風に吹かれて旅ごころ

はんなり旅を楽しむはずが、気づけばいつも珍道中。

出流・蕎麦と座禅と鍾乳洞 index

2015-04-12 | 北関東(茨城・栃木・群馬)


◆ 出流旅行記-1 ←日記へ
  栃木の出流という小さな町に向かいました。
  途中で迷いながら、山がちの地域へと入っていきます。
  豊かな自然の恵みのおいしい水で作られた五合蕎麦をいただきました。
   ○ prologue ○ じおんといえば ○ 孫悟空絵馬のわけ
   ○ 逆走南下でスタジアム ○ イルカの話 ○ お花見ふたたび
   ○ 石灰の採掘所 ○ 栃木の車は ○ 小さな出流町 ○ 五合蕎麦




◆ 出流旅行記-2
  ライダーの多さに驚きながら、満願寺を参拝します。
  山中にある奥ノ院は鍾乳洞になっていました。
  本堂で座禅体験。はじめてバシッ!と叩かれました。
   ○ ツーリングクラブ ○ 満願寺大御堂 ○ 奥ノ院トレッキング
   ○ 鍾乳洞の観音様 ○ お坊さんのライトなお話
   ○ 緊張の座禅体験~違いがわかる女/知りすぎた女



◆ 出流旅行記-3
  お寺から続く一本道を通り、普通の世界へ戻りました。
  栃木市は蔵の町だと聞いて、蔵を探して散策します。
  帰りの高速では、羽生の鬼平江戸処へ。古さを楽しめた旅でした。
   ○ コンビニであら塩 ○ コンビニパーキング衝突現場 ○ 栃木市とは
   ○ 蔵の町の蔵はどこ? ○ コンビニパーキング衝突現場(2)
   ○ アシカが銀行 ○ 残るはコーヒーのみ ○ 川沿いの黒い蔵
   ○ 羽生の鬼平 ○ epilogue




出流・蕎麦と座禅と鍾乳洞-3

2015-04-12 | 北関東(茨城・栃木・群馬)
その2からの続きです。

○ コンビニであら塩

お寺を出て山を下り、山桜そして石灰の土地を抜けていくと、ようやく道が増え、車通りの多い普通の世界に戻ってきました。
国道293号に面した大きな交差点沿いに、だだっ広い駐車場を有するファミマがあります。
境内でお団子を食べられず、座禅の衝撃をまだ引きずっていた私たちは、「ここでスイーツを買おうか」と寄りました。
デザートコーナーに行った私は、アコリンがあら塩の袋を持っているのを見て「!?」と驚きます。
「えっ、塩?それ、今、買うの?」
「ちょっとお祓いしようと思って」
「へっ、お寺に行ってきたばかりなのに?」

座禅の時から、ずっと寒気が続いているという彼女。
変なものが憑いていないように、念のため塩で祓っておくそうです。
車の暖房で、私はかなり温まってきていますが、彼女はまだ寒いのだそう。
確かにお寺にいるのは、いい霊だけとは限らないかも。
レジを済ませて、彼女はてきぱきと塩で身体をはらいます。それをぼんやり眺めていた私も、はらってもらいました。
これもまた 見えない世界の 危機管理。(五・七・五)

○ コンビニパーキング衝突現場

一安心したところで、寒さが残る彼女はおでん、私はプリンをイートインコーナーで食べました。
田舎のコンビニは駐車場がだだっぴろいなあと思って外に目をやると、いつのまにか警官がいて、なにやら事情聴取をしています。
あれ、どうしたのかな?
そばにある車のドアがヘコんでいます。どうやら、パーキング内で車同士が衝突したようです。
都心ではありえない広々としたスペースでも、事故は起こるものですね。

すでに書いた通り、この辺りを走る車は、かなりの確率で埃をかぶっています。
石灰の土地を走ってきたわけではないと思いますが。
こんな風に。ワイパー部分さえ見えればいいという、合理的な考えなのかしらー。



地元神奈川にはないけれど、北関東他県で見かけるばんどう太郎が、ここにもありました。

○ 栃木市とは

時間は4時半近く。次のプランを考えます。
「佐野厄除け大師は?」「時間的に無理だねー」
「あしかがフラワーパークは?」「6時に閉まるから、30分くらいしか見られないね」
「渡良瀬貯水池は?」「特に何もなさそうだよ」
うーん。

ここは栃木市。栃木市には、なんのイメージも持っていません。
「前からあったっけ?」「最近合併してできたんじゃない?」
いいえ、私たちが知らなかっただけで、以前からある市でした。2010年3月に、周辺の町との新設合併で新しい栃木市になったそうですが、かつては県庁所在地だったとか。
県庁が宇都宮に移転してからは、宇都宮、小山に次ぐ県内三番目の町となったそう。
ネット検索をして、栃木市が「小江戸」「蔵の町」と言われていると知りました。
「駅の近くに蔵の町があるらしいから、そこに行ってみよう」

○ 蔵の町の蔵はどこ?

両毛線栃木駅前が見える場所まで来ました。が、目指す蔵はありません。
公園の駐車場に車を停めて、辺りを散策することにしました。





目の前には川が流れていて、きれいに整備された橋がかかっています。



ちょうど桜が咲いていて、きれい。向こう側には、川にかかった鯉のぼりも見えます。



電話ボックスが、蔵の形をしていました。でもこれは、形だけですよね。



本当の蔵はないかと公園内をさがしましたが、地図がないため、情報がつかめません。
日曜なのに人通りもほとんどなく、公園内も閑散としていて、なかなか聞ける人に出会いません。
歌麿通りという洒落た名前の小路で、小学生を見つけて聞いてみましたが、「わかりません」と言われました。
次に、買い物帰りのおばあさんに聞いてみると、「大通りにはちらほらあるけれど、少し歩きますよ」と言われました。
ちらほら?

教えられたとおりに大通りに出ましたが、車がびゅんびゅん行きかうだけ。
通りの両側には学習塾が並んでいて、いかにも現代の住宅地です。
蔵はどこ?



マンホールがすてきなデザインでした。これを見ると、やっぱり蔵はあって、町の自慢のようです。
蔵や~い。

○ コンビニパーキング衝突現場(2)

大通り沿いに歩いて行ったら、茶色のファミマがありました。
(景観に注意して、目立たない色にしているのね、蔵の町ということで、景観保護地区なのかしら)と思ったら、ここのファミマの駐車場でも、お巡りさんを発見。
数名の人たちと、現場検証をしていました。



ここでもまた衝突事故?さっき見てきたばかりなのに。
栃木のファミマは、衝突事故多発地帯なんでしょうか。びっくりです。



この辺りにはいくつか、昔ながらの建物が並んでいました。
おそらく、先ほどのおばあさまが教えてくれた界隈なんでしょう。
渋いですね~。今でも商店として開いているのがいいですね。



ただ、古めかしいお店は思ったよりも少なくて、(ほかにないのかな)と辺りをぐるぐる散策しました。
栃木駅近くなのに、とにかくひとけが少なく、レンガ調にきれいに整備された通りも、売家の表示が並ぶシャッター街となっています。

○ アシカが銀行

足利銀行がありました。あれ、この銀行、いったんなくならなかったっけ?
無事復活していたんですね。
かつてのアシカのCMがかわいかったのを覚えていますが、県内でアシカは飼育されていないそうです。
海なし県ですからね・・・。
熊本にはクマがいないのにくまモンがいるのと、まあ同じようなことでしょうか。



今はアシカではなく、モビルスーツのポスターが貼られていました。
ガンダム・・・?
いえ、「あしぎんロボ」だそうです。
顔が出ているから、こっちは着ぐるみなんですねー!
中の人は、とってもビッグなようです。

○ 残るはコーヒーのみ

町を散策しているうちに、休憩したくなってきました。
「カフェで温まりたいね」「蔵カフェとかないかな」と探しましたが、それらしいものはありません。

普通のカフェでさえ、閉まっている店がちらほら。
「日曜なのに開いていないなんて」「日曜だから休み?」
歩き疲れてきたところに、営業中の喫茶店を見つけたので「普通のカフェだけど、もうここにしよっか~」「あんみつにしようかな、ケーキかな」と、二択のメニューをチェックしながら入りましたが、お店の人に「もうコーヒーしかないんですよ」と言われました。

カウンターには、お店の人と同年代のおばさまグループがいて、話が盛り上がっている様子。
あの人たちが、スイーツを全部食べつくしちゃったのかも!

「この辺に蔵ってありますか?」と聞くと、「ちらほらありますが、川越のようにまとまっていないんですよ」と言われました。
そうですか・・・。
北関東独特のイントネーションでした。



雰囲気のある和菓子屋に入ってみました。
アコリンが塩大福を購入している間に、お店の建築を見学します。



ふすまの位置などを見るに、昔ながらの住居をお店に改装したようです。



端午の節句の武者人形が飾られていたり、床の間がきれいに整えられていたりと、すてきな雰囲気でした。



ここのように、古い店舗を元にして現在も使っている歴史あるお店も多そうです。

○ 川沿いの黒い蔵

川沿いにたどり着きました。橋のたもとにある資料館が、一番蔵らしい風格がありました。



そう、「蔵の町」と聞いて、こういう光景を想像していたんです。
先程のカフェの人が言った通り、川越のように町並みが統一されているわけではないため、そんなに知られていないのでしょうか。



川にはこいのぼりが無数に飾られており、絵になりました。



この光景が見られるのはこの季節だけ。ちょうどいい時に来られて、ラッキーです。



しんと静まり返ったシャッター街の中で、一カ所だけ活気のあるスポットを発見。
そこは銭湯でした。人気なんですね。
金魚湯という名前から(浴槽に金魚が泳いでいるのかな?お湯大丈夫かな?)と想像して、勝手に気をもみました。



小江戸というにはもう一息という感じ。
どうしても、川越と比べてしまいます。
あとちょっと整備すれば、観光の町として人を呼べそうなのに、と、観光業シロウトの私でも思います。

駅前シャッター街がどんどん広がっていきやしないか、なんだか心配。
アピールポイントは十分にあるのですから、栃木の観光地は日光以外にもあるんだと、街並み整備をすすめていってほしいものです。

栃木市の蔵を見られたので、それから一路東京へ向かいます。
座禅の緊張が解け(ようやく!)、身体もほどよくあたたまったため、少し眠くなってきた私たち。

○ 羽生の鬼平

途中、眠気覚ましにコーヒー休憩しようと、羽生SAへ寄りました。
わーい、鬼平ワールド。前にアコリンに連れてきてもらった以来です。



このお詫び福助人形が好き~。ここまで謝られたら、許さないわけには行きませんね。
単に居眠りをしているだけでも、かわいいからいいわ~。



ここは相変わらずの人気で、外国人親子も大喜びで写真を撮りまくっていました。
しかし君たちは、鬼平の世界まではわかるまい。(実は私より詳しかったりして~)



アコリンはコーヒーを頼み、私はお茶にしようとしましたが、お茶系ドリンクが売られていません。
甘酒はありましたが、それを飲んだら眠さが倍増しそう。
鬼平らしさということなら番茶でもいいんですが、売り物にするのは難しいのかしら。
ソフトクリームや冷やしキュウリなら売られていましたが、夜は冷え込んできて、もう寒くて無理~。
結局、常温のミネラルウォーターにしました。

高速で少し混んだところはありましたが、渋滞にはまらずに済みました。
新しい中央環状品川線を通っていきます。



新しい高速にさしかかりました。ここは、3月に山手トンネルウォークで歩いたところです。
ほんのひと月前に、この分岐点を歩いたのー!そしてここからトンネルに入ったんだわー!
高速道路の開通前に歩くなんて、いい体験が出来ました。
→ 体験ブログ「山手トンネルウォーク-1」(~3)
そうして都内に戻り、この日の旅は終わりました。



○ epilogue

のんびりしたドライブになるかと思いきや、思ったよりも盛りだくさんだった一日。
古き良き時代のものを、楽しめた気分です。
満願寺では、奥の院といい座禅といい、あんなにワンダーな体験をするとは思いませんでした。
出流は、知る人ぞ知るといった場所ですが、それだけに観光色の少ない、のびのびとした休日を過ごせました。

坂東観音巡礼では、これでようやく、栃木のお寺をすべて巡り終えました。
やったわ~。残すは、群馬と茨城のみ!
行きにくいところばかりですが、ゆるゆると続けていこうと思っています。

蕎麦はおいしくて、その土地の味を求めて旅に出るグルメの気分がわかった気がします。
去年は兵庫の出石、今回は出流で蕎麦に舌鼓を打ちました。またどこかに、美味しい蕎麦を食べに行きたいな。


出流・蕎麦と座禅と鍾乳洞-2

2015-04-12 | 北関東(茨城・栃木・群馬)
その1からの続きです。

○ ツーリングクラブ

出流への道の途中、車よりもたくさんのバイクと出会いました。
バイク日和ですからね。ものすごいバイクばかりで、単体ではなく集団でツーリングしているようです。
蕎麦店の前にも、人里離れた山の中には不似合いなほど、ピッカピカの大きなバイクが停められていました。
裏の小川は澄んでいます。見ているだけで心が癒されます。



蕎麦屋を出てすぐのところに、満願寺の仁王門がありました。
江戸時代、享保20年(1735)に建立された古い仁王門。

ここは坂東三十三観音第十七番札所。アコリンが「巡礼途中のお寺なのに、満願寺っていうのね」とつぶやきました。
ほんとだわ。私の巡礼の旅も、まだまだ途中です。満願したーい。



中には顔を引いた大きな赤い仁王様がいます。
迫力があるなあと、じっと見ていたら、屋根になにかが下がっているのに気づきました。
わっ、蜂の巣じゃないですか!ギャー!
しかもいくつも下がりすぎー!ぶら下げておいていいんですいかいぃ~!



蜂の巣に動揺しながらも門を眺めると、木彫りの彫刻がとても精巧でした。
芸術だわ~。
いやでもしかし、これからここのお寺の仁王門を映像や画像で見るたびに、仁王さまや彫刻よりもきっと蜂の巣を探してしまうに違いありません。



境内の駐車場には、ハーレーやイージーライダーが大集結していました。
みんな、このバイクで参拝しに来たのでしょうか。
それとも、門前の蕎麦を食べに来ただけなのでしょうか。
考えているうちに、御一行様がブンブン音を立てて、去って行きました。



○ 満願寺大御堂

山の中腹まで来たため、外にでるとひんやりと肌寒く、防寒をして満願寺を参拝します。
なんだかとってもエキゾチックな感じ。香港風と言いましょうか。



広い境内を歩いて行くと、鐘楼と鐘がありました。
変わったデザインの屋根に引かれて近くに寄ろうとしたところ、手前の池に目が留まりました。
とても水が澄んでいて、泳いでいる鯉が、影までくっきりと見えます。
素手でも捕まえられそう。本当に、水がきれいなところです。



「弁天講」と書かれたマイクロバスが駐車場に止まっており、境内には弁天様を祀る祠もありました。
かっこいい龍の手水舎を、角度を変えて激写。尻尾が長ーい。



徳川末期の代表的建築様式で作られた古めかしい八間四面の本堂が、正面に見えてきました。
筑波山・奈良興福寺と一緒に日本三御堂と呼ばれているそうです。



森の緑に包まれた、静かな古刹。
弘法大師作と言われる千手観音像がご本尊ですが、観音扉が閉まっていて観られませんでした。



お堂には、千社札がびっしり貼られていました。
いつも思うんですが、これ、どうやって貼ったんでしょうね?
きゃたつを持ち歩いていたのか、誰かに肩車してもらったのか、いずれにしても「貼ってやるぞ!」という並々ならぬ情熱がなしでは不可能な場所にでも、たくさん貼られているものです。



この超絶技巧の木彫り!宮大工さんの本気が見えます。
千社札といい、柱の木彫りといい、お寺って昔の人々の本気っぷりが今なお感じられる場所ですね…。



○ 奥ノ院トレッキング

それから、山の中の奥ノ院へと向かいました。
片道20分くらいと聞きましたが、歩き出して早々に、倒木があって、(大丈夫かな)と心配になります。
前日までの雨で、山道はぬかるんでいそう。ほかにも行く手を阻む木が行く手に倒れているかもしれません。



ゴツゴツの石が顔をのぞかせる急な険しい道で、登って行くのはなかなか大変。
こういう時こそ金剛杖があればいいのにと思いますが、入り口にはありませんでした。
(が、戻ってきた二人連れの手にはありました。あれ?)
奥の院への山道は整備されておらず、自然にまかせているまま。
仁王門の蜂の巣からして、そういうポリシー?なんでしょう。



何本もの倒木をくぐるようにして進んでいきます。
ずっと傾斜が続くため、女人堂の辺りからだんだん息切れがしてきましたが、途中の石仏の微笑みに、励まされます。



間隔を置いて、なにか墨で書かれた板が立っています。
「一切の 煩悩消えゆく 森林浴」
これ標語?



五・七・五かと思いきや、まるで守っていないフリーダムなものがどんどん登場しました。
極めつけは「ん?」明らかにネタが尽きたとしか思えません(笑)。
しかもこれ、御詠歌だったなんて、神様もビックリ!

○ 鍾乳洞の観音様

ようやく奥ノ院の建物が見えました。
鳥取の三徳山三佛寺にある、国宝の投げ込み堂に似ていると言われています。
私は、京都の清水の舞台を思い出しました。



修復したてなのか、新しい感じがあるのが、ちょっと残念。
さらにきつくなった段差の階段を上がっていきました。



ハーハーいいながら、ようやく堂内に入ります。
お賽銭箱の奥に周って、中に入れるみたい。え?どうなっているの?



なんと、奥ノ院は鍾乳洞だったんです。
礼拝堂になっており、蓮座の上に立つ、高さ4mくらいの十一面観音像の後姿が見えました。 



長い長い年月をかけて、形が出来上がっていく鍾乳洞。
今でも水が絶え間なく流れて、形を作り続けています。
これほどの大きなものはめったに見ません。
これぞ、長年続いてきた、出流の水の力。
神秘的なその姿に胸を打たれて、すぐには動けませんでした。
誰もが立ち尽くすほどのこの感動は、私の撮影力では伝えられませんね~。やはり実際に行ってみることをお勧めします。



出流の源泉と言われる滝は、10mほどの大きさ。
不動明王と2童子の像がありました。



帰りは下りで楽ですが、少し前を歩いていたおばさまが、バランスを崩してお尻からしりもちをついてしまいました。
私もしょっちゅう転ぶので、足元注意です。
本堂で行う座禅体験の時間に、ちょうど間に合いました。

○ お坊さんのライトなお話

先ほどお参りした日本三御堂の本堂に入ります。
座禅を申し込んだ人は、どうやら私たち二人だけのよう。
黄緑色の法衣をまとったお坊さんが登場し、マスクを外して気さくに話かけてくれました。
「花粉症は大丈夫ですか?ここは杉林に囲まれているし、本堂は杉材で建てられているので、逃げられないんですよ」
つまりこの方は花粉症なんですね。マスクで修行をしているとは、お気の毒な。

「最近は、若い女性に滝行が人気なんですよ」と聞いて、驚きました。
みんな、そんなに人生を思いつめているのかしら?それともなんとなく?
「奥ノ院の滝で行うんです」
さきほど見てきた滝を思い浮かべます。

滝行は、寒暖の差以外はどの季節も同じ感じかと思いきや、月によって水量が違うと教えてもらいました。
春は、雪解けで水が多く、台風時期には、打たせ湯のような一本の流れが、ナイアガラの滝状態になるそうです。
「なので、滝行をするときには、その辺りのことも考えて時期を決めて下さいね」
「は、はい」雰囲気的に、うなずいてしまう私たち。
今のところする予定はないけど・・・。

○ 緊張の座禅体験~違いがわかる女、知りすぎた女

ライトな話の後で、「では座禅をしましょうか」ということになりました。
片足だけ胡坐を組む半跏趺坐(はんかふざ)の姿勢を取ります。
手は、法界定印(ほっかいじょういん)の形を取ります。
目は閉じず、床を見つめて半目で。

「座禅といえば、居眠りをする人の肩を警策でバシッと打つイメージですよね。あれは禅宗の座禅法なんです。
バシッと打たれて痛い思いをしたことは、ずっと身体で記憶しているものですね。
うちは真言宗ですが、今回は体験ということで、禅宗のやり方を取り入れていきます」
そう何気なく言われて、(えっ)と顔を上げた私たち。

真言宗の座禅は禅宗とは違うということは知っていました。
だから、「バシッ!」の痛い思いはせずに済む、そう考えていました。
だから申し込んだのに、まさかの展開ー!
聞いてないよー!

お坊さんは、長ーい警策(けいさく)の棒をにこやかに私たちに見せます。
「これですよ」ギャー!
2人とも、声にならない心の叫びを上げましたが、もはや逃げられません。
まさに、まな板の上の鯉状態。ひんひん。

お寺側にしてみれば(座禅は、一般的にパシッと打たれるものと思われているので、期待されているのかも。期待に応えて、体験者には警策を使おう)とのはからい(?)なのかもしれません。

でも私たちは「違いがわかる女」なんですよ~(笑)!
(真言宗の座禅といったら、阿字観だろう)と思って申し込んだんです。
禅宗の座禅だったら、こわくて申し込まなかったかも~。
むしろ「知りすぎた女」になってしまいました。消される~!
でももう、流れに飲まれるしかありません。
まさにアリジゴクの穴に立たされた、崖っぷちのアリ二匹。ひんひん。

瞑想の教室を開き、阿字観関連の本も出しているアコリンは、専門家の域で座禅も手慣れたもの。
ビギナーの私ばっかりバシバシ叩かれまくられるかもー。
自分の身を護るためには、微動だにせず、座禅を行うしかありません。

「はい、でははじめ!」
「私は女優!」ならぬ「私はマネキン!」として、瞬きと呼吸以外の動きを停めました。

お坊さんは、私たち二人の周りをゆっくり周ります。
背後で警策の棒を「シュッ、パシッ!」と立てながら!
あれは威嚇射撃ならぬ威嚇棒ふり?
目に見えないところで、何が起こっているのかわかりませんが、首を回したらそこでアウト。
こわいよ~。なんという恐怖体験でしょう。
50人くらい一緒にいたら、目立たずに済むんですが、2人きりですからね!

2人とも微動だにせず、お坊さんが風を切る「シュッ、パシッ!」の音だけが堂内に響き渡りました。
マネキンと化して微動だにしなかったのに、しばらくしたらお坊さんに棒を当てられ、おごそかに「では参ります」と言われました。
うわっ、き、キタ~!
観念して受ける体制を取ります。
ここでは、肩ではなく、腿に受けました。
パシッ! あ、痛っ。
(動いてなかったのに~)と思ったところで、お坊さんは続けて隣のアコリンにも、打つ声掛けをしていました。

もしやこれは、どんなに完璧に座禅を組んでいても、体験として一度は必ず叩かれるっていうシステム?
え~、うっそ~ん。不条理~。
そう思い始めると、雑念が生じて、身体が揺れそうになりましたが、まだお坊さんはアコリンの方を向いていたため、そこはバレずに済みました。

お坊さんは、私たちの周りをひたひたと行ったり来たり。
もう、どれだけ時間がたったかわかりません。
とうとう「はい、終了です」と声がかかりました。
終わったぁぁぁ~。



「どれだけ座禅をしていたと思いますか?30分間です」と言われました。
そんなに長い間だったのかと2人で驚きます。
もはや時間の感覚がなくなっていたのです。

座禅が目指すところの「無我」の状態で瞑想できたのとは、なんだか違う感じ。
集中というより、恐怖で硬直していたという方が近いです。
瞑想に至るリラックス状態とは違う、必死の修行でした。

恐怖と緊張に疲れ切って、2人でよろよろしながら本堂を出ます。
予定外の、身体を張った濃い体験をしてしまいました。

木像の本堂は寒く、座禅でじっとしてたらすっかり冷え切ってしまったため、甘酒でも飲んで温まろうと境内の売店をのぞきましたが、めぐすりの木やお土産などしかありません。
門前に並ぶのは蕎麦屋ばかりなので、山を下りることにしました。

      


いろいろと堪能できたお寺。いろんな意味で、非日常感を味わえました。
ここに至るルートは一本のみなので、行きに通った道を戻ります。



山桜の咲く無人のところを過ぎました。保母さんのポスターをまた確認しました。
そういえば近所に「武者」さんという名字の人がいます。関係ないか。



桜の咲くのどかな辺りを過ぎると、雰囲気はがらりと変わり、再び工場地域に入りました。



これは、石灰岩の採掘場。
辺り一面、石灰の粉をかぶってモノトーンになっています。
立ち入り禁止のロープが張ってありました。



自然いっぱいのお寺とはがらりと違う世界。
そしてつい先ほどの、桜咲くみずみずしい場所とは正反対の、荒涼とした場所。



前を走る車がいるので、行きよりもちょっとだけ安心感があります。
辺りじゅう静まり返っており、緑はあるのに生気が感じられません。
休日で工場が動いていないためか、ゴーストタウンのような空気が漂います。



スターウォーズの砂漠の惑星タトゥイーンみたい。
ゴジラやゼットンが工場の後ろから顔を出しそう。
不思議な感覚でした。

その3に続きます。


出流・蕎麦と座禅と鍾乳洞-1

2015-04-12 | 北関東(茨城・栃木・群馬)
○ prologue

4月に入り、暖かい気候に誘われて、ドライブに出かけました。
向かったのは、群馬県の出流山(いずるさん)。



ここはおいしい水が出るところで、手打ち蕎麦が美味しいそうです。
ただ、あまり知名度は高くなく、周りに知っている人はいませんでした。
ここのところずっと天候不順が続き、前日は一日雨でしたが、この日は朝からいい天気。
空は気持ちよく晴れ上がって、ドライブ日和です。



待ち合わせたアコリンは、前日の高尾山登山が雨でキャンセルになったそうで、今日はウキウキしています。
高速も、特に混んでいません。スイスイと進んで、休憩なしに岩槻ICで降りました。

○ じおんといえば

この辺りまで来ると、それほど高い建物もなく、空が広々としています。
岩槻といえば人形の町。「人形と人情の町」とは、うまいわ。



今回はまず、坂東三十三観音第十二番のお寺、慈恩寺に向かいます。
前に、この辺りにある喜多向厄除不動尊(岩槻大師)を訪れたことがあり、地図で見ると、二つのお寺はかなり近くですが、土地勘がないため、どの道を通って行ったのか、もう覚えていません。

慈恩寺というと、どうしてもジオン軍を連想してしまう私。
ガンダムファンじゃないのになぜかしら~。お坊さんにはとても言えません。
あと、はるじおん・ひめじぉおんの花を思い出します。子供の頃は「春女王」「姫女王」だと思っていました。
春ですね。

○ 孫悟空絵馬のわけ

東京ではもう散ってしまった桜が、まだかろうじて残っていました。
山桜でしょうか。またお花見ができて、ちょっと得した感じー。



慈恩寺というのは、三蔵法師(玄奘)ゆかりの長安の大慈恩寺からもらった名だそうです。
このお寺には、三蔵法師の遺骨があるんだとか。

日中戦争の時、土木作業中の日本軍がたまたま三蔵法師の遺骨を発掘し、日本と中国で分骨して安置することとしたそうです。
日本ではこの寺に奉安され、のちに玄奘と関係の深い奈良の薬師寺に分骨したとのこと。
つまり、日本で三蔵法師の遺骨を保管しているお寺は、この2つなんですね。
奈良の薬師寺で、華やかな朱塗りの玄奘三蔵伽藍を拝観したことを思い出しました。



ここの絵馬は、孫悟空。西遊記のワンシーンが描かれています。
孫悟空絵馬を見るのは初めて。三蔵法師つながりでしょう。
立派な開山堂の中には、開山した慈覚大師像が安置されているそうです。



本堂(観音堂)は、残念ながら大改修中で、建物全体が工事のほろと足組にすっぽりと覆われていました。
でも、お参りできるように通路があったため、パイプのトンネルをくぐって中に近づきます。



穏やかな文字の額がかけられていました。



お寺の御詠歌も掲げられていました。
「慈恩寺へ 詣る我が身も たのもしや うかぶ夏島を みるにつけても」



御朱印をいただいた時に、お寺の案内と「十句観音経」もいただきました。
参拝したお寺で、般若心経をいただくことは時々ありますが、十句観音経は初めて。
10フレーズ、42文字でできた、最も短い経典です。

「十句観音経」
観世音 南無仏 与仏有因 与仏有縁 仏法僧縁  常楽我浄 朝念観世音 暮念観世音 念々従心起 念々不離心




お寺の外観は幌に隠れて見られませんでしたが、落ち着いた雰囲気の古刹でした。

○ 逆走南下でスタジアム

モスバーガーでモーニングをとって、再び高速に乗ります。
・・・が、道を間違えてしまい、気がついた時にはうっかり逆走していました。
見えてきたのは、さいたまスタジアム。ということは南下中。
いけない、これでは都内に戻ってしまうわ。



高速を降りたところに、日本代表GP、川島永嗣選手の応援板がありました。
彼は何年も前からベルギーに海外移籍していますが、さいたま市出身、つまりこの辺りの人だそうです。



でも私たちが行きたいのは北の方角。さいたまではありません。
車をいったん止め、ナビを入れ直して方向転換し、無事にインターに入れました。
高速道路はやっぱりスイスイ。混んでいません。
前日まで雨が降り続いたので、みんなドライブを予定していなかったのかもしれません。

○ イルカの話

数日前に、茨城の海岸に大量のイルカが打ち上げられたニュースの話になり「大型地震の前触れかな」とおしゃべりします。
「なんとかっていう外国人が、今日地震が起こるって言ってるんだって」と言いながら(我ながらなんてアバウトな情報)と呆れたら、アッコさんは
「ゲイリー・ボーネル?そうでしょう!」と言いました。
そんなに有名人なの~!ゲイリー・カーとゲイリー・オールドマンしか知らないわ。

「ドライブ中に大地震が起こったらどうしよう」と突然不安になった様子の彼女。ゲイリーさん、只者ではない?
ドライバーを動揺させないように「余震が起こってないから、きっと大丈夫だよ」とフォローしました。

アコリンは茨城の海沿い出身。
「あっちでは、イルカを食べることもあるんだよ」と教えてもらいました。
ビックリしました。
イルカを食べることに、ではありません。
「イルカを食べるのって、静岡の海沿いの人だけだと思ってた!」

後で調べてみたら、ほかにも岩手、高知、北陸方面あたりで食べる風習があるそうです。
打ち上げれる場所に住んでいる人なら、味を知ろうと食べてみるのはおかしいことじゃないですね。
私は食べたことがありません。クジラならありますが。

○ お花見ふたたび

イルカの話をしながらどんどん山の方へ向かっていきました。
気が付くと、目の前には山脈が連なっています。
佐野に入りました。つまり栃木に入ったわけです。

栃木インターで、一般道に降ります。
「名前は大きそうなイメージだけど、ここで降りるのは初めて」「私もよー」
そこから出流へと向かいました。

さっきまでは、車の中は暑いくらいでしたが、この辺りから冷気が入ってくるようになり、暖房を付けました。
北に来たからか、山が近づいてきたためか、東京よりも寒くなっています。
岩槻で見たよりもきれいな山桜が、今が旬とばかりに咲いています。

掲示された選挙候補者ポスターの中に、保母さんという名前の人がいました。読みもほぼさん。
「保母さんっていう名字の人がいるよ。初めて見たー」と言うと、
「優しそうな顔だし、議員にならずに保母さんになればいいのにね」と返すあこりん。
いいえ、この人は男性。保母さんにはなれないわ…!

小学校低学年の頃、「僕は婦警さんになりたい!」と言っていた、同じクラスのヨシオカ君のことを思い出しました。
(どうするんだろ)と子供心に心配していましたが、きっと響きが気に入っていただけなんでしょうね。

○ 石灰の採掘所

途中、山を切り崩した土色一色の工場がありました。
石灰工業地帯です。休日だからかひとけがなく、工場も稼働していないため、殺伐としています。
前時代の廃墟のようでありながら、自然がな近未来の光景のようにも見える、不思議な空間。
ウルトラマンや仮面ライダーが、敵と戦っていそうな場所です。
徳川時代から続く、石灰の採掘所だそうです。

全てが石灰をかぶった地域。
ここではたと気が付きました。

○ 栃木の車は

栃木に入ってから、私たちがどうも気になったことがあります。
それは、「のろのろ運転」で「ほこりだらけ」の車が多いということ。
全てがそうだというわけではありませんが、よその場所よりも確率的にかなり多い気がします。
お年寄りだけでなく、若い感じの人もゆっくり運転。どの道でも法定速度をしっかり護っているのでしょうか。
もちろんいいことですが、あまりにゆっくりだと「まさか無免許じゃないよね?」「かなりお年寄り?」「居眠り運転?」と、逆に心配になってきます。

すべての車ではないにせよ、他の場所よりも格段に埃をかぶって白くなっている車が多い印象。
ア「茨城の車はぴかぴかだよ!びっくりよ」
私「車が生活の足で大切だからでは?でもここも同じだよねえ」
あまり気にしない県民性なんでしょうか。
リアウインドのワイパー部分だけ黒くなって、ガラス面が見えるため、アコリンは「あの車、窓ガラスが割れてるの?」と見違えたほどです。
九州なら火山灰かなと思うところですが、ここでは、石灰をかぶっているせいかもしれませんね。
辺りの光景をビックリ眺めていたら、写真を撮るのを忘れていました。

息が詰まるような石灰一色の世界を通り抜けると、鮮やかな自然の色が戻って美しい山桜が咲き乱れ、そうして出流に着きました。
『霧の向こうの不思議な町』を訪れたような感覚です。



ほっとして、写真を何枚も撮りました。石灰より桜を撮りたいですからね。



さよならしたはずの今年の桜たち、ここで再びこんにちは。



4月の休日というのに花見客は全くいません。
無人だっただけに、いっそう秘境感が増しています。



○ 小さな出流町

そうして、豊かな自然に囲まれた出流に到着しました。
ここは人口130人、50世帯ほどのとても小さな町。
知っている人が周りにいないのは、そのせいですね。

公民館の先にあったのは、大型駐車場のあるそば店。
駐車場は大混雑しています。
これまでほとんど人を見なかったのに、突然ここで混むなんて。

停めるスペースがなかったので、先に向かってみます。
すると、蕎麦屋の看板が次々に現れてきました。
さっきのお店は、お寺に続く道の一番手前の場所にあるので、がっちりお客さんを取り込むのでしょう。

○ 五合蕎麦

私たちは、どんどん参道を進んでいき、お寺の仁王門から二番目に近い「福松」に入りました。



メニューはもちろん蕎麦づくし。
「一升そば」というメニューに驚きました。この辺りの名物だそうです。
ええと、一升ってどのくらいだったっけ?
一升瓶の量でしょう。ええ、多くない?
その半分の「五合そば」(2・3人前)があったので、それと天婦羅の盛り合わせを頼みました。



ほどなくしてやってきました、お待ちかねの出流そば。割合は7:3だそうです。
こんな風に盛られてくるんですね~。



お互い初めて見るもののため、興味しんしん。
食べてみると、涼しげな、透明感あふれる味で、柔らかいながらもコシがありました。



天婦羅の盛り合わせも、頼んで正解。特に舞茸がおいしーい!
蕎麦ときのこのマリアージュ。ほかの野菜もしっくり合って、自然からの恵みを感じます。



食べやすくておいしかったですが、なかなかボリュームがあります。
2人でこの量だと、かなりおなかパンパンになり、箸を置いて休みがち。
最後の方は重い箸を必死にあげて、いただきました。

お店の人と少しおしゃべりをしました。
到着時には、ふたりともなんだか耳がキーンとしたので、ここはどれだけ高いところなんだろうと思いましたが、この辺りは標高400mで、思ったよりも高山ではありません。
「窓から、この辺で一番高い三峰山の不動岳(標高600m)が見えるよ」と、窓際まで招いて教えてもらいました。



店内には、滝などの写真のほか、御朱印で埋め尽くされた横長の掛け軸が3枚、額に入って飾られていました。
あれはもしや、百観音巡礼?
まさしくそうでした。大迫力です。

この場所から東京に出るまだけでも、大変なこと。
広範囲に渡る行きづらいお寺を、そこからさらに、全て周り終えたなんて、すごい。
と、巡礼者の情熱に敬服しました。

その2に続きます。