風に吹かれて旅ごころ

はんなり旅を楽しむはずが、気づけばいつも珍道中。

光と緑の新潟紀行 1-2

2014-08-01 | 中部(甲信越)
その1からの続きです。

○ 真夜中のハイテンション

いったん解散・消灯したものの、初めての光の体験に興奮冷めやらず、すぐには眠れずに部屋でMacを動かしていました。
すると、ほどなくして大部屋の方から「ワーー!!」という歓声が。
「リカさーん!来て来てー!」と私を呼ぶ声も聞こえます。
こんな真夜中にありえないテンションの高さ。どうしたんだろう?
行ってみると、みんなが目をキラキラさせ、頬を上気させていました。
薄暗い部屋の中で、弾んだ声で「見てみて!」と上を指差します。

日没ショーのあと、締めたはずの天蓋がまた開いていました。
「ね、すごいでしょ??」と口々に言われますが、それまでPCを眺めていた私の目は、まだ暗がりに慣れておらず、真っ暗にしか見えません。
そのうちに、少しずつ目が慣れて、星々が見えてきました。
チカチカとまたたく満点の星空です。

○ 星降る夜

か~がやく夜空の 星の光よ~♪
「うわあ、きれい・・・」「こんなにきれいな星を見るの、初めて」
あまりに美しくて、みんな言葉になりません。

宿からは日没と日の出の時間しか教えてもらっていませんでしたが、この窓からは星空も見れるんですね。
「スゴイ、誰が気づいたの?」と聞いたら、ミスターKが「さっき忘れ物を取りに車まで行ったら、星がキレイでね」と教えてくれました。
ミスター、ナイス!

「これ、外に出たら、もっときれいなんじゃない?」と、つっかけをはいて、みんなで建物の外に出てみました。
その通りでした。さらにこぼれ落ちそうな星々。
美しさに、声を失います。
誰もが感動しています。

雨だと諦めていたのに、ここまで晴れるなんて、なんて嬉しい誤算。
「普段の心がけが良かったから」「仕事頑張ったから」などと、めいめいがけなげに自分を褒めていました。

星がたくさんありすぎて、星座がわからないほどですが、かろうじてカシオペア座は見つけました。
反対側には大きな月が出ていて、星は消されてしまっているため、この日は月は人気がなく、みんな星空の見える暗い方にいました。
一眼レフを持った人がなんとかトライしていましたが、私のiPodでは、この星空はさすがに写せません。
心の中にしまっておきます。
泊まった人だけ見られる、至高の星空でした。


かろうじて、月は撮影できました


○ 寝ようか寝まいか

美しい星空に、みんなテンションMAX状態で、まったく寝るどころではありませんが、気がつけばもう夜更けの1時半を過ぎています。
「もう夜明けまで、2時間しかないよ~」
「もうこのまま、起きてちゃう?」
翌日のことを考えて、ちょっとだけでも寝ておこうと、再びそれぞれの部屋に戻りました。
まっさらな自然の中で、なんかもう、大人と子供の間を行ったりきたりしているような私たちです。

みんなで起こし合うことにしたので、なんとか3時45分の日の出タイムに、大部屋に再集合できました。
私は、ミセスKに眠そうな声で起こしてもらいました。(ありがとう!)
ね~む~い~。2時間睡眠なんてするもんじゃありません。でも寝ないともっとキツイしね。

○ 夜明けの天体ショー

まだ外は真っ暗で、何の変化も観られません。
日の出のときと違って、みんなとても静か。半分寝ているからです。
右を見ても左を見ても、なんとなくみんな目を閉じて眠っています。
私も天井を見上げながら、ついうつらうつら。
時々「わあ・・・」という周りの声が聞こえると、目を開けて観察しました。


















何も変わらないような黒い空でしたが、次第に黒が濃い紺になり、それが徐々に薄くなり、そうして青になっていきました。
その間、タレルの間接照明が時折色を微妙に変えて、コントラストを楽しませてくれました。
最後には朝の空に。外も、いつしかもう明るくなっており、ピチピチと鳥の声も聞こえます。
5時になったので、また自分の部屋に戻って寝ることにしました。

○ 2時間×2時間睡眠

またもや2時間睡眠です。こんなんじゃ寝たうちに入らなーい、と思いながらも、なんとか7時に起きられました。



ここに一晩泊まると、舞い込んでくる虫にかなり免疫がつきます。この子は網戸の内側にとまっていました。

朝風呂を浴びに向かいます。
女性グループの一人もやってきて、お互い眠気覚ましに、浴槽につかりました。
お風呂には、朝の自然光が入ってさわやか。夕べのような不思議な採光にはなりませんでした。



○ 同泊者たちとのお別れ

それから慌ただしく支度をして、8時45分には宿の人がチェックをしにきました。
チェックアウトは9時。
普通の宿よりもいられる時間が短いため、せわしなく、みんなバタバタしています。
今は芸術祭時期で、10時から見学客を入れるからなのです。


宿の前で、みんなで記念写真を撮りました。
不思議な一夜の体験を共有できた人たちとは、これからも仲良くしていけそう。
みんなはこの日が旅行最終日ですが、私はこれから彩との旅が始まります。
連絡先を交換し合って、それぞれの車に乗り込んで、手を振ってお別れしました。



2-1に続きます。

     ◆ 光と緑の新潟紀行 index

光と緑の新潟紀行 1-1

2014-08-01 | 中部(甲信越)
○ prologue

長岡の友人、彩ちゃんに誘ってもらって、新潟に行ってきました。
新潟には、何度も行っているつもりでいましたが、主にスキーの時で、記憶に残っているのは苗場や、湯沢や、上越など、雪のゲレンデばかり。
観光で訪れたのは、奥只見湖の辺りと佐渡ヶ島くらいです。
「越後妻有ではちょうど3年ぶりの大地の芸術祭をやっているのよ」
横浜トリエンナーレと同じタイミングで、行われているそうです。
現代美術はまったくわかりませんが、楽しそうな感じ。
それに3年に一度と聞くと、行ってみたくなります。

○ 光の館に宿泊予約

調べているうちに、光のアーティスト、ジェームズ・タレルの作品「光の館」があると知りました。
しかもここ、芸術建築物なのに、なんと宿泊ができるんだとか。
とても気になって、彩に会う前の日に、ここに泊まることにしました。
ここには、1日最大3グループ、12人が泊まれるとのこと。
「この日は4名様と2名様の2組が予約されており、あと1グループ、6名様まで泊まれます」
と宿の人に教えてもらったので、彩をはじめ数名の友人に聞いてみましたが、直前すぎて都合が合わずに、一人で宿泊です。
ちょっとさびしいですが、3組限定なので、おそらくほかの人とも仲良くなれるだろうとのんきに思っています。

○ 昼の長距離バス

誰かと行くのなら新幹線でしたが、一人なのでバスにしました。
池袋から発車します。
3列なので快適だし、荷物の心配をせずにすむのが高速バスのいいところ。
夏だからか、バスは全席満員で、増発便も出ています。
斜め向かいの男性がヴィタメールの大きな紙袋を抱えていて(おしゃれなお土産だなあ)と思いました。


高田馬場あたりで見つけた、ディズニーワールドのようなビル。


夜行ならすぐ寝れますが、日中なので眠くもなく、ぼーっと暇な時間帯を過ごします。
途中の上郷SAで休憩し、湯沢インターで停まりました。
IC以外、なにもないようなところに、ギターケースをしょった青年がひとり降りていき、うっそうとした草薮の中に消えていきました。(イメージ)
(私の降りるところも、何もないところだったりして)と、不安になります。
光の館に一番近い六日町には、予定時間より15分ほど早く到着しました。
やっぱりICのすぐ隣でした。

○ 六日町ICでひとり

バスは快適ですが、降ろされた場所は市街地から遠く離れた場所。
これは初心者にはレベル高いわ~。
路線バスに乗り換えて六日町駅まで出て、電車で十日町駅へ。
十日町出身の知り合いがいるので、ホームを見回しましたが、もちろん知らない顔ばかり。(ですよね)
駅からはタクシーに乗りました。

目指す光の館は、ナカゴグリーンパークという広ーい公園の敷地内にあります。
坂を上って上って、ほどんど山の上にあるような、人里はなれた場所でした。
4時まで見学客用に公開しており、宿泊客を受付るのは4時半から。
宿泊施設にしては、遅いチェックインタイムです。

○ 光の館独り占め



タクシーはスムーズに到着し、館に一番乗り。
「ほかの二組が来たら館内説明を行うので、それまでお待ちください」と言われ、ぽつんと一人きり、館の中に残されます。
タレルは谷崎潤一郎の『陰影礼賛』をモチーフにして、瞑想のためのゲストハウスとして作ったとか。
光の館に一人きりって、なんて贅沢ー!
ワクワクして、瞑想どころではありません。



宿の人は、可動式の採光窓を開けていってくれました。
そこからまっすぐ空が見えます。この景色も独り占めー。



実はこの日は、降水確率70%。雨になったら、この空も見られません。
(降りませんように)と、曇り空を見上げながら祈ります。
曇りとはいっても、まだ空は明るく、見上げていると目が痛くなってしばしばになりました。(鳥目なもので)







ここは、「Outside in」という名の12.5畳の和室。
真ん中にある0.5畳分の畳の下には、茶釜が収められているそうです。
ここでお茶会をしたら、自然の中の気持ちよさを味わえるでしょうね。



チェックインの受付時間は4時半から5時まで。
ここからして、普通の宿とは違います。
不便な場所にあるため、この30分間に合わせるのはなかなか至難の業。
私も、逆算してバスの時間を決めました。
30分間限定のわけは、全員揃ったところで館内説明をするためだとわかりました。



○ 芸術作品に泊まるということ

ほどなくして、二人連れが見えました。
外を眺めていたら、車が道を上ってきて、楽しそうな笑い声と共に数人が車を降りました。
あの人たちも泊まるんだわー、ワンワン。
なんだか主人の帰りを待つ犬の気分。



この日の宿泊客全員が揃い、みんなで説明を聞きました。
まず明言されたのが、「ここは芸術作品であって、宿泊施設メインではない」ということ。
「それを自覚した上で泊まるという誓約書にサインをしてください」と言われました。
つまり、もの壊しをしたら、弁償しなくてはならないのです。
世に二つとない、芸術品ですから。
ひ~。ものものしさに、サインをする手が震えます。

光の館の動く屋根


「あ、ポツっと雨が降ってきましたね」と、私たちがなにも気づかないうちに、宿の人はすばやく採光窓を閉じました。
完全なオープンエアなので、雨が降ると、畳が水浸しになってしまいます。
そうなると、私達が弁償しなくてなりません。
「ですから、雨が降ったらすぐに窓を閉めてくださいね」と念を押されました。
でも、雨はすぐに止んだため、また天蓋を開けてもらいました。



一つ一つの部屋を案内してもらいます。どの部屋もタレルライトと呼ばれる間接光で照らされています。



キッチンもバスルームもムーディー。非現実的です。



館内の説明を聞いた後は、宿の人から入口の鍵をあずかりました。
この人のこの日のお仕事はここまで。明日のチェックアウト時まで、山を降りていきます。
その間、この館、そしてこの一帯にいるのは、私たち7人だけになるのです。
こういうシチュエイションで、密室事件は起こるものですよね。
最初の被害者は、いったい誰だ!? (ミステリーの読みすぎ)



○ 同泊仲間たち

まず、自己紹介をし合いました。
東京から来た仕事仲間の女性4人と、新婚さんなのに仕事の都合で関東と関西に別居中のKカップル。
ここに泊まるだけあって、現代美術が好きな人たちで、ここに来る前にも近くの芸術祭の会場を巡ってきたそう。
みんな明るく、協力的で、嬉しくなります。これは楽しい夜になりそう。

3つある部屋をみんなで部屋割り。私はもちろん、一番小さい部屋にしてもらいました。
タレルライトをオンにすると、ムーディな間接光が部屋を照らします。



外を見渡すと、緑の向こうに遠く、市街地が見えます。
本当に人里離れた、緑深いところです。

○ サンセット天体ショー

そうこうしているうちに、日没の時間が近づいてきたので、一番大きな部屋にみんなで集まって、めいめい横になりました。
ダイ・インみたい?違いますよ!



1時間繰り広げられる、空窓からの天体ショー。
少しずつ、でも着実に色が濃くなっていく空をみんなで見上げ続けます。

タレルの間接照明もかすかに変化し、空と壁の色とのコントラストも刻々と変わっていきます。
飽きず眺め続けた、空の七変化をご覧ください。

















○ もはやたまり場

それから食事。部屋割りをして、荷物も移動したものの、結局みんな、空を見上げた大部屋からなかなか立ち去りません。
まさにたまり場。だってみんなでいるのが楽しいんですもの。
おしゃべりを続けたまま、食事タイムに突入です。
チェックイン前に買い出しができなかったという女性グループが下山している間、Kカップルと私は先に始めていました。

ミスターKは現代美術のほか、秘境も寺社も好きで、休みのたびにミセスKを連れまわしているのだそう。
「私も秘境好きですよ!」と話が盛り上がりました。
十津川村に行った人に会えるなんて!(今まで私の周りにはいませんでした)
祖谷を勧められ「行ったことがあるので、今度は奥祖谷に行きたい」と言うと、「ほほう」と向こうの目がキラリと光りました。
今回の旅でここに泊まる前には、秋山郷の「かたくりの里」に泊まっていたそう。
「見倉橋のそばの廃校ね!あの橋、いいですよね~」
話がぽんぽん弾みます。



お酒好きの人で、新潟限定のサッポロビールや地酒「麒麟山」をゴチになりました。
やはり米どころ。きりりとしたはっきりした味でした。
八海山というお酒があるので、麒麟山という山もあるのかしら?
私は、持ってきた梨を、みんなにむきます。
ムーディーな間接光のキッチンは手元が暗くて手探り気分。切る時にヒヤヒヤしました。



そのうちに女性グループも買い出しから戻ってきて、みんなでわいわい宴会モード。
みんながひとりひとり違う缶ビールをチョイスしているところが、なんだか自由で面白かったです。
出会ってそうそう、一緒に寝っ転がって空を見上げた仲ですからね。
年齢も割と近いし、打ち解けるのはあっという間です。

○ ムーディーなお風呂

話は盛り上がっていましたが、夜明けの時間に間に合わなくなるため、順番にお風呂に入ることに。
カップルはいい感じにお酒が入ってほろ酔い加減だったため、まず私が先発部隊となりました。
説明では聞いていましたが、夜になってみると、闇に沈む真っ暗なお風呂です。本当に漆黒の暗さ。
ボディソープなのかシャンプーなのか、明るい脱衣所まで持って行って見ないと区別がつきません。

でも、タレルライトをつけると、ほのかな細い光ファイバーの照明がつきます。
大きな浴槽に入ったら、自分の体が青白く発光して、びっくりしました。
うわ~、ムーディー。でも自分の身体を見てもねー(^_^;)
これは新婚さん向きだわー。K夫婦、やったね(笑)。
写真に撮れませんでしたが、このお風呂だけでも泊まる価値があります。

虫が飛んできたので払ったりしていました。
あとで考えてみたら、庭に面したお風呂のドアが完全に開け放たれていたようでした。
真っ暗すぎて、それすらもわからなかったわ。まさにオープンエア入浴~!
お風呂場は1階ですから、うっかり敷地に入り込んだ侵入者がいたら、思いっきり鉢合わせしてしまったことでしょう。
でも(そんなことはまずないだろう)とゆったり構えられるほど、館の外には静かな夜が広がっています。

○ いったん消灯

ところで、明日の朝の日の出は3時45分。
え、そんなに早くに日が昇るの?
日の出って、5時辺りなのかと思っていたら。さすが夏です。

日没にはサンセットショー、夜明けにはサンライズショーを楽しめるのがこの館。
その分、早く起きなくてはいけないのがツライところ。
冬ならもっと遅い時間なんですけどねー。
みんなで口々に、起きられるか不安がりながら、いったんそれぞれの部屋へ戻りました。
とりあえず、消灯。

その2に続きます。

     ◆ 光と緑の新潟紀行 index