ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

駒花(42)

2017-05-31 10:38:34 | Weblog
先生は体調を崩し、入院してからも、病院から対局場所へ向かった。やがて、それもままならなくなり、休場届を提出し、治療に専念という形になった。この頃には、どちらかといえば太めの体形だった先生の面影は消え、日々やせ衰えていた。おそらく、先生はもう長く生きられないことを悟っていたと思う。

その頃の私は、菜緒に随分と水を開けられてしまっていた。手の届かない存在になりつつあった。具体的には、タイトル戦で戦っても2勝出来なくなった。せいぜい1勝、ストレート負けも珍しくなかった。先生は私が、同世代や若手に負けると「さおり、やる気あるのか?」「努力が足りない。24時間、将棋のことだけ考えろ」と厳しく叱咤する言葉を投げつけた。しかし、菜緒に敗れた時は「あの子はどこまで強くなるんだろうなあ」「一歩一歩でいいんだよ、さおり」と優しかった。しかし、その優しい言葉が、菜緒と私の間の、どうしようもない埋め難い差を雄弁に物語ってもいた。

この時の桜花戦の最中も、私は病室を訪れていた。先生の容態が心配だったし、アドバイスも欲しかったのだと思う。初戦こそ、戦術面から精神面まで細かなアドバイスをくれたが、2局目以降は、体調が思わしくなかったり、眠っている時が多かったため、将棋について話すことはなくなった。ただ先生の容態が心配でたまらず、私は足を病院へ向けた。

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