ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

大人になるにつれ、かなしく(24)

2016-12-22 21:32:06 | Weblog
「藤沢さん、どうしたのかねえ?」
亜衣が心配顔で言う。

「司法試験で挫折したショックかな?まあ他にも事情はあるのかもしれない」
僕はぼんやりテレビ画面を見ながら応えた。

「何回受験したんだっけ?」

「ええと、大学4年からだから6回かな」

「ところで、話題は変わるんだけど・・・」
亜衣の声は照れくさそうだった。

「ん、何?」

「私、妊娠したみたいなんだ」

「えっ」

「病院で妊娠8週目に入ってるって」

僕はテレビを消し、亜衣の方を向き、近づいて、亜衣の腹部を凝視した。

「ああ、そうなんだ」

「嬉しくないの?」

「いや、嬉しいけど」

「なんかあまり嬉しそうじゃないから」
亜衣が少し、頬を膨らませた。

「いや、まだ実感が湧かないんだよ。そうか、僕らは父と母になるんだね」

「うん」

「これまで以上に体を大事にしないと」

「そうだね」

普段と違い、亜衣は言葉少なだった。僕も嬉しさを的確に表現したい。そして、その感情をストレートに彼女に伝えたいと思うのだが、うまく見つからない。

「こういうのが幸せっていうのかな?」
しばらくの沈黙の後、僕は自分も予期しなかった言葉を吐き出していた。亜衣は小さく頷いた。

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