<北海道新聞>
衆院選の小選挙区で、第1党となった政党の獲得する議席の比率が、得票率を大きく上回るケースが相次ぎ、有権者が疑問を抱き始めている。前回2012年の衆院選で自民党は、小選挙区の議席の8割近くを獲得して政権を奪回したが、全有権者に占める得票数の割合を示す「絶対得票率」は2割台にとどまった。小選挙区制自体の特徴に加え、専門家は「乖離(かいり)が大きいのは、投票率が低かったことも影響している」と指摘している。
「投票率が低いままだと、全有権者の2~3割の組織票を持った政党が勝利し、政権を握ることもできる」
市民有志が7日、札幌市内で開いた投票啓発イベント。参加者の一人はこう発言し、投票に行くことを呼び掛けた。
イベント主催者の一人で、札幌市内で飲食店を経営する山田賢三さん(40)もその発言を重く受け止めた。11年の福島第1原発事故をきっかけに食の安全を考えるようになり、政治にも興味を持つようになった。来春の統一地方選のため今年8月からイベントの準備を進めていたところ、突然の解散で衆院選になった。
山田さんはイベントを前に、過去の衆院選の結果を分析。政権を握った第1党の絶対得票率と獲得議席率に大きな差があることをあらためて知った。「これでは国会が適切に民意を反映しているとは言えないのでは、と疑問に思った」という。
12年衆院選の小選挙区で、自民党の絶対得票率は24・7%だったが、当時の定数300の79%に当たる237議席を獲得した。小選挙区は当選者が1人のみで、落選候補者に投じられて議席には反映されない「死票」が大量に発生するためだ。
民主党政権が誕生した09年衆院選でも同様の現象が起きた。小選挙区での同党の絶対得票率は32・2%だったが、73・7%の221議席を得た。衆院選では、多様な民意を反映するよう比例代表との並立制だが、比例の定数は小選挙区の6割の180にすぎず、小選挙区での結果が勝敗に大きく影響する。
北海学園大の本田宏教授(政治過程論)は「小選挙区制は米国や英国など勢力の拮抗(きっこう)した二大政党制が確立している場合は機能するが、そうでなければ大政党の一人勝ちをもたらしやすい。投票率が低い場合は、組織票を持つ大政党が有利になるため、この傾向はさらに強まる」と指摘する。
実際、自民党は12年衆院選で、民主党の09年の絶対得票率を下回ったが、より多くの議席を獲得。09年の投票率は69・3%だったが、12年は10ポイント低い59・3%にとどまったことも影響したとみられる。
小選挙区制の弊害を少しでも和らげる方法として、札幌大の浅野一弘教授(政治学)は、1人でも多くの有権者が投票することを呼び掛ける。「多くの有権者が投票すれば、絶対得票率と獲得議席率の差を縮めることができる。『たかが1票』と思わず、票を積み上げる意識を持って投票所に行ってほしい