皆さんの医院に受診された患者さんで、
口腔内にカンチレバーブジッジが装着されている症例があり、
それが古い補綴物であった場合、どのようにされているかな。
提示している症例は2009年から当院を受診された患者さんの口腔内で、
この写真は2021年11月の時に撮影した所見である。
この左下臼歯部のブリッジは当院を受診するもっと前、
患者の記憶では10年くらい前に補綴を行っているものらしい。
つまり、2021年から考えるとおよそ22年間の予後がある症例である。
私は2009年の当時、他の部位に対する歯科治療を行っていたが、当時から
骨格的にブラーキタイプであり、上顎との咬合関係はしっかり篏合しているため
力学的に不利では?と、この左下のブリッジは気にはなっていたが、
患者は何も問題がないし、噛めるし、ということで介入はしないままであった。
毎メンテナンスごとに介入しようかどうか悩んでいたのだが、
近年は興味深く同部の経過を見ることが楽しみになっている。
成書などでは、ブリッジ補綴においてカンチレバータイプは力学的な欠点が述べられ
特に臼歯部遊離端形態は好ましくないという考えが定着し、
インプラント補綴による治療を提案する歯科医が多いのではないだろうか。
しかも昨今では審美や咬合の安定などが治療の醍醐味とされ、古いものはダメ、
メタル補綴物は体に悪いなどの理由で、最新の治療を患者に勧めるが、
コンサルテーションを行う時、我々は学術で一般的に言われていることを掲げて説明する。
学術を一生懸命やってる歯科医は、介入や再介入を行う場合、
予知性を掲げて高価な補綴治療を行っているが
それが何十年も安定するといった根拠は実のところ何もない。
理論や適応症がどうこうだからと、自分都合の治療や最新の治療法を行うことが
本当に良い事なのか、このような症例は我々に疑問を投げかけてくる。
理論は臨床から離れた所で教育と議論がされるが、生体は時として
理論と合わない事実を実際の臨床所見で我々に教えてくれる。
今回はカンチレバーブリッジを題材にしているが、何十年前に施された
1本の前装冠やFMC、インレーといった修復補綴物や根治されている歯などの
治療における再介入するべき明確な要件がない限り、そのままの状態にて
予後を観察するべき事例も臨床では多いと思う。
大切にしなければならないものは何かを我々は考えるべきであろう。
これらの点については、PGI名古屋の月例会にて説明したいと思う。