SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
もしよろしければ、ごゆっくりどうぞ。

ベアータ・ビリンスカ・ピアノ・リサイタル

2007年03月26日 00時00分00秒 | イヴェント
☆ベアータ・ビリンスカ ピアノ・リサイタル
《前半》
1.バラード第1番 ト短調 作品23
2.プレリュード第15番 変二長調 作品28-15『雨だれ』
3.エチュード第12番 イ短調 作品10-12『革命』
4.マズルカ ト短調 作品24-1
5.マズルカ ハ長調 作品24-2
6.タランテラ 変イ長調 作品43
7.アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 作品22
       ***休憩***
《後半》
8.スケルツォ第1番 ロ短調 作品20
9.ノクターン第20番 嬰ハ短調(遺作)<映画「戦場のピアニスト」>
10.ワルツ第1番 変ホ長調 “華麗なる大円舞曲” 作品18
11.ワルツ第6番 変二長調 作品64-1 『子犬のワルツ』
12.マズルカ 第30番 ト短調 作品50-1
13.マズルカ 第31番 変イ長調 作品50-2
14.マズルカ 第32番 嬰ハ短調 作品50-3
15.ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53 『英雄』
《アンコール》
16.シマノフスキ:プレリュード(アンダンテ・コン・モト)作品1-2
17.シマノフスキ:プレリュード(モデラート)作品1-7
                  (3月17日 佐倉市民音楽ホール)

ベアータ・ビリンスカはポーランドのピアニスト。カーネギー・ホールでも弾いたことがあるというから、ウデのたつ人に相違ないはずです・・・。

結論から言うと、コンサートの時には間違いなく、とてもシンパシー溢れるいい時間を過ごすことができました。
でも、私にとっては後にご紹介するCDを聴く前と聴いた後で、その感想が少しく変わったことは否めないような気がしています。
コンサート自体は、繰り返しになりますがいい雰囲気で、とても素晴らしいものだったんですけどね。

というのは、実演とCDとが同じ人の演奏とは思えないぐらい印象が違ったのです。
幸か不幸か、この先ずっと聞き継いでいくことができるディスクの演奏の方がより私好みであり、実演に接したことでよりイマジネーションを掻き立てられるところもあるため都合はよいのですが、CDにおける粒立ちのよい音を聴いた後、実演で散見され多少気になっていたミスタッチがやたら思い起こされるようになってしまいまして、演奏旅行の旅程がきつくてコンディションが悪かったのか、準備に充分な時間が取れずにいたのかと、ロクでもないおせっかいな言いがかりが『浮かんでは消え』するようになってしまっているのです。

でも、彼女の人柄の良さと意気込み、ショパンの音楽への愛情は充分に感じられる奏楽でしたから、これ以上総論的な心証を述べるのはやめにします。

冒頭のバラード第1番、荘重な前奏をことのほか荘重に響かせたうえ、最後のE♭の不協和音の音に凄く大きな意味づけをするように際立たせるように弾いた・・・。
その後、少し、否、高橋多佳子さんにもそういう傾向があるのですが、多佳子さんのそれよりも顕著に、急き込むかのように突込み気味に展開されることの多いフレージングが特徴的。

そして好感が持てたのは、フレーズをどの一音に至るまでも“何としても歌いぬくぞ”という姿勢で演奏されていたこと。あとは、解釈が気を衒ったものではなくあくまでも普遍的な演奏展開をしているうちに自ずと個性が滲み出ているというスタイルの演奏であったことも、私にはポイントが高かったですねぇ。

あくまでもその演奏会中の課題としては、メカニック・・・でしょうか?
特にアン・スピ以外の前半と、後半の途中までは歌おうとするあまりのミスタッチが結構目立ちました。
私は、日ごろ(当然演奏にミスのない)CDばかり聴く人であるうえに、そのようなミスを犯すかもしれない一発勝負の演奏会には、その不完全さへの懸念から足を運んでこなかったという経緯を持つケッペキ主義者であります。性格はちゃらんぽらんですが・・・。
そういう意味では、こと今回に関してはですが、ハズれた音が気になった類の演奏会だったと思えちゃうんですよね。
私が、そういうタイプの聴き手であるかもしれないことを割り引いて、この文章を判断してくださいね。(^^)/

CDの演奏におけるテクニックは、それこそ音楽に必要な分しか発揮されていない(テクニックの披瀝が勝った演奏ではない)という好ましいものでありながら、目も覚めるようなそれをピアニストが手の内にしていることは自明でありました。

音楽の中に伝えたいものがあって、それを極めて音楽的に伝えようとされていることについては、第一級の折り紙でものし袋でもつけたい人であることに間違いはありません。

プログラムとしては後半途中から俄然集中度が増したいい演奏になって、マズルカのリズムと言うより旋律の歌わせ方の美しさにウットリさせられたり、英雄ポロネーズの中間部、左手がオクターブのユニゾンで伴奏するところの音色など、わざと無骨なフレイヴァーを織り込むなど、耳が『初めて聴いた!』と喜ぶような瞬間にも事欠かなかったのであります。
文字通り、尻上がりに好調になっていったリサイタルだったと言えましょう。

ともあれ普遍的な解釈の中から、聴くべきを見事に歌いぬきながら提示してくれた力量は充分感得できました。こんな演奏が可能であると言うことは、やはり事前(直前ではありません)の相当な研鑽があったに相違ないわけですから最高度の敬意を表することにやぶさかではありません。

そして新鮮な驚きをもって聴いたのが、アンコールのシマノフスキでした。
ショパンとは全く違う雰囲気を、その曲名を告げた弾き始めるや否や、パッと現出させるところなど、やはりこれもポーランドの作曲家に対するリスペクトがあればこそなんでしょうね。
全編、とても幸せな気分にさせていただくことが出来、満足させられたリサイタルではありました。

最上のコンディションの彼女の演奏はもっとすごいのではないか?

ディスクまで聴いた私の感想ですが、期待できる人だとわかった後の感想であるということをお間違えのないように・・・。(^^)v
完調で気合が入ったときの彼女の生演奏が聴けるものなら、ぜひとも聴いてみたいものですね。

ちなみに高橋多佳子さんは、ビリンスカを学生の頃から知ってらっしゃるそうです。
やはりワルシャワに永く住んでらして、ポーランドにも拠点を持ってらっしゃる多佳子さんだからこそ・・・なんでしょう。


★ベアータ・ビリンスカ:プレイズ・ショパン
                  (演奏:ベアータ・ビリンスカ)

1.バラード第1番 ト短調 作品23
2.スケルツォ第1番 ロ短調 作品20
3.ノクターン第17番 ロ長調 作品62-1
4.ノクターン第18番 ホ長調 作品62-2
5.タランテラ 変イ長調 作品43
6.アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 作品22
7.マズルカ ト長調 作品50-1
8.マズルカ 変イ長調 作品50-2
9.マズルカ 嬰ハ長調 作品50-3
10.ワルツ へ長調 作品34-3
11.ワルツ 変イ長調 作品42
12.ポロネーズ第6番 変イ長調 作品53 『英雄』
                  (2005年録音)

さて、ビリンスカのCDをコンサート会場で買い求めました。ご覧のとおりサインももらっちゃいました!
パッションに溢れたあつ~い歌心を聴かせてもらえるものと思ったのですが、最良の意味で違ってましたねぇ。
まず、ピアノの音色からして違う・・・。
収録されたピアノが違うのはもちろんですが、音を拾った際のコンディションやトーンマイスターの嗜好する音の好みの問題でもあるのだと思います。

ここでのビリンスカは確かに歌いぬいてはいますが、決してホットではありません。むしろクレバーでクールです。
指周りもカツゼツが良いというか、非常に磨きぬかれたメカニックという感じがして極めて完成度の高い演奏が収録されています。
どちらかというと、ライブに出かけるようになったのが比較的最近のことでしかない私としては、その場の感興に溢れたライブ演奏の良さよりも、それと判る傷がない何回も聴くのに耐えられるように少し引いた演奏がされているディスクのほうが安心して身を任せられるのかもしれません。

演奏家のかたにとっては若干酷なことかもしれませんが、私は“全く傷のない演奏”を聴きたいと思う気持ちが強いタイプのききてであるように思います。
以前にも書いたかもしれませんが、いつ間違えるんじゃないかとハラハラしながら聞くのがイヤだから、もしくは間違えるかもしれない演奏を聴くのが耐えられないから生演奏会には足を運ばなかったのですから・・・。
リサイタルなどの良さも今ではわかったとはいえ、やはり演奏には完全を求めたいという思いがあるんでしょうねぇ~。

“そう思うんだから、しゃ~ないやんけ”と開き直ってみたりして・・・。(^^)/

で、ここでの彼女の演奏は結論から言うとショパン曲集のアンソロジーとしては、大いに気に入りました。
練り上げられたクレバーな解釈と堅実なメカニックを駆使した、最良の意味で教科書的な演奏・・・音色のきらめきや表現上の霊感にも欠けていない安心できる演奏として、クールダウンしたい時に聴いたらいいのかなという演奏です。

そうはいってもスケルツォとか英雄ポロネーズはある程度、血沸き肉踊る雰囲気になるかもしれません。
でも、この録音状態だと窓越しに向こうで血沸き肉踊っている人がいるというように、案外冷静に聴けちゃうかもしれません。
次のラフマニノフのディスク同様に、大事に聴き継いでいけるお気に入りディスクになることは間違いありません。

高橋多佳子さんの“ショパンの旅路”はガッツとパワーが欲しい時に、逆に冷静になりたい時はビリンスカにって感じで聞き分けるといいかもしれませんね。
まあ、多佳子さんのディスクは私にとってはオールマイティなので、いつ聴いても感動しちゃうんですけどね。

演奏会当日サインをもらう列に並んでいたときのこと、リサイタルを聴いた妊娠5ヶ月という女性がビリンスカに向かって「素晴らしい演奏をおなかの子供に聞かせてあげられてよかった」というようなことを伝えたところ、彼女は「今サインをしているこのショパンのディスクは妊娠7ヶ月で録音したもので、2人のパワーで産み出したものなんです」というようなことを答えていました。そのご子息は今2歳半だということです。

ちょっといい話じゃないかな・・・と思ったりしています。

★ラフマニノフ:ピアノ作品集
                  (演奏:ベアータ・ビリンスカ)

1.前奏曲 嬰ハ短調 作品3-2
2.前奏曲 嬰へ短調 作品23-1
3.前奏曲 変ロ長調 作品23-2
4.前奏曲 二短調 作品23-3
5.前奏曲 二長調 作品23-4
6.前奏曲 ト短調 作品23-5
7.前奏曲 ハ短調 作品23-7
8.前奏曲 ハ長調 作品32-1
9.前奏曲 ト長調 作品32-5
10.前奏曲 嬰ト短調 作品32-12
11.練習曲「音の絵」 変ホ短調 作品33-3
12.練習曲「音の絵」 ト短調 作品33-5
13.練習曲「音の絵」 ハ短調 作品39-1
14.練習曲「音の絵」 嬰へ短調 作品39-3
15.練習曲「音の絵」 イ短調 作品39-6
16.ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品36 (1931年版)
                  (2003年)

一言で評すると“とっても聴きやすいラフマニノフ”です。

ここでも、実演とは違いクレバーで見通しのよい鮮やかな指捌きによる演奏が聴かれます。
そのように聴かせるように音を拾った、録音陣の技術や努力の勝利でもあるともいえましょう。

小品集は文句なくその見通しの良さが、ラフマニノフの音符の多さからくる押し付けがましさというか、暑苦しさから曲を救っています。タッチのソノリティも見事に捕らえられており曲の好さを表現するのに一役買っているようです。
これまで、キャサリン・ストッツの演奏を最上と考えておりましたが、演奏の傾向は違えど同率首位って感じですね。
できたら、クライスラーの“愛の悲しみ”のピアノ・トランスクリプションが入っていたらよかったのにと思います。
ちょっと、この曲集のプログラムの中では浮いちゃうかもしれませんけど・・・聴きたいモンで・・。

ピアノ・ソナタ第2番はこれも高橋多佳子さんの最新盤とレパートリーがかぶっていますが、第2版と演奏の版が違う(多佳子さんは初稿と第2版の折衷独自版)ために本当にコンパクトな曲に聴かれます。

これにはクズミンというとんでもないぶっ飛び演奏があって、それはそれで凄く興奮させられるのですが、ビリンスカは先のショパン同様練り上げられた解釈で冷静にヒートアップした演奏を聞かせてくれます。決してサーカスみたいに我を忘れて騒がしくなったりはしませんが、ちゃんと腰の据わったそれでいて曲をきちんと制御してやまないという落ち着いた演奏であります。ここでも、模範的ではあってもとても楽しめる演奏・・・といった感じでしょうか。
多佳子さんの奏楽が、いささか挑戦的でときとして攻撃的にも聴こえることがあることからすると、これも先ほどのショパンと同じようにパワーがあるときは多佳子さんの演奏と取っ組み合いをして楽しみ、ちょっとブルーなときにはビリンスカの演奏を聴くというような感じが精神衛生上自然なのかもしれません。

ともあれ永く楽しめるだろう好盤に出会えたことを、なにより私は喜んでいます。



何度かに分けて記事を書いてるモンで、同じことが何回も出てきますが・・・。
この文脈の中で手直しするのはややこしいように思われたのでそのまま投稿しちゃいました。(^^)/
ちょっとクドいけど・・・。