Photographed by Mikael Jansson, Vogue, June 2014
いつもコメントくださるhedgehogさんのおすすめでナショナルシアター・ライブ「スカイライト」を見て来ました。
舞台が安アパートの部屋のみ、別れた男女が過去の関係を語る・・・という大あらすじには惹かれなかったのでしたが、hedgehogさんに「階級などの社会問題も描いている」ときき、アンテナがピョコって頭から飛び出しましたw
まずね、壁の透けたフラットのセットがすごく効果的でした!部屋の中なのに、その部屋がある建物のドアと窓が同時に見える。成金男に蔑まされる、東ロンドンの(今ではおしゃれな地域となったブリック・レーンよりももっともっと東、つまり中心から離れた安いエリア)典型的な公団の外観がつねに観客の視界に入ることで、そこにいるような気分が続くのです。
そこに住むキーラ(キャリー・マリガン)を尋ねて来た彼女の元不倫相手の息子18歳が腰につけているCDウォークマン!いったい何時代?iPod以前なのは確実で、部屋の家具などは80年代くらいにも見えるけど、彼女の服装はもっと近代的だ・・・と悩んでいたら、幕間の解説で初演1997年のリバイバルということなので、きっとその時代か!
ちっとも重要じゃないけどキッチンのガスレンジは、ああ!私の大好きなトースターが上についたモデルでした。90年代にもどんどん見なくなって今やほぼ絶滅種・・・?いや、もしかしたら、今でもEast Hamの公団には生き残りが?
そして見えないのだけど、演技で分かる、キッチンの向こう側のバスルーム、トム(ビル・ナイ)がお湯をひねって大げさなリアクションをしてました。あれは蛇口をひねってもすぐにはお湯が出ず、いきなり爆発するようにお湯が蛇口から吹き出すような水回りの悪さw
さてアンテナにひっかかった「階級」ですが、最初は貧乏地区に住んでいるキーラが労働者階級vs運転手付きリムジンでやってきたトムが中産階級、と思わせます。イギリスの階級に流動性はない、とも言われますが、貴族である上流階級とその他には結婚くらいしかかけ橋がないけど、彼らのように中流~労働者あたりだとなくもない、ということがやがてわかります。劇が進むにつれ、キーラの父は弁護士(中流)でトムの親はたぶん労働者だったことがわかるからです。
ただ、劇中でもキーラが言ってましたが、彼女が教えている公立学校の生徒達くらいだと、移民2世が多いし貧困から抜け出せる人はとても少ないです。もしかしたら、移民はイギリスの階級にも入れない、アウト・カーストの新しい階級かもしれません。
トムは金はそれにふさわしい才能や頭脳がある人間に回って来るのが当然の摂理だと思っていて、それが彼の正義なのです。確か遠い昔、イギリスの歴史でやった”新興勢力の台頭”ってのを思い出しました。こういう人、規模の差こそあれ、ロンドンにとても多いんですよ!トムはしているかどうかは不明ですが、法や契約をくぐって不当に金を得ることに罪悪感を持たない人が!日本人の感覚ではかなりの悪党ですが、あちらだと「別にみんなやってるし」という感覚なのです。持ってる手段は使って当然、(知ってる人に直接)誰にも迷惑かけてないし、と思ってる。やらない奴はバカなのさ、と思ってる。
反対に、キーラのように教養があり人を助けることに生き甲斐を持っている人も、日本よりとても多い。どちらにしても、私から見ると価値観がはっきりとしてて極端な人が多いから、イギリスって国は貧富の差も日本より大きいのかも。
そして階級があることは皆わかっているから、少しでも上に行きたい人はそれに罪悪感も持たないのかも知れません。
ところで、ラストシーンに、トムの息子が返って来るのがとてもよかったです!
私など、脳内暴走して、中年男は捨て、キーラは息子とつき合うのじゃないかと思ったくらいです。背格好は父親似だし、物をプレゼントして何かを解決できると考えているあたりもパパそっくり。だけど同じことしても彼にはまだ罪がないので心から感動できるんですよね~。キーラは「たった1人教え甲斐のある生徒を見つけられたらそれを生き甲斐にできる」と言ってたから、彼に人生を教えればいいのに!息子とつき合って数年後の「スカイライト2」も見てみたいw
私はパンフレットがあると知らなくて買いそびれてしまったのですが、タイトルの「スカイライト」の意味って載っているのかなあ。
ー 劇中、トムが病気の奥さんに作った部屋につけたのがそれ「天窓」で、彼は「あそこから彼女の見たいもの、青い空も緑も見えた。値段も高かったけど。」と言っていたけれど、それだけの意味じゃないですよね。
「スカイライト」、きっとしましまさんならあの台所とかお風呂場の様子をもっとリアルに理解できるんだろうなあ、と思いながら観ていましたが、やっぱり! くどいて観に行ってもらった甲斐があったというものです。ふふふふふ。
>キーラの父は弁護士(中流)でトムの親はたぶん労働者だったことがわかる
階級問題を描くにしても、こういう一筋縄でいかないところが巧いんですよね~。その昔、英文学の先生が、ヨーロッパはどこも階級社会だけど、イギリスの階級社会が他の国と違うのは、階級の区分がものすごく細かく分かれているせいで最上級の階級には入れなくてもちょっと頑張れば一つ上の階層くらいには手が届く一方、周りの空気も読まずに「ちょっと頑張って上の階級を目指す人」は'snob'と呼ばれてひどく軽蔑される、とか何とか言ってましたが、だからこそイギリスの階級問題を取り扱ったフィクションはすごくおもしろくなるんだと思います。
>背格好は父親似だし、物をプレゼントして何かを解決できると考えているあたりもパパそっくり。
ほんと、似た者親子ですよね。あの若さで、ただ金を出して何かを買ってくるのではなく、ちょっとした会話から相手のツボを付くものを見つけ出し、人脈を駆使してきっちり仕上げてくる辺り、将来が末恐ろしいですわ。
あ、そうそう、パンフレットは買いましたが、「スカイライト」の意味については特に書かれていませんでした。私は何となく、ビル・ナイな父が妻に贈った「天窓」とマシュー・ビアードな息子がキーラに贈った「朝食」は、(問題の解決にならないけど確かに心を慰められるものではある、という意味で)イコールなのかなあ、と、漠然と思いましたが、全然違ってたらすみません。
はい、まんまとはえ取り紙にくっついた虫といいますか・・・^^;
英文学の先生、なかなか細かいところまでご存知なんですね~?!
頑張って上を目指す人がいる一方、自分の階級に誇りを持って全うする人との軋轢も今や文学研究として取り上げられているか・・・と言うより、そこを理解しないでは文学を理解できないのでしょうね。
私達外部のものから見ると冷静ですけれど、例えば外国人である私が住めばいわゆる移民。劇では社会の底辺層とされていた東ロンドンの移民2世だってやがて英語による教育を受けてほぼネイティブになることを考えると、言語力では私達は彼ら以下なんですよ。その国の言葉で何かする能力がなくては仕事にもつけないし、などと、英国滞在中はそんなことを考えていました。
パンフレットにも載ってないんですね。ありがとうございます。なるほど、天窓は朝食と・・・ふむふむ!
今頃ふと思いましたが、なぜ天窓であって普通の窓ではないんだろう?とは見た直後から考えていたんです。
天窓は寝ていてこそ景色が見えるもの。
寝たきりの状態とは、自分の価値観に縛られた状態なのかな。
そこから見える景色は人によってまったく違うという意味なのかな?とも思ってみました。