ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

大人になるにつれ、かなしく(23)

2016-12-22 19:56:17 | Weblog
程なく、藤沢の司法試験の結果は出た。不合格。電話口から聞こえてくる彼の声には力がなく、ショックを隠そうともしなかった。自信があったが故に、それだけ気持ちの落ち込みも大きかったのだろう。僕もかける言葉が見つからず、ありきたりのことを少しだけ話し、早々に電話を切った。

その後、藤沢の挑戦は4年続いた。法律事務所でアシスタントとして働きながら。しかし、結果は実らなかった。僕はといえば、臨床心理士の資格を取り、大学病院などで非常勤で働いている。亜衣は、僕の妻となった。僕の収入が十分でないため、彼女はいまも銀行で受付として働いている。白川さんは、僕ら二人を祝福してくれた。結婚式ではウェディングドレス姿の亜衣を見て泣いていた。白川さんは、僕にとって、おじさんから義理の父となった。

藤沢とは、彼の最後の挑戦のあと連絡が取れなくなった。携帯電話がつながらないのだ。藤沢の自宅マンションにも訪ねてみたが、すでにそこには住んでいなかった。

数日後、僕と亜衣が新婚生活を送るマンションに手紙が届いた。「突然、心配をかけて悪かった。必ず、新しい電話番号を教えるから少し、待ってくれ。その間は、手紙を書くから安心して欲しい」と記されていた。僕は少々、苛立った。苦しい時こその友人ではないのかと。しかし、その感情をそのまま伝えてもいけないと思い、見慣れぬ連絡先に「水臭いなあ。まあ、孝志にもいろいろ事情があるのだろうから、急がなくていいよ。でもいずれ、連絡先を教えてくれよな」と返した。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大人になるにつれ、かなしく... | トップ | 大人になるにつれ、かなしく... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿