伊賀上野が元気になればいいなあ!

上野の城下町、どうなっていくんだろう、、、見守る元気はないけれど、静かに生きていこうと思う(笑)。

■シリーズ 活き活き商店街とまちづくり■ ②

2009-08-13 12:22:12 | 町づくりって楽しいかも!
4.商店街株式会社アモール・トーワの設立

平成2年(1990年)、東和銀座商店街から400m離れた葛飾区の工場跡地に東京都が東京の東部地域の中核病院、「東部地域病院」を開業することになった。

この病院が、院内の売店を外部委託するという話だった。
それを聞いた田中さんは「地域の病院」であれば、「地域住民主義」を掲げる地元の商店街が経営をしてもよいのではないかと考える。

ただし商店街振興組合法では、事業を行う区域の範囲が定められ、かつ営利事業はできない。
そこで東和銀座商店街では、株式会社を設立することとした。
株式会社を設立するにあたって、田中理事長のもと、商店街組合員と次の3つの条件を申し合わせている。

・一つ目は、株主は商店街振興組合の組合員に限り、利益配当をあてにしない。 
・二つ目は、株式会社の経営に口出しをしない。口出ししたい人は、出資は不要。
・三つ目は、出資額は上限で十株50万円。(一株5万円)

こうして、日本初とも言える商店街株式会社「アモール・トーア」が商店街組合員41名の出資で平成2年(1990年)6月に設立された。
資本金は1350万円、社長には田中さんが就任した。

社名のアモールは「アモーレ(愛=イタリア語)」とモールの造語。

もし商店街の組合員を辞める場合は、その持ち株は商店街に返還、払い戻すことになっている。
病院内売店の経営委託先募集に対しては、他の希望者も大分運動したようだが、「地域住民主義」を掲げる田中社長の「アモール・トーア」が売店経営の権利を獲得した。
その後に、院内レストランも経営して欲しいという話が病院からありこれも引き受けた。
院内レストランの運営開始は平成2年7月のことだった。

食材は商店街の店舗から仕入れて、個店の売上向上にも貢献した。
但し、株主であればこそ、新鮮で最高の食材を田中社長は要求し、そうでない場合
は株主であったとしてもその店からは仕入れないと徹底していた、

 お店はお客さんのためにある。
 商店街は地域のためにある
という原則は、徹底して貫いた。

病院内売店、レストラン経営が安定してきたころ、今度は、足立区が職員不足から学校給食を民間委託する方針を出してきた。
病院内レストラン経営で実績もある。
早速「アモール・トーワ」が学校給食業務を行いたいと申し入れると区長は了解したが、担当課長は反対姿勢だった。

田中さんは地元の小学校だけに、自分たちの子によいものを食べさせたいという一心で説得、まず近くの小学校一校から学校給食事業を請け負った。

アモール・トーアが学校給食事業のために採用した方々は皆、地元の方々。
子供たちもおいしいという評判で、今度は民間委託に切り替えることが決まった小学校から順次学校給食事業を引き受けて欲しいと頼まれ受託している。

一小学校からスタートした学校給食事業は、現在では14施設、一日当たり約6000食を手がけている。(保育施設4、中学校2、小学校8)。

そして、アモール・トーアが学校給食要員として採用している方は全部で150人規模になった。
皆近くに住んでいる方々で、徒歩か自転車で通っている。
それだけ地域で雇用を生み出すことはできている。


5.ビル清掃事業と学童保育

平成8年イトーヨーカ堂が、亀有駅前の再開発ビルに出店した。
まだ大規模店舗法の時代であり、周辺商店街には街の整備のための協力金拠出提案もあった。
ただ田中さんは、東和銀座商店街は、反対運動はしない、協力金は不要と伝えていた。
イトーヨーカ堂からは、それでは、うちはビル内の清掃を外注するのでそれを引き受けて欲しいという。
東和銀座商店街では、店を閉めて外に働きに出る人も出てきていた。
彼らたちが地元で働ければ、ハッピーだ。

当初は清掃業者の研修生として働きながら、ノウハウを学び、2年後にその事業をアモール・トーアで引き受けることに、イトーヨーカ堂立会いの下で、その清掃業者も同意した。

清掃業者の方では、今まで一国一城の主だった人が2年間働いているうちに多分やめるだろうと思っていたという。
ところがその研修生として派遣された元時計・眼鏡店の主人は頑張り、2年後、業者の予想に反して引き受けられるようになっていた。

当初の約束通り、平成10年からイトーヨーカ堂の清掃事業は清掃業者に代わって「アモール・トーア」が引き受けることになった。
現在、他の商業施設、ビルの清掃作業も受託し、学校給食の次に位置づけられる従業員を抱える事業になった。 
また、平成15年から商店街の空き店舗対策の一環として待機児童施設を整備している。

平日の午後時過ぎ、学校から帰ってきた子供たちは商店街に中ほどにある
「アモール東和学童クラブ」で、父母が家に帰るまでの時間を楽しく過ごしていた。


6.失敗した事業も

現在、「アモール・トーワ」は食をつくる事業(学校給食、レストラン、宅配弁当等)と建物をきれいにする事業(主にビル清掃・メンテナンス事業)で、250名の従業員を抱える規模に成長した。

コミュニティ・ビジネスの成功事例として全国的にも有名になった

コミュニティ・ビジネスとは、商店街等地域に密着した主体が、地域内の問題解決や生活の質の向上を図るために必要とする事業を、企業的経営感覚を持って、継続的に行うビジネスを言う。

事業継続のために利益を出していかなければならないが、その事業目的は、利益追求よりも、地域コミュニティの維持・発展あるいは地域が元気になることにも重点が置かれることが特長であろう。

アモール・トーワは現在、売上高5億円ほどで、従業員250名(パート・アルバイト含む)。
学校給食、売店、清掃事業は利益をあげているが、地域にとって大事な高齢者等弁当宅配に関してはマイナスだが全体としてバランスを取っている。

ただ、「アモール・トーワ」の事業で、うまくいかなかったものもあった。

その一つが、空き店舗対策補助金を活用した「ベーカリーショップ」。

役所からの情報により当初から使える補助金があったため、必要以上に広い店舗を借り、約4500万円かけて店舗を改装した。
売上目標は、年間5000万円。

静岡県のパン工場で、研修を受けてきた「アモール・トーワ」の社員が、焼きたてパンの作業にあたっているうちはよかったが、店舗の中の余裕のあるところに、障害者の団体が自分たちの手づくり商品を売らして欲しいと言ってきたのでそれを引き受け、そのうちにベーカリーショップもできますということで任せたところ結果的にうまくいかなかった。 

田中さんは補助金があったので経営に甘えが出てしまったと反省している。


6.利を求めるのではなく、地域社会のために

お店はお客さんのためにある。商店街は地域のためにある。
そのために「アモール・トーワ」が設立された。
「東和銀座商店街」と「アモール・トーワ」は不離一体で、地域にとって必要とする“場”を提供し“役割”を担い、地域にとって必要とする“事業”を展開してきた。

「朝市」は、地域の人々が一番集まれる場所と時間と提供し、地域の人たちの交流の場になっている。
地域に、寝たきりや一人暮らしの高齢者がいると採算を度外視して、「弁当宅配事業」を行っている。

商店街は地域の人々にとって一番身近な存在であり、近所の高齢者や子どもの情報が自然に耳に入る。
そんな地域の人々の生活にからむ相談ごとを、「よろず相談所」を開設して話の聞き役になり、時には区役所の担当窓口につないで問題解決を図っている。

共働きの夫婦が増えて、待機児童が増えると、その子供たちのために「アモール東和学童クラブ」を開設した。

地域の人たちの心が一体となってお神輿をかつぐ北三谷稲荷神社の祭礼にも積極的に参加して地域を盛り上げる。
 
東和商店街には、普段の人通りは少なくなり、空き店舗も多くなっている。
しかし商店街にはゴミが落ちていない、落書きもない、普段から地域の安全や安心
を見守り、環境保全にも気を配っているからだろう。

店前で、お客さん同士の会話もよく見られる。

これは田中理事長のリーダーシップによるところが大きい。

田中さんはいう。
 「商店街の将来は、地域に役立てる商業集団かどうかで決まる。
 それには単にモノを売るだけではダメ。商人一人ひとりがもっと努力し、地域住民から頼られるようにならなければならない。」

しかしそんな理事長の下でも、文句はいうがリスクは負わない、自分の儲けしか考えないというような人も多く見てきたというが、それでは商店街は復活しない。

商店街の営みは、森に似ている。
皆、森の構成員としてそこに根付き、役割を分担し、それぞれが個性を発揮して自分の営みをしている。
一旦商店街に店を構えたら他の地域に移動しない。
植物のようなところもある。

それに対して利益という餌を求めて移動し、開閉店を繰り返す大型商業資本の営みは動物のようなものだ。
それによって地域に、商店街に危機が訪れることもある。
しかし、商店街が地域に役立てる商業集団である限り、その存在価値は失われないはずだ。

商店街の衰退は、まだまだわれわれの努力が足りない証拠だ、と、田中さんはいう。

厳しい商業環境の中で、地域社会における生活環境の維持、向上等に向けた各種取組みを長年行ってきた東和銀座商店街は、「地域コミュニティの担い手」のパイオニア的存在として、今国会で成立した「地域商店街活性化法」のモデル商店街ともなっている。


■東和銀座商店街振興組合
理事長:   田中武夫
所在地:   〒120-0005 東京都足立区東和2-9-7
連絡先:   TEL 03-3605-3551 
組合員数:  45名

株式会社アモール・トーワ

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