日新聞の記事であるけれども「市民は置き去り」という一文がある。で、名鉄、岐阜バス、岐阜市長三者の見解が記事になって紹介をされている。この記事を読むと、三者でそれぞれたらい回しという表現が適切かどうかわからないが、それぞれに聞いて、ということで何かこう余り積極的という印象がない。
 市民は置き去りといっても、仕方ないのかなあと思うところもあるが、色々なところで特に高齢者の方たちの会合へ行くと「私たちが言ったところで声なき声なので、言っても仕方ないけど、路面電車がなくなるということはさみしいわ」という声を、よく聞くということがある。
 これからの21世紀にとって公共交通のあり方を模索しなければならないときに、まあ、これで終わりかなと思った時にこうやってコネックス社が名乗りを上げたということでありがたいと思っている。10月に東京にいるときに、コネックスのピエール・コプフさんにちょっと1時間ぐらい会って、いろんな話を聞かせていただいた。
 コネックス社は新潟にするか、岐阜にするか、どっちか迷っていたと。その中で岐阜市を選んだと。で、まあ理由を聞くと新潟よりも岐阜の方は、やっぱりこれは東海道メガロポリスだから、東海道というのはこの日本の産業構造の中でのもうゴールデンルートであるので、この中で岐阜を目指してやっていきたいという見解もあった。
 仕掛けという言葉をまた使っていいかどうかわからないが、国土交通省や県がかかわっている。今も県でかなり積極果敢に議論しており、岐阜市は公設民営はあり得ないという市長の見解もあって、一度決めた以上は確かにその方策はあり得ないと思うが、また違う切り口で公設民営ではなくても、様々なサポートの仕方もあるのではないかと思う。
 積極的に岐阜市として参画をしていくという答弁もいただいているので、見守っていきたいと思っている。
 公共交通について、この間も市民会議を色々な所で意見の吸い上げをやっているが、どうやってこの岐阜市の公共交通対策に反映をしていくのか、具体の部分が見えない。単なるガス抜きでやったのではないと確信しているが、どうかまた具現化するようにたたき台の場ができるように望む。それと共に公共交通を見るときに、運営をして赤字を行政が補てんするという図式になってしまうとは思うが、そうではなく福祉と環境の部分での財政出動でもって公共交通を支えていくというコンセプトを出していかないと、行政があくまでもその公共交通をやってる民間の会社に対して赤字の補てんだけをするということは受益者負担という観点からいってもちょっとこれはおかしいなという意見が出てくるので、ヨーロッパの今のLRTの運営を見ても福祉の面、そして環境の面での財政出動があるということである。
 いつまでもいつまでも今のやり方ではなく財政出動するにしても、こういった理論で、こういったコンセプトで財政出動するんだと、そういった環境での面でのバックアップ、そして福祉の面でのバックアップがきちんと明確に打ち出されれば、例えば、公共交通に対しての赤字の補てん、そして補助金を言っても、ある程度理解が得られるんではないかと思う。その辺のところの論理構成をきちっとやっていただきたいと思っている。

<質問6>
 路面電車の廃止について市長にお尋ねする。
 岐阜市長は本年7月に突然名鉄3線の廃止決定を表明されたが、これに対し沿線住民の多くから、その経過について十分な説明がなされなかったと、市の対応について不満が聞こえてくる。関係住民のの存続に対する期待を裏切った対応だけに、関係者の行政不信はぬぐえない。
 市は関係住民の皆さんに対し今後どのような説明責任をされるのか。

<市長答弁6>
 (路面電車の廃止という)結論を急ぎ過ぎたのではないかという指摘について、市民への路面電車に関する存続断念に至った経緯等は、各地区でのまちづくりトークの機会など、さまざまな機会で申し上げてきた。私としても市民に十分説明を行い結論を出したつもりであるが、今後一層の努力をして、市政執行に対する説明責任を果たしたいと考えている。

<平成15年度岐阜市一般会計、特別会計歳入歳出決算認定における反対討論>
 総合型交通社会実験において路面電車実験関連として1,535万円余りが支出されている。岐阜市総合型交通社会実験評価報告書は平成16年3月に出されている。
 路面電車の実験の部分を調べてみると、これは存続を対象に行われた調査であることは一目瞭然である。にもかかわらず、報告書が出された約4カ月後には市長は存続断念を表明された。
 一体何のための実験だったのか。
 このような無責任な実験に1,530万円余りも使われたことを到底認めるわけにはいかない。
※ 上記反対討論はあったが、賛成多数で認定されている。

<第7回定例会のまとめ>
 何の前触れもなく突然出された岐阜市長の路面電車存続断念。
 しかも、説明責任を果たしているとは思えない形で。 
 議会は、市長の判断を追認する結果となったが、もう少しやり方はあったのではないかと思う。
 
 今回の路面電車に関する議論を見ていると、三つの論点がある。一つ目は路面電車存続断念理由が納得できない、説明責任を果たしていないという問題、二つ目は路面電車廃止後の代替バスの問題、三つ目はコネックス社参入問題。

 一つ目の問題に関する答弁はどうにも納得できるものではなかった。運営コストの問題は過去に散々指摘されており、「市民の理解が得られない」というのも「卵が先か鶏が先か」といった類の話で、劣悪な路面電車の利用環境改善に市なり県が動かなかったから市民の支持も離れていった、そして名鉄も耐えきれなくなった、というだけの事で、「市民の理解を得る」ために岐阜市が何か改善策を講じたという話はついぞ見ることがなかった。
 議論を深めようとしても名鉄の撤退スケジュール上時間的にも難しいため、路面電車に関する議論は時間切れで投げ出した、という気もしないでもない。
 市長の判断は結果的に短期的な見方しかできなかったのかと思う。

 二つ目の問題について、岐阜市の答弁に関するものが多かったように既に事務レベルの案件へ移行している。
 質問の内容を見ると、岐阜市の公共交通を支えるのが岐阜バス1社になることへの危惧、赤字事業者への補助といったものが見受けられる。
 しかし、補助については「交通事業者が経営努力をしたにもかかわらず赤字を生じた場合においては、利用実態を把握する中で、利用者の利便性確保や生活路線維持等の観点から、沿線市町が支援についての検討を行っていく場面も生じる」と言っているが、もとより赤字で撤退する鉄道路線の代替バスということで、採算が最初から合うとも思えない。実際、揖斐線代替バスを見ていると鉄道時代に比べて本数も減っている。まずは交通事業者が努力を、というのは正論だが、逆に言えば交通事業者任せで放置、というふうにも読める。市答弁を見ていると悠長に構えているが、気がついた時にはバス路線もなくなっていた、という事になりかねないのではないか。

 三つ目、コネックス社の参入問題については、第7回定例会直前に参入構想が発表されただけに具体的な議論には至らず、同社が設置する検討会への岐阜市の姿勢が問われていた。
 公共交通の基盤である路面電車を自ら葬り去る選択をした岐阜市が積極的に関与していくかと思えば、さにあらず。
 既存交通事業者との調整が必要と条件をつけて、あまり積極的に関与したがる様子が見えない。どうも行政が公共交通をコントロールしたいのだが、コネックス社の構想では行政と契約を結んでいくといった斬新な形態をとっており、行政が主導できる余地が少ないのが消極的な対応に留まっている理由ではないかと思う。
 岐阜市はようやく市民参加型の「1日市民交通会議」で公共交通を議論しているが、果たして市民の要望を計画にまとめ得るか、甚だ疑問に思っている。
 繰り返しになるが、名鉄の撤退については、路面電車をはじめとする公共交通をまちづくりに反映してこなかった、行政の無策が大きな要因を占めていると思っている。今度の計画も岐阜バスに依存する計画しか作れないのではないだろうか。LRTなどは中長期的に検討すべき課題と位置づけるだろうが、財源に問題があるから、「市民の理解が得られない」から建設を決断できない。
 仮に「市民の理解が得られない」としながらも建設を強行することがあれば、今回の場合と全く逆の事になる訳で、「市民の理解」を都合良く使い分けるご都合主義の誹りは免れない。
 そして、止まるところを知らない車社会の進展は続き、それに対応する手段も見つからないまま岐阜市の公共交通機関は衰退の一途を辿っていくような気がする。
 いずれにせよ、この問題については、前向きという印象は受けなかった。 

<全体のまとめ>
 とりあえず平成16年第7回定例会まで、今日現在岐阜市議会のホームページにアップされている議事録に目を通してきた。
 路面電車廃止前にようやく目にすることができる最新の議事録までたどり着くことができた。
 長かったと思う。それにしても疲れた。
 
 遠い昔に路面電車の廃止決議をしておきながら、いざ名鉄の撤退が具体化すると党派を超えて存続を強く求める岐阜市議会。
 安全島設置不可、軌道への自動車進入を放置しておいて、名鉄が走らせているのだからとこれらの対策を行わず、名鉄がこれらの改善を求めても放置し続けてきた岐阜市と岐阜県。

 いざ名鉄の撤退が具体化すると不完全な交通実験などで引き止めを図ろうとしたが、利用者離れが決定的になっている状況下では効果もある筈もなく、結果的に時間切れで廃止に至った。
 路面電車撤退表明後の議論を見ていると、両者共にあまりにも名鉄への依存が強すぎ、それが議論を遅らせた印象がある。名鉄なら最後に翻意してくれるだろうと。

 劣悪な環境下で路面電車を21世紀初頭に入っても維持できたのは、やはり財務的に余裕のある名鉄だからできた話であり、これが中小私鉄であったら70年代の路面電車廃止の潮流の中でとっくに全廃されていてもおかしくない。名鉄の経営努力が足りないという話も聞くが、事業者の枠を超えた話には対応困難である。そう考えれば、もっと評価されていい。
 
 行政はまちづくりにおける公共交通問題を長年放置してきたツケをまとめて払う形で現在に至っていると言える。路面電車の意義は否定しないと言っても、今ある路面電車すら残せなかった行政に路面電車を復活させることができるとは思えない。

 いずれにせよ、岐阜の路面電車は今日を含めてあと6日で姿を消す。
 岐阜市議会の路面電車廃止決議も実現した。
 その判断が正しかったか否か、4月以降問われていくことになる。 

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