外国語学習の意味、そして母国語について考えましょう

社内公用語の英語化、小学校での英語の義務化など最近「英語」に振り回され気味ですが、何故、どの程度英語を学ぶか考えます。

「事実と意見」 木下是雄さん 国語教育と英語教育の架け橋

2014年11月24日 | 木下是雄:国語教育と英語教育の架け橋

 

 「事実と意見」 木下是雄さん 国語教育と英語教育の架け橋

先日、紀伊国屋で、実験器具つきの理科教材を購入しました。その解説書に以下のように書いてありました。

①「つぶつぶが飛び交っているので、空気は伸び縮みすることができます。」

この表現は、どうしても私には引っかかります。以下のように言うべきではないでしょうか。

②「空気は伸び縮みできます。その理由はつぶつぶが飛び交っているからです。」

竹筒鉄砲同じだという方もいらっしゃるでしょう。たしかに、分子説を知っている人に「論理的つながり」だけを伝えるのであれば、私も①でよいと思います。しかし、知らない人に説明する文脈では、②のように言うべきではないでしょうか。

生徒が知っているのは、「つぶつぶが飛び交っている」ことでしょうか、それとも「空気が伸び縮みすることでしょうか。」


もちろん、生徒が自分の目で確かめることができるのは、「空気が伸び縮みすること」です。確かめることができることが<事実>です。私などは竹筒鉄砲が脳裏に浮かびます。一方、「つぶつぶが飛び交っている」のは、人類が長年思索と実験を重ねてやっと到達した見解です。今では原子自体もある種の顕微鏡で見ることができるそうですが、19世紀の初頭に、フランスのプルーストや、英国のドルトンのような学者がその結論に至ったのは、目で見たからではなく、「そう考えないとつじつまが合わない」と考えたからです。それは、まず、<意見>だったのです。


気体と分子こう考えると、①「つぶつぶが飛び交っているので、空気は伸び縮みすることができます。」は、少なくとも、事実と意見の判断を育てる言い方ではないと言えないでしょうか。言い方によっては、「つぶつぶが飛び交っているのだぞ、そんなことも知らないのか。」と言われたような印象を持つ子がいるかもしれません。いや、私は、科学についての、あたかもすべて分かっているかのような説明をあらかじめ聞かされているうちに、多くの子が科学への興味を失うのではないかと思うのです。数回前のコラムに、理科教育の七・五・三問題について触れました。つまり、小学校5年では、7割の子が理科が好きと言うが、中学2年では5割、高校2年では、それが3割に減ってしまうという、問題のことです。そのようなことが起きる根底には、科学の説明についての①のような語り方が大きく影響を与えているのではないかと思うのです。


事実と意見さて、この、「事実と意見」の峻別について、木下是雄さんは、『リポートの組み立て方』の第2章、『理科系の作文技術』では、第7章で、自らの経験を交えながら、語っています。『リポートの組み立て方』においては、次のようにさえ、言っています。

事実の記述と意見とのちがいを詳述してきたが、事実と意見とを異質のものとして感じ分ける感覚をこどもの時から心の奥底に培っておくことが何より大切である。この感覚が抜けている人は、科学、あるいはひろく、言って学問の道に進むことはむずかしい。また、この感覚のにぶい人はたやすくデマにまどわされる。

『リポートの組み立て方』文庫版 p.42


このような厳しい(?)見解を持つに至ったには、木下さん自身の体験があります。それは、米国の小学校での国語(つまり英語)の教科書との出会いでした。
その教科書には、以下のような問題がありました。

どちらの文が事実の記述か、もう一つの文に述べてあるのはどんな意見か、事実とはどうちがうか。


A:ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であった。
B:ジョージ・ワシントンは米国の初代の大統領であった。


A:この背の高いアメリカ人は世界でいちばん機敏な男でした。
B:「ハワハニの新しい学校」というおのはあるお話の題です。

(------) 次に書いてあるのはどれが事実でどれが意見ですか。

1. 私たちアメリカ人はほかの国のひとより機敏です。
2. このお話しによると、ジョゼフは小屋に住んでいました。
3. 私たちが読んだのはすばらしいお話しでした。
4. この島の土着民は争いを好まぬおとなしい人たちでした。
5. 彼らの国のことばはおかしなことばです。

『リポートの組み立て方』文庫版 p.26-27


みなさんはどう思われますか。答えと、木下さんのその後の経験については次回に語りましょう。

また、私が事実と意見について触れた意味と、木下さんの意図との違いについても次回にお話したいと思います。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
読んでおります (Noriko .Mamiya)
2014-11-27 20:17:35
こんにちは。「レポートの組み立て方」188ページまで読み進めました。実践しようとペンを持っていますが、膨大な情報の入ったテキストを読み解くこと、調べなければならないことだらけで、カメの様にのろのろ考えながら進んでいます。読者登録させて頂きました。どうぞよろしくお願いいたします。
リポートの組み立て方 (小川豊)
2014-11-28 01:54:18
『リポートの組み立て方』、『理科系の作文技術』、両方とも簡単に読みこなせるものではないです。なんとなく読む人が多いですが、論語読みの論語知らずというところでしょう。その点、泉下の木下さんも残念に思っておられるのではないかと思います。
このブログでも、『リポートの組み立て方』のゆっくり読みをしようと思います。じっくりと取り組みたいと思います。応用問題も考えています。次回は、とりあえず、「事実と意見」の章の末尾の問題を載せる予定です。

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