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ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 118ページ目 ロワール川巡り④ 片思いする女性  

2014-01-12 22:44:38 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【118ページ】


  オオカミグッズのワインバーの常連客の丸山は、人事部の和田が

「ちょっと急用ができたので、後はよろしく」と言って、丸山のポケット

に一万円札を入れ、店を出て行ったのをポカンとして見送っていた。


 今夜は、丸山と和田は二人で飲む約束をしていたが、人事部の女性を

連れて来て、名前を貝塚 麻里と紹介した後、席に着かず、何も飲まずに

帰ってしまったのだ。


「丸山さん」


 丸山は、麻里の名前を呼びかける声で我に返った。


「あっ、和田が突然帰ってしまったものだから・・・・。

私と二人取り残されて気まずくないかね?」


 麻里は頭を振った。

そして、残された二人は、とりあえず席に座った。


「私が無理にお願いしたからかしら・・・・

和田さんが、楽しそうに今夜は丸山と飲み会だと話していたので、

私はお酒が弱いので、会社の飲み会以外にお店に行ったことがないと

話したのです。」


 メガネをかけた麻里はさらに話を続けた。


「そう話すと、和田さんが一緒に行こうと誘ってくれたのです。

そしてこのお店に来る途中で、営業の丸山さんに片思いしていると

打ち明けたのです。」


「それで和田は気をきかせて、帰ったのだな?」


 麻里は、申し訳なさそうに頷く。

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 117ページ目 ロワール川巡り④ ノンアルコールワイン 

2014-01-08 23:17:04 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【117ページ】


「良子さん、いらっしゃい!」 


 ワインバーに入ると、マスターの妹の美紀が出迎えてくれた。


「田辺さん、はい、ラベル」 


 マスターがいつものように、昨日テイスティングしたワインのラベルを

手渡してくれた。

良子は、それを受け取りながらクスっと笑った。


「顔に何か付いている?」


 良子は頭を振った。しかしマスターは美紀にもう一度確認する。


「目がちょっと腫れているかな?」
 

 そんなちょっとした会話をしながら、店内を見渡すと、カウンター席の奥で

和音がワインを飲んでいる。

良子の声に気付いた和音は、彼女の方へ笑顔を見せながら視線を向けた。

良子も笑顔を返しながら、和音に近づき、隣の席に座った。


「お疲れさん!」  

「メールうれしかったわ!

シャトー・オー・ブリオンを飲ませていただけるのね?」

「ああ、マスターに預けているよ」

「何飲んでいるの?」

「ノンアルコールのスパークリングワイン」

「ええ? ノンアルコールワイン?」



ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 116ページ目 ロワール川巡り④ ワインバー坂場

2014-01-07 23:28:24 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【116ページ】


 田辺 良子は、神戸のフレンチレストラン『マリーナヴィレッジ』の仕事を終え、

馴染みのワインバーに向かっていた。

和音から、店で待っているというメールがあったので、足取りは軽かった。

 
 神戸の華やかなメイン通りの角を曲がり、裏通りに入ってしばらく歩くと、

オオカミの形をした看板のネオンが光る一風変わった店があった。

ウィンドウ越しに覗くと、オオカミの置物、オオカミのぬいぐるみ、オオカミの

絵皿やカップ、オオカミの絵画、オオカミの面等オオカミに関するあらゆる物が

陳列されている。


 良子は、店内に入ると、新しいオオカミグッズが並べられたコーナーに気付いた。


「あら、かわいらしいグッズ!」


 そこに並べられていたのは、オオカミこどもの雨と雪のボールペン、シャーペン、

ストラップ、しおり、クリアフォルダセット等であった。


「でも誰が買うのかしら?

いやマスターの趣味で並べているのだわ!」


 良子は、オオカミこどもの雨と雪の映画を見ていなかったが、昨日テレビで放送された

番組の録画で見て、ちょっと泣けてしまった。


「オオカミ好きのマスターもテレビの録画を見たに違いない!

今夜のマスターは、目を赤くしていたりして・・・・」


 そんなことを想像しながら、良子は奥のドアを開け、ワインバー坂場に入った。

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 115ページ目 タブレットを操るソムリエ 走るは84年  

2014-01-06 21:21:36 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【115ページ】


「いえ、今の私の実力では・・・・・」


 秋月は頭を振った。


「ところで、私が部屋に戻って来た時、秋月さんはなにやら呟いでいたが?」

「あっ、あれですか?

和音さんの2本目のワインのテイスティングコメントを思い出しなら繰り返して

いたのです。」

「ネズミが飛べないという?」

「ええ、ムルソーでないという示唆の他に、ひょっとしてヴィンテージの示唆

もあるのではと思ったのです。」

「ヴィンテージの示唆も?」


 滝川社長は驚いた表情を見せた。


「ネズミが走ってジャンプという表現があったと思うのですが、走るは

84年を示唆していたのでは?」

「2本目はサントーバンの1984年だった!

ウーン・・・」


 滝川社長は、唸ったあと、黙り込んでしまった。

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 114ページ目 タブレットを操るソムリエ サントーバン  

2014-01-05 22:46:48 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【114ページ】 


 紙を取り払われて、出てきたワインはサントーバンであった。

サントーバンは、白ワインの最高峰モンラッシェを産するピュリニーモンラッシェ村

とシャサーニュモンラッシェ村とに隣接する村である。


 しかしモンラッシェがあまりにも有名なので、その影に隠れていて、ちょっとした

ワイン通でもコストパフォーマンスに優れたサントーバンのワインを知らない人が多い。


「和音さんと引き分けることができたと思ったのですが・・・」


 滝川社長は、サントーバンのラベルを和音に見せながらいった。


「いや引き分けでいいのではないですか?

私が2本目のワインがムルソーではなく、サントーバンであるとはっきり指摘した

訳ではないので」

「いえ、負けを認めます。」



 テイスティング対決が終わると、滝川社長は、おみやげに用意したワインを和音に手渡し、

玄関まで見送った。

そして、彼が部屋に戻ってくると、秋月がなにやら呟いていた。


「秋月さん、ご苦労さんだったね」

「あっ滝川社長!

負けてしまって申し訳ございません。

和音さんがワインの情報を事前に入手しているという私の推測は間違いだったようです。」

「そのようだね?

テイスティング対決を見ていて感じたのだが、秋月さんの実力ならトリックを使わずに

勝負した方が良かったのでは?」