【コラム】なぜ尊敬されるお金持ちがいないのか
寡聞なせいかもしれないが、いくら頭を絞ってみても、今や伝説になった「慶州の崔氏」以外に思い浮かぶ人がいない。今日の財閥・企業家の富は、慶州の崔氏のそれとは比較そのものが滑稽なほど巨大化したが、残念なことに社会的な尊敬はそれに伴って大きくなれなかった。富と尊敬の比例というより、片方だけがひょろひょろと育ってしまえば滑稽だったり見苦しかったりするのもまた事実だ。
尊敬されるお金持ちというのは、お金をうまく儲ける人ではなく、お金をうまく使う人だ。
この国で貧困にやつれた時代から脱却させた故鄭周永(チョン・ジュヨン)・李秉チョル(イ・ビョンチョル)会長、そしてサムスン電子を世界最高の企業にした李健熙(イ・ゴンヒ)会長のような人物をすんなりと含ませるのが難しい理由だ。
よく調べれてみれば、必ずしも韓国だけがそうでもない。社会主義が発芽し、福祉の歴史が根深い欧州を見てみても、尊敬される資産家がすぐには思い浮ばない。お金持ちが多くても社会的尊敬がいつも彼らと伴うわけではない。
尊敬される富裕層は、むしろ適者生存資本主義のジャングルといえる米国に多い。2010年にマイクロソフトのビル・ゲイツ創業者やバークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット会長が財産の半分以上を社会還元する約束をして結成した富の寄付クラブ「ザ・ギビング・プレッジ(The Giving Pledge)」会員128人中の104人が米国人だ。このクラブの最年少会員2人も米国人だ。2010年、26歳の若さで加入したフェイスブック共同創業者マーク・ザッカーバーグとダスティン・モスコヴィッツだ。
なぜそうなのか。「犬のように稼ぐ」ことを拒まない米国社会で「きれいに使う」人が多い理由が何か。米国よりはもはるかに人間らしい顔をした資本主義社会である欧州で、尊敬される富裕層が少ない理由は何か。
欧州で尊敬されるお金持ちが少ないのは、逆説的に彼らが人間らしい顔をした資本主義を持っているからだ。欧州の企業家たちは普段から企業活動で社会主義政党や消費者団体の干渉を多く受ける。それで企業を個人の所有物と考えることも難しく、「犬のように稼ぐ」のも容易ではない。そして普段から、稼いだ金の半分以上を税金として出している。フランスの場合、来年から廃止されるが高所得者などが収入の75%を富裕税として支払わなければならなかった。特に寄付をしなくても強制的に富の社会還元を実践してきたのだ。
米国に「きれいな人」が多いのは、米国社会の土台になった清教徒精神の影響も明らかにある。だが、それより重要なのは教育の力だ。特に、分かち合いの精神をDNAに刻む「食卓の向こう側教育」の力だ。ホームレスでフォーブス世界100大長者番付の隊列に上ったことで有名なジョン・ポール・ミッチェル・システムズの最高経営者ジョン・ポール・デジョリア会長も2012年、「ザ・キビング・プレッジ」の会員になった。貧しい移民者だった彼の母親はデジョリア兄弟に「お前たちがいくら持とうが、お前たちよりも貧しい人々がいることを一生忘れるな」と教えたという。有名なロックフェラー一族は5代に渡る寄付を受け継いでいる。
韓国の私たちはどうなのか。いとこが土地を買うだけでも腹が痛くなる韓国社会が、他人の成功に評価が渋いのも事実だ。だが世界的に醜聞が出回ろうとも「大切な私の子」さえうまくいけば、それだけの現実で、尊敬されるお金持ちを作る教育は期待し難い。
この前「ナッツリターン」航空会社の操縦士が社内掲示板に掲載した文は、オーナー一家の教育がどうだったのか推し量ることができる。22年前に小学生だった末娘が兄と米国から帰国する飛行機に乗ったが、操縦室を見物させてくれと言って入ってきてはこのように話したという。「兄さん、よく見ておいて。これからは兄さんの会社になるのだから」。オーナー(この言葉自体も間違いだが)一家が一定の株だけを持って株式会社の代を引き継ぎ譲る個人所有物と考えているのは、一体この会社だけだろうか。
「ザ・キビング・プレッジ」の会員になった企業家は誓約書に参加理由を書くが、概して「特権」や「責任」「還元」「未来世代」「変化」に要約されるという。要するに「自分たちが特権を享受した責任として社会還元をするものであり、それが未来世代のための変化を導けると信じる」ということだ。
恐竜になった韓国の経済圏力が一日でこうした考えを持つようになるのは期待しがたい。社会還元はさておき社会的責任だけでも果たせるよう彼らを変えられるのは、可愛いくても、憎くても政治だけだ。だが容易に経済圏力と結託するのがまた政治権力だ。それを防いで経済圏力を牽制できる政治家を選ぶこと、それが有権者の義務だ。
イ・フンボン中央日報国際部長(中央SUNDAY第407号)
<現実と皮肉>
法人税、2年は減税先行 税制大綱きょう決定
与党税制協議会後、取材に応じる自民党の野田毅税調会長(右)と公明党の斉藤鉄夫税調会長=29日夜、東京都内のホテル
自民、公明両党は29日、与党税制協議会を開き、2015年度の与党税制改正大綱に盛り込む内容について最終案を取りまとめた。法人税は企業の負担軽減を優先し、穴埋めの財源よりも減税幅が大きい実質減税を来年度から2年間続け、3年目に減税分の財源を確保する先行減税の形を取る。バイクにかかる軽自動車税の増税は1年延期する。大綱は、エコカー減税の見直しや地方創生、家計支援関連の税制などを盛り込み、30日に決定する。
法人税は、標準で34・62%の実効税率を、15年度は32・11%、16年度は31・33%とする。引き下げ幅は15年度が2・51%、2年間で計3・29%で、16年度は引き下げ幅のさらなる上乗せを図る。