五輪開催こそ日本リスク 海外投資家の視点
豊島逸夫の金のつぶやき2021年3月16日 11:17
バイデン米政権が、1.9兆ドル(約200兆円)規模の対コロナ救済財政投入を「強行突破」した後、米国株には「その財源=増税」というリスクが浮上してきた。そこでニューヨーク(NY)市場では、米国株以外の外国株への分散が検討される動きが顕在化している。
「1.9兆ドルの2割近くが株式市場に流入するとの試算もあり、新たな投資先を模索中だ。日本株も興味深い選択肢だ」「ただし、ジャパン(日本)リスクが気になる。それは五輪開催強行」「無謀な選択だ。五輪開催国なのにワクチン接種が周回遅れとなっている。変異ウイルスのリスクも欧州で猛威をふるっている。報道によれば、日本人の7割は開催反対だそうではないか。国民的高揚感がもたらす効果も期待できない。無観客では直接的経済効果もそがれる」
最近、ウォール街で「日本」の存在がクローズアップされている。米金利急騰のなかで、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や生命保険会社などが米国債の買い手となり、暴れる金利の平定役を果たすことが期待されているからだ。
経済過熱リスク漂うなかで、米連邦準備理事会(FRB)が米国債購入を増やす状況にはない。逆に国債購入縮小リスクが懸念されている。中国は最近、ドル離れ志向を強めるなかで米国債保有も緩やかに減らしつつある。かくして日本の存在感が高まり、副次的効果としてこれまで日本株に興味を示さなかった投資家たちがこの機会に日本株の「点検」を始める事例が出てきた。
そこで、冒頭に紹介したようなコメントが聞かれるのだ。東京五輪といえば、当初はその経済効果が期待される半面、五輪後の落ち込みが危惧されていた。しかし、今や開催そのものがリスク視されている。五輪という不透明要因がなければ、年金や生保の期末リバランス売りで下がったところは買いたい気持ちが透ける。
政治面では、今週、バイデン政権の新国務長官と新国防長官の初めての外国訪問先が日本開催の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)になった。加えて菅首相がホワイトハウス初のトップクラス外国人賓客になる。日本重視の姿勢が鮮明だ。市場は日本が地政学的リスクにさらされるリスクを計りかねている。
香港・台湾問題で中国に強く反発するバイデン政権にとって、日本は極東の最後のとりでとの認識が伝わってくる。韓国には北朝鮮リスクがつきまとう。
そこまで議論してくる姿勢に、日本株に対する本気度は感じる。今や世界中、投資先の各国が様々なリスクを抱える中で、ジャパンリスクが相対的にどのように評価されていくのか。「ベストの国はない。ベターな国を探している」。減点が少ない国からグローバル投資が展開されていきそうだ。
豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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