「老いて新鮮」 （松ひさし）

わずかでも未来

年老いて嫌なことは何ですか
先ゆきが短く夢がもてないことです
年老いて良いことは何ですか
先行きが短く余計な心配をしなくてよいことです

老いが深まると　未来はわずか
希望も不安もしだいにしぼんでなくなっていくようです
無我の境地か　鈍感か

老いてこそ浸れる気分
お若いみなさんも　どなたにもやってきますよ
感じ方はいろいろ　あまいような　からいような　にがいような
ぼうとして　ふわっとして　風船か　シャボン玉か
ぼんやりで鈍感な身には不安も寄ってきません

未来の広がる青年が腕時計を見て　時を確かめる
つられて腕時計を見ると午後四時　夕方が近い
のほほんだからぼんやりと感じる人生の夕暮れ
わずかな未来　まだ明るさがある　世間が見えます
あさってのことは分かりませんが明日という日はきっと来るでしょう
何が起きるか連続ドラマの今日を見たり一人芝居を演じたり

だれにも浮かぶありふれた言葉ですけれど
人生劇場の俳優であったり観客であったり
わずかでも未来に向かって心を満たす時を過ごしましょう
今日という日が何年何月何日とはっきりとは分からなくても
明日はゴミの回収日と知っています　忘れないでゴミを出しましょう
「寝言」