白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

雪の音

2010-12-11 | 画廊の様子
ただただ、深々と降り積もる雪の夜、
水辺の葦もそれに寄り添う柳の枝も
微動だにしません。

妄執の雲晴れやらぬ朧夜の
       恋に迷いしわが心

天の闇から一筋の光が射した夜の底に
綿帽子に白無垢姿の娘がしょんぼりと佇んでいます。
可愛らしく片足で立ち片方の爪先を下ろしては小さく歩きます。

この世のものとも思えない美しい舞台が繰り広げられていきます。
「柳雛諸鳥囀り」の鷺娘の踊りです。

濡れる雫と消ゆるもの‥‥と白鷺の精が目が醒めるような
紅いちりめんの衣裳を纏った町娘に変り、次々と引き抜きで
衣裳を変えながら苦しい娘心を踊り尽くします。
とけて逢瀬の嬉しさも、余る色香の恥ずかしや‥‥

最後のくだりは添うも添われずあまつさえ、邪慳の刃に‥‥
鷺の羽根に火焔模様の銀糸縫いの着物で狂乱の中に身を落とす
凄絶な場面になります。

ここに愛するものを得られない苦しみが魂を破滅に誘うのは
日本人が持っている独特の恋愛観として表れているのでは
ないでしょうか。

「鷺娘」では雪音の鳴物、唄、三味線が踊りと競うように
舞台を盛り上げます。

静かな冬の夜に目をつぶり降る雪の音に耳を澄ませると
純白の衣裳、引き抜いて深紅の衣裳に包まれた玉三郎の
「鷺娘」の気品に満ちた舞姿が浮かんできます。

その時々の心模様に響く雪の音はそれぞれに違ってはいても
しみじみと優しく人の心を包み込んでくれるはずだと思います。

                      s・y

今日の一枚の絵   「鷺娘」  多美子  肉筆