goo blog サービス終了のお知らせ 

眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

プレゼント

2025-03-18 | 
あの日あの時間違えた別れ道で
 僕はいつだって憂い
  煙草を吹かせて哀し気に微笑んだ
   何時かの微笑
    困惑した世界の中心点で黒猫があくびする
 
     ねえハルシオン
      どうして僕は現世にいるのだろう?
       もう誰も居なくなってしまった世界で
        どうして僕は楽器を弾いているんだろう?

        黒猫は何も答えずに優美に紙煙草を嗜んだ
         それから一枚のタロットをめくった
          「道化」
           くすくす微笑んで
            黒猫は楽しそうにワインをグラスに注いだ
             僕は途方に暮れて空を見上げた
              あの日に少しだけ似た
               重く垂れ込めた灰色の世界
                地団太の孤独
                 少年時代から出遅れた足音
                  オルゴールが鳴り始め
                   世界が終焉を迎える頃
                    あの日あの時の一瞬
      
                    僕はギターを弾いていた
                     カルリの練習曲を弾き
                      回らない指でジュリアーニの楽譜をさらっていた
                       中庭の卓球台で試合を楽しんでいた男性が
                        お調子者らしく
                         エリック・クラプトンは弾かないのかい?
                          と口笛を吹いた
                           「ティアーズ・イン・ヘブン」
                            その頃
                             みんなこの曲に浮かれていた
                              僕は黙って
                               ランディーローズの「Dee」を弾いた
                                退屈そうにみんな中庭を去った
                                 僕は黙々と楽器を弾いていた
                                  とてもとても寒い冬の日だった

                                  寒くないの?
                                 声に驚いて顔を上げると
                                先生が優しそうに珈琲カップを僕に手渡した
                               口にした珈琲がとても暖かかった
                              寒くないの?
                             彼女はもう一度確かめるように尋ねた
        
                            寒いですよ、もちろん。

                           手袋をすればいいのに。

                          手袋をしたらギターが弾けないんです。
                         僕の答えに彼女は
                        それもそうね。
                       と呟いて巻いていた緑色のマフラーを取って
                      僕の首に巻いてくれた

                     暖かいよ、それ。

                    でも先生が寒いでしょう?

                   大丈夫。医局は暖房が暑いくらいなの。
                  それに素敵な音楽で気持ちが暖かくなったから大丈夫。
                 あとね、
                煙草は控えめにね。

               そう云って彼女は建物の中に姿を消した
              残された緑色のマフラーはいい匂いがした

             先生は忙しそうにカルテを抱えて歩き回っていたけれど
            僕がギターを弾き始めると何処からか現れて
           曲が終わるまで興味深そうに聴いていた
          それから
         また聴かせてね、と云ってすぐに何処かに消えた
        不思議な先生だった
       でも僕はその先生となんとなく気が合った

      こんにちは。

    そう云って先生が中庭のベンチの僕の隣に座った

   今日は忙しくないんですか?

  私、今日お休みなの。

 休日出勤ですか?

そんなところ。
 ね、良かったら何か聴かせて。

  僕は魔女の宅急便の「海の見える街」を弾いた
   曲が終わると先生は満足そうに微笑んだ
    それからキャンデーを僕にくれた
     煙草のかわり。
      そう云って自分の口にもキャンデーを放り込んだ

       不思議よね。
        どうしてそんなに指が動くのかしら?
         私の指も練習したらそんなに動くのかな?

          出来ると想いますよ。

           彼女は笑って無理よと呟いた。

           私、不器用なの。手術もそんなに上手じゃないし。
            
           僕はなんて云ったらいいのか分からず黙り込んだ

          先生は悪戯っぽく、嘘よと微笑んだ。
         僕等は二人でくすくす笑った

        先生は他の先生たちと飲みに行ったりしないんですか?

       どうして?

      いつも此処にいるから。

     そうね。人が多い処が苦手なの。それに。
    それに他の先生たちとは大学が違うから

   そういうの関係あるんですか?

  それはやっぱり人間関係だから。

 なんだかままならないですね。

そうね。ままならないわ。
 そこにいつも貴方のギターが流れてくるのよ。
  花を見つけた蜜蜂みたく吸い寄せられるの。
   お陰で仕事が溜まって休日出勤なの。

    ごめんなさい。
     僕が謝ると、
      嘘よ。信じないで。
       と可笑しそうにくすくす微笑んだ

        此処を出たら大学に戻るの?

         キャンデーを舐めながら先生が尋ねた
          僕は途方に暮れて空を眺めた
           
           あなたはたぶんもう大丈夫。
            何処に行ってもね。

             僕は先生にマフラーを返そうとした

              いいの。あげる。

               いいんですか?

                うん。
                 あなた今日何の日か知ってる?

                  知りません。此処にいると時間や日にちが曖昧になって。

                   クリスマスよ。
        
                    プレゼント。それ。
                     いつもギターを聴かせてくれたお礼に。
                      

                      ね、いつか私にも教えてくれる?


                       何をです?

 
                       ギター。


                      教えてね。


                     そう云って先生は建物の中に入っていった

      
                    三日後


                   僕は其処を去った


                  先生に挨拶をする事は叶わなかった


                 ねえハルシオン。


                先生ギター弾いているかな?


               懐かしそうな目で黒猫は空を眺めた


              冬の日


             掠れかけた記憶の残像


            クリスマスプレゼントの想い出
























         
                        

橋の上

2025-03-16 | 
アーチ型の古い橋の上で
 別れた雨の日に
  傘は持っていなかった
 人は皆なにかを失う

  雨宿りという言葉は知りもしなかった
   純粋さを求めた
    琥珀色のウィスキー
     誰の為でもなく生きていけると信じて
      疑わなかったのは
       僕の神経が張り詰めていたんだね
        ヴァイオリニストのピッチカートで
         弦が一瞬の内に切れたんだ

        星空は素敵だ

       惑星の配列を眺めるのは面白い
      果たして僕は
     一列に並ぶそのどこら辺に位置するのだろうか?
    
    橋の上で初めて待ち合わせをしたのは
   いったい本当にあった出来事だったのだろうか?
  不ぞろいの意識下では
 記憶は曖昧な盲点をついてくる
  
   ね、教えてよ。

    僕は安易に酒に溺れ
     容易に事態を収拾させようとする
      無駄な戯言
       そうして事態は困難をきわめた

     雨の橋で出会い
      雨の橋で別れを告げた
       刻印された者達は
        時間が解決してくれると口をそろえた

       ね、教えてよ。

      かたん、と
     
     音を立てて写真立てが倒れた

    歪んだ記憶の曖昧な代弁者は

   酔いの淵を溺れる歪んだ暮らしを錯綜する
  僕のアリバイ
 疑心暗鬼の警官達が
手馴れた尋問で職務質問す

    橋の上の小さな出来事

     咀嚼できず今も想い出すんだ




        

愛煙家

2025-03-11 | 
寛さんはいつも窓際の席でぼんやり煙草を吹かしている
 通りがかった僕に「ちょっと来い」と命令する
  僕は、忙しいのでという言い訳を口にするが
   お前の愚らない人生に忙しい事なんかあるもんか、といきなり全否定だ
    書類を抱えながらため息をこぼしつつ彼のそばに座る
     若い看護士が訪れ
      煙草は身体に悪いですよと苦言を呈す
       身体に悪いと死ぬのかと寛さんは僕に尋ねる
        たぶん健康には良くないでしょうね、と答える僕に
         死んだら吸えないのだから生きてるうちに吸えと
          滅茶苦茶なことを云って
           ピースを一本差し出す
            一服した僕の顔を眺めて
             美味いか?と尋ねる
              美味いですよ、もちろん。
               そう云う僕に満面の笑みを浮かべて
                そうだ。それでいい。
                 と満足げに微笑む
                  僕は苦笑しながらライターで
                   彼の煙草の先に灯を点けた
            
                   大体煙草が悪いと誰が決めたと不機嫌だ
                  さあ?誰でしょうね。
                 天皇陛下か?
                其処の所はよく分かりません。
               わしらが若い時分には
              煙草を吹かすのは大人になった証拠だった。
             皆得意げに煙草を吹かしたもんだ。
            戦時中も戦後間もない頃も煙草は貴重品だったからな。
           寛さんは呟き紫の煙を吐いた
          召集令状が来てな
         いきなり長崎に連れて行かれたんだ
        海軍に入隊したんだ
       当時沖縄の連中は方言のなまりがひどくてな
      お前等、日本語も話せないのかと上官にこっぴどくやられたよ
     外出の日でも憲兵がうるさかった
    翌朝、酒の匂いがする奴は上官に死ぬほど殴られたもんだ
   お前等酒を飲んでどうやって国を守れるのかってな
  酷い所だったよ
 終戦を迎えたのも長崎だった
今日から諸君は民間人と一緒だ、と
 飛び上がるくらい嬉しかったな
  飛行機が無かったから船で宮古島に帰った
   波止場には村中の人々が集まって出迎えてくれた
    嬉しかったね
     酒を飲んで煙草を吹かした、想い存分な
      誰かが三味線を弾いて歌ったよ
       「なりやまあやぐ」だ
        懐かしかったね
         お前は三味線は弾かんのか?
          駄目な奴だ
           三味線はいいぞ
            子供の頃には
             登川誠仁が近くに住んでいてな
              いつも
               寛兄さん、寛兄さんと遊びをせがんでいたよ
                あいつは子供の頃から上手かった
                 天才というのは確かにいるんんだな
                  あいつのは速弾きは凄かったもんな。
                   ところで今は何月だ?

                   そう云って
                  寛さんは黙り込み目を閉じた
                 煙草の先が灰になり
                ぽとり、と落ちた

               僕が声をかけると
              うるさい、と呟いた
             何を考えているんですか?と尋ねると
            昔のことを思い出しているんだ
           無粋な奴だ
          と目を開けた

         世間は平和か?

        そうでもないですよ。

       そうか。
      昔もそうだった。

     気をつけろ。

   僕はウィンストンを引っ張り出し
  一本咥え火を点け
 寛さんにも勧めた

懐かしい煙草だな

 お前は何時から煙草を呑んでるんだ

  さあ?15歳くらいですかね。

   寛さんは苦笑いした

    立派な不良だな

     僕等は並んで煙草を吹かし続けた

      窓の外の世界に

       煙がゆらゆらと舞った

        皆いなくなったよ

         十分気をつけろ

          煙がゆらゆらと踊った

           まるで


           まるで何処かの国の様に













               

この夜に

2025-03-07 | 
優しさと哀しみのお話し
 疲れ果てた界隈でラジオから流れる音楽に耳をすました
  木霊する旋律に
   どうかこころが柔らかくなりますように
    そっと祈った

     世界の路地裏で少女がギターを弾いている
      あの懐かしい音色で
       道化師がタップダンスを踊り
        黒猫のハルシオンが優雅にお酒を舐めている
         僕は
          両の手のひらを握り
           ただ安かれと祈った
     
           あなたの場所よ

            公園の噴水で少女が告げた

             僕の場所?

              そう。
               暖かな音楽があなたのこころを柔らかくするの。
                そうしてそこがあなたの場所なのよ。
                 あなたは帰ってくる。
                  ここにね。

                  僕は此処に帰れるのかい?

                   大丈夫。
                    心配しないで。
                     あたしが此処に居続ける理由。
                      あなたが此処で物語を描き続ける理由。
                       あなたはあなたの場所に帰ってくるのよ。

                        少女がそっとギターを弾いて歌った
                         誰の為でもない歌
                          旋律は雨降りの夜に
                           澄んで流れた

                           いつか
                            雨は降り止むわ。
                             歩き疲れたらあたし達の物語を想い出して。
                              優しさと哀しみの歌を歌っているから。
                               大好きな音楽にそっと耳を澄まして。
                                音楽には
                                 音楽には魂を再生させるちからがあるの。

                                 空の話

                               いつか君に伝えようね

                              怯えた孤独な夜に

                            優しさと哀しみの成分は似ている

                           あなたの零れ落ちた涙が

                          いつかあなたの優しい物語になりますように

                         僕は手のひらを握りしめて

                        ただ祈り続ける


                   「変化する為の努力

                    変化しないものを受け入れる勇気を」

                 この夜に

                あなたが少しでも眠れますように

               きっと

              朝日がやってくる


             僕は君が大好きだよ





























歌会

2025-03-01 | 
青い月明りに導かれて
 僕等は窓から逃避行した
  風が優しく耳朶を撫で
   昔歌を口ずさみながら散歩を続けた
    行き先はあの草原だった
     たっぷりのワインと煙草を手に
      上機嫌の僕等には柔らかな青の光が道しるべとなった
       ヘンゼルとグレーテルみたいね。
        少女が呟いた
         お菓子の家にはたどり着けないよ。
          僕が云うと
           いい、甘ったるいのは嫌いだから。
            お酒と煙草があれば何もいらないわ。
   
            草原にたどり着いた僕等は
             大きめのマグカップにたっぷりとワインを注ぎ乾杯した
              安いハウスワインだったけれど
               酔っぱらうには十分な味だった
                二人で煙草を吹かし
                 僕等は静かに青い月明りで月光浴をした
                  世界は静寂で風は優しく
                   僕は生きていることを感謝した
                    こんな日が来るなんて
                     あの頃には想像も出来なかったからだ

                     それからマグカップにワインをなみなみと注ぎ
                      今はいない君に乾杯した
                       あるいは過去の記憶に向けて

                       ね、
                        あなたはいつまでもあなたなの?

                         少女が不思議そうに僕を見つめた          
                          
                          どうして?
                           僕は僕のままだよ。
                            ころころ変わるほどカメレオンにはなれないしね。

                             あなたはだから時代遅れなのね。
                              あなたには友達はいたの?

                               僕は苦笑いしながら答えた

                                いたよ。
                                 大切な友達が。

                                 彼等彼女等は何処に行ってしまったの?

                                  少女の茶色の瞳が哀しげに問う

                                  みんな消えてしまったよ。
                                 変わっていったんだ。
                                みんな大人になってしまったのさ。

                               僕は世界に取り残されたのだ
                              みんなあたらしい扉を躊躇なく選び
                             少年少女の世界に別れを告げたのだ
                            それはどうしようもない事柄なのだ
                           そうして僕だけが
                          永遠の夜の子供として青い月に導かれたのだ

                        寂しくないの?

                       寂しさに慣れたことなんて一度もないよ。
 
                      ただ歌があったんだ。

                     歌?

                    そう。
                   歌が救いだったんだ。

                  僕は古臭い19世紀ギターを引っ張り出し
                 調弦をして
                埴生の宿を歌った
   
               そのメロディー聴いたことがある。

              そう云って少女は口笛を吹いた

             僕は
            てぃんさぐの花を歌い
           えんどうの花を口ずさんだ

          あなたの故郷の歌なの?

        少女が尋ねた

       そうかもしれない。きっともう忘れてしまったと想っていたのにね。

      僕は青い空と青い海を想った

     そうして世界がしあわせであるように願ってワインを飲んだ

    もっと歌って。

   酔っぱらった僕等は
  ありったけの歌を歌い続けた
 
 青い月夜の歌会




君に届きますように



  そう願った




















                       

薄紫の花びら

2025-02-26 | 
重力に反比例した朝は
 気だるく薄紫色の意識を開花させる
  花の色彩領域と匂いの気高さに
   泣きたくなる午後のミツバチ
    コケットな仕草の要因で
     三日月が白夜の逃避行を告げる
      朝七時に口にするワインは決して上等ではない
       重力に反比例した朝
        宇宙飛行士の朝ご飯

        駆け出しの新聞記者
       赤いタイプライターで映し出す
      あの二十面相にまつわる奇異なゴシップ
     笑えない活動写真の
    擬似された模倣
   あれは何時か見た貴方の後姿
  ほら
 額に罪びとの印が刻印されている
ごらんよ
 葡萄の木にまつわる午後十二時
  エピソードが始まる
   あの薄明かりの太陽は
    まるで消えかけた懐中電灯の如く
     
     神話が始まる夕暮れ時
      運動場に伸びた長い影の刹那
       永遠に届かない君の影に手のひらを伸ばすのだ
        もう帰れない
         森の深緑に足を踏み入れたのだ
          猫があくびする
           やがて夜が訪れる
            人気の無い街並みはまるで廃墟の様相を呈す

            図書館で調べた議事録に
           君の証言は記載されなかった
          僕は永遠に君を見失う
         運命線の切れ端は
        電波の届かない哀しみ
       だって声が途切れ途切れで
      君の泣き声が聴こえない
     貸し出しカードに誰かの名前が記載されていた
    思い出せない名前の数々
   僕は馬鹿だ
  電波が届かない

薄紫色の花が花瓶に活けられている
僕はその鼻の匂いに記憶をリピートさせ
 届かない夢の末路を想像する
  君の声
   宇宙食の朝ご飯
    ワイン一杯で始まる一日の幻想組曲
     酔いどれた視界の風景の中で
      夢を見る
   
      当惑された意識の境界線

      薄紫色の花びらを眺め

      繰り返す日々に懺悔する

      仏壇の線香の煙が揺れる


       永遠




希望

2025-02-23 | 
どうしてさ?
 君が云う
  僕は世界の果てに佇み
   果てし無く広がる緑の草原にいた
    誰かが口笛を鳴らした
     でもその誰かは永遠に姿を現さなかった
      三日月が笑った

      魔法を知っているよ。
       君が云う
        僕は街角の街灯の下に永遠に安置されている
         存在の不確実さ
          狂乱の果ての空間に
           腐った林檎が放置された
            許されるならば
             僕はただ広い公園のベンチで呼吸がしたかった

             見据えた希望はわずか数枚の金貨で行商される
              つぶらな瞳が虚無の世界の入り口となった
               我々は
                極度に緊張した綱渡りで
                 大切なものを次々と喪失する
       
         永遠に失われ続けるの。
          少女の声が囁く
           夜
            徘徊した公園の池のほとりで
             真実について魚たちが情報を打電する
              信号はやがて電線を伝い
               哀しみの成分が清潔な注射針で
                血管に流し込まれた
    
          様相を呈する
           欺瞞
            絶望
             孤独
              郷愁

          徘徊する欠落した意識
           分解された時計の部品の一部
            過呼吸気味の君のシグナル
             流される酸素の量が設定されたのだ

          消えてゆくの。かつて真実だった記憶が。
           少女がピアノの鍵盤に触れる
            けれど何度耳を澄ませても
             其処から音は感知されなかった

             無言
              表層の嘘
               歪んだ戒律
                伸ばした手のひらは
                 決して何者をも握り締められなかった

     穏やかで甘美な曲が脳裏をよぎり
    やがて路面電車が発車する
   石畳の街の回廊を
  何度も螺旋する
 
 世界
  虚弱な精神のきしみは
   まるで古ぼけた観覧車の様子で
    閉鎖された遊園地に忍び込んだ子供達は
    あの笛吹きの魔法使いによって永遠に子供で在り続けなくてはならない

      誰も知らない
       握り締めた孤独
        回るのだ
         音も無く
          街路樹の隙間をぬって
           僕はてくてくと歩く
            ただ歩き続けている

            黒猫が僕の足元であくびをする
             永遠に遊園地で遊び続ける悪夢は
              まるで白いシーツの病室で見た夢の様に
               
               どうしてさ?
                君が云う
                 あの懐かしい記憶の声で

                 もう聴こえない声
                  記憶の残渣
                   残り少ないビーカーの中の
                    微量の液体


                     希望















 

草原の出来事

2025-02-21 | 
永遠は何処にあるの?
 少女が呟く
  凛とした彼女の横顔を眺め煙草を吹かした
   緑の草原には風が吹いていた
    柔らかな日差しが僕等を憩う
     緑色の瓶ビールを飲みながらあの青の時代を想った
    
      僕等は寄る辺ない流浪の旅人で
       此の世界が旅の途中なのだと知っていた
        それでもビールを浴び
         楽器をかき鳴らした
          永遠に続く緩衝の此の地に於いて
    
           ね
            ビールを頼んで
             君がカウンターで告げた
              12本目の瓶が厳かに運ばれた
               マスターは苦笑し僕にもビールは必要かと尋ねた
                意識を失いかけた僕は急いでハイネケンの残りを飲み干した
                 珈琲が飲みたかった
                  彼女は平然とした面持ちで12本目のハイネケンに口をつけた
                   ビールを飲み干す彼女の口元を眺めた
                    まったく酔い潰れない彼女に僕は呆れて質問した

                     そんなに美味しそうに飲まれたらビールも本望だろうね

                      そうね。
                       美味しいわ。
                        
                        どうして君は酔い潰れないんだい?

                         僕の言葉に彼女は意外そうな表情をした

                          酔わないのよ。
                           いくら飲んでも。

                            そうしてフリップモーリスを咥えた
                             僕は煙草の先に灯を点けた
                              彼女は満足げに白い煙を吐いた
                               午前三時
                                店には僕と彼女とマスターだけが残された
                                 赤い花
                                  君はその頃皆にそう呼ばれていた
                                   そうして
                                    ギターを弾きながら寂しそうに歌う
                                     君の切ない声が僕はとてもとても好きだった

                                      君は現実界隈の行方に酔い潰れ
                                       誰もいない路地で三本足の野良猫の頭を
                                        撫でていた
                                         雨が降りしきる深夜に
                                          傘も差さずに
                                           僕は尋ねた

                                            ねえ
                                             音楽は好きかい?

                                         赤い花は不思議そうに僕の瞳を見つめた

                                        音楽が無ければおかしくなるわ。

                                       僕は彼女を行きつけの店に誘った
                                      難しそうな顔でビールを飲みながら
                                     彼女は僕の煙草を取り上げ
                                    美味しそうに煙を吹かせた
                                   酔いどれた僕がギターを取った時だけ
                                  気怠そうに云った

                                 ね
                                音楽好き?

                               僕は黙ってギターを弾いた
                              しばらく聴いていた彼女は
                             そっと歌ってくれた
                            ピンクフロイドの「あなたがここにいてほしい」
                           そして僕と赤い花は友達になった

                          皆がいつも不思議そうに尋ねた
                         どうして赤い花がお前とだけ歌うんだい?
                        と
                       赤い花はいつも一人きりでギターを抱えて歌っていた
                      舞台に人の気配がするとそっといなくなった
                     だから
                    彼女が僕の伴奏で歌う光景はたぶんめずらしかったのだ
                   ビールを飲み煙草を吹かし
                  君は僕が酔いどれて滅茶苦茶なコード進行で即興演奏すると
                 悪戯な詩を紡いで歌った
                飽きることなく何時間も僕等は演奏を続けた
               終わらない歌
              永遠を想った

             最後に君に会った時
            赤い花はこう呟いた

           あなたはもう行かなくちゃ。

         何処へ?

        此処以外の何処かよ

       どうしてさ?

      どうしてもよ。

     なら君も行こう。一緒に。

   赤い花は優しく哀し気に告げた

  此処に私は残るの。
 あなたはもう行かなくちゃ。

  僕は途方に暮れた
   
   どうして?
    僕は君といるんだ、ずっと。

     永遠は来ないのよ。あなたはあなたの世界に行き
      私は私の時間に生きるの。
       それはもう決まったことなの。

        時季外れの店の風鈴が鳴った

         あなたが寂しい時には想い出して

          私が歌っていることを
    
           僕は永遠に憧れるけれど永遠を信じない

            長い時間が流れ

             いつか僕は涙さえ忘れた

              君の声を忘れた

               ただ

                季節外れの風鈴の音だけが記憶に残った


                 永遠は何処にあるの?
                  ハムとレタスのサンドウィッチをほおばりながら少女が尋ねた

                   たぶん

                    たぶんあの深い井戸の底だよ
  
                     其処に鳥の化石が眠っているんだ

                      飛べなかった鳥の

                       記憶の化石

                        風がたなびく

                         緑の草原で

                          いつまでたっても止め切れない

                           煙草に僕は灯を点けた

                            友よ

                             いつだって

                              いつまでも




















       

誕生日

2025-02-17 | 
何処の国の民族楽器なのか
 得体の知れない弦楽器を少女は
  古楽器屋で飽きもせず眺め続けている
   展覧された弦楽器は
    幾分チェロに似た形をしていた
     僕はそんな楽器と少女を見比べ
      煙草をポケットから引っ張り出して火をつけた
       黒猫が寄ってきてそうっと僕の足元に座り
        あくびをしながら憐れむような目つきで僕を眺めている
         少女が振り向く
          僕はあきらめて財布の中身を調べた
           店主が会計の準備を始める
            冬の日の午後
             空はとても青く澄んでいた

            部屋にたどり着くと
           少女はマフラーも取らずにすぐに梱包された楽器を開封した
          彼女のあたらしい友人が増えたのだ
         僕はコンロでお湯を沸かし
        手早く珈琲を淹れ
       街の店で買ったチョコチップクッキーを齧った
      少女は見るからに古めかしい弦楽器を抱え
     とても満足げに眺め続けている
    僕はクッキーを齧りながら
   無残にも消え去った生活費と
  残された日々の食事のことを考え
 頭が痛くなって飲み残しのワインのボトルのコルクを抜き
煙草を吸いながらグラスに注いで舐めた

 少女の誕生日のプレゼントを買いに行く為に
  僕等は今にも壊れそうな愛車で街に出かけた
   少し暖かくなってはきたけれど
    外の空気は幾分冷え切っていた
     僕等はカーステレオから流れる正体不明なポップスを聴きながら
      街への路を蛇行しながら進んだ
       街までには少なくとも2時間はかかる
        久しぶりに聴く最新のヒットチャートは
         余りにも異質で
          何処の誰がこの様な音楽を好んで買い込むのか
           全くもって不可思議だった
            つぶれかけの銀巴里に突然訪れた
             坂本龍一くらい先進的な音楽だった
              そしてそのいちいちに
               僕はどうしても馴染めず
                諦めてイーグルスのアルバムを流した
                 ドン・ヘンリーが切ない声で
                  ホテル・カリフォルニアを歌った
                   少女は助手席で
                    皮の手袋を悪戯しながら
                     可笑しそうに僕の顔を眺め
                      1969年物のワイン美味しいのかな?
                       と皮肉に付け加えた

                    街角のカフェでドーナツを齧り
                   酸味の強い珈琲を飲みながら
                  僕等は誕生日について話した
                 僕には僕の誕生日が分からず
                少女には果たして誕生日が或るのかさえ疑問だった
               彼女は朝目覚めると
              朝食のベーコンエッグを食べながらこう云った

             ねえ
            あたしは今日が誕生日だといいわ。

           突然どうしたの?

          今日は空気が澄んでいてとても綺麗なの
         だからお誕生日は今日みたいな日がいいの。
        可笑しい?

      少女の意見には全く同感だった
     人は自分の好きな日に気に入った誕生日であればいいのだ
    誰にも文句を云われる筋合いも無いし
   それに自分自身が気に入った素敵な日を祝う事に
  なんの問題も無い様な気がした
 それで僕等は彼女のプレゼントを手に入れる為に
街角の片隅でドーナツを齧り珈琲を飲んでいるのだ

 梱包を解かれた楽器は
  新しい国に少し戸惑って見えた
   少女は弦楽器を丹念に布で撫でながら呟いた

    ね、貴方何処の国の生まれなの?
     心配しないで、
      あたしは貴方を大切にするし
       此処だってそう悪くないわ。

       黒いケースには弓がついていた
        
       弓で弾くのかな?

      試しに僕が弓で音を出すと
     楽器が悲鳴を上げるように雑音を叫んだ

    無理やり無茶なことしないで

   弦楽器を僕から取り上げ
  少女は優しく指で弦を弾いた
 優しくて深い音色が流れた

調弦はどうすればいいんだろうね?

 僕の質問には答えず
  彼女は楽器にささやく様に
   ゆっくりとペグを回し
    それから確かめるように音階を弾いて
     嬉しそうに曲らしきものを奏で始めた
      エリック・サティのジムノぺディだ
       楽器が呼吸を思い出した様に歌った
        僕はその優しい音色に包まれながら
         緑色のソファーでワインを飲んだ

         その子は僕等を気に入ってくれたのかな?

        多分ね。
       ゆっくり仲良しになればいいわ。

      ゆっくり

     わたしとあなたみたいにね。

   

   空が澄み切っている


  こんな日が誕生日だといいなとぼんやりと想った


 きっと知らない国の知らない人の誕生日は


きっとこんな日なのだろう



 空気が澄み切った

   
  優しくて綺麗な空気の日


   僕はグラスに残ったワインで


    何処かの国の彼らに乾杯の挨拶をした


     素敵な日だ


      祝祭された日常


       ある日の

       
        午後のお話










 
              

冬の日

2025-02-14 | 
あなたどこ帰りますか?

タンブラーグラスのバーボンを飲み干して彼女はそう云った。
カウンターには僕と彼女しか座っていなかった。
朝の四時半だ。仲間達はみんな酔いつぶれ、まるで自分の部屋にいる様に安心しきった寝顔で入り浸った馴染みのバーの床に這いつくばって眠っていた。
僕はウィンストンを吸って黙って店のポスターを眺めていた。
彼女は不思議な生き物を見る様に飽きもせず僕からの答えを探し出そうとしている。僕は考える振りをしてただ煙を吸い込んでいた。
僕は考える事を放棄していたのだ。
何もかもの存在自体が危うく見える時代。僕等はただ酒と音楽に酔いつぶれた。
帰れる所なんて何処にも存在しなかった。だから彼女の質問にも答えられる訳が無かった。

キャンパスの広場のベンチで女の子がギターを弾いていた。
ある寒い日の出来事だった。ショートカットの茶色い頭がリズムに乗って揺れていた。
何人かの学生が耳を傾けつまらなさそうに彼女の歌を聞き流しては去ってゆく。
気が付くと、コートのポケットに手を突っ込んだ僕だけが残された。
曲が終わると彼女は少しだけこちらを見て微笑んだ。
僕は何だか気恥ずかしくなって青い空を見上げた。
歌声が流れた。
スザンヌ・ヴェガの「ルカ」だ。僕はガットギターの音に耳を澄ました。哀しい歌声が終わると彼女は僕の顔を眺めこう云った。

  音楽好きですか?

  僕はうなずいた

そうして彼女はとても嬉しそうに微笑んでギターを僕にそっと手渡した。僕は戸惑いながら適当に頭に浮かんだフレーズを弾いた。とても丁寧に弾き込まれたギターだった。3コードのブルースを引き始めると彼女は英語と日本語が入り混じった歌を即興で歌った。僕等は飽きもせず適当な音楽を歌った。日が暮れる夕方まで僕等はそうしていた。

僕はロンドンからの留学生の彼女を行きつけのバーに連れて行った。
どうしてそうしたのか自分でもよく分からなかった。
彼女はギターケースを抱えて店の中を見回した。
店にはマスターと常連が顔をそろえていた。誰かが口笛を吹き僕等を招き入れた。仲間は何も聞かないで僕等に酒を注いでくれた。外国人だろうが何だろうが仲間達にとっては大した問題ではなかった。テーブルの上にクラッカーやオイルサーディンの缶詰めやら豆のスープが並んだ。彼女は不思議そうに彼等や店の楽器に目をやり満足げにバーボンを舐めた。何だか捨てられた猫の様だった。仲間達は入れ替わり立ち代りドラムを叩いたりベースを悪戯している。フリーの「ウィシングウェル」が流れた。酔っ払ったギターが狂ったように速弾きを始めた。みんな可笑しな即興を始めた。
いつもの風景。
だけど僕には何か気になる事があった。彼女は何も食べ物を口にしないのだ。ただお酒だけを舐めている。緑のセーターからのぞく彼女の腕はとてもとても細かった。
試しにフライドポテトを薦めたが、彼女はめんどくさそうに首を振って拒否した。
ただお酒と音楽に身を浸していた。
彼女はそれからたまに店に顔を出すようになった。
二ヶ月がたった。

ピーナッツを何粒か口にして咀嚼した。
かりっと音がした。

 ねえ、食べる?

 いらない。でもありがと。

僕はとても哀しく想った。
彼女は講義にも出ていなかった。広場のベンチか店で嬉しそうにただ歌を歌っていた。
何度か大学病院のバス停で彼女を見かけたと誰かが教えてくれた。
僕は「チムチムチェリー」を弾き「ロンドンデリー」を弾き「マルセリーノの唄」を弾いた。彼女はお酒を舐めながら楽しそうに身体を揺らしていた。
僕は何も訊かなかった。

あなたどこ帰りますか?

突然彼女が尋ねた。
僕は一瞬なにを訊かれたのか理解できなかった。

何処に?

わたし今度の土曜日に家に帰ります。先生もパパとママも帰りなさいいいます。
だからわたし帰ることにしました。

あなたどこ帰りますか?

失われた場所が一瞬僕の頭を駆け巡った
それから僕はウィンストンを吸って黙って店のポスターを眺めた。
彼女は飽きもせず僕の答えを待った。
僕は黙り込んで煙草を吸った。

  音楽好きですか?

彼女が尋ねた。うん、と僕は答えた。

  いつまでも?

  うん。
 
  よかったです。

彼女はそう云ってカウンターから立ち上がりギターを弾いて歌った。
僕はとてもとても哀しかった。

彼女はいつまでも歌い続けた。

終わらない物語のように。

誰にもわからない歌を歌った。


土曜日が来て日曜日が去った

 広場のベンチにはいくら探しても彼女の姿はなかった

  煙草を取り出して火を点けた

   白い煙がゆらゆらと立ち昇る

    やるせない虚無に向かって

     行き場の無い哀しさ

    
     僕は考える振りをしている





      行き場の無い




      僕自身の存在



      いつかの



       冬の日




メリークリスマス