ニューヨーク・タイムズ記者によるブッシュ政権の内幕レポート。匿名の情報源によるものでどこまで信頼してよいかという問題は残りますが、この本に書かれているレポートの一部はピュリツァー賞受賞してますし、たぶん信じていいんでしょうね。
この本を読んでいるとブッシュ政権というのはヤクザの親分のような感じを受けます。ブッシュが意向を示すと子分たちがあうんの呼吸で親分の意向をくみ取って事を進め親分に詳しいことは言わせず詳しいことも聞かせず、いざとなったら親分は指示もしていないし知らなかったと言えるよう累が及ばないようにする、子分は親分の聞きたい情報だけを知らせ聞きたくないようなことは知らせない、法律は無視して正規の手続は踏まずに側近だけで決断して勧める・・・。
捕まえたアル・カイダ幹部はジュネーブ条約やアメリカの法律に反してCIAが国外で秘密の場所に令状もなく無期限に拘束し続け同盟国の情報部を使って拷問する、NSA(国家安全保障局)の国内盗聴活動はFISAの令状が必要だが9.11以降は令状なしで電気通信事業者やIT企業の積極的な協力を得て国内の交換設備にアクセスして電子メールや電話を第三者の監視なく好き放題に傍受している(著者はこの報道でピュリツァー賞受賞)など。
捕虜の拷問についてブッシュは知らないことになっているが、アル・カイダ幹部のアブグレイブ・ズバイダの尋問についてCIA長官のテネットの報告に対してブッシュが「だれが鎮痛剤の投与を許可した?」と言ったとか(30頁。ただし、これについては疑問視する声も紹介して、事実かどうかはさておきとしている)。
CIAはイラクについての調査能力はほとんどなかったが、イラク戦争開始の数ヶ月前には、イラクが以前マンハッタン計画に沿った古い方法で独自にウラン濃縮を進め「ニジェールからの買い付け」など必要なくウランを所持していたが1991年初頭にアメリカ空軍パイロットが気まぐれに落とした爆弾がたまたまその施設に当たりそれに対するイラク側の反応から重要施設と判断したアメリカ側からさらに空爆を受けて完全に破壊されその後核開発プロジェクトはストップしたままになっていたことを突き止めていたが、CIA幹部は無視した(112~127頁)。
「生物兵器移動研究所」があるというパウエルの国連での演説の元情報は国外追放イラク人の1人がドイツ情報機関に話したことのまた聞きでドイツの情報機関はCIAのヨーロッパ工作部長に事実とは思えないし情報提供者は精神状態に問題があり神経衰弱を起こしてからは全く信頼できなくなったと伝えていた(136~141頁)。
他にもアメリカの後押しする新政権樹立後アフガニスタンはケシの栽培面積20万6000ヘクタール、世界のアヘン供給量の87%を占める麻薬国家になった、アル・カイダとサウジアラビア要人の関係は調査されないなど興味深い話が色々ありますが、この本に書かれている事実で最も衝撃的だったのはイランの話です。CIAが担当者のミスでイランの諜報員の1人にイラン国内のCIAスパイ網の全貌の情報を送信してしまいその相手が2重スパイだったためにイランの治安当局がCIAのイラン国内のスパイ網を一網打尽にしてCIAのイラン国内のスパイ網が壊滅した(227~228頁)、それ以前からイランの核開発について断片的な情報しか得られなかったCIAはイランの核開発の状況を探るためにロシアの科学者を使ってロシアの核爆弾の起爆装置の設計図を一部誤った情報を入れてイラン側に渡したがその後設計図がどう使われたか全くフォローできなかった(228頁~)。1990年代、アメリカは裏チャンネルでイランと対話しようとしイランのテロ関与疑惑をもみ消してきた(250~251頁)。
ありそうな話ではありますが、ディテールの情報がいろいろとあって大変楽しい本でした。
原題:STATE OF WAR
THE SECRET HISTORY OF THE CIA AND BUSH ADMINISTRATION
ジェームズ・ライゼン 訳:伏見威蕃
毎日新聞社 2006年9月15日発行
朝日新聞は10月8日に書評を掲載しています。私としては、ずいぶんと久しぶりに、朝日の書評を読んで、この本を読もうと思って予約しましたからね(ブログに書いた後で書評が出ることが多いですから)。