非戦を選ぶ演劇人の会/上演台本の公開より
「いま、憲法のはなし -戦争を放棄する意志-」台本<No.101~No.200>よりつづき
非戦を選ぶ演劇人の会 vol.16
いま、憲法のはなし ― 戦争を放棄する意志 ―
台本構成:石原 燃
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【201】
ブッシュ 世界はアメリカ側につくか、テロ側につくかのいずれかだ。
【202】
豊下 これがイラク戦争の時のブッシュ大統領の演説です。
【203】
ブッシュ われわれは行動を起こす。行動しないリスクの方が大きいからだ。すべての自由な国家に危害を加えるイラクの力は、一年、あるいは五年後に何倍にもなるだろう。この脅威が突然、われわれの空や都市を脅かす前に、われわれは今、脅威が発生する場所で、脅威に立ち向かうことを選択する。
【204】
豊下 そうしますと、フランスが。
【205】
フランス フランスは、いわゆる「ならず者国家」とテロリストたちを先制攻撃することができるように、大々的に核戦略を修正する。
【206】
豊下 ロシアも。
【207】
ロシア 他の国々が先制攻撃戦略を引き続き外交政策の優先順位にあげるなら、ロシアも同じ方式で行動する権利を持っている。
【208】
豊下 北朝鮮。
【209】
北朝鮮 北朝鮮は攻撃を仕掛けてくる国に対してはどこであれ、核先制攻撃の権利を行使する。
【210】
豊下 そして、日本。
【211】
安倍 ミサイル攻撃などを受ける前に相手国の基地を攻撃することは、他に手段がないと認められれば、憲法が認める自衛の範囲内に含まれるのではないか。
【212】
半田 東京新聞の半田です。北朝鮮は三回の核実験を実施し、核兵器の運搬手段である長距離ミサイルの発射にも成功しました。朝鮮半島の緊張はますます高まっています。このタイミングで日本は集団的自衛権の行使容認の検討を始めた。仮に米国が北朝鮮攻撃を検討しているとすれば、背中を押す結果になるのは間違いないでしょう。米国から購入したミサイル防衛システムを自衛隊が保有していることも、北朝鮮からのミサイル攻撃を食い止めることになるので、米国にとって好都合です。
【213】
豊下 そこで犠牲になるのは、間違いなく一般の市民です。
【214】
安倍 ですからね、日本人はよく早とちりをするのですが、「できるようにする」ことと「やる」ことの間には大きな差があるんです。集団的自衛権を行使するかしないかは、主体的に判断すればいい。
【215】
石破 そうですよ。アメリカが言ったから付いていくということじゃないんですよ。
【216】
豊下 「現実」を見てください! 今や米軍再編が行われる中で「国家戦略」レベルまで「日米一体化」が進められようとしているんですよ。国際的にはもちろん、アメリカ国内においてさえイラク戦争は間違いだったと言われているのに、日本は日米同盟に気を遣って「支持」の立場を修正することすらできないじゃないですか。こういう「現実」の中で、アメリカから集団的自衛権の行使を求められて日本が「主体的判断」でもって「ノー」と言えば、どんな事態になると思っているんですか。アメリカからすれば、日本の裏切りですよ。そもそも集団的自衛権の行使にあたって「主体的判断」をするつもりなら、こうした事態を覚悟しておかなくてはならないはずでしょう。
【217】
山田 山田朗です。軍事史を専門にしています。湾岸戦争後、自衛隊は確実に変化しています。例えば、海上自衛隊を例に取りますと、海上自衛隊はこの十数年間で総トン数が一.五倍になりました。船が大きくなっているんですね。この大型化は、現実には、遠征能力です。長期間行動できるためには燃料搭載量が多くなりますから、必然的に艦艇が大型化します。質的な変化もあります。例えば、はるな型という護衛艦が老朽化したということで、ひゅうが型という護衛艦に更新されたんですけれども、大きさも約三倍となり、一万トンを超える大きさになりました。それから、搭載ヘリも三機から一〇機と大きく変化した。そして記号はDDH。このDDというのはデストロイヤー、駆逐艦を意味します。一万トンを超え、ヘリコプターを一〇機積んでいる駆逐艦というのは、これもう空母です。ヘリコプター空母と言っていいものが出来上がっている。しかし、これは古い船の更新であるという名目で造られているわけで、国会で予算を承認する際にも質的な変化というところまでチェックされているとは思えません。
高台、上手からグリナートが登場する。
【218】
グリナート アメリカ海軍グリナート作戦部長です。集団的自衛権が容認されるようになれば、アメリカ海軍と海上自衛隊が合同で空母機動部隊を構成することもできる。
【219】
憲法 私は戦争を放棄させたんだ……。
■日米安保条約と「抑止論」から抜け出す
【220】
石破 ですからね、きちんとした自立した国家になるための強化でしょ。
【221】
安倍 そうです。集団的自衛権の行使とは、米国に従属することではなく、対等となることです。それにより、日米同盟をより強固なものとし、結果として抑止力が強化されて、自衛隊も米軍も一発の弾も撃つ必要がなくなる。これが日本の安全保障です。
高台、下手から橋下登場。
【222】
橋下 維新の橋下です。僕はこの件に関しては安倍さんに大賛成なんです。これね、今アメリカとの関係見た時にですね。たとえばオスプレイの配備の問題。それから沖縄の米軍基地の問題。色んな事でアメリカに色んな事を言おうとしてもですね、何も言えない。これはある意味対等の関係ではないわけです。自衛隊の実質を強化して、ちゃんと自らやるべき事はやるよと、そういう事を示してアメリカとの関係をそう言った関係にしないと、何をやってもアメリカに対して何も言えないですよ。
【223】
豊下 豊下です。たとえイラク戦争におけるイギリスのようになっても、アメリカに対する影響力は変わりませんよ。イギリスの王立国際問題研究所のバルマー・トーマス所長はブレア政権のイラクへの参戦は、軍事、政治、財政的な犠牲にもかかわらず、ブッシュ政権に対していかなる影響力も持てなかったと指摘しています。
【224】
吉岡 ピースボートの吉岡達也です。米軍は共同作戦を行うときに指揮権を決して手放さない。当然、米軍の指揮の下、自衛隊は戦闘に参加することになる。その時、米軍の指揮官は、米兵を危険な戦闘地域に送り、自衛隊員をより安全な戦闘地域に配置してくれるだろうか。どう考えても逆だろう。自衛隊員は米兵の盾にされる。それがリアリティというものだ。
【225】
松竹 日本は結局アジアを支配したいんですよ。
憲法、立ち上がる。
【226】
松竹 ジャーナリストの松竹伸幸です。冷戦時代、アメリカの占領政策が転換するなかで、戦前、大東亜共栄圏を夢見たような人物が、次々と復権してますよね。彼らは軍事力でアジアを威圧し、支配することを考え、実践した人たちです。抑止戦略は、まさに戦前の日本と通じるものだったんです。アメリカについて行ってこそ、アジアを支配するという過去の願望が実現する。だから安保抑止戦略への追従は、何の躊躇もなく進んで行ったんです。
【227】
コン 北朝鮮より日本の方がよっぽど脅威ですよ。
憲法、コンを見る。
【228】
コン コン・ヒョッテです。韓国の大学で教えています。「抑止」という言葉は、危険なものを抑えるようなイメージを持っていますけど、実際には「自衛のための軍事強化」です。北朝鮮がミサイル発射や核開発を軍事的な対抗手段としてとることには、賛成できない。でも、それがアメリカの脅威に対抗するためのものなら、その脅威を取り除くのが一番でしょ。日米同盟がなければ、日本の北朝鮮のミサイルは飛んできませんよ。
【229】
吉岡 「米軍が日本を守ってくれる」という幻想ほど馬鹿げたものはない。
【230】
松竹 憲法九条による軍事戦略を展開したらどうでしょう。
低いエリアに座った人々、驚いて松竹に注目する。
【231】
憲法 憲法九条による軍事戦略。
【232】
松竹 日米安保にもとづく戦略と手を切るんです。まずは専守防衛というものを本来の意味に戻す。海外に軍事力を展開しない。周辺諸国との対立を減らし、平和と友好の関係を促進する。現実を九条に近づけることによって、将来的に軍事力を必要としない世界を目指すんです。もちろん、安保条約を破棄するのは目標です。でもそれだけでは駄目です。同時にアメリカの抑止戦略を変更させなくちゃいけません。日本は九条の軍事戦略を確立するにとどまらず、アメリカにもこの戦略への同調を求めるんです。日本が安保から抜け出ることができたとしても、中国とアメリカの軍事戦略を変えなければ東アジアの情勢は深刻なままです。アメリカと中国の軍事戦略を変える仕事は誰かがやらなくてはならない。それを日本がやるんです。最初の大きな仕事は、九条の軍事戦略でやっていくことをアメリカに説明し、納得させることでしょう。専守防衛という概念は日本独自のものではありません。国連憲章の水準をアメリカに求めることについて、及び腰になる必要はないんです。アメリカは、現在、中国に対する軍事戦略の先行きを見通せないでいます。だからこそ、同盟国であり、友人でもある日本が、九条の軍事戦略の有効性を説得すべきなんです。道理をつくして、繰り返し、アメリカの軍事戦略を転換する必要性を説く。この仕事をやり抜いたら、アジアには永続的な平和の可能性が開けます。日本自身もアメリカ依存から脱して、主権国家にふさわしい国として、その外交を世界に誇れるようになるのではないでしょうか。
【233】
憲法 憲法第九条。第一項。日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。第二項。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
【234】
松竹 大丈夫、できますよ。
■日本にできること
【235】
伊勢崎 伊勢崎賢治です。タリバン政権が崩壊した後、アフガンで武装解除に取り組みました。アフガンでは軍閥の群雄割拠を終わらせることが課題だったんですけど、軍閥の指導者は、大量の戦車やミサイル砲などを持ってました。自衛のために武器は必要だと言う彼らを説得し、武器を回収したんです。アフガニスタン人の日本のイメージは、世界屈指の経済的な超大国で、戦争はやらない唯一の国というものです。もちろん、アフガニスタン人の軍閥が憲法九条のことなんて知るはずもない。でも憲法九条のつくりだした戦後日本の体臭というものがあります。九条の下で暮らしてきた日本人に好戦性がないことを、戦国の世をずっと生き抜いてきた彼らは敏感に感じ取る。そういう臭いが日本人にはあるんです。これは日本が紛争問題に関与し、外交的にそれを解決する上で、他国には持ち得ない財産です。そういう日本の特性のおかげで、僕らは、他国には絶対出来なかったことが出来たんです。
伊勢崎や猪口とは違う場所から、幣原登場。
【236】
幣原 戦後最初の首相を務めた幣原喜重郎です。世界は真剣に戦争をやめることを考えなければならない。そして戦争をやめるには、武器を持たないことが一番の保証になる。軍縮交渉とは形を変えた戦争。平和の名をもってする、別個の戦争であって、円滑な合意に達する可能性など、初めからないもの。原子爆弾が登場した以上、一刻も早く軍拡競争を止めなければならぬとわかっていても、それは不可能。集団自殺の先陣争いと知りつつも、一歩でも前へ出ずにはいられない鼠の大群と似た光景―それが、軍拡競争の果ての姿。軍縮は不可能である。絶望とはこのことであろう。唯、もし軍縮を可能にする方法があるとすれば、一つだけ方法がある。それは、世界が一斉に一切の軍備を廃止することである。一、二、三の掛け声もろとも、すべての国が兵器を海に投ずるならば、忽ち軍縮は完成するだろう。もちろん不可能である。それが不可能なら不可能なのだ。ここまで考えを進めてきたときに、九条というものが思い浮かんだ。要するに世界は今、一人の狂人を必要としているということである。 何人かが自ら買って出て狂人とならない限り、世界は軍拡競争の蟻地獄から抜け出すことができないのである。これは素晴らしい狂人である。世界史の扉を開く狂人である。その歴史的使命を日本が果たすのだ。
憲法、たったまま動かない。
【237】
エマニエル 九条は、アフリカの貧困を救います。
憲法、ゆっくりエマニエルを見る。
【238】
エマニエル エマニエル・ボンバンディといいます。ガーナで紛争予防活動をしています。九条によって軍事費が抑えられ、だからこそさまざまなアフリカへの支援の枠組みをつくることができるんだと思うんです。日本が軍拡路線に入ってしまったら、軍事費に金をつぎ込み、アフリカのことも顧みてくれなくなるのではないかと心配です。
【239】
アリアス コスタリカの大統領、オスカル・アリアス・サンチェスです。中南米を含む発展途上国において、いま日本が果たしている役割を日本人は自覚していない。私たちは、軍事費に歯止めのなくなった国がいかに経済的に疲弊していくかをよく知っているし、いかに対外援助ができなくなっていくのかも見て来た。日本は絶対にその轍を踏むべきではない。
【240】
バン・キムン 国連事務総長のバン・キムンです。すべての国連加盟国が軍事費をたった一%削減すれば、そのカネで全世界の子供たちに初等教育を受けさせることができます。
【241】
マルティ インドネシアの外務大臣、マルティ・ナタレガワです。インドネシアはASEANの代表国をしています。東南アジアはASEANを中心にして戦争を放棄する条約を締結しました。アメリカや中国を含むアジア・太平洋地域の国々も、東南アジアのように戦争放棄条約の締結すべきです。緊張の悪循環を終わらせましょう。
【242】
高遠 高遠菜穂子です。二〇〇三年からイラク支援に携わってきました。四回目のイラク入国のときに自衛隊撤退要求をする武装勢力の人質にとられました。私はこのことを考え続けています。今になって思うのですが、この事件はいうなれば自衛隊を派遣して、九条を突破したことで、私たちは人質にされたといえるのではないかと思っています。そして、なぜ私たちが殺されなかったかといえば、私たち三人がイラクで、戦争放棄、それから丸腰、対話、そしてイラクの人への支援を続けていたことが、武装勢力に認められたからだと思います。私たちは九条の実践を出来ていたんじゃないか、と、そういうふうに思っています。私はこの憲法九条に命を守られたと言えるのではないでしょうか。私はいつも考えてしまいます。私のような体験をする人が、今、この瞬間にも世界のどこかにいるかもしれない。「日本人だろう、お前は」ということで、私よりも危険な目に合う人がもしかしたら出るかも知れない。それはもうごめんです。同じ思いはしてほしくありません。なので、私にとってこの九条というのは重要になりました。とっても重要になりました。
■軍隊は国民を守らない
【243】
ジョイス 息子のジェフはイラク帰還兵でした。帰還したあと、秋になって初めて、ジェフが毎日のように吐いていたことを知ったのです。ジェフはふさぎ込み、お酒を飲むようになりました。精神安定剤と抗うつ剤も。それでもよく眠れず、うなされて、食欲もなく、部屋に引きこもってしまいました。ジェフはこんな話をしていました。精神科医にイラクの道路の障害物のことを話そうと思うと。障害物とは子供たちのことで、海兵隊の車両部隊では、子供がいても止まるな、振り返るなと言われていたのだそうです。ジェフが亡くなったとき、私たちは地下室でメモを見つけました。そこにはこう書いてありました。
【244】
ジェフ こんな人間になってしまって、本当に恥ずかしい。幸せで、自信をもって、人生を楽しんでいた子供の頃の僕のことだけを覚えていてほしい。
【245】
橋下 橋下です。銃弾の雨嵐の如く飛び交う中を、命をかけて走っていく、精神的に高ぶっている集団にどこかで休息じゃないけども、そういうことをさせてあげようと思ったら、慰安婦制度ってのは必要だと誰だってわかる。
【246】
吉元玉 吉元玉(キルウォノク)です。私は十三歳の時に、工場で技術を教えてあげると言われ、だまされて連れて行かれました。ところが、小さな畳部屋に閉じ込められ「騒ぐな! 反抗したら殺すぞ!」と脅されました。怖くて泣いていると「泣いたら殴り殺すぞ!」と殴られ、もっと小さな部屋に閉じ込められました。そして次の日から部屋の前に軍人が並びました。まもなく私は性病にかかってしまいました。軍人の相手ができなくなって、病院で治療を受けました。ところが、その病気だけ治療すればいいものを、卵管を二つとも縛ってしまったんです。そのため子どもも産めず二十代で子宮を摘出するしかなくなってしまいました。
【247】
安倍 政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる「強制連行」、人さらいのように、人の家に入ってさらってきて慰安婦にしてしまった、ということを示すような記述は見当たらなかった。
【248】
チリNGOの女性 チリから来ました。ピノチェト政権の頃、軍に兄を殺されました。
人々、静まりかえる。
【249】
チリNGOの女性 チリでは多くの人が自分の国の軍隊に殺されました。私たちは国家の暴力からいかに人々を守るかを常に考えています。そして、この問題は軍隊という存在をどうするかに行き着くのだと思う。軍隊は外国の敵に銃口を向けていると同時に、常に内側、すなわち私たちにも向けているのです。それは軍隊が本質的にもっている属性なんです。
【250】
司馬 司馬遼太郎です。第二次世界大戦のとき、栃木県佐野の戦車第一連隊に所属していました。そこで大本営からきた少佐参謀に、連隊のある将校が質問しました。
【251】
将校 われわれの連隊は、敵が上陸すると同時に南下して敵を水際で撃滅する任務をもっているが、しかし、敵上陸とともに、東京都の避難民が荷車に家財を積んで北上してくるであろうから、当然、街道の交通混雑が予想される。こういう場合、わが中戦車は戦場到着まで立ち往生してしまう。どうすればよいか。
【252】
司馬 少佐参謀はあたりまえな表情で答えた。
【253】
少佐参謀 ひき殺していく。
高台、上手から栗栖弘臣が登場する。
【254】
栗栖 元自衛隊統合幕僚議長の栗栖弘臣です。今でも自衛隊は国民の生命、財産を守るものだと誤解している人が多い。しかし国民の生命、身体、財産を守るのは、自衛隊の任務ではない。自衛隊は「国の独立と平和を守る」のである。この場合の「国」とは決して個々の国民を意味しない。もし個々の国民を指すとすると自衛官も守られるべき国民であるから、生命を犠牲にすることは大きな矛盾である。
【255】
山崎 自民党の山崎拓です。自衛隊という資源を、人的資源を我々が持っている以上、しかもそれに膨大な予算を費やして維持しているわけだから、それを国際貢献に使わないという手はありません。
【256】
母親 資源というのは消費するものですよね。人間を資源というのはおかしい。自衛官を使い捨てにするような発想が表われていると思います。自衛隊員だった息子は、上官からのいじめにあって自殺しました。
■人権裁判所
【257】
笹本 弁護士の笹本潤です。コスタリカに留学して中南米の憲法問題を調査してきました。中南米諸国でアメリカの支配を脱しようとする大統領が次々と誕生した時、助けになったのがアメリカからアルゼンチンにいたる三五カ国で構成された「人権裁判所」でした。この「人権裁判所」がアジアにはない。一国ではどうすることもできない問題でも、人権裁判所にもっていけば、外国や国連などの水準から解決の道が見つかる。日本も例外じゃない。日本の裁判所ではなかなか救済されない「米軍基地」や「表現の自由」の問題、あと「戦後補償問題」などが救済される可能性がある。国家という枠を超えた人の繋がりは、まさに日本国憲法の精神です。戦争は人権を侵害しないと遂行できない。だからこそ世界中の人が手を繋いで、国家に人権を守らせる必要があるんです。
7.日本国憲法 第十章「最高法規」
【258】
はなし 国民の基本的人権は、人間が長い間力を尽くして得たものであり、これまでいろいろのことに出会って鍛え上げられたものであるから、これからも決して侵すことのできない永久の権利であると記しています。
【259】
憲法 日本国憲法第九十七条、この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
【260】
改正案1 自民党改正案では、この条文を全文削除します。
【261】
憲法 全文削除……
【262】
はなし ひどい。
【263】
憲法 第九十九条、天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
【264】
はなし このように大事な憲法は、天皇陛下もこれを守りますし、国務大臣も、国会の議員も、裁判官も、みなこれを守ってゆく義務がある。憲法は国家権力を縛るものだという立憲主義を表す条項です。
【265】
改正案2 しかし、自民党改正草案では九十九条を次のように改正します。
【266】
改正案3 全て国民は、この憲法を遵守しなければならない。
【267】
はなし 憲法の役割は国民を守るために、国家権力に歯止めをかけることです。
【268】
伊藤 弁護士の伊藤です。人間の判断は常に正しいわけじゃない。ときに間違いを犯します。国民の多数が熱狂的に戦争を支持した戦前の日本もそうでした。それを避けるために、人間の弱さに着目して、あらかじめ多数の声に歯止めをかけることが必要だと考えられた。その仕組みが憲法なんです。多数の声を反映した国家権力を制限する。これが立憲主義という思想です。九六条を先に改正する狙いは、九条などを改正することにあります。憲法によって縛られる側の国家権力が憲法改正を目指すなんて、政治的なクーデターですよ。
【269】
改正案1 共同通信が行った世論調査によると、現在の安倍政権の支持率は六八%。今年の一月から、ずっと六〇%代をキープしています。
【270】
改正案2 来月の参議院選挙でも自民党の圧勝は間違いなし。昨年の衆議院選に続き、参議院でも単独過半数を取る勢いです。
【271】
改正案3 自民党は参院選でも憲法改正を公約に掲げて戦います。
【272】
安倍(岸) 多くの声なき声は我々を支持している。
群衆からの盛大な拍手。
安倍、改正案1から3、去る。
低いエリアに座っていた男が一人、立ち上がる。
憲法、男を見る。目が合う。男、目を逸らし、黙って去る。
憲法、男を追って一歩前に出て立ち止まり、去って行く男を見送る。
女が立ち上がる。
憲法、女を見る。目が合う。女、おじぎをして、小走りに去る。
【273】
はなし なぜ。
男がまたひとり、今度は憲法を見ずに、こそこそと去る。
憲法、去って行く男を見送る。
女ふたりが目配せして立つ。慌てたひとりが椅子にぶつかる。
憲法、ふたりを見る。
【274】
女1 (憲法に気が付いて)私にやれることがあったら言ってください、(女2に)ね。
【275】
女2 言ってくれれば。なんでも。
【276】
はなし 違う。あなたがどうするかですよ。
憲法の言葉を遮って、男が話し出す。
【277】
男1 憲法も大事ですけどね、平和運動のために会社辞めるわけにいかないし。
憲法、男を見る。
立っていた女ふたり、急いで去る。
【278】
はなし (男1に)そんなおおげさなことじゃなくて。
男2が話し出す。
【279】
男2 景気が良くなってくれないとね、憲法どころじゃないよ。
男2が話している間に、男1去る。
男2、去る。男2に続いて近くにいた二人が去る。
次々と席を立って去っていく。
最後に男が一人残る。
憲法、男を見る。男、憲法を見る。目が合う。
憲法が近づこうとすると、男は逃げていく。
【280】
はなし (去って行く人々に)現実に合わせて憲法を変えたら、現実は変わらない。憲法に合わせて現実を変える。それで未来が変わる。そう信じます。
憲法、取り残された。
振り返ると、はなしが立っている。
【281】
はなし そう信じています。
8.日本国憲法 前文
憲法、語り出す。はなし、脇に立つ。
【282】
憲法 日本国憲法、前文。
姿を現すものはいない。
【283】
憲法 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、
【284】
はなし われらとわれらの子孫のために、
諸国民との協和による成果と、
わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、
【285】
憲法 政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
憲法が前文を読み出すと、出演者たちが出てくる。
出演者たちが前文を読んでいく。
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、
その権威は国民に由来し、
その権力は国民の代表者がこれを行使し、
その福利は国民がこれを享受する。
これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。
われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
【286】
憲法 日本国民は、恒久の平和を念願し、
人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、
われらの安全と生存を保持しようと決意した。
【287】
憲法 われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。
われらは、全世界の国民が、
ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、
平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、
自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、
政治道徳の法則は、普遍的なものであり、
この法則に従ふことは、
自国の主権を維持し、
他国と対等関係に立たうとする
各国の責務であると信ずる。
【288】
全員 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
音楽。
溶暗。
幕
【引用文献】
■あたらしい憲法のはなし
「復刻・あたらしい憲法のはなし」(童話屋)p11、28、32、35、73
■自民党改正案
「日本国憲法改正草案Q & A」p7、9、10、14
■安倍晋三
「新しい国へ 美しい国へ完全版」安倍晋三著(文藝春秋)p103、105、107、147、250
衆議院議員 安倍晋三公式サイト 憲法改正2009年6月12日
http://www.s-abe.or.jp/policy/consutitution_policy
2006年10月3日・衆院本会議
2013年5月10日・フジテレビ「スーパーニュース」
「SAPIO」2007年6月27日号(インタビューは2006年8月2日)
■ベアテ・シロタ・ゴードン
「ベアテと語る「女性の幸福」と憲法」晶文社 p38、91
「映画 日本国憲法 読本」FOIL p130
■ジョン・ダワー
「映画 日本国憲法 読本」FOIL p72、82
■丸山眞男
すばる2013年2月号「未発表インタビュー1989年の丸山眞男」(集英社)p132、136、138
■石原慎太郎
「マッカーサーが数日で作った醜い憲法」(名古屋市内での講演で)朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/politics/update/0509/TKY201305090498.html
■伊藤真
世界2013年6月号「なぜ96条を変えてはいけないのか」p73、74、80
TBSラジオ「ニュース探求ラジオDig」2013年3月21日
「伊藤真の憲法入門 講義再現版第4版」伊藤真著(日本評論社)p101、
■内田樹
東京新聞2013年5月3日「96条の意義は国民守るとりで」
内田樹の研究室「集団的自衛権と忠義なわんちゃんの下心について」
http://blog.tatsuru.com/2013/05/04_0814.php
■古屋圭司
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■石破茂
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朝日新聞2012年9月19日「心の痛みがない愛は偽り」
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2001 2012年12月2日・新報道
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■辺野古座り込みの女性
「映画 日本国憲法 読本」FOIL p23
■民主党の小西
2013年3月29日・参院予算委員会
■デイビッド・ロー
朝日新聞2012年5月3日「日本国憲法は世界の宝!海外で最高の評価」
■伊佐、弁護士の加藤
やんばるからのメッセージ(DVD)
琉球新報2013年4月12日「憲法則し判決を」高江ヘリ妨害禁止訴訟
■雨宮処凛、高遠菜穂子
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■半田滋
週間金曜日ニュース「ダッカ事件、拉致問題など引き合いに事実を歪曲」
2013年3月14日
マガ9対談「検証:9条を骨抜きにするいくつかの方法について」
「ハンドブック 集団的自衛権」岩波ブックレット p41、45
■たきもとしげこ
引用:http://skmtsocial.tumblr.com/post/37628588064
■吉岡達也、フィリピンの女性、チリNGOの女性、エマニエル・ボンバンディ、
アリアス大統領、バン・キムン
「9条を輸出せよ!」吉岡達也著(大月書店)p123、131、132、144、159、160
■浅田次郎、井上ひさし
日本ペンクラブ・メールマガジン「P・E・N」第23号2005年1月28日
■澤地久枝、奥平康弘
「いま、憲法の魂を選びとる」岩波ブックレットp37、45
■日高六郎
「映画 日本国憲法 読本」FOIL p212
■森達也
「日本国憲法」森達也著(太田出版)p181
■川口創
マガ9対談「検証:9条を骨抜きにするいくつかの方法について」
■浦田一郎、佐藤達夫
「ハンドブック 集団的自衛権」岩波ブックレット p5、16、30
■豊下楢彦、ブッシュ
「集団的自衛権とは何か」豊下楢彦著(岩波新書)p33、46、110、116
■山田朗
「自衛隊イラク派兵差止訴訟」控訴審第7回口頭弁論での証人尋問
■グリナート
NHKニュース「集団的自衛権で日米空母機動部隊も」2013年5月22日
■松竹伸幸
「憲法九条の軍事戦略」松竹伸幸著(平凡社新書)p80、101、115、177
■笹本潤、コン・ヒョッテ
「世界の「平和憲法」新たな挑戦」笹本潤著 p119、137
■伊勢崎賢治
「憲法九条の軍事戦略」松竹伸幸著(平凡社新書)p116、117
■幣原喜重郎
憲法第九条『戦争放棄』は、世界史の扉を開くすばらしき狂人、幣原首相によって生まれたもの!
http://blog.goo.ne.jp/mayumilehr/e/d7687e6f43b62b9370cba44a9b11bcd1
■マルティ外務大臣
しんぶん赤旗「戦争放棄条約締結をインドネシア外傷が提案」2013年5月18日
■ジョイス、ジェフ
「冬の兵士 イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実」p204
■吉元玉
「20年間の水曜日」尹美香著(東方出版)p144
■司馬遼太郎、将校、少佐参謀
「憲法の力」伊藤真著(集英社新書)p113
■栗栖弘臣
「憲法が変わっても戦争にならないと思っている人のための本」p112
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「いま、憲法のはなし -戦争を放棄する意志-」台本<登場人物~No.100>
「いま、憲法のはなし -戦争を放棄する意志-」台本<No.101~No.200>