市場が再び動揺も、来年の危険シナリオ-利下げ期待消滅や中国腰折れ
Richard Henderson
2022年12月28日 10:32 JST ブルームバーグ
FRBはインフレを抑制したい一心で金融事故発生を予見しない恐れ
中国の流行曲線が春節後1、2カ月でようやくピークに達する予想も
2022年はグローバル株式市場にとって過去10年余りで最悪の年となり、債券相場も今世紀に入り類を見ない大崩れを経験したが、一部の投資家は23年について何も当然と決め込む状況にはない。
各国・地域中央銀行が利下げに方向転換し、中国が「ゼロコロナ政策」の隔離を完全に脱し、欧州で衝突が和らぐと確信する楽観論の一方で、市場を再び混乱に追い込むリスクを警戒する向きもある。
投資家にとって来年さらに問題を引き起こしかねない五つのシナリオを次に挙げる。
定着するインフレ
ファースト・イーグル・インベストメント・マネジメントのグローバルバリューチーム共同責任者、マシュー・マクレナン氏は「インフレ率が今後12カ月でかなりきれいにゾーンに戻ると債券市場は期待している」と言う。
しかし、大きな間違いかもしれない。エネルギー価格の高止まりといったサプライサイドの圧力と賃金上昇が、消費者物価を引き続き加速させる現実の危険が存在する。
来年半ばにも市場が予想する米連邦準備制度と欧州中央銀行(ECB)の利下げへの転向の可能性をそれは消し去り、株価と債券相場のさらなる下げやドル高、新興国市場の痛みの増大を招きかねない。
マクレナン氏も「連邦準備制度はインフレの到来を予測できておらず、インフレを抑制したい一心で来たるべき金融事故の発生が目に入っていないかもしれない。金融危機のリスクを過小評価していることも十分あり得る」と指摘した。
よろめく中国
中国の長く厳しいロックダウン(都市封鎖)が終わり、経済が全面的に再開するとの期待を背景に中国株は10月の安値から約35%値上がりした。
だが、楽観論と比較すべき悲観的見通しとして、感染急増に伴う医療崩壊や経済活動が腰折れする危険が挙げられる。過去数週間に混み合う病院や葬儀場の人々の列が不安を引き起こし、主要都市の社会的移動性も低下した。
JPモルガン・チェースのグローバル市場ストラテジスト、マーセラ・チャウ氏は「中国での流行曲線は今後上向き、春節(旧正月)後1、2カ月でようやくピークに達するだろう」と分析。中国が経済活動の再開に成功すると考えているが、「今後の感染状況に関するリスク」をなお警戒する。
ロシア・ウクライナ戦争
日興アセットマネジメントのチーフグローバルストラテジスト、ジョン・ベイル氏によれば、ロシアのウクライナ侵攻に関連し、同国の貿易パートナー、特にインドと中国への二次的制裁が実施されれば、世界経済に危険の多い時期に今の制裁の影響をさらに増幅させる懸念がある。
「食料とエネルギー、肥料、特定の金属、化学製品の供給という点で、全世界にとって深刻なサプライショックになるだろう」とベイル氏は警告する。
一層警戒すべきシナリオは、ロシアによる戦術核兵器使用だが、脅しは現実的でないと思われるものの、可能性は排除できない。実際に使われれば、ウクライナからの農産品輸出が一撃で途絶する恐れがある。
新興国市場
来年はドル高が和らぎ、エネルギー価格も低下すると多くの投資家が予想しており、そうなれば新興国市場への圧力は軽減されるだろう。
しかしインフレ抑制に失敗すれば、この為替市場のシナリオはなくなりそうだ。エネルギー価格を再び急騰させかねないリスクも数多く存在し、ウクライナ戦争のエスカレートもその一つにすぎない。
コロナ再び
感染力や致死性のより高い新型コロナウイルスの変異株が発生したり、既存株の流行がなかなか収まらなかったりする場合、サプライチェーンの流れが再び滞る結果、インフレに影響が波及し経済活動が鈍ることも考えられる。
原題:Five Scenarios That Threaten More Strife for Global Markets(抜粋)