ひとつ前に書いた「ハウス・オブ・トゥモロー」に続いてずっと見たかったエイサ・バターフィールドが出ている「グリード ファストファッション帝国の真実」を見ました。
タイトルから何かファストファッション界の真実を知ることができるんだと期待したら、違いました。ファストファッション界が安価な製品で利益を上げるために途上国の労働力を買い叩いていることはもう20年前から問題になっていること、未解決ですが、この映画で知る新しい真実ではありません。
実はエイサくん以外に私がこの(不愉快そうな)映画を見たかった理由は、モデルとなった企業アルカディア・グループの主力ブランドのひとつだった「トップショップ」が大好きだったからです。
トップショップは初めて私がイギリスに行った1980年代に、オシャレでかわいいのに手が届く値段で売っていた日本にはなかったチェーン店でした。その頃からH&Mはありましたが、同列には脳内に入ってこないほど(オックスフォード・ストリートではど真ん中でその2店が向き合っていました)トップショップはオシャレでした。ZARAはまだありませんでした。
ザラが進出して来ても、所詮、H&Mはスウェーデン、ザラはスペインですから、生粋のイギリスブランドであるトップショップが1番可愛いことには変わりはありません。スィンギング・ロンドン、カーナビーストリートとマリークワント、BIBAなどロックなストリートファッションのセンスを受け継いでました。
しかしそういう良さは2の次な、脅しまがいの商談で仕入れを値切り金の動かし方には熟知したワンマン経営者が、クリエイティブ面にまで口を出し、一介のハイストリート・ショップのやり方でより量産体制とマスのトレンドに絞ったファスト・ファッションの巨大企業に勝とうとしたのが間違いだったのだな、とこの映画を見て思いました。それぞれの個性には適正サイズというものがあるはず。トップショップはエッジーなセンスはあるけどZARAより品質はイマイチで値段が高い。それじゃマスでは勝てないでしょう。
さて映画の話も。
エイサくんはその経営者の息子役で、逆らえないそのワンマンぶりにウンザリし、実の親だから結構辛辣なことも言えるマトモな子に見えました。。しかしラストシーンでは次世代も父親譲りのノウハウでぶっちぎるワンマンぶりを本人が見せ、2010年代以降のトップショップがASOSに身売りしてその黄金期が終わることを匂わせていました。
私が最後にイギリスに行ったのは2020年の2~3月で、まだ寒くてオックスフォード・サーカスのお店でコートを買ったんです。今思うとあの時が見納めだったのに、昔のように店内全部を見ないで店を出ちゃった。。。住んでた時はお金はなくても時間はあったからお店の隅々までついでに隣のミス・セルフリッジも見て何か手頃なものを買ってました。今回これを書くにあたってグーグルヴューをみたら、まだ写真はトップショップでしたが、地図からは名前が消えていました。1980年代から2020年代までオックスフォード・サーカスのランドマークでした。
トップショップはロンドン・ファッションウィークのスポンサーもしていたほどロンドン・ファッションの顔だったのに、ここまで勢力図が塗り替えられるとは2000年代には誰にも想像ができなかったことです。
富裕層でなくてもデザイン性の高いファッション衣料が買えるようにしたファスト・ファッションですが、その恩恵はもっと貧しい暮らしをしてる層の犠牲に成り立っている図はまだ塗り替えられていません。この先、誰も犠牲にならず幸せになる方法が生まれるのはいつになるんでしょう。