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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会 2016年6月度(2016.6.27開催)

2016-06-29 11:05:19 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年6月度会合より)


●紙メディアの有効性はニューロマーケティングから

「ニューロマーケティング」という新しい学問領域から、紙メディアがもっている本来の特長と有効性を再評価してみようという試みがある。紙の上に印刷された「反射文字」が脳の前頭前野を活発化させることによって、記憶力の向上、知識の蓄積に有利に働くのではないか。これに対して液晶画面で「透過文字」を読む電子メディアの場合は、文字を追うというより全体を画像と捉えるので、前頭葉を刺激することに繋がらないのではないか。両者を比べれば、紙メディアの方がリテラシーを高めてくれるはず。そうであるなら、販売促進用のメディアとして印刷物(通販のダイレクトメールなど)を使った方が、マーケティング効果がより高まるのではないか。情報を確実に伝えなければならない自治体や金融機関からの通知状など、紙メディアの効能が高齢化社会のニーズから再認識されている。その一方、学校の教育現場で使われ出した電子教科書は、実証してみるとどうも適していないのではないかと疑問視する声さえ聞かれる。印刷産業から提
案すべき解決策は少なくない。


●文字情報への関心は紙メディアの利点を生かして

 年齢層の違いによって文字情報への注意・関心の反応=知覚が異なることが、ニューロマーケティング研究によって明らかになったとするニュースが流れた。それによると、縦書きの文字情報を記載したグラフィックデザインを見たとき、年配層(視力の衰えを自覚するとされる45歳以上)が「文字情報に高い関心をもつ」傾向があるのに対し、若年・中年層は「文字情報を注視せず、高い関心に結びつけない」傾向があるという。被験者の脳機能を解析すると、年配層は文字情報を読んでいるときに前頭葉の活動が活性化して、それだけ関心が向けられていることがわかる。視線は文字情報を注視していて、しっかりと読み込んでいるそうだ。若年・中年層では前頭前野の活動があまり見られず、しかも文字情報も注視することなく“読み飛ばして”いる状態だという。これらの実験結果から、少なくとも年配層に関しては、縦書きの文字情報は読みやすいと受け取られ「書かれた内容を理解しようという強い関心を引き出す」効果があるとしている。文字の読みやすさを、可読性、理解度、疲労度といった尺度で科学的に実証し、文字情報を載せるメディアの特性と関連づけながら社会に提示していく責任が印刷産業にはある。


●印刷製品には品質上のバラツキが存在する……

一定のバラツキがあることを前提に印刷物の品質管理に取り組むことの重要性を説く技術レポートが、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。「雪の結晶、一卵性の双生児、そして刷り本」と題するこのレポートは、印刷会社が保持すべき工程能力をどう捉えたらいいのかのヒントを与えてくれている。いかなる生産活動においても、その中心的な課題は顧客が求める必要条件を満たすことにある。この必要条件に高度に適合するためには、製品特性を決定づける仕様を基準に品質改善に努めなければならない。雪の結晶も一卵性双生児も厳密に点検、計測すれば、全く同じものはない。このような自然界の法則どおり「製品にはつねにバラツキが存在する」からには、統計的なバラツキの概念と仕様との関係を理解する必要があるという。


●バラツキの存在を認めて、許容範囲に制御する

 こうした概念は、印刷工程にも援用可能だ。印刷機から排出される何千もの刷り本は、見かけ上は全く同じに見えるが、印刷機だけでなく用紙、インキ、刷版など変動要素が多いこともあって、刷り本の品質には必ず相違がある。バラツキの度合いも同一ではない。それにもかかわらず、印刷会社はバラツキを取り除く不可能ともいえる課題に直面している。「こんな理不尽な状態を受け入れることができますか?」と、このレポートは問う。そして印刷会社がもつべき一つの答えは「バラツキの多くは取るに足らないものだ」という信念をもつことにあると、自らの意識変革を促している。「違いは無視し得るほど十分に小さい」と信じることが重要だとする。ただし、「不規則性の“真ん中”に規則性を見出す」必要がある。同じ試料、同じ計測項目でデータ数を十分に大きくとるシステマチックな観測方法と統計処理により、バラツキのパターンを把握し、それに基づいて品質管理を徹底させなければならない。工程能力を高めるには、まずは実際に発生しているバラツキの量、幅を測定することから始めるべきである。


●何を計測し何を許容するかの論理的な基準こそ

 第1段階では、計測によって実際に発生しているバラツキの性質を発見すること。重要な品質特性(ベタ濃度、ドットゲインなど)を抽出するとともに、計測法を決めて十分に多数の印刷物について計測し、発生しているバラツキの量を決定することである。第2段階としては、バラツキの許容範囲(目標値からの仕様上下限の幅)を決めること。印刷物に対する顧客の要求品質を仕様のかたちで表示して、その特性値を計測することになる。第3段階は、バラツキの出ている実際の印刷物と許容範囲内の基準サンプルと比較すること。これによって①バラツキは問題にならないほど小さく、ほとんどの製品は許容範囲に収まっているので、そのまま顧客に納品する、②バラツキが大きすぎ、かなりの不適合製品が含まれているので、刷り直しなど何らかの対応が必要――のいずれかを判断する。顧客満足に応えるには原点での品質設計が欠かせないが、印刷工程上の品質改善活動においては、何 (バラツキを引き起こす要因) を計測し何を許容するかという比較研究により「バラツキの幅を決める」ことが重要なのだと結論づけている。
 ※参考資料=Technology Report PIA; John Compton, Prof. Emeritus(Rochester Institute of Technology)


●ポールポジションを探せる高度なデザイン感覚を

デザインとは本来「設計」の意味であり、一元的に「図案」を指すものではない。ビジネスモデルのデザインといえば、顧客価値やマーケティング戦略、生産体制の仕組みづくりが先にあり、提供する製品の仕様はその後の問題となる。印刷メディアの機能提案=設計が先にあって、その後に印刷物のかたちが付いてくる。産業構造の再構築を意味する産業のリデザインが求められるなかで、各企業のポジショニングが必然的に、あるいは自動的に決まるわけではない。現代社会は、変動、不確実、複雑、曖昧という4つの要素に見舞われている激動の時代にある。企業はどこでどう対応していったらいいのか。自分の周りの細部を見る“虫の目”より、ビジネス環境全体を見渡す“鳥の目”の方がいかに重要か――自社なりのポールポジションを探して、そこで根を張ることを可能にする高度なデザイン感覚が欠かせない。


●後継者となったからには「時間」を味方にしよう

印刷業界に限らず、2世、3世の人に「オーナーとは何か」と尋ねると、さまざまな特権、資格、能力、役割を有する立場といった答えが返ってくる。企業を継承した瞬間からオーナーになったはずなのに、設備や社員、資金といった経営資源を引き継ぐだけに終わり、それ以上、前へ進めない後継者も少なくない。「自分の意思ではない」「止むを得ないこと」と思っている人さえいると聞く。ある識者は「オーナーとは時間のフリーパスをもっている人」と喝破している。そこには「好きなことに我儘に制限なく取り組める人」という意味合いが込められている。その代わり、全てにオールマイティーでなければならず、我慢強くなければならない。自分が一番やりたい得意なことを一つだけ示し、不得手なことは気に入った有力な部下に任せ切るといった度量をもっていなければならない。オーナーとなったからには、強い意識で先代からこのような「時間」だけを引き継いでほしい。経営資源をどう使いこなすかは、与えられた時間のなかで自分で考えるべき問題なのである。変動する時代にあってダイナミック(動態的)な経営をおこなっていくためにも、時間をきちんと管理できる「企業家」となってほしい。

デジタル写真時代に市場から消えた減力液と補力液、懐かしのファーマー減力液

2016-06-23 14:33:45 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-21
印刷コンサルタント 尾崎 章


デジタルカメラ用及び印刷プリプレス向けの各種レタッチソフトが充実した今日、フィルム及び印画紙の銀画像濃度低減、そして減力液で印刷用フィルムの網点サイズを修正するハンドレタッチ作業は「半世紀前の語り草」になっている。
当然の事ながら、写真薬品として販売されていた減力液、補力液の市場から姿を消して久しい。「ファーマー減力液って何ですか?」と聴かれる事も皆無となった。


写真減力液の代名詞! ファーマー減力液

水質汚濁防止法及び下水道法の改正によって重金属、健康に有害な物質の排出が大きく規制された1973年以前に銀塩感光材料用として最もポピュラーな減力液がファーマー減力液(Farmer’s Reducer)であった。

 
ファーマー減力液の主剤:赤血塩


考案者の英国写真技術者E. Howard Farmer の名前からファーマー減力液(ファーマー氏減力液)と名付けられた減力液は、赤血塩(フェロシアン化カリウム)とチオ硫酸ナトリウム(ハイポ)の水溶液を混合して使用するもので減力液の代名詞として写真業界・写真製版業界で最も一般的に使用された経緯がある。
このファーマー減力液は、赤血塩水溶液とハイポ水溶液の混合比率によって減力効果を変化させる事が出来、一例として当時のイーストマン・コダックがハイライトからシャドウ部を均一に減力する等減減力液として発表していた「EK R-4A:等減減力液」の処方は下記の通りである。

[Kodak R-4A等減減力液]
A液  赤血塩 37.5g 水を加えて500ml
B液  チオ硫酸ナトリウム480g 水を加えて2000ml
使用液 A液30ml B液 120ml 水 1000ml


写真製版の必需品、ファーマー減力液


プリプレス工程が写真製版に依存していた1980年以前は、製版カメラでの版下台紙・線画撮影ネガフィルムのカブリ除去、コンタクトスクリーンを使用した網点撮影(網撮り)時に発生する網点フリンジ除去を目的とした水洗ライトテーブル上での減力作業は必須の日常作業であった。減力液を含んだ水洗水は、そのまま工場外に排出されるケースが圧倒的で水質汚濁防止法及び下水道法によって赤血塩(フェロシアン化カリウム)等のシアン化合物が規制対象となり、写真・印刷業界は非シアン系の減力液の開発・商品化に迫られる事態に至っている。


EDTA減力液に関する筆者論文、印刷雑誌1973年1月号   


赤血塩に替わってEDTA(エチレンジアミン四酢酸)鉄キレートや硫酸セリウムを使用する減力液が各社より商品化され印刷業界は短期間に非シアン系減力液に切り替わった経緯がある。


非シアン系減力液の主流は硫酸セリウム減力液

非シアン系減力液は、EDTA鉄キレート系減力液→硫酸セリウム系減力液の流れとなり印刷業界向けの代表的製品としては、富士フィルム「FR-1」、印刷薬品大手・光陽化学工業の「R-SUPER」を挙げる事が出来る。


印刷界で多用された非シアン系・硫酸セリウム減力液


写真用途向けとしては、ナニワ写真薬品「ナニワ減力剤」、中外写真薬品が輸入代理店となった英国・イルフォード社の「エルブラウン減力剤」等が発売されており、「ナニワ減力剤」は2012年頃迄の販売が行われ、写真現像所等で印画紙のカブリ除去に使用されていた模様である。
筆者も光陽化学工業の「RD減力液」(EDTA系)「R-SUPER」減力液の製品化にさいして技術サポートを行った経緯が有り「非シアン系減力液」は懐かしの想い出である。
商品としての減力液は市場から無くなったが赤血塩は単品写真薬品として大手カメラ店の写真薬品コーナー等で販売が継続されており、手軽にファーマー減力液を調合する事が出来る。


最後まで販売されたナニワ減力剤 1リットル用 750円   



エルブラウン減力剤 1983年・写真用品カタログNo15より 



写真製版レタッチ作業者は、高額所得者!

写真製版全盛の1960~70年代のカラー印刷は写真製版を前提としており、写真製版の色補正マスキング処理では色再現要求品質に十分対応出来ない状況にあった事は周知の通りである。この当時は人物の肌色やイメージカラー・記憶色等々のカラー原稿と差異が生じる色相に対して熟練作業者による「レタッチ作業」が不可欠で、網点ネガ・ポジの網点サイズを減力液で修正する「ドットエッチング」(略称ドットエッチ)は、経験を要する熟練作業領域であった。

例えば代表的な記憶色の「日本女性の肌色」は、シアン8% マゼンタ40% イエロー60%の網点で構成されており、写真製版では再現できない網点サイズを減力液で記憶色に近づけるドットエッチが不可欠で有った。
この為、製版品質をレタッチ作業者の技量が左右する事になり、当時は週刊誌の裏表紙に「印刷:○○印刷、製版:山田 太郎」とレタッチ作業者名が表記されていた事を記憶されている方も多いと思われる。当時の大卒新入社員・初任給7~8万円程度に対してベテランレタッチ作業者の月収が40万円を超える「写真製版全盛期」の語り草である。
このアナログ写真製版時代のレタッチ作業も、カラースキャナーによる電子製版の普及、ミニコン及びワークステーションを使用した画像処理システム及び画像処理ソフトの普及により2000年を待たずに標準化・省力化され、印刷製版の電子化に相反して減力液市場は一気に終息化を迎える展開に至っている。


レタッチ・イメージ写真 


露光不足、現像不足を救済した補力液

減力とは正反対に写真画像濃度を増加させる措置が補力作業で、水銀補力液、クロム補力液、鉛補力液等、種々の補力特性を持った補力液が発表・発売されていた経緯がある。
最も代表的な補力液としては水銀補力液(昇汞補力液)がある。
銀画像を毒性の強い塩化第二水銀(昇汞)で酸化漂白、亜硫酸ナトリウム水溶液等の黒化液で漂白された銀画像を再度黒化銀に還元するものでコダックが発表した水銀補力液処方は、下記の通りである。
[Kodak In-1水銀補力液]
水         1000ml
塩化第二水銀     22.5g
臭化カリウム     22.5g  
 
補力液の主用途は、露光不足及び現像不足によって銀画像濃度が不足状態にあるフィルムの救済措置である。フィルムカメラの自動露出機能が充実する以前は露光不足によるトラブル発生頻度が高く、当該問題の救済策として補力液の使用頻度は高い状況にあった。
筆者も「歌舞伎十八番」の舞台撮影時に増感現像に失敗、補力液で何とかプリント出来る濃度までの救済を行い撮影依頼者にプリントを納品した苦い経験がある。
TTL測光方式によって露光精度が飛躍的に高まったフィルム一眼レフ、カメラ背面モニターで撮影画像が確認出来るデジタルカメラでは到底あり得ない撮影ミスで、デジタル技術展開に伴って商品化されていた重クロム酸系補力液は減力液よりも早い1985年前に市場から姿を消している。
「補力」「減力」は当然の事ながら「死語」となり、塾年写真愛好家の「懐かし」の記憶となった。    
    
 

露光・現像不足ネガ(左)と補力液で濃度補力を行ったネガ(右)

   
以上



 
 

月例会報告 2016年5月度

2016-05-31 14:50:27 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年5月度会合より)


●特殊印刷業は紙メディアの“牙城”を守れるか

パッケージ類と並んで、電子メディアとは一番縁の遠いところにある特殊印刷物は、紙メディアの“牙城”を守れる力強い印刷分野として注目されている。その担い手である特殊印刷業界が、これからどのようなポジショングをとっていくのか、誰しも関心を抱くところである。そんな折、アメリカの業界団体が格好の実態調査をおこなってくれているので、参考までに紹介すると……。それによると、もっとも一般的な取引業界は食品サービス業で、以下、企業のブランディング部門、非営利団体/協会/組織と続いている。小売店はかつての最大の得意先であったが、厳しい競争のなかで4位に後退してしまった。この食品サービスとインテリア・デザイン関連は、もっとも成長性の高い市場とされ、これに対し、製造業や行政機関からは特殊印刷の必要性が小さいとみられているのが実情だ。


●顧客市場と対象品目をどう選ぶかが重要に

印刷品目という角度からみてみると、製品展示会のディスプレイ、旗(幟)、デカルコマニア(転写印刷物)/ラベル/ステッカー、室内壁面のグラフィックス、窓のディスプレイの順でトップ5を形成している。もっとも成長著しいのは壁紙などの化粧紙印刷で、インテリア・デザインあるいは建築デザイン分野が伸びていることと軌を一にしている。一方、大きく減少したのはビルの外壁などに掲げる広告板、最少の品目は記念楯/メダル・記章/トロフィーとなっている。ちなみに、ほとんどの企業でデジタル印刷方式が採用されていて、伝統的なスクリーン印刷は半分以下にまで減少している(オフセット印刷は4分の1にもならない)。また、かなり多くの企業が付帯サービスとして、ラミネート加工、鳩目穴加工、空間デザインなどの「仕上げ加工/ポスト・プロダクション・サービス」を顧客に提供している。


●的確な顧客サービスの提供が今後を左右する

 これらの調査結果は、垂直な取引関係のなかで、特殊印刷業がどの領域を対象にビジネスをしていったらいいのかの示唆を与えてくれている。特殊印刷業界全体の売上高は年々、好調に推移し、前向きの生産、営業、雇用によって顧客からの信頼性も増しているが、それでも、上記の市場分野、手掛ける製品の選択如何で、個々の企業の明暗が分かれるようだ。この報告書は「年間売上げで最低クラスの企業が、翌年には最上位となることがしばしばある」としている。特殊印刷業界においても「デジタル・アナログのハイブリッド技術の確立とサービスの提供」が不可欠なことに繋がる。価格引き下げの圧力があるなかで競争優位性を確保するためには、顧客サービスの改善、営業スタッフの強化、生産ラインの増強などを通して、適切なマーケティング戦略を展開すること、ワンストップショップになることが、何より重要だと結論づけている。
※参考資料=SGIA Report; Specialty Graphic Imaging & Association; Dan Marx (Vice President)


●「マーケティング・オートメーション」の効用は?

最近、ビジネスの新しい世界を拓く強力な“エンジン”になり得ると、にわかに脚光を浴びているのが「マーケティング・オートメーション」という概念である。例によりアメリカの印刷業界団体PIAから、顧客を惹きつけるためのツールとして、この「マーケティング・オートメーション」の効用を説く論文が発表されているので、意味するところを紹介しておきたい。多くの異なるメディアから情報を受け取るマルチ・チャンネルの時代が到来し、メッセージを届ける方法や伝達効率に優れた効果をもたらしている。可変データに基づくパーソナライズ化が可能になるなど、顧客との交渉、製品・サービスの販売で究極的な相互作用を発揮できる。顧客管理用のデータベースはソリューションの中核とみなされ、そこから出力された個別の情報はマーケティング・キャンペーンの基盤として使われる。新たに得た顧客情報はCRM(顧客維持管理)のためにデータベースに追加され、次のキャンペーンに活かされる。そうはいいながらも、「マーケティング・オートメーションは、こんな方法で(止まっていて)よいのだろうか? マーケティング・キャンペーン(そのもの)を立ち上げ、そのライフサイクル全体を管理することを支援すべきではないか」というのが、この論文の言い分なのである。


●印刷メディアとシームレスにつなぐ統合化技術で

 「マーケティング・オートメーション」を通して顧客にソリューションを提供するとき、印刷メディアがその中核技術として使われることはあまり想定されていない。しかし印刷会社には、印刷メディアを製作するためのワークフローと顧客のパーソナルデータとがお互いに補足し合えるよう、両者をシームレスに結びつけることのできる技術がある。その技術的なハードルこそ、他産業からの参入障壁となる。印刷会社が「マーケティング・オートメーション・ソリューション」用に完全に統合化された印刷システムをもつことの重要性がわかる。そうすることで、印刷会社と顧客との間の“クローズド・ループ”のコラボレーションが確立でき、デジタル印刷による効果的なワントゥワン・マーケティングが可能になる。キャンペーン効果を最大限にするためのプログラムの作成コストも、ワークフロー工程間の処理時間の標準化で削減できる。雑多な多くの繰り返し作業が自動化され、スピードアップを実現してくれるのだ。


●顧客ニーズに対応できる中核機能となるだろう

「マーケティング・オートメーション・システム」は印刷産業にビジネスの合理化の機会を与えることだろう。印刷会社が手掛けるべきキャンペーンを自動化することで、増収をもたらすだろう。マーケティングの創造力、キャンペーンの効率的な設計、購買行動への呼び掛けは、マーケティング・オートメーションがもつ可能性への理解を深め、顧客にソリューションを提供するうえで不可欠な要素となる。「このシステムは情報伝達の手段を変え、顧客ニーズに的確に対応する(印刷会社がもつべき)ワークフローの中核機能となるだろう」と、論文は結論づける。
※参考資料=The Magazine Feb. 2015, PIA; Dr. Mark Bohan (Vie President)


●印刷関係から「QRコード」の活用を考えてみたら

顧客情報のデータベース化、メディア(印刷物やEメール)の作成、顧客への販売促進をクローズ・ループで結ぶ、マーケティング・オートメーションのワークフローを構築する場合、PURL(個人用アクセス手段)が浸透し始めたアメリカでは、顧客に買い物など生活上の出来事、ニーズやウオンツを自らネット上に書き込んでもらえるよう、個人々々の書き込みページを用意(自動的に設定)して、それをワークフローの起点とすることが可能だ。日本では、このPURLが普及していないため、顧客情報が把握しにくい。そこで印刷関係からワークフローを動かす何かがないかを考えたとき、思い浮かぶのが印刷物にQRコードを掲載することである。取り扱うのがビッグデータでない以上、QRコードを活用することから始めると効果的だろう。クローズド・ループを比較的容易に回すことができる。


●印刷産業が音頭を取るためにも積極的な対応を

 日本では「マーケティング・オートメーション」という“単語”だけが一人歩きしていて、ビジネスとして使いこなせる考え方、具体的な方法を示す“用語”にはまだ育っていないようだ。QRコードは、情報を集め紙メディアと電子メディアをつなぐツールとなる。積極的に提案することで、ネットの世界で印刷産業がリーダーシップを発揮していける強みにできる。音頭を取れる仕掛けとなり得る。溢れかえっている電子情報も、さすがに“天井”にきたという見方さえある。印刷メディアの効用を主張して再び打って出るためにも、QRコードを切り口に「マーケティング・オートメーション」の意義を正確に捉えていきたい。

以上






懐かしきフィルムカメラのエプロンデザイン

2016-05-19 10:15:25 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
「懐かしきフィルムカメラのエプロンデザイン」

印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-20
印刷コンサルタント 尾崎 章



フィルムカメラの基本構造は、①レンズを取付けるレンズボード部 ②フィルム感光材料の保持部 ③レンズ、ミラーの光学系部 ④遮光性のボディ本体の4部分より成り、35ミリフィルムカメラ等の登場によってレンズボード部とボディ本体が一体化されている。
国内カメラ市場で35mmフィルムカメラが大きく台頭する1947年以降にカメラボディのレンズ取付部に「エプロン」と称する金属板を取り付けるデザインが流行した時期がある。
「エプロン」に関する正式定義は無いが、「エプロン」形状がカメラデザインに大きな影響を与える事より国内では1947年から1960年代にかけて数多くの「エプロン」付きカメラが見られた。


コンタックスⅠ型がカメラデザインに及ぼした影響

1932年にドイツ・ツアイス イコン社は、「ライカ」を凌駕する35mmフィルムカメラ「コンタックスⅠ型」を発売して世界の注目を集めた。「コンタックスⅠ型」は、基本長103mmの連動距離計、1/1000秒対応の金属シャッターを搭載して先行ライカを性能面で圧倒している。
また、「コンタックスⅠ型」はファインダー及び距離計窓、エプロン形状等々のカメラデザインの秀逸性でも注目を集め、国内カメラ各社が「コンタックスⅠ型」を意識したデザインのカメラを次々と販売する展開が開始されている。



ヤシカ35  


1947年発売のライカ型カメラ「ミノルタ35-Ⅰ」、1948年発売の「ニコンⅠ型」が「コンタックスⅠ型」デザインを踏装、1958年に㈱ヤシカが発売したレンズシャッターカメラ「ヤシカ35」は「コンタックスⅠ型」「ニコンⅠ型」に類似のデザインを採用、外観デザイン、レンズ性能そして価格のコストパフォーマンスで人気を集めた経緯がある。


ミノルタ35-Ⅰ 


「コンタックスⅠ型」のエプロンは、矩形型の基本形で、1947年以降に発売されたオリンパス、東京光学、理研光学、マミヤ光機等々の国産カメラデザインに大きな影響を与える事になった。



カメラ・エプロンの基本形は矩形の金属版

1947年発売の「ミノルタ35-1」,1948年発売の「ニコンⅠ型」(日本光学)「オリンパス35 Ⅰ型」(オリンパス光学)「ミニヨンB」(東京光学)1953年発売の「リコレット」(理研光学 現:リコーイメージング)「トプコン35」(東京光学)等の35mmレンズシャッターカメラは「矩形型エプロン」を装着してメカニカル性を重視・強調したデザインを採用している。
フィルム一眼レフでは、1952年の国産初の一眼レフ「アサヒフレックスⅠ」(旭光学)がレンズマウント部の左右に「矩形型エプロン」を配している。また1955年にオリオン光学が発売した国産初のペンタプリズム搭載一眼レフ「ミランダT」もエプロン風のレンズマウント部デザインを採用している。
旭光学では、エプロン付きデザインを「アサヒフレックスⅡB」(1954年)「アサヒペンタックスK」(1958年)「アサヒペンタックスS3」(1961年)「アサヒペンタックスSV」(1962年)等の製品に採用、特にベストセラーモデルの「アサヒペンタックスSV」によってエプロン仕様のペンタックスデザインが広く定着することになった。


アサヒペンタックスK  


旭光学は1964年発売のTTL測光一眼レフ「ペンタックスSP」でエプロン無ヘのデザイン変更を行っている。
旭光学とは逆に東京光学は1963年に発売した世界初のTTL測光一眼レフ「トプコンREスーパー」に大型エプロンを装着、TTL測光はもとより当時最新鋭のシステムカメラとしてメカニカルなデザインが一世を風靡している。


トプコンREスーパー  

「トプコンREスーパー」は当時の親会社:東芝が「ミラーメーター」開発以外に工業デザイン面での協力を行い、「優れた性能をアピールする直線的メカニカルデザイン」を採用した事が報じられている。東京光学では、姉妹機「トプコンRE2」、世界初のレンズシャッターTTL一眼レフ「トプコンUNI」も同一デザイン展開を実施、エプロン付きデザインの「トプコン・TTLトリオ」として注目を集めた経緯がある。

矩形型エプロンの最終製品には、ツアイス・イコン社との提携により㈱コシナが2005年に発売を開始した「ツアイス・イコン」がある。デジタルカメラ時代にフィルムファンに支えられて健闘したが2013年に惜しまれつつ販売を終了している。




ミノルタAシリーズの半円形エプロンデザイン


千代田光学(現:コニカミノルタ)は1955年発売の「ミノルタA」に半円形型のエプロンを採用、続いて「ミノルタA2」「ミノルタA2L」,1957年発売のレンズ交換式「ミノルタ スーパーA」のAシリーズカメラに同一エプロンデザインを採用している。


ミノルタA2 


ミノルタAシリーズは米国市場での評価も高く、1958年発売の国産初のセレン光電池露出計連動カメラ「ミノルタオートワイド」まで半円形エプロンデザインを継承している。
余談ではあるが、当時の千代田光学はレンズに「CHIYOKO」と刻印しており、「エプロンをした千代子さん」として密かな人気があった事が報告されている。


ミノルタA2「CHIYOKO」 


ミノルタカメラは、高級コンパクトカメラブームの1990年にセゾングループ・デザインハウスのデザインによる特別仕様モデル「Minolta Prod 20’s」(48.000円)を全世界2万台限定で発売している。この「Minolta Prods 20’S」は丸型デザインのエプロンが注目を集め、「クラシックデザインカメラは、エプロンが不可欠」という基本が再認識されている。


ミノルタプロッド20‘S 



フジカ35M,コダック・レチネッテの逆三角形エプロン

富士フィルム初の35mmレンズシャッターカメラ「フジカ35M」は、レンズ性能を始めとするカメラの優秀性はもとより、東京芸術大学・田中芳郎教授によるデザインも注目を集めた。田中デザインの富士フィルムカメラは、「フジペット」「フジペット35」「フジペットEE」「フジカラピッドS」から女性向け「フジカミニ」迄、多岐に及んでおり、中でも「フジカ35M」は海外でも高い評価を受けている。1957年発売の「フジカ35M」は直線を基調としたデザインで、特に逆三角形のエプロンが印象的であった。


フジカ35M


ドイツ・コダックが大衆機・レチナシリーズとして1959年に発売した「Retinette 1A」は、丸みを帯びた逆三角形エプロンのスタイリングで人気を博したカメラである。クロムメッキの緻密性が高く発売後50年を経過したにも関わらず美しい外観が魅力的で現在でも中古カメラ市場で人気がある。
一方、米国コダックが1951年に発売した「Signet 35」は、前述「Retinette 1A」とは好対照にダイカスト仕様の重厚なカメラである。


コダック レチネッテ1A


もともと「Signet 35」はアメリカ陸軍の通信部隊がコダックに発注した軍用カメラで「Signet」の名前はSignalを語源としている。
民生用としても発売された当機は、カメラ正面及びカメラ上部・軍艦部が完全左右対称のデザイン、ファインダーと一体化したエプロンデザインが好評を博し「御洒落カメラ」として人気を集めた。本機のエクター44mm f3.5・テッサータイプレンズは、描写性能に優れており今日でも若い女性に人気のある「往年のMade in USA」製品である。


コダック シグネット



異形エプロンデザインの頂点、大成光機ウェルミー35M


小西六写真工業が1956年に発売した「コニカⅡA」は不規則な曲線形のエプロンを装着して注目を集めた。同社の記録によると「両手でカメラを保持した時に指が触れる部分は貼り皮」として「撮影者が指に違和感を持たない」ホールド感の追求結果によるエプロン形状と記されている。確かにカメラを両手で保持した際に指がエプロンに触れる事は無く、この自由曲線がカメラ外観に「優しい」イメージを与える効果も生じている。
この優美なエプロン形状は、残念ながらマイナーチェンジ機「コニカⅢ」では矩形型エプロンに戻されている。


コニカⅡA


「コニカⅡA」のエプロン形状コンセプトを更に発展させた究極のエプロンデザイン製品がある。小西六写真工業と協力関係にあった大成光機(山梨コニカを経て現:コニカミノルタオプトプロダクト㈱)が1957年に発売した「ウェルミー35M2」である。距離計無・目測式焦点調節のビギナー向けカメラでは有るが14角の「異形」多角形エプロンによる存在感が際立ったカメラで「エプロン・ユニークデザイン賞」に値するカメラであった。


ウェルミー35



以上     
     
 
     





月例会報告 ≪2016年4月度≫

2016-04-27 13:30:44 | 月例会
≪印刷の今とこれからを考える≫ 

「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年4月度会合より)

●フレキソ印刷の将来を切り開く“切り口”を

 紙器・段ボール、包装紙、紙袋などによく使われる「フレキソ印刷」――象徴的な凸版印刷方式に属していながら、一気に適用領域を拡げるといった様相にはなっていない。弾力性のある版材や流動性に富む液状のインキを使用しているせいか、要求品質の水準が高い日本の印刷ニーズのなかで、もう一つの感が否めない。規模は小さいながらフレキソインキの出荷量は毎年、大きく伸びているのだから、ステップアップする“切り口”が欲しいところだ。その一つとして、網点の形成、インキの転移、色の再現性といった印刷ならではの固有技術に科学的な“メス”を入れ、納得いく数値的な解析をおこなって、それを顧客と印刷業界との共通言語にしていく必要があるだろう。隆盛を迎えたオフセット印刷の経緯をみれば、すぐ分かることだ。そんな視点からの問題提起が印刷業界の専門雑誌に掲載され、注目されている。


●特性を掴み切った科学的な解説が見当たらない

フレキソ印刷の強みは、さまざまな素材に印刷可能なことにあるが、印刷機や製版材料の性能向上、印刷プロセス自体の進歩・発展で、グラビア印刷やオフセット印刷に近い印刷品質を実現できるまでになった。比較的低コストで印刷できること、環境にもやさしいことなどメリットは少なくない。問題は、フレキソ印刷に本格的に取り組んでみたいと思っても、どんな特性をもっているのかを物理的・科学的に解説した教科書がそもそもないことである。解析の切り口はどこにあるのだろうか? フレキソ印刷に用いる刷版は、画像のデジタルデータ化、出力手段のCTP化によって、網点再現のレベルがオフセット印刷並みとなり、高線数化、高画質化がはかられた。また版の表面に微細な凹凸の形状をつけることで、インキの横移動を防ぎ、ベタ部と階調部とのインキ転移を同条件にする工夫もなされている。


●網点を制御できれば、普及に大きな弾みが……

 このように、科学的に画像品質と再現性を安定にする技術開発が続いている。あとは、ドットゲインの制御をどうするかが残る。フレキソ印刷の場合、版上でインキがつぶされて網点が大きくなるという物理的ドットゲインが起こりやすい。アルコール系溶剤を使って直刷りしているためで、版上でインキがどう挙動しているかを捉え切っていない。被印刷素材の種類が多様なこともあって、とくに管理が難しい。刷版上の網点%を把握できたとしても、素材上の%がどうなっているかを意味しない。濃度計測で得た値=網点階調の面積率がもつ物性について、科学的な裏付けがほしいところである。版上と素材上に形成される網点の大きさの関係が理論的に解明されれば、一貫した生産技術が確立されてフレキソ印刷の領域拡大につながるはずだ。 


●印刷文化を顧みなければ印刷産業の発展はない

 関連業界を含めた、いわゆる印刷人はこの20年間で実に30万人も減少した。ピーク時の50万人と比べると見る影もない。そのためか、せっかくの印刷文化が継承できていない。何よりもったいないのは、世代間がリンクされていないことだ。いざというとき(まさに“今”)にルネッサンスができない。電子メディアが行き渡って紙メディアは確かに圧迫されているが、それ以前に紙メディアは、今という時代には情報伝達の有効手段としてモノ足りないとみなされてしまっている。紙メディアの文化的な意義が印刷業界内、そして社会に向けてきちんと伝え続けられていれば、電子メディア以上の価値が認められていたに違いない。非常にもどかしい。個人として活版印刷を楽しむ趣味のサークルが盛んになっているが、そのような工芸(=文化)が土台となって高度な技術(=文明)を駆使する産業は発展する。前者の伝承なくして後者はあり得ない。それにも関わらず、後者ばかりに関心がいく。やはり「文化」と「文明」を並び立てながら前進させたいものである。印刷文化学という学問領域がないのは、まことに残念だ。


●印刷メディアの役割、価値を社会に伝え続けたい

 印刷の良さをもっと社会に向けて伝えていく機会がなさ過ぎる。印刷産業全体で行動していくべきで、そうすれば印刷に対して“日が当たる”はずである。そのなかに、伝統的な活字の話題が含まれていてもよいだろう。印刷の文化に対する興味が印刷産業のなかにないような気がする。話題づくりも下手だ。30万人の印刷人が突然消えるほど産業構造が激変したので、見直す情熱がなくなってしまったのかも知れない。独自性を見せる余力もなくなったのかも知れない。しかし、継続は力なりである。つなげていかなければ意味がない。ビジネスに取り組む印刷人であるからには、紙メディアがもつマーケティング上の機能や価値を伝えていくことが有効だろう。印刷メディアは社会を結ぶ効果的な媒介物であり、そうした役割を広く、永く伝えていくのは文字どおり印刷産業の責任である。生産技術はその後に伴う従属的な手段であって、見た目の製品品質よりサービス品質が重視される時代に、主客を逆にしてはならない。


●マーケティングの視点で印刷ビジネスを組み直そう

 印刷産業は長い成熟期を経て今や転換期にある。日本の産業構造、市場環境がすっかり変わってしまったのに、当の印刷産業だけが「変わりたくない」と思っているようだ。これまでの事業形態をそれなりに維持できてきた成功体験もあって、それに“安住”している嫌いがある。繰り返し指摘されていることだが、マーケティングの視点から自らのビジネスを組み直してほしい。印刷固有の基本機能ではなく、ソフト・サービス面での副次的機能から考え直してほしい。これまでの印刷業は、品質・コスト・納期というハード面で自分たちの仕事を評価してきたが、今では印刷する前の段取りが全体の80%を占めるくらい重要になり、現にその工程の方が付加価値が高い。前工程といっても決してプリプレスのことではない。マーケティング視点でのメディア設計が必要である。メディア製作の前に情報加工サービスをミックスさせると、お金が取れるようになる。そのとき顧客との間で交わされる双方向のコミュニケーションこそ、顧客が印刷メディアに求めるニーズの把握と課題解決策の提供を可能にする。


●何が真の印刷付帯サービスかを見つめ直したい


 印刷メディアを使ったマーケティングといっても、究極の成果は「
文字」がもつ力が担う。その文字は印刷技術がないとつくれない。写真画像はアマチュアの人が撮れたとしても、そこに本格的なテキスト情報を載せられるのは、やはり印刷の専門家である。印刷技術はハードの要素だと直感的に考えがちだが、顧客に印刷メディアならではの価値を提供するという意味からすれば、逆に印刷産業だけが実現し得る立派な付帯サービスとなる。そうした成り立ちを自分自身で分析し評価していないのだとしたら、マーケティング視点での設計・管理が欠けていたということになる。ソフトな顧客価値創造のサービスを堂々と請求書に載せ、利益を上げるべきだと思う。産業の知識化が叫ばれている以上、知識の産業化があって然るべきである。知識サービス業がこれ
からの主要な産業となることだろう。


●特殊印刷物をなぜ未だに「特殊」と呼ぶのだろうか?

 印刷市場を特化している特殊印刷物が、コモディティー化するようになればいいと思う。少し逆説的ないい方だが、決して特殊ではない、普遍的な役割をもっていることを一般の人びとにもってもらいたいと願うからである。素材を重視する各種の特殊印刷物は、紙メディアならではの特性を発揮している。印刷産業が伝えたいと希求している紙メディアの重要性を、特殊印刷物はその昔から体現している。それなのに、印刷産業のなかで「特殊」と称するのだろうか? 製造業としてやってきたなかで必然的に名付けたのだろうが、印刷生産方法で区分するのはもう止めた方がよい。特殊が特殊でなくなれば、印刷メディア全体に好影響をもたらすだろう。

(以上)