みのりと援助交際について話していたら、娘は何かを思い出したようで突然言い出した。
「いや、私、本読んだよ」
何の本を読んだのであろうか?
「『子どものねだん』って本でさ。ドキュメンタリー、本当のはなし」
「いや。
ドキュメンタリーじゃなくって、ノンフィクションとかルポタージュって言うのが正解じゃないのかな?」
俺は父親らしくさりげなく注意するが、あまりにもさりげなさすぎて聞く耳をもたれなかったようだ。
娘は俺を無視して話を進める。
「でさ、作者のマリーさんはベルギーの女の人で、ベルギーの国民的ヒロインとまで言われてて、ベルギーの王様から爵位までもらったんだ。
そんで男爵なんだよ!」
「男爵?」
「女なのに男爵ってなんかすごくない?」
「サツマイモなのに男爵みたいな?」
「いや、お父さんの例えはいつも良く分かんない。
もっと素直に変だと思おうよ」
「いいんじゃねぇの。
女で男爵でも。
アノあしゅら男爵でさえ男爵なんだから」
「あしゅら男爵って誰よ?」
うーん。最近の子どもとは本当に話しにくい。何も知らない。知らなすぎる。
みのりは話を続ける。
「でね、マリーさんはベルギーの病院に勤めるお医者さんだったんけど、お父さんが亡くなってね、さびしくなってね、ボランティアをすることにしたの。
最初はタイにあるカンボジア人とラオス人とベトナム人のいる難民キャンプでフランス語を教える先生になったの」
「ふーん」
「でね、このお話は10年くらい前の話なんだけど、日曜日には、マリーさんみたいな西洋人のボランティアは難民キャンプにいられないの。で、日曜日のキャンプの中にいるのは、タイの兵隊と難民だけ。
そこで悲劇が起こった。
難民の強制移送、どこへ連れて行かれ、どうなったのかも分からない。
それとは別に、難民キャンプの幼い女の子が兵隊の手で人買いに売られたという疑惑も持ち上がる。
マリーさんは、難民キャンプを去って、人権擁護団体の助けを得てタイの児童売春の実態調査に乗り出した」
「ふーん、なるほど」
「マリーさんは、トイってタイ人とチームを組んで、児童買春の客を装って売春宿を巡ったの。
そして、ソンタと言う8才の売春婦に出会った。
ソンタの疲れきった感情の無い瞳。
腕にはタバコの火を押し付けられたような火傷の跡。
マリーさんは、ソンタに感情移入しすぎた。
トイが止めるのも聞かず、2度目に会った時に、マリーさんはソンタの権利を、売春宿の店主から金で買った。800ドルで」
「1ドル100円として8万円程度か」
「だけど、救出されたソンタの顔に生気は戻らない。
まるきり元気が無い。
簡単な健康検査の後。
ソンタの故郷への帰郷がはじまった。
ソンタの生まれ故郷はタイ北部の山奥で、バスでミャンマーの国境に近いチャンライに向かう。故郷が近づくにつれて、辛そうだったソンタの顔に生気が戻る。
いつの間にか、花をつみ笑顔で山道を駆け上がる。
ついに村の近くで、ソンタは木に登ってよそ者を見張っていた子どもたちに再会した。
ぜんぶソンタの友達だ。
再会した友達たちと歓声をあげて、ソンタは飛ぶように走り出した。
丘の上にいた女性とソンタは再会した。
その人はソンタのお母さんで、二人は抱き合った。
抱き合って喜んだ!」
「へー、良かったじゃん」
「ソンタは町から来た人さらいの乗る赤と白のマイクロバスに連れ去られたそうだ。
その夜に、村長やソンタの親、マリーさんにトイは、村長の家で今後について話しあった。
そして、そこでトイは、ソンタの健康診断の結果をみんなに打ち明けた。
『ソンタはエイズのキャリアだ』」
「え?」
「そしてソンタは死んだ」
「あぁー」
「でも、最期にソンタが死んだ場所が、薄汚い売春宿などでなく、お母さんのいる家で、本当に良かったと思う。
最期の最期に家で死ねて本当に良かった」
「いや、私、本読んだよ」
何の本を読んだのであろうか?
「『子どものねだん』って本でさ。ドキュメンタリー、本当のはなし」
「いや。
ドキュメンタリーじゃなくって、ノンフィクションとかルポタージュって言うのが正解じゃないのかな?」
俺は父親らしくさりげなく注意するが、あまりにもさりげなさすぎて聞く耳をもたれなかったようだ。
娘は俺を無視して話を進める。
「でさ、作者のマリーさんはベルギーの女の人で、ベルギーの国民的ヒロインとまで言われてて、ベルギーの王様から爵位までもらったんだ。
そんで男爵なんだよ!」
「男爵?」
「女なのに男爵ってなんかすごくない?」
「サツマイモなのに男爵みたいな?」
「いや、お父さんの例えはいつも良く分かんない。
もっと素直に変だと思おうよ」
「いいんじゃねぇの。
女で男爵でも。
アノあしゅら男爵でさえ男爵なんだから」
「あしゅら男爵って誰よ?」
うーん。最近の子どもとは本当に話しにくい。何も知らない。知らなすぎる。
みのりは話を続ける。
「でね、マリーさんはベルギーの病院に勤めるお医者さんだったんけど、お父さんが亡くなってね、さびしくなってね、ボランティアをすることにしたの。
最初はタイにあるカンボジア人とラオス人とベトナム人のいる難民キャンプでフランス語を教える先生になったの」
「ふーん」
「でね、このお話は10年くらい前の話なんだけど、日曜日には、マリーさんみたいな西洋人のボランティアは難民キャンプにいられないの。で、日曜日のキャンプの中にいるのは、タイの兵隊と難民だけ。
そこで悲劇が起こった。
難民の強制移送、どこへ連れて行かれ、どうなったのかも分からない。
それとは別に、難民キャンプの幼い女の子が兵隊の手で人買いに売られたという疑惑も持ち上がる。
マリーさんは、難民キャンプを去って、人権擁護団体の助けを得てタイの児童売春の実態調査に乗り出した」
「ふーん、なるほど」
「マリーさんは、トイってタイ人とチームを組んで、児童買春の客を装って売春宿を巡ったの。
そして、ソンタと言う8才の売春婦に出会った。
ソンタの疲れきった感情の無い瞳。
腕にはタバコの火を押し付けられたような火傷の跡。
マリーさんは、ソンタに感情移入しすぎた。
トイが止めるのも聞かず、2度目に会った時に、マリーさんはソンタの権利を、売春宿の店主から金で買った。800ドルで」
「1ドル100円として8万円程度か」
「だけど、救出されたソンタの顔に生気は戻らない。
まるきり元気が無い。
簡単な健康検査の後。
ソンタの故郷への帰郷がはじまった。
ソンタの生まれ故郷はタイ北部の山奥で、バスでミャンマーの国境に近いチャンライに向かう。故郷が近づくにつれて、辛そうだったソンタの顔に生気が戻る。
いつの間にか、花をつみ笑顔で山道を駆け上がる。
ついに村の近くで、ソンタは木に登ってよそ者を見張っていた子どもたちに再会した。
ぜんぶソンタの友達だ。
再会した友達たちと歓声をあげて、ソンタは飛ぶように走り出した。
丘の上にいた女性とソンタは再会した。
その人はソンタのお母さんで、二人は抱き合った。
抱き合って喜んだ!」
「へー、良かったじゃん」
「ソンタは町から来た人さらいの乗る赤と白のマイクロバスに連れ去られたそうだ。
その夜に、村長やソンタの親、マリーさんにトイは、村長の家で今後について話しあった。
そして、そこでトイは、ソンタの健康診断の結果をみんなに打ち明けた。
『ソンタはエイズのキャリアだ』」
「え?」
「そしてソンタは死んだ」
「あぁー」
「でも、最期にソンタが死んだ場所が、薄汚い売春宿などでなく、お母さんのいる家で、本当に良かったと思う。
最期の最期に家で死ねて本当に良かった」