世界人権宣言27条2項は「すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。」と定める。これは財産権の一つとして知的財産権に関する規定である。日本でもその具体化として著作権法が定められている。
一方、言論の自由の保障(日本国憲法21条)、とりわけ少数派の政治的言論の自由の保障は、表現の自由市場の下で、相互批判を通じてより良い統治を実現していくという、国民の自己統治の実現に不可欠であり、民主主義社会の基盤である。そのような財産権を含む人権保障の基礎である重要な公的利益が財産権によって制限されるとしたらそれは本末転倒であろう。
そこで、憲法29条2項では「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」と規定し、具体的には著作権法39条でこの民主主義のインフラと財産権との調和を図っている。つまり、「新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。」と、許諾を前提とする一般原則とは逆に、明文での禁止規定がある場合を除いて転載を認めている。
これは、財産権規定によって本来周知されることを期待されている政治的議論などの時事問題が逆に市民の目に触れることが制限されるのを防ぐ規定である。この規定は、とりわけ市民の目に触れる機会の少ない少数派の言論にとっては大いに活用されるべき規定であろう。また、人権など国の枠を超えた共通課題や二国間課題に関する外国での議論は、一部を除いて紹介されることが少ないので、その面でも大いに活用すべき規定であろう。外国言論の場合には、当然その内容を伝えるための翻訳という作業の介在が認められる(著作権法43条2項)。なお、48条で、39条に基づく転載につき出所および著作者名(明らかな場合)を示すことを要求している。
以上、私の「中国異論派選訳」に関係する著作権、言論の自由との調整規定の紹介である。
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